海外編

 III オセアニア【ニュージーランド】 




1. 一般経済の概況
 
 ニュージーランド(NZ)経済は、2000年に入り、記録的なNZドル安により食肉や酪農製品など第一次産品を中心とした輸出が好調に推移し、国内需要も堅調であったことから経済が上昇に転じた。この結果、NZは最も高い成長率を達成している国の一つとなっており、その後の高い政策金利や米ドル安によって2004/05年度の実質国内総生産(GDP)の成長率は3.6%と高い成長率を記録するなど、内需主導の力強い経済活動が見られている。また、失業率も前年度の4.7%から4.0%に低下するなど順調に推移している。

 今後の経済見通しについては、金利の上昇と住宅価格上昇率の低下および移民数の低下などが予測されることから、家計消費や企業の設備投資の勢いは衰え、内需成長は減速するとの見方が強くなっている。この結果、NZ財務省は、2006年度3月末年度のGDP成長率を2.0%と予測している。
表1 主要経済指標



2. 農・畜産業の概況
 
 NZの農業(林業、水産業を除く)は、GDPや就業人口に占める割合が、それぞれ1割にも満たない。しかし、総産品輸出額(FOB)に占める農産物の割合は、近年の工業製品の増加により低下傾向にあるとはいえ、依然、過半数を占めており、外貨獲得上、農業は豪州以上に重要な地位を占めている。

 中でも畜産は、農産物輸出額の8割強、農業粗生産額では7割弱を占めており、農業の中でも中心的な役割を果たしている。農業粗生産額に占める畜産の割合は、酪農が最大で32.3%、次いで羊肉12.9%、牛肉10.9%、羊毛3.5%の順となっている。

 1984年以降続けられている経済改革の過程で、農業分野では各種補助金がすべて廃止されたことなどもあり、NZ農業は、輸出を前提とした市場志向が強く、製品の多様化や付加価値化が積極的に進められている。畜産分野の成功例としてはシカ肉産業が挙げられ、現在、世界のシカ肉貿易の半数近くを供給するまでに成長した。

図1 農業粗生産額(2004/05年度)
 2004/05年度の農業粗生産額を見ると、2001年10月から国内生乳生産量の約95%を処理・加工・販売する巨大企業フォンテラが誕生した酪農部門では、世界的な乳製品需給の高まりを背景に、乳製品の国際価格が高水準で推移したことなどから、前年度より13.4%増の54億1千万NZドルを記録した。また、羊肉、牛肉部門も、主要輸出国での需要増などを背景に、それぞれ前年度比25.4%増の21億7千万NZドル、同9.6%増の18億2千万豪ドルと増加した。この結果、畜産部門全体としては、前年度比22.3%増の115億NZドルとなった。




3. 畜産の動向
(1)酪農・乳業
 NZの酪農は、温暖で雨量に恵まれた自然条件を生かし、草地を最大限に利用した放牧中心の飼養形態である。このため、年間の生乳生産は、牧草の育成状況と密接に連携するため、初春となる8月から開始し、10〜12月の初夏をピークにその後次第に減少、5月には1シーズンを終えるという明確な季節型を示している。生乳生産の中心となる9〜2月の6カ月間で年間の約8割を生産する。

 NZでは、粗飼料(放牧)に依存した生産体系により、生乳生産コストは世界的に見て最も低い水準にある国の一つである。生産量の約95%が輸出に振り向けられる乳製品は、NZ全産品輸出額の約2割を占めており、酪農・乳業はNZの基幹産業として位置付けられている。
 NZの酪農は、生乳生産の規模では全世界の3%を占めるに過ぎないが、乳製品の国際貿易における供給国としてのシェアは32%(2004年:生乳ベース)となり、EU(34%)に次ぐ乳製品輸出国となっている。そのため、生乳生産者価格、乳製品価格はいずれも国際市場の影響を強く受けざるを得ない。

図2 生乳の処理状況の推移(具体例)


@主要な政策
 農業分野では各種補助金がすべて廃止されたNZでは、酪農・乳業に対する国内の価格支持政策などもなく、2001年9月までニュージーランド・デイリーボード(NZDB)が乳製品の一元輸出機能を持っていた。しかし、同年10月、二大酪農協とNZDBの販売機能を取り込んだ巨大酪農協(乳業メーカー)フォンテラが誕生し、酪農産業の再編は達成された。


A生乳の生産動向
 生乳生産は90年代に入ってから、好調な輸出を反映して拡大基調にあり、90/91年度から97/98年度までの間、処理量ベースで年率4.6%と順調に拡大し、また、経産牛の飼養頭数も同4.0%の増加となった。その後、経産牛頭数はいったん減少したものの、再び増加に転じ、2004/05年度は、前年度に比べ0.4%増の約386万8千頭を記録した。近年の生乳生産量は、乳用経産牛1頭当たりの搾乳量の増加もあり右肩上がりで推移してきたが、2004/05年度は、不安定な天候要因が影響し、前年度比3.4%減の1,410万3千トンとなった。

