海外編

 I 米国 

 

1. 一般経済の概況  
 米国経済は、2000年から2001年にかけてITバブルの崩壊や同時多発テロの影響により景気が後退し、2001年第3四半期には実質国内総生産(GDP)成長率がマイナスにまで落ち込んだ。しかし、ブッシュ政権による大規模な減税や金融当局の利下げなどにより、個人消費や企業の設備投資意欲が急速に回復した結果、2001年第4四半期以降、景気は拡大を継続している。2004年のGDP成長率は3.9%と3年連続で上昇し、また、2004年の消費者物価指数は前年比2.7%増、生産者物価指数も同3.6%増となった。一方、2004年の貿易収支は、貿易赤字(国際収支ベース)が前年より19.8%、金額にして1,081億ドル増加し、6,554億ドルと過去最大を記録した。
表1 主要経済指標

 

2. 農・畜産業の概況  
 米国経済における農業の位置付けは、他産業の発展に伴い時代の経過とともに低くなる傾向にあるが、2004年においては、GDPのうち農業生産(農産物販売額:現金収入の暫定値)の占める割合は2.1%と前年比4.6%増となった。また、世界的に見ても、農業生産額は中国に次いで第2位、農産物貿易額は輸出入ともに首位を占めるなど、米国農業の影響力は引き続き高い水準にあると言える。

 2004年の農業経営体数(農産物の年間販売額1千ドル以上)は211万3千戸であった。また、1経営体当たりの農用地面積は、443エーカー(179ヘクタール)であり、農用地面積全体としては9億3,630万エーカー(3億7,892万ヘクタール)であった。なお、年間10万ドル以上の農産物販売実績のある経営体は全体の15.7%で、全農用地面積の58.6%を占めている。

 2004年の農産物販売額(現金収入の暫定値)は、2,412億ドルと前年を11.4%上回った。このうち、作物部門は1,178億ドルで前年比6.1%増となった。一方、畜産部門は前年を17.0%上回る1,235億ドルとなり、農産物全体に占めるシェアも51.2%と作物部門を上回った。

 畜産部門の品目別の販売額を見ると、肉用牛が473億ドル(農産物全体に占める割合は19.6%)と第1位であり、次いで養鶏(家きん、採卵鶏)が295億ドル(同12.2%)となっている。また、作物部門についても、その約6割が家畜飼料に向けられるトウモロコシの販売額が222億ドル(同9.2%)となっており、米国農業における畜産部門の重要性がうかがえる。
   
図1 農産物販売額(2004年度)
図2 畜産物販売額(2004年度)

 

3. 畜産の動向  
(1)酪農・乳業 

  米国は年間約7,800万トンの生乳を生産しており、世界最大の酪農国である。しかしながら、国内に巨大な消費市場を抱えていることなどから、国際乳製品市場における米国の地位は比較的低いものとなっている。


@ 主要な政策

 酪農の主な制度には、加工原料乳価格支持制度と連邦生乳マーケティングオーダー制度(FMMO)がある。加工原料乳価格支持制度は、米農務省(USDA)の1機関である商品金融公社(CCC)が、加工原料乳の支持価格水準に見合う価格でチーズ、バターおよび脱脂粉乳を買い上げることにより、加工原料乳の価格を間接的に支持する制度である。

 この制度は96年農業法に基づき、2000年1月1日以降廃止されることとなっていたが、生産者の強い反対などを反映して、延長が繰り返された結果、今日まで実施され続けている。

 2002年新農業法では、これまで延長された支持価格を固定したまま、法律の実施期間と同じく2007年12月まで延長することとされた。

 一方、FMMOは、オーダー地域内で取引される飲用規格生乳について、用途別の最低取引価格を設定するとともに、生乳取扱業者に対して、生産者へのプール乳価での支払いを義務付けることにより、生産者に対しては安定的な市場を確保すること、また、消費者に対しては合理的な価格で十分な量の良質な飲用乳を供給することを目的としたものである。2000年1月からは紆余(うよ)曲折を経て、@オーダー数の再編統合(31から11へ)、A生乳の用途区分の再分類(3区分から4区分へ)、B最低取引価格の設定に用いられる価格について、これまでの基礎公式価格(BFP)に代えて、多成分価格形成システムに基づく新基礎価格の導入などの変更が加えられた。なお、2002年新農業法においては、前述の変更後の制度を維持する形で2007年12月末まで継続されることとなっている。


