海外編

 II EU 




1. 一般経済の概況

 世界的な景気後退を受けて低迷していたEU経済は、2003年後半からの外需に支えられ、4年ぶりに上昇に転じたが、2004年後半からは、世界経済の減速、原油価格の高騰、ユーロ高の影響から回復ペースは鈍化し、2005年における欧州連合(EU25カ国)のGDPの成長率は、前年の2.4%を下回る1.6%となった。

 また、EUの失業率は、EU25カ国では8.8%と前年より0.2ポイント改善、EU15カ国でも7.9%と前年より0.2ポイント改善されており、雇用情勢は回復の兆しが見られる。

 なお、EUでは、99年1月より単一通貨ユーロが導入され、2005年時点では、EU25カ国のうち13カ国でユーロが流通している。2005年のユーロの対円為替相場は1ユーロ=136.85円で、日本との金利格差などを背景に、ユーロ導入後の2000年時点の1ユーロ=101.89円より大幅な円安傾向で推移している。


表1 主要経済指標
 
欧州連合の加盟国等(2004年12月時点)



2. 農・畜産業の概況

 EUは、加盟25カ国全体で1億6,371万ヘクタール(2005年)の農用地面積を有し、農業経営体数は987万1千戸(2003年)、1戸当たりの農用地面積は、15.8ヘクタール(2003年)である。

 2005年におけるGDPのうち、農業生産の占める割合は、1.3%と前年の1.6%より減少した。また、同年の(以下同じ)労働人口に占める農業従事者の割合は4.9%であり、他の先進国と同様に、その割合は高くない。農業生産額は3,115億7千万ユーロとなり、前年を5.7%下回った。このうちの約43%に相当する1,295億4千万ユーロを畜産が占めており、EU農業の主要部門となっている。畜産の内訳を見ると、生乳が433億5千ユーロ(同約14%)、牛肉・子牛肉が288億1千万ユーロ(同約9%)、豚肉が285億9千万ユーロ(同約9%、キプロスを除く。)、卵・家きんが178億9千万ユーロ(同約6%)である。

 2005年のEU農業を概観すると、一部の加盟国で干ばつ、または多雨による被害が見られ、穀物の収穫に影響を及ぼした。

 2005年の農業経済を部門別に見ると、畜産部門では、家きん肉を除き価格が下落したことにより、生産者価格は前年比1.2%安となり、生産額も前年比4.2%減となった。また、耕種作物部門においては、天候の影響を大きく受け、生産量は前年を5.3%下回り、生産額も前年比12.1%減となった。

 農業者1人当たりの農業所得(実質)は、リトアニア(前年比24.6%増)、アイルランド(同16.5%増)など8カ国が前年を上回ったものの、ポルトガル(同12.0%減)、スロバキア(同10.6%減)、イタリア(同10.4%減)など主要農業国が大幅に前年を下回ったことから、EU25カ国では前年を5.6%下回ることとなった。


図1 農業生産額に占める畜産のシェア(2005年)
 
図2 畜産生産額に占める畜種別のシェア(2005年)
 
表2 主要農業経済指標



3. 畜産の動向

(1)酪農・乳業

 2005年のEUの生乳生産量は、全世界(約6億3,056万トン:FAO資料)の約23%を占め、これは、単一国としては世界最大であるインドの生産量の約1.5倍に相当する。EUは、牛乳・乳製品の自給率が117%の純輸出市場であり、国際乳製品市場に大きな影響力を持っている。2005年において、EUが世界の乳製品貿易量に占める割合は、チーズが34%、バターが36%、脱脂粉乳が18%で、いずれも世界最大となっている。



(1)主要な政策

ア.生乳生産割当(クオータ)制度
 国別に生産割当枠(クオータ)を定め、クオータ超過に対しては課徴金が課せられる。従来は指標価格の115%であったが、指標価格の廃止に伴い、別に定められた年ごとの単価が課せられる(2005/06年度は100キログラム当たり30.91ユーロ、2006/07年度は同28.54ユーロ、2007/08年度以降は同27.83ユーロ)加盟国間でのクオータの譲渡は認められていないが、農家間では、売却・リースや加盟国によるクオータの買い上げ・再配分などを通じて移動・調整することができる。

 この制度の終了年度は、「アジェンダ2000」において2007/08年度(毎年4月〜3月)と定められていたが、2003年6月に合意した共通農業政策(CAP)改革において、2014/15年度まで継続されることとなった。


イ.乳製品の介入買入れ
 バターや脱脂粉乳の介入買い入れを通じた乳製品の価格支持により、間接的に生乳価格を支持している。この介入価格は、CAP改革により、バターについては、4年間で25%、脱脂粉乳については、3年間で15%段階的に引き下げることとなった。

 バターの市場価格が介入価格(100キログラム当たり282.44ユーロ(2005年7月1日〜2006年6月30日))の92%を下回った場合、加盟国の介入機関により、入札方式による一定規格のバターの介入買い入れが行われる。なお、CAP改革により、バターの介入買入限度数量を新たに設定し、2004年に7万トン、その後毎年1万トンずつ削減し、2008年に3万トンまで削減することとなった。