 一方、酪農家戸数は減少を続けており、1戸当たりの経産牛飼養頭数は一貫して増加となっている。2004/05年度の1戸当たり飼養頭数は315頭で、うち300頭以上を飼養する経営は全戸数の41%(前年度比4ポイント増)、500頭以上を飼養する経営は14%(同1ポイント増)となっている。

 地域的には、近年における生乳生産は、北島よりも南島で拡大している(経産牛頭数:北島280万頭(前年度比0.8%減)、南島106万頭(同3.7%増)、2004/05年度)。これは、酪農適地である北島の土地価格高騰に加え、フォンテラ設立に当たりNZDGが行っていた南島への移入制限措置を撤廃したことから、南島での酪農の新規参入が増加していることによる。


図3 乳用経産牛頭数と生乳処理量の推移
図4 酪農家戸数と飼養規模の推移
   
表2 地域別の飼養戸数・頭数・規模の推移
 
 


B牛乳・乳製品の需給動向

 品目別の生産量は、法律に基づき輸出を一元管理するNZDBの市場戦略を基に調整されていたが、フォンテラの設立に際し、どのメーカーでも輸出が自由に行えるようになった。しかしながら、フォンテラの同国におけるシェアが95%を占めることから、事実上、同社の一元管理となっている。

 近年は、バターや脱脂粉乳など原材料としての性格が強い、いわゆるバルク商品からの脱却を狙い、製品の付加価値化や多様化を図るとともに、世界的な脂肪過剰を見越して、生乳を丸ごと利用できる全粉乳やチーズの生産拡充が推し進められている。また、輸出相手国は、フォンテラの企業戦略と相まって、北米、EU地域、アジアや南米など世界140カ国とされている。また、フォンテラは、2002年に世界的な大手食品メーカーネスレSAと合弁企業を設立し、2003年1月から中南米の市場での乳製品製造・販売会社の運営、また、2006年には、中国の大手乳業メーカーへの資本参加など国際市場への積極的な進出を図っている。

 世界経済の回復傾向に伴い乳製品需要が高まる中で、2004/05年度の乳製品輸出は、生乳生産量の減少から全体的に落ち込んだ。バターは前年度比23.5%減、チーズは同10.1%減、全粉乳は同12.4%減、脱脂粉乳は同27.8%減となった。一方、乳製品の国際価格は、旺盛な国際需要と相反して、市場供給量の減少から高水準で推移している。
表3 生乳生産量および乳製品輸出量の推移


C乳価の動向
 生乳価格は、乳製品の国際需給に影響されることから、毎年大きく変動している。
 2004/05年度は、為替相場がNZドル高で推移したものの、国際的な乳製品需要の高まりを受けて乳製品の国際価格が高水準で推移したことから、乳固形分キログラム当たりの価格は前年度比7.8%高の4.58NZドルとなった。
図5 生産コストと平均支払乳価の推移(乳固形分ベース)



(2)肉牛・牛肉産業
 NZの肉牛生産は、豪州以上に草地に依存しており、放牧肥育がほとんどを占め、穀物肥育は例外的である。
 年間のと畜傾向は、生乳生産と同様に牧草の発育ステージとリンクしており、生乳生産が終了を向える5月にピークを迎える。その後は春先にかけて大きく減少するという季節型を示す。このため、最低となる8〜9月のと畜頭数は、ピーク時である5月の3分の1程度となる。

 豪州の牛肉生産はほとんどが肉専用種によるが、NZでは、肉用牛の3分の1程度が乳用種または乳用種・肉用種の交雑種による。

 酪農部門から供給される乳用種の雄牛は、多くが去勢しないまま飼養される。これらは、乳用経産牛と同様に、加工原料用牛肉(ひき材用途)に加工され、米国を中心とした北米市場に輸出されており、酪農部門は肉牛供給という面からも重要な側面を担っている。

 牛肉生産は酪農部門と同様に、産業として輸出への依存度が高く、原皮などを含むすべての肉牛関連生産物のうち、金額ベースで約8割が輸出に振り向けられる。このため、肉牛生産もまた、国際価格の影響を強く受けている。
図6 月別と畜頭数の推移(成牛)


@肉用牛の生産動向
 肉用牛の飼養頭数は、収益悪化により経営規模の縮小や、肉用牛から酪農、養鹿、林業など収益性の高い部門への転換が続いていることが背景となって、1995年6月期の518万頭をピークに減少を続けた。

 また、97/98年度および98/99年度と2年連続して発生した東部を中心とする干ばつの影響により、早期出荷や繁殖牛のとう汰が進んだ。その後も、他の畜種への転換などにより飼養頭数は大きく回復せず、2005年6月期の肉用牛飼養頭数は、前年同期比1.2%減の439万3千頭になった。
表4 牛飼養頭数の推移


