NZ


 

1. 一般経済の概況

 ニュージーランド(NZ)経済は、70年代のオイルショックなどが原因で悪化したが、80年代中ごろから採用した金融引き締め政策や市場原理を活用した経済政策により90年代前半には回復に向かった。しかし、96年に入り、高金利政策によって生じた米ドルに対するNZドル高状況が輸出産業の不振を招き、景気は再び減速局面に入った。

 その後のアジア経済の動揺は、NZドル高を是正し、欧米や豪州向け輸出に追い風となった反面、NZの全産品輸出の4割が仕向けられるアジア市場での需要低下を招いたことにより、全般的な輸出の不振となり、経済はさらに悪化した。しかし、2000年に入ると記録的なNZドル安により、食肉および酪農製品の輸出産業が好調に推移し、国内需要も堅調であったことから再び経済が上向き、2002/03年度の実質国内総生産(GDP)の成長率は4.3%と、国際経済が停滞する中では高い成長率を記録した。また、失業率も前年同様5%台を維持し安定的に推移している。

2. 農・畜産業の概況

 NZの農業(林業、水産業を除く)は、GDPや就業人口に占める割合が、それぞれ1割にも満たない。しかし、総産品輸出額(FOB)に占める農産物の割合は、近年の工業製品の増加により低下傾向にあるとはいえ、依然、過半数を超えており、外貨獲得上、農業は豪州以上に重要な地位を占めている。

 中でも畜産は、農産物輸出額の8割、農業粗生産額では7割を占めており、農業の中でも中心的な役割を果たしている。農業粗生産額に占める畜産の割合は、酪農が最大で29%、次いで牛肉14%、羊肉13%、羊毛4%の順となっている。

 84年以降続けられている経済改革の過程で、農業分野では各種補助金がすべて廃止されたことなどもあり、NZ農業は、輸出を前提とした市場志向が強く、製品の多様化や付加価値化が熱心に行われている。畜産分野の成功例としては鹿肉産業が挙げられ、現在、世界の鹿肉貿易の4割以上を供給するまでに成長した。

 2002/03年度の農業粗生産額みると、酪農部門では、生乳生産量が過去最高を記録したものの、国際的な乳製品価格の低迷から、前年度より23.8%減少した。一方、輸出量が大幅に増加した肉牛部門は、前年度より9.3%増、羊肉部門でも生産量が増加したため、前年度より4.3%増加した。全体としては、酪農部門の不振の影響が大きかったことなどから、前年度比10.7%減の161億6,600万NZドルとなった。

3. 畜産の動向

(1)酪農・乳業

 NZの酪農は、温暖で雨量に恵まれた自然条件を生かし、草地を最大限に利用した放牧型の飼養形態をとる。このため、年間の生乳生産は、牧草の発育ステージとリンクし、8月から始まり、10〜12月の初春をピークにその後次第に減少し、5月には1シーズンを終えるという明確な季節型を示しており、9〜2月の6カ月間で年間の約8割を生産する。

 NZでは、粗飼料(放牧)に依存した生産体系により、生乳生産コストは世界的にみて最も低い水準にある。生産量の約95%が輸出に振り向けられる乳製品は、NZ全産品輸出額の約2割を占めており、酪農・乳業はNZの基幹産業として位置付けられている。

 NZの酪農は、生乳生産規模では日本とあまり変わらないが、乳製品の国際貿易における供給国としてのシェアは近年、約37%に達し、EUをも上回る世界最大の輸出国となっている。そのため、国際市場の影響を強く受けざるを得ない。

(1)主要な政策

 NZの酪農・乳業には国内の価格支持政策などはなく、ニュージーランド・デイリーボード(NZDB)が乳製品の一元輸出を行っていた。2001年10月、2大酪農協とNZDBの販売機能を取り込んだ巨大酪農協(乳業メーカー)フォンテラが誕生し、酪農産業の再編は達成された。

(2)生乳の生産動向

 生乳生産は90年代に入ってから、好調な輸出を反映して拡大基調にあり、90/91年度から98/99年度の間、経産牛頭数は年率4.0%、生乳生産量は同4.6%と拡大した。その後、経産牛頭数は一時減少したものの、再び増加に転じ、2002/03年度は、前年度に比べ1.3%増の約374万頭となった。このため、2002/03年度の生乳生産量は、北島の一部の地域で春季の冷涼な気温や夏から秋にかけての干ばつの影響があったものの、前年度比3.5%増の約1,440万トンと過去最高を記録した。 