A 生乳の生産動向

ア.酪農経営体数
 酪農経営体数は、小規模層を中心に一貫して減少傾向で推移しており、2004年には前年比5.6%減の8万2千戸となった。

表2 酪農経営体数、飼養頭数の推移
図3 酪農経営体数及び飼養規模の推移


イ.飼養頭数と生産量
 経産牛の飼養頭数は、80年後半から減少傾向で推移してきている。2000年以降についても、わずかに前年を上回った2003年を除き、飼養頭数は毎年減少しており、2004年は前年比0.8%減の901万頭となった。

 2004年の生乳生産量は、前年比0.3%増の7,753 トンとなった。
表3 生乳・乳製品の生産量

ウ.経産牛1頭当たり乳量
 2004年の経産牛1頭当たり乳量は、前年比1.1%増の8,603キログラムとなった。
図4 生乳生産量と1頭当たり乳量の推移

エ.地域別生産動向
 生乳は、すべての州において生産されているが、生産量の半分以上は上位5州(カリフォルニア、ウィスコンシン、ニューヨーク、ペンシルベニア、アイダホ)によって占められており、上位10州(6位以下:ミネソタ、ニューメキシコ、ミシガン、テキサス、ワシントン)では全体の7割以上を占めている。特に93年にウィスコンシン州を抜いて首位になったカリフォルニア州は、その後も生産拡大を持続し、2004年の年間生産量は前年比2.9%増の1,654万トンとなった。ウィスコンシン州は、1,010万トンで前年比0.8%増となった。カリフォルニア州を代表とする西部の新興生産地域は、冬期でも比較的温暖で乾燥しているために畜舎などへの投資コストが低く、さらに安価な労働力も確保しやすいことなどから、大規模化が図りやすいという利点がある。カリフォルニア州で500頭以上の経営体による生産量の州全体に占める割合が86.0%であるのに対し、ウィスコンシン州では13.5%となっている。


B 牛乳・乳製品の需給動向

ア.生産動向
 2004年のチーズの生産量(カッテージチーズを除く)は、前年比3.7%増の402万トンとなった。チェダーチーズを中心とするアメリカンタイプの生産は前年比3.2%増、モッツァレラチーズなどイタリアンタイプの生産は前年比3.9%増と、ともに増加した。イタリアンタイプの生産増加は、宅配ピザやファストフードでの需要の増加によるところが大きい。なお、チーズ生産の内訳は、アメリカンタイプが42.1%、イタリアンタイプが41.3%となっている。

 また、脱脂粉乳の生産量は、前年比11.1%減の64万1千トンとなった。一方、バター生産量については、前年比0.2%増の56万5千トンとなった。
図5 チーズ生産量の推移

イ.消費動向
 1人1年当たりの飲用乳・クリーム消費量(製品ベース、以下同じ)は、他の飲料との競合などにより、おおむね減少傾向で推移しているが、2004年も前年比0.5%減の93.6キログラムとなった。なお、飲用乳の消費は、全脂牛乳から低脂肪牛乳、脱脂牛乳へと低脂肪タイプへの移行が進んでいる。
 一方、1人1年当たりのチーズ(カッテージチーズを除く)消費量は、近年おおむね増加傾向で推移してきており、2004年は前年比2.6%増の14.2キログラムとなっている。また、1人1年当たりのバター消費量は、前年比2.2%増の2.1キログラムであった。


C 牛乳・乳製品の価格動向

ア.生乳価格
 加工原料乳価格(グレードB規格生乳の農家販売価格)の推移を見ると、2004年は生乳生産がほぼ横ばいであったものの、チーズの需要が増大したことなどから、年平均では前年比31%高の100ポンド当たり15.44ドルとなった。平均生乳販売価格は、加工原料乳価格の値上がりを反映し、前年比28.1%高の15.44ドルとなった。
表4 生乳の生産者販売価格

イ.乳製品の卸売価格
 2004年の乳製品の卸売価格は、生乳生産量がほぼ前年同水準となる中で、需要が全般に好調だったことから、脱脂粉乳も含め前年を上回って推移した。チェダーチーズ価格は需要増により値上がりし、年平均価格は、前年比26.3%高のポンド当たり160.4セントとなった。また、脱脂粉乳価格は、生産量の減少を反映して、前年比4.3%高の87.9セントとなった。またバターは、生産量が前年同となる中で、需要の増加により前年比58.7%高の181.7セントとなった。
表5 乳製品の卸売価格の推移


D 乳製品の政府買い上げ

 2004年の商品金融公社(CCC)による余剰乳製品の買い上げ数量は、昨年に比べ大幅に減少し、無脂乳固形分ベースで84.2%の減少となった。
表6 乳製品の政府買い上げ数量の推移