A牛肉の需給動向
 牛肉の生産量は、96/97年度を境に減少傾向にあったが、干ばつの影響から回復したことにより、2000/01年度には増加に転じた。2004/05年度の生産量は、乳製品価格の上昇を受けて経産牛を中心にと畜頭数が減少したことから、前年度比8.3%減62万9千トンとなった。

 2004/05年度の輸出量は、牛肉生産量が減少する中で、最大の輸出先である北米市場でのカナダ向け輸出が停滞したことから、前年度比8.3%減の38万6千トンと減少した。輸出相手先では、北米向けが輸出量全体の59%(前年度比2ポイント減)を占め、アジア向けは36%(同3ポイント減)となった。
表5 牛肉需給の推移



B肉牛・牛肉の価格動向
 北米向け輸出の多くを占める経産牛の価格は、輸出の不振を極めた95/96年度を底に回復傾向にあったものの、2002/03年度は、最大の輸出市場である米国での乳用牛のと畜頭数の増加などによる需給緩和により落ち込みを見せた。しかし、米国経済が好調に推移していることや2003年5月にカナダで発生したBSEによる米国への食肉供給がストップしたことなどから価格は上向きに転じ、2004/05年度は、前年度比2.7%高のキログラム当たり271USセントとなった。



NZフォンテラ、生産者の株取得義務をより柔軟化

 ニュージーランド(NZ)農林業省は、NZの農業および林業の現状と将来展望(SONZAF)2005年版を発表した。その中で、NZ最大手乳業会社フォンテラの資本構成の見直しやNZの乳業動向などについて述べている。その概略を以下に紹介する。

 フォンテラの資本構成の見直しは2005年5月の株主総会で可決され、2006年6月から実施される。資本構成の変更理由として、

@ 生産者は、フォンテラに供給する乳固形分1年分相当(乳固形分1キログラム当たり1株、フェア・バリュー・シェアと呼ばれる)の株を取得する義務があるが、このフェア・バリュー・シェア価格と実際の支払乳価との差が大きくなり(フェア・バリュー・シェア価格のほうが高い)、このことが生産者の生乳生産意欲を阻害していること。

A 株価の上昇によって、生産者は株の売却について興味を増しており、実際に株式を売却し、フォンテラ以外の乳業会社に生乳を販売する事例も出てきていること、また、酪農をやめて、農地を他の用途に転用することにも考慮の対象になってきていること。

B 支払乳価の決定方法については、フォンテラの投資事業などの結果を総合的に考慮した上でなされているので、生産者にとって分かりづらいものになっていること。
などを挙げている。

 また、変更の内容として、

@ キャパシティ・チャージ制度の導入
   フォンテラの生乳処理能力の関係から、生乳生産量のピーク時(9〜11月)の生乳生産を抑制する手段として、生産者に対しピーク時にフェア・バリュー・シェアとは別の株式取得を義務付けたピーク・ノート制度を廃止し、キャパシティ・チャージ制度を導入する。このキャパシティ・チャージ制度は、生乳生産量の季節的変動が小さい生産者に対して、季節的変動が大きい生産者よりも支払乳価をやや高くするという政策であり、ピーク時の生乳生産抑制手段を、従来の株式取得の負担を生産者に負わせる方法から、価格によって生産者の生産調整を誘導する方法に転換するもの。

A コントラクト・ミルク制度の導入
   コントラクト・ミルク制度は、生産者が、出荷する生乳相当分の株の取得義務を負うことなくフォンテラに生乳を出荷できる制度で、フォンテラの年間集乳量の15%を限度としている。この制度の導入により、生産者からの生乳供給が柔軟に行われ、フォンテラはより多くの生乳の確保を可能にすると見ている。また、コントラクト・ミルク制度を利用して供給された生乳の支払乳価は、通常の乳価よりも低い価格で取引されることとなる。なお、この制度は3年かけて段階的に導入される。

B 生産者に対し生乳生産の年ごとの変動を緩和するための株式取得要件の変更
   生産者は最大で現在の生乳生産量の20%の通常の株とは異なる超過株式を持つことができる。超過株式を有する生産者は、生乳生産量が通常のレベルを超えて一時的に増加したら、前年の生産量の20%相当分か、または前年の生産量からの増加量分のいずれか少ない方を供給できる。この制度を利用する場合の支払乳価は通常の乳価よりも低い価格で取引される。

C フォンテラの消費者向け製品販売部門であるNZミルクの透明性確保のため、バランスシートをフォンテラと分割したものを作成すること。
とし、生産者の株取得義務をより柔軟化させている。

 一方、農場段階での持続可能な生産性の向上を図ることを狙いとして、フォンテラはデクセルと、デクセルの経営管理業務を支援することに合意した。支援期間は3年間。デクセルは、酪農部門の農場段階での調査研究や生産者に対する相談、教育などを行う団体で、生産者が100%所有する団体である。今回の合意により、フォンテラは、デクセルの経営管理に責任を持つこととなる。