 また、一定規格の脱脂粉乳については、3月1日〜8月31日の間、加盟国の介入機関が介入価格(100キログラム当たり184.97ユーロ(2005年7月1日〜2006年6月30日))で買い入れる。なお、その年の介入買い入れ数量が10万9千トンを超えた場合、介入買い入れは停止され、入札による買い入れが実施できることとなっている。


ウ.酪農奨励金
 2004年度からバターおよび脱脂粉乳の介入買入れ価格の引下げが始まったことに伴い、その代償として酪農分野における直接支払いである酪農奨励金が導入されている。これは、2005年から導入されることとなっていたが、2003年のCAP改革で介入価格の引下げが1年早まったことから酪農奨励金も1年前倒しした2004年から導入されている。酪農奨励金単価は、生乳出荷量1トン当たり2004年が11.81ユーロ、2005年が23.65ユーロ、2006年が35.5ユーロと定められており、介入価格の引下げを補う形で次第に引き上げられることになっている。

 なお、本奨励金は、CAP改革で導入された生産とリンクしない直接支払い(デカップリング)に2008年から統合されることとなっているが、加盟国はより早い時期に統合することができる。


エ.輸出補助金
 EU産乳製品の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、チーズ、バター、脱脂粉乳などの輸出に対して輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに販売・輸送コストなどを勘案して設定される。


オ.域内消費の促進
 脱脂乳、脱脂粉乳の飼料用消費やバターのアイスクリームおよびベーカリー用消費に対する補助のほか、牛乳の学校給食用消費に対する補助などが行われている。



(2)生乳の生産動向

ア.酪農経営体数
 EU25カ国の酪農経営体数は、小規模層を中心に減少傾向にあり、2005年には152万7千戸となった。2003年のEU25カ国ベースの参考データ(179万8千戸)と比較すると、2年間で15.1%減少している。なお、EU15カ国では、52万戸となっている。


イ.飼養頭数
 EU25カ国の2005年12月現在の乳用経産牛飼養頭数は、前年を1.8%下回る2,297万頭となり前年に引き続き減少した。クオータ制度の下で生乳生産の増加が抑えられている一方、経産牛1頭当たりの乳量が着実に増加していることが、飼養頭数減少の要因となっている。なお、EU15カ国では前年を2.1%下回る1,843万頭となっている。

 1戸当たりの乳用経産牛飼養頭数は、15カ国平均30頭(2003年)で、2001年の前回調査の29頭から増加した。しかし、最も飼養規模の大きいイギリスが79頭であるのに対し、規模が小さいギリシャでは14頭など、加盟国間で差が大きい。


ウ.経産牛1頭当たり乳量
 EU25カ国の2005年の経産牛1頭当たり乳量は、遺伝的能力や飼養管理技術の向上などにより、前年比1.9%増の6,182キログラムとなった。ただし、加盟国間での差は大きく、スウェーデンの8,383キログラム(同2.7%増)、デンマークの8,187キログラム(同2.0%増)に対し、ラトビアは4,233キログラム(同0.5%増)と約2倍程度の開きがある。


エ.生乳生産量
 EUでは、CAPによるクオータ制度により、安定的に推移していた生乳生産量が、2003年にクオータを超過したため、2004年はこれらの国において生乳の生産を削減した結果前年を下回った。2005年のEU25カ国の生乳生産量は、前年比0.6%増の1億4,285万トンとほぼ前年並みとなった。国別では、ドイツ、フランス、イギリス、ポーランド、オランダ、イタリアの6カ国がいずれも1千万トンを超えており、これらの合計はEU全体の生産量の約7割を占める。


表3 酪農経営体数、乳用経産牛飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移
 
図3 酪農経営体数(2005年)および乳用経産牛飼養頭数(2005年12月)
 
図4 生乳生産量(2005年)および経産牛1頭当たり乳量(2005年)


(3)牛乳・乳製品の需給動向

ア.飲用乳
 EU25カ国の2005年の飲用乳生産量(販売量)は、ほぼ前年並みの3,353万トンであった。2005年の国別の1人当たりの飲用乳(乳飲料、ヨーグルトなどを含む)消費量は、フィンランドの182.5キログラムからポーランドの53.2キログラムまで、加盟国間でかなりの差がある。近年の飲用乳消費は、全脂肪乳の割合が5割以下に減少する一方、低脂肪乳の割合が増加する傾向となっている。また、発酵乳などの消費は引き続き増加している。


イ.バター
 2005年のEU25カ国のバター生産量は、全世界のバター生産量の(約830万トン:USDA資料)の約3割を占める。EUはインドに次ぐ世界第2位のバター生産地域である。

 2005年のEU25カ国のバター生産量(バターオイルを含む)は、210万トンで前年を0.8%上回った。これは加工原料乳が付加価値の高いチーズにより仕向けられていることによるものであった。

 2005年のEU25カ国の域外への輸出量は、34万1千トンであった。主な輸出先は、モロッコおよびエジプトなどの中東諸国やロシアである。一方、域外からの輸入量は5万1千トンであった。

 EU25カ国の1人当たりのバター