(2)肉牛・牛肉産業

 米国は、世界の牛肉生産量の約4分の1を占める最大の生産国であり、同時に世界最大の牛肉の輸入国でもある。国内的にも、肉牛産業は農産物販売額に占める割合が最大となっており、米国農業の中でも最も重要な部門の一つとなっている。

 子牛生産は、家族経営による粗放的な生産・管理が行われる一方、育成された肥育素牛は、大規模なフィードロットで効率的な穀物肥育が行われている。肉牛の流通面では、大手パッカーによる寡占化が顕著となっている。
表7 肉用牛繁殖経営体数、飼養頭数の推移

@ 肉牛の生産動向

ア.肉用牛繁殖経営体数

   肉用牛繁殖経営体数(年間に1頭以上飼養)は、減少傾向で推移しており、2004年も前年比2.2%減の77万5千戸となった。

 

イ.飼養頭数
 米国の牛飼養頭数は、約10年のサイクルで増減を繰り返している。2005年1月1日現在の牛の総飼養頭数は、前年比0.6%増の9,544万頭となった。

 88年に1億頭を下回り、90年に底を打ったキャトルサイクルは、91年以降上昇局面に転じていた。96年には、肥育素牛価格の低迷などにより、繁殖経営体の収益性が急速に悪化したことに加えて、テキサス州などの南西部を襲った干ばつの影響もあり、キャトルサイクルは下降に転じた。その後も繁殖雌牛頭数が減少傾向にあることから、総飼養頭数は98年以降1億頭を下回って推移している。

 飼養頭数の内訳を見ると、肉用種繁殖雌牛は前年比0.2%増の3,292万頭、このうち500ポンド以上の肉用種更新用未経産牛は、前年比3.1%増の569万頭となった。
 2004年における子牛生産頭数(乳用種を含む)は、繁殖雌牛飼養頭数の減少により、前年比1.0%減の3,751万頭となった。

 

 
図6 種類別と畜頭数(2004年)
 

 
表8 牛肉需給(枝肉換算)の推移


A 牛肉の需給動向

ア.生産動向
 2004年の成牛と畜頭数(コマーシャルベース)は、前年比7.8%減の3,273万頭となった。
 種類別(連邦政府検査ベース)では、去勢牛が前年比5.7%減、未経産牛が前年比6.6%減となっており、さらに、経産牛では前年比15.8%の大幅減となった。このうち、肉用経産牛は、前年を14.4%下回る271万頭となった。

 一方、2004年の成牛のと畜時平均生体重(連邦政府検査ベース)は、前年比4キログラム増の563キログラムとなった。また、平均枝肉重量(連邦政府検査ベース)も、前年比4.5キログラム増の342.9キログラムとなり、前年を上回って推移した。

 この結果、と畜頭数の大幅減により、2004年の牛肉生産量(枝肉ベース)は、前年比6.4%減の1,113万トンと大きく減少した。
図7 牛肉の輸出量と相手国


イ.輸出入動向
 2004年の輸入量(枝肉ベース)は国内牛肉生産量(枝肉ベース)が減少したものの、国内需要も減少したため、前年比22.5%増の166万9千トンとなった。国別に見ると、豪州からの輸入は前年よりも0.9%減となったものの、前年に引き続き第1位となった。さらに、カナダからの輸入は、2003年5月のBSE患畜牛発見による輸入停止措置が解除されたことに伴い前年比43.6%増の48万2千トンと大きく増加した。

 一方、2004年の生体牛の輸入はカナダ産の輸入停止措置が継続した影響を受け、前年比21.8%減の137万1千頭となった。国別では、2003年に引き続きメキシコからの輸入が前年比10.6%の増加となった一方で、カナダからの輸入は輸入停止措置によりほぼゼロとなった。

 2004年の牛肉輸出量(枝肉ベース)は、2003年12月にワシントン州でBSEが発生した影響を受け、前年比81.7%減の20万9千トンであった。国別では、最大の輸出相手国である日本向けが、米国産牛肉の輸入停止措置により、前年比98.8%減の5千トンと大幅に減少した。また、メキシコ向けも、前年を43.4%下回る15万1千トンになるとともに、カナダ向けも前年を74.8%下回る2万6千トンとなった。