 一方、農家戸数は減少し続けており、1戸当たりの経産牛飼養頭数は一貫して増加している。2002/03年度の1戸当たり飼養頭数は285頭で、うち300頭以上を飼養する経営は全戸数の約3割となった。

 地域的には、近年における生乳生産は、北島よりも南島で拡大している(乳固形分換算生乳生産割合:北島72%、南島28%、2002/03年度)。従来、南島で主流とされた肉牛や羊経営の不振、さらに酪農適地である北島の土地価格高騰に加え、フォンテラ設立に当たりニュージーランド・デイリー・ボード(NZDG)が行っていた南島への移入制限措置を撤廃したことから、南島での酪農の新規参入が行われた。

(3)牛乳・乳製品の需給動向

 乳製品の品目別の生産量は、法律に基づき輸出を一元管理するNZDBの市場戦略を基に調整されていたが、フォンテラの設立に際し、どのメーカーでも自由に輸出ができるようになった。しかしながら、フォンテラの同国におけるシェアが95%を占めることから、事実上の一元管理となっている。

 近年は、バターや脱脂粉乳など原材料としての性格が強い、いわゆるバルク商品からの脱却を狙い、製品の付加価値化や多様化を図るとともに、世界的な脂肪過剰を見越して、生乳を丸ごと利用できる全粉乳やチーズの生産拡充が推し進められている。また、輸出相手国は、フォンテラの企業戦略と相まって、EU地域、中国、アジアや南米など世界130カ国とされている。また、フォンテラは2002年に世界的な大手食品メーカーネスレSAと合併企業を設立し、2003年1月から中南米の市場での乳製品製造・販売会社を行うなど国際市場への進出を図っている。

 2002/03年度の加工向け処理量は、生産の増加から前年度より2.2%増加した。品目別の生産量は、世界経済の低迷に伴う需要の減退により乳製品価格全般の国際価格が低迷する中で相対的に価格面で有利な粉乳類が大きく増加した。全粉乳は前年度に比べ17.4%、脱脂粉乳は15.8%増加した。反面、チーズは前年度比10.4%減少した。乳製品の国際価格は、2002/03年度の後半から徐々に回復に向かった。

(4)乳価の動向

 生乳価格は、乳製品の国際需給に影響されることから、毎年大きく変動している。

 2002/03年度は、為替相場がNZドル高へ進み、さらに乳製品の国際価格が低迷していたことから、乳固形分1キログラム当たりの価格は前年度比32%減の3.62NZドルとなった。

(2)肉牛・牛肉産業

 NZの肉牛生産は、豪州以上に草地に依存しており、放牧肥育がほとんどを占め、穀物肥育は例外的である。

 年間のと畜傾向は、生乳生産と同様に牧草の発育ステージとリンクしており、秋にかけての3〜5月にピークを迎え、その後は冬場の9月に向けて大きく減少していくという季節型を示す。このため、最低となる9月ごろの生産量は、ピーク時である5月ごろの3分の1程度となる。

 豪州の牛肉生産はほとんどが肉専用種によるが、NZでは、肉用牛の3分の1程度が乳用種または乳用種・肉用種の交雑種による。

 酪農部門から供給される乳用種雄牛は、多くが去勢しないまま飼養される。これらは、乳用経産牛と同様に、加工原料用牛肉(ひき材用途)に加工され、米国を中心とした北米市場に輸出されており、酪農部門は肉牛供給という面からも重要な側面を担っている。

 牛肉生産は酪農部門と同様に、産業として輸出への依存度が高く、原皮などを含むすべての肉牛関連生産物のうち、金額ベースで約8割が輸出に振り向けられる。このため、肉牛生産もまた、国際価格の影響を強く受けている。

(1)肉牛の生産動向

 肉牛飼養頭数は、収益悪化により経営規模の縮小や、肉牛から酪農、養鹿、林業など収益性の高い作目への転換が続いていることが背景となって、1995年6月期の518万頭をピークに減少を続けた。

 また、97/98年度および98/99年度と2年連続して発生した東部を中心とする干ばつの影響により、早期出荷や繁殖牛のとう汰が進んだ。その後も、飼養頭数は大きく回復せず、2003年6月期の肉牛飼養頭数は、前年同期より0.8%増加したものの、454万頭にとどまっている。