表9 肉牛、牛肉の価格の推移
ウ.消費動向
 1人1年当たりの牛肉消費量(小売重量ベース)は、健康志向の高まりなどから減少傾向が続いたが、小売価格の値下がりや消費拡大キャンペーンが奏功し、94年以降わずかながら増加傾向で推移してきた。2000年以降はわずかな増減を繰り返しながらほぼ横ばいで推移しており、2004年は国内でのBSEの発生にもかかわらず前年比1.7%増の30.0キログラムと増加した。


B 肉牛・牛肉の価格動向

ア.肥育素牛価格
 肥育素牛価格(オクラホマシティー、600〜650ポンド)は、2004年平均では、100ポンド当たり111.8ドルと前年を17.4%上回った。

イ.肥育牛価格

 肥育主要7州(アリゾナ、カリフォルニア、コロラド、アイオワ、カンザス、ネブラスカ、テキサス州)における肥育素牛導入頭数は、前年比5.9%減の2,017万頭となった。また、肥育牛出荷頭数は前年比3.8%減の1,935万頭となった。

 チョイス級肥育牛価格(ネブラスカ、1,100〜1,300ポンド、去勢牛)は、2004年平均で100ポンド当たり84.7ドルとなり、前年に比べて0.1%の値上がりとなった。
表10 養豚経営体数、飼養頭数の推移

ウ.牛肉卸売価格
 2004年の卸売価格(チョイス級、600〜750ポンド、カットアウトバリュー)は、前年比2.0%安の100ポンド当たり140.7ドルとなった。

エ.牛肉小売価格
 牛肉の2004年の平均小売価格(チョイス級)は、前年比8.5%高のポンド当たり406.5セントとなった。


(3)養豚・豚肉産業

 米国の養豚産業は、アイオワ州やイリノイ州を中心とするコーンベルト地帯において、伝統的に穀物生産や肉牛経営の副業として営まれてきた。一方、ノースカロライナ州を代表とする地域でのインテグレーションの出現が、養豚産業に対し、生産・流通などの面で大きな変化をもたらしている。

 また、豚肉輸出は近年大幅な伸びを示しており、95年には40数年ぶりに純輸出国に転じた。一方で、大規模経営体による環境問題が顕在化しており、各州において環境規制を強化する動きが見られている。

図8 養豚経営体数及び飼養規模の推移
表11 豚肉需給(枝肉換算)の推移


@ 豚の生産動向

ア.養豚経営体数
 養豚経営体数は、小規模層を中心として減少傾向で推移しており、2004年12月1日現在では、前年比5.7%減の7万戸となった。1経営体当たりの飼養規模別では、100頭未満の層が全経営体数の60.6%を占めているものの、飼養頭数では全体の1.0%を占めるにすぎない。一方、5千頭以上の層は、経営体数全体の3.3%にすぎないが、全飼養頭数の53.0%を占めている。
図9 カナダからの生体豚輸入頭数の推移



イ.飼養頭数
 豚飼養頭数は、2001年に3年ぶりに増加に転じ、2002年はほぼ横ばいとなったものの、2003年には再び増加して5年ぶりに6千万頭台を回復した。2004年(12月1日現在)は前年比0.9%増の6,098万頭と引き続き増加している。

 飼養頭数の内訳を見ると、繁殖豚は前年比0.7%減の597万頭に、一方で、肥育豚は前年比1.0%増の5,501万頭となった。
 2004年(2003年12月〜2004年11月)の子豚生産頭数は、一腹当たり産子数が前年比0.7%増の8.94頭となったことに加え、繁殖母豚が前年比0.6%増となったことなどから、10,278万頭と前年より1.3%増加した。
図10 豚肉の輸出相手国(2004年)


A 豚肉の需給動向

ア.生産動向
 2004年のと畜頭数(コマーシャルベース)は、前年比2.5%増の10,346万頭となり、豚肉生産量も、前年比2.8%増の930万トンに増加した。

 なお、2004年のと畜時平均生体重(連邦政府検査ベース)は、前年比0.1%増の121.1キログラム、また、平均枝肉重量(連邦政府検査ベース)は、前年より0.3%増の89.9キログラムとなった。
表12 肥育豚、豚肉の価格の推移


イ.輸出入動向
 豚肉の輸入量(枝肉ベース)は、97年以降おおむね前年を上回ってきているが、2004年は、前年比7.2%減の49万9千トンとなった。国別に見ると、カナダが40万2千トン(総輸入量に占める割合は80.6%)、デンマークが6万3千トン(同12.6%)となっている。

 また、生体豚の輸入は、ほぼ100%がカナダからのものであり、同国からの輸入頭数は、米国内での生産頭数が減少していることなどから、その代替として輸入子豚への需要が高まったことにより、前年比14.3%増の851万頭となった。

 一方、輸出量(枝肉ベース)も、毎年前年を上回って推移しており、最大の輸出先である日本向けが、前年比16.1%増の41万8千トンと引き続き好調であったことや、2001年に大幅に増加した第2位の輸出先であるメキシコ向けが、前年比52.2%増の24万2千トンとなったこと、ロシア向けが、前年の4倍強の大幅な伸びとなったことから、2004年の輸出量全体は前年比27.0%増の98万9千トンとなった。

ウ.消費動向
 1人1年当たりの豚肉消費量(小売重量ベース)は、近年ほぼ横ばいで推移している。2004年は小売価格が前年を上回ったことなどにより、前年比0.9%減の23.3キログラムとなった。


B 肥育豚・豚肉の価格動向

表13 ブロイラー需給(可食処理ベース)の推移
ア.肥育豚価格

 肥育豚取引価格(5大市場の平均;オマハ、スーシティー、セントジョセフィン、セントポール、スーフォールズ)は、97年以降、生産の増加などから、価格(97年以降は全米の平均)は下落傾向で推移し、99年には34.0ドルまで下落した。その後、2000年、2001年と価格は上昇したものの、2002年には生産量の増加などから再び下落した。2003年以降は、特に輸出量が増加したことなどから再び上昇に転じ、2004年は前年比32.9%高の52.5ドルとなった。


イ.豚肉価格
@部分肉卸売価格
 2004年の部分肉卸売価格(カットアウトバリュー)は、前年比24.8%高の100ポンド当たり73.5ドルとなった。

A豚肉小売価格
 2004年の豚肉の平均小売価格は、前年比5.0%高の1ポンド当たり279.2セントとなった。
図11 鶏肉の輸出相手国(2004年)


(4)養鶏・鶏肉産業

 米国の養鶏産業は、飼料穀物の大生産国という利点を生かし、生産から流通までの一貫したインテグレーションの進展により、極めて効率的な生産が行われている。また、不需要部位のもも肉を中心として、鶏肉の生産量の約2割を輸出すると同時に、米国内では、消費者の健康志向からむね肉を中心として消費を大きく伸ばしている。
表14 ブロイラー価格の推移


@ ブロイラーのふ化羽数の動向

 2004年のブロイラーふ化羽数は、前年同様にブロイラー価格が大幅に上昇したことから、前年比2.8%増の93億3千万羽であった。


A 鶏肉の需給動向

ア.生産動向
 2004年のブロイラー生産は、ブロイラーふ化羽数が増加したことにより、前年を4.0%上回る1,545万トンとなった。生体ベースでの1羽当たり重量は、骨なしむね肉への需要増に伴うブロイラーの大型化を背景に近年増加傾向にあり、前年比1.5%増の2.39キログラムとなっている。

イ.輸出動向
 ブロイラーの輸出量は、85年以降一貫して増加傾向で推移したが、近年、その伸びは鈍化しており、2004年には前年比2.8%減の217万トンとなった。国別では、最大の輸出先であるロシア向けは、ロシアの国内生産者の保護を目的とした関税割当制度の実施などにより2002年以降輸出量が制限されていることもあり、2004年は対前年比3.0%増の68万1千トンとなった。また、ロシア以外の旧ソ連諸国向けは、前年比112.6%増の26万トンと大幅な伸びを示した。昨年第2位の香港向けは前年比55.7%減の12万トンとなった。さらに、メキシコ向けは前年比18.5%増の19万6千トンとなっている。

ウ.消費動向
 1人1年当たりの鶏肉消費量(小売重量ベース)は、健康志向の高まりや加工度の高いアイテムの増加などから、順調な伸びを示してきており、2004年は前年比3.2%増の38.2キログラムとなった。


B ブロイラーの価格動向

ア.ブロイラー価格

 2004年のブロイラー価格(生体ポンド当たりの生産者販売価格)は、前年比28.0%高の45.2セントとなった。

イ.鶏肉価格

@卸売価格
 2004年のブロイラーの丸どり卸売価格(中抜き、12都市平均)は、前年比19.5%高のポンド当たり74.1セントとなった。なお、国内向けが主体となっているむね肉がポンド当たり181.1セント(前年比16.2%高)であるのに対し、輸出向けが主体であるもも肉は43.4セント(同24.8%高)となっており、日本と違いむね肉の方がもも肉より4倍以上高くなっている。