(2)牛肉の需給動向

 生産量は、96/97年度を境に減少傾向にあったが、干ばつの影響から回復したことにより、2000/01年度には増加した。2002/03年度に入って再び発生した干ばつの影響から、乳用牛のとう汰が進み、2002/03年度の生産量は14.3%増加した。

 2002/03年度の輸出量は、生産量の増加に伴って前年度比14.7%増の37万4千トンと過去最高を記録した。輸出相手先では、米国向けが輸出量全体の58%を占め、とりわけ輸出量全体の52%を占める加工向けでは、77%を米国向けが占めている。

(3)肉牛・牛肉の価格動向

 北米向け輸出の多くを占める経産牛の価格は、輸出の不振を極めた95/96年度を底に回復傾向にあったものの、2003年9月末では、米国での乳用牛のと畜頭数の増加などによる供給増により、前年度比11%安の1キログラム当たり200USセントとなった。

NZで新乳業団体が設立

 ニュージーランド(NZ)の主要な乳業会社は2003年7月18日、新たな乳業団体としてデイリー・カンパニーズ・アソシエーション・オブ・ニュージーランド(Dairy Companies Association of New Zealand:DCANZ)を設立した。DCANZには、内外の重要な政策や貿易の問題に関する業界内の利害調整や総論の形成など、フォンテラの母体の1つとなったニュージーランド・デイリー・ボード(NZDB)によって部分的に担われていた役割が期待されている。

 設立に参加したのは、フォンテラ、タトゥア、ウェストランド、メインランド、ニュージーランド・デイリー・フーズ(NZDF)の5社である。このうち前3者は、いずれも酪農協系の乳業会社で、メインランドはフォンテラ傘下の国内向け乳製品製造販売会社である。NZDFは、フォンテラの母体の1つとなったニュージーランド・デイリー・グループの国内向け乳製品製造販売会社を、生乳の多角的な販売を保証する観点から、フォンテラ設立に当たって独立させたものである。この5社が設立に参加したことから、実質的にはNZの乳業界を網羅した団体と見ることができる。

 DCANZは、乳業会社の連合体であることから、NZの酪農乳業産業の製造・販売部門を代表する団体、という位置付けになる。

 乳製品の製造や貿易、販売活動に影響を与える問題をはじめ、乳製品に関する公益的な施策などについても検討し、政府などへ提言していくものとみられる。従って、世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンドの農業交渉のような内外の酪農乳業政策に関するものが太宗を占めるが、環境管理や動物福祉の実践のような農場現場のものも対象となる。なお、運営財源は、会員の拠出による。

 DCANZの初代の会長に選ばれたフォンテラのラットレイ取締役は、「新団体の立ち上げに当たって、フォンテラは事務局要員を提供し、DCANZの政策の検討については同社の担当部署が協力する」と語っており、会員の中の最大手であるフォンテラが全面的にバックアップする姿勢を示している。

 フォンテラのハイデン会長は、「フォンテラは巨大酪農協同組合乳業会社であるが、かつてのNZDBのように貿易やその他の問題に関して直接的に産業を代表することはできない」ことから、「DCANZに乳業会社間の効果的な連携を確実にすることを求める」と語った。

 ウェストランドのリチャードソン最高経営責任者(CEO)は、今後、他の零細な乳業会社も参加することを期待し、「すべての意見が新たな組織で代表されるような広がりのあるメンバーシップを熱望する」としている。

 タトゥアのフランプトン会長は、政策問題に対して声を1つに集約する場が再現されたことを喜び、「DCANZは、NZの乳業界に最善の利益をもたらすだろう」と歓迎の意を表している。

 NZDFのマックラーCEOは、「現在の業界構造のギャップを埋める」と評価し、「DCANZの主要な目的は、内外においてその会員である乳業会社の集合的な利益を統合し、代弁することである」としている。

 フォンテラ設立後のNZ乳業界は、「フォンテラ=NZ」という図式で見られていた。新団体の運営についてもフォンテラ主導で進められる可能性が高いとみられるものの、一国を代表する乳業団体が設立されたことで、1企業の論理だけではなく、多方面からの意見が反映する場としての素地ができあがったと言えよう。

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