A小売価格
 ブロイラーの丸どり小売価格(中抜き)は、前年比3.5%高の1ポンド当たり107.0セントとなった。


(5)飼料穀物

 米国は、世界最大の飼料穀物の生産・輸出国である。代表的な飼料穀物であるトウモロコシについては、世界の生産量の約4割、輸出量についてはその約6割強を占めていることなどから、需給などに与える影響力は極めて大きいものとなっている。
表15 トウモロコシ需給の推移


@ 主要な政策

 飼料穀物については、96年農業法により、政府の定める目標価格と市場価格(またはローンレート)の差を補てんする不足払い制度とこれに関連する減反計画が廃止され、農産物の作付け(野菜、果物を除く)が自由化された。一方、その代替措置として、市場価格とは切り離された形で、過去の作付面積などの実績に基づき、一定の漸減する直接支払いを2002年度までの7年間受給できる農家直接固定支払い制度が導入された。このほかの主なものとしては、生産者が農産物を担保に商品金融公社(CCC)からローンレート(過去の市場価格を基に算出)での融資を受けるマーケティング・ローン(価格支持融資制度)などがある。なお、飼料穀物価格が需給緩和の影響で、96年の秋をピークに下落し、生産者所得が減少したことを受け、農家直接固定支払い制度の単価に上乗せする形で、98年から毎年緊急支援措置が講じられている。こうした中、紆余曲折を経て成立した2002年新農業法では、価格支持融資や農家直接固定支払いを存続させるとともに96年農業法で廃止された不足払い制度に類似した直接支払い制度(価格変動対応型支払い:価格の変動に応じ目標価格との差額を補てん)を新設している。

 なお、これらの詳細については、「畜産の情報」海外編2002年8月号「特別レポート」(ホームページでも閲覧可能:http://www.alic.go.jp/livestock/index.html)を参照されたい。


A 穀物の生産動向

 2004/05年度(9〜8月)のトウモロコシ(サイレージ用を除く)の生産量は、前年度比17.1%増の118億1千万ブッシェル(3億トン)となった。1エーカー(約0.4ヘクタール)当たりの収穫量は、前年度と比べて12.8%増の160.4 ブッシェル(=10.1トン/ヘクタール)となった。作付面積も、前年比3.0%増の8,093万エーカー(3,275万ヘクタール)であった。

 2004年8月末現在の在庫量は、前年比120.6%増の21億1千万ブッシェル(5,380万トン)と大幅に増加した。

B 穀物の輸出動向

 2004/05年度のトウモロコシの輸出は、エジプト、シリア向けなどが増加した一方、韓国、イスラエル向けなどが減少したため、前年度比4.3%減の4,618万トンとなった。なお、日本への輸出は前年度比6.2%増の約1,551万1千トンで、全体に占める割合は33.6%となっている。

C 穀物の価格動向

 2004/05年度のトウモロコシの生産者販売価格は、エタノール原料向けなどへの需要が昨年同様に伸びたものの、これを上回る大幅な生産増があったことなどから、前年度比14.9%安の1ブッシェル当たり2.06ドルとなった。
表16 トウモロコシ価格の推移


米国でのBSE発生と牛肉貿易への影響
 米国では、2003年12月23日にワシントン州内でと畜されたカナダ由来のホルスタイン種の起立不能牛(ダウナー)においてBSE陽性が確認されたことに伴い、2004年1月12日に米国農務省食品安全局(USDA/FSIS)が特定危険部位(SRM)の食用としての流通禁止などの連邦食肉検査規則の暫定改正を行った。また、これに引き続き、食品医薬品局(FDA)が食料などへのダウナー由来原料の使用禁止、反すう家畜由来動物たんぱくの反すう家畜への給与禁止に関する例外の廃止などの対策を実施した。さらに、サーベイランスの強化により2006年までに75万頭を超える牛のBSE検査を実施し、この中で2005年6月にはテキサス州で生産された牛に米国初の国内由来のBSEを確認するなど、さらに2例の感染例を発見した。

 米国におけるBSEの発生を受け、大半の輸入国は米国産牛肉の輸入を停止する措置を講じた。このうち、カナダについては2004年4月、メキシコについては同年3月に米国産牛肉の輸入を再開したが、日本をはじめとするアジア各国などは米国からの牛肉および牛肉製品の輸入停止措置を継続した。この結果、2004年における米国の牛肉の輸出量は前年比81.7%減の20万9千トン(枝肉重量ベース)に減少した。2005年にはメキシコやカリブ海諸国向けの輸出増により前年比51.5%増の31万6千トンに回復したが、最大の輸出先であるアジア市場への輸出が停止していることから、2003年実績比ではその3割未満の水準にとどまっている。

 わが国との関係では、2004年10月23日に20カ月齢以下の牛由来の製品のみについて貿易を再開するなどの認識の共有がなされたことを受け、両国の専門家の間で技術的協議が継続され、2005年12月12日に一定の条件で管理された米国産およびカナダ産の牛肉および牛肉製品の日本向け輸出が再開される決定がなされた。
 しかし、輸入再開直後の本年1月、米国から輸入された子牛肉に輸入禁止部位である脊髄の混入が発見されたことから、米国産牛肉のわが国への輸入は再び停止され、輸出施設の査察を経て輸入が再々開されるまでにはさらに半年以上を要することとなった。

○北米での高病原性鳥インフルエンザの発生(米、カナダ)
 高病原性鳥インフルエンザは、現在、国際的に最も懸念されている人獣共通伝染病であり、BSE 同様、国際貿易に与える影響も大きい。
 北米では、カナダのブリティッシュコロンビア州で94年2月23日に鳥インフルエンザの発生が確認され、撲滅対策が進められたものの、3月9日には同州内で高病原性インフルエンザの発生が確認されるとともに、その後も被害が拡大した。このため、スペラー農業大臣は同州のフレーザーバレー地域全体の鶏などの家きんの処分を決定した。この対策が功を奏し、カナダは8月18日高病原性鳥インフルエンザ清浄化宣言を行った。また、米国内でのテキサス州でも2月23日に高病原性鳥インフルエンザの発生が確認されたが、10月に清浄化された。これらの事例については、早期の発見と的確な対策により短期間のうちに病気の清浄化が達成されたため、貿易に与える影響は比較的小さかった。
 現在、米国では東南アジアを中心に世界各地で発生している高病原性鳥インフルエンザの国内侵入を監視するため、州政府や大学などの民間機関と協力して、渡り鳥を中心とする野鳥について10万羽規模のモニタリング調査が実施されている。


米豪 FTA、議会の圧倒的多数の承認を受け2005年1月から発効へ(米国)

 米国上院は2004年7月15日に行われた本会議で、2月に豪州との間で政府間交渉が合意に達した自由貿易協定(FTA)を、賛成80票、反対16票の圧倒的多数を得て承認した。同協定は下院でも賛成314票、反対109票で承認されており、ブッシュ大統領による署名手続きを経て、2005年1月から発効することとなった。
 ゼーリック米国通商代表(USTR)は同日、両院による速やかな承認を歓迎する旨のコメントを公表した。また、同代表は「この合意は実質的には鉱工業品のFTAであり、両国間での99%の鉱工業品が発効の暁には無税となる」とした。これにより、畜産分野では、米国への牛肉や乳製品の輸入について特別な関税割当枠(TRQ)が設定され、18年間の移行期間を設けて市場アクセスの改善を図るなど、国内関係者の理解を得るために保護措置が講じられている。

@セーフガードに守られる牛肉
 加工原料用牛肉についてはFTAに基づく15,000トンの特別なTRQを設定し、これを18年間で70,000トンまで拡大する。ただし、米国におけるBSEの発生に伴う影響を勘案し、米国の牛肉の輸出量が2003年の水準まで回復するか協定の発効から3年のいずれか早い時期まで、TRQ の割当は行わない。また、枠外税率については9年後から漸減し、18年後には廃止する。9年目から18年目までは、加工原料牛肉の輸入数量が当該年のTRQの数量の110%を上回った場合、最恵国待遇で適用される関税とTRQの枠外税率の差の75%に相当する関税を追加的に賦課する数量ベースのセーフガードが発動される。
 さらに、18年間の移行期間の終了後には、四半期における任意の2カ月間(第4四半期においては単月のみ)の指標価格(セレクト級部分肉の卸売価格)が過去24カ月の指標価格の移動平均を6.5%以上下回った場合に関税を最恵国待遇の関税の65%の水準まで引き上げる価格ベースのセーフガードが牛肉・牛肉製品に発動される。このセーフガードは第1四半期(1〜3月)から第3四半期(7〜9月)は、発動要件を満たした四半期の次の四半期にのみ適用されるが、9〜11月に発動要件を満たした場合には、年の残りの期間について発動される。

A乳製品TRQは毎年漸減
 乳製品については、世界貿易機関(WTO)の農業交渉結果に基づきTRQが設定されている品目を除き、FTA に基づく特別なTRQを設定し18年間で枠内関税を撤廃する。関税の漸減は基本的には18年間で均等に行われる。毎年度のTRQ枠の拡大は、ヤギのチーズ(TRQ 枠の拡大率5%)、クリーム、アイスクリームなど(同6%)、スイスチーズ、ヨーロッパータイプのチーズなど(同5%)、脱脂粉乳を除く粉乳(同4%)、チェダーチーズ、アメリカンタイプチーズ、脱脂粉乳、バター(同3%)とされている。
 ただし、詳細な品目のTRQの設定に際しては商品金融公社(CCC)の酪農支持対策の対象となる品目は除外される。
 また、協定の発効から20年後に豪州は米国に対してFTAに基づく特別なTRQの対象品目の市場アクセスについて協議を求めることが出来るが、米側が合意しない限り、市場アクセスの改善は行われないとされている。

B早期解決が望まれる動物検疫問題
 米側はこれまで一貫して豪州側の検疫措置が過度に厳しく、検疫当局による作業の進捗が遅いことに懸念を表してきた。動物検疫問題については、同協定の下で米国農務省動植物検疫局(USDA/APHIS)と豪州の検疫当局(バイオセキュリティ・オーストラリア)との間で技術作業部会を立ち上げることとしており、今後、米国産牛肉のBSE発生に伴う輸入禁止などの問題について議論が行われることとされている。
 なお、2006年3月にワシントンDCで開催された米豪FTA合同部会において、両国は協定発効後の1年間についてFTAが問題なく進展していると評価しているが、具体的な成果として述べられているのは両国間の投資やサービス貿易などであり、農産物の貿易についての評価は公表されていない。


米国の農産物貿易額、輸入増大により1950年代後半以来の収支均衡と予測

 米国農務省(USDA)は1994年11月22日、2005年会計年度(2004年10月〜2005年9月)の農産物貿易収支予測を発表した。農産物輸出額は前年比10.1%減の560億ドル、同輸入額は前年比6.3%増の560億ドルとし、1950年代後半以降、黒字で推移してきた農産物貿易収支が初めて均衡すると予測した。これは、輸入額が、堅調な国内消費の伸びとドル安傾向により増加すると見込まれること、その一方で、2004年に豊作となったトウモロコシ、小麦などの主要穀物について、輸出量は増加するものの価格の低迷により輸出額が減少すると見込まれることなどをその要因として挙げた。

 農産物輸出額は減少を見込んだが、畜産物関連は100億8,000万ドルと前年同になると予測した。2003年から2004年にかけて約30%も減少した食肉輸出(ブロイラー肉を除く)であったが、メキシコ向けの牛肉輸出の再開や堅調な日本、メキシコ、カナダ向けの豚肉輸出を反映した結果、食肉(ブロイラー肉を除く)は、前年比9%減にとどまるものとされ31億ドル、130万トンと見込んだ。ブロイラーについては、中国との貿易再開決定や東ヨーロッパや中南米などへの輸出量増加で前年比4%増の220万トンを見込んでいるものの、弱含みのブロイラー価格により輸出額は、ほぼ前年同額の170億ドルにとどまるとした。
 また、国別の輸出額の見通しについては、引き続きカナダが97億ドルで第1位としたが、これまで第2位の輸出相手国であった日本は、牛肉の輸出停止措置が続くとの見込みにより輸出額が前年比9.7%減の77億ドルになると予測し、80億ドルに達すると予測したメキシコに追い越されて3位になるとした。

 一方、農産物の輸入額は増加し、前述のとおり輸出額と同額の560億ドルになると見込んだ。特にワイン、ビール、揮発性植物油(食品・飲料原料用)、食肉(牛、豚)などについて輸入額の増加を予測した。このうち、牛肉(子牛肉含む)については、米ドル安により割安感のあるカナダからの冷蔵牛部分肉の輸入増加や、国内の経産牛と畜頭数の低迷に対応したオーストラリアなどからの冷凍の加工原料用牛肉の輸入増加が見込まれることから、前年比8.4%増の38億ドルになるとした。また、カナダからの生体牛の輸入停止措置によりメキシコからの生体牛輸入が増加していることから、生体家畜(家きんを除く)は、前年比6%増の14億ドルになると見込んだ。

 結果的に、2005年度の米国の農産物輸出額は予測を上回る625億ドルに達し、農産物貿易収支は48億ドルの黒字を維持することとなった。しかし、好調な国内景気に支えられた農産物の輸入増加は今後も続く可能性が高く、米国の農産物貿易黒字は縮小していく傾向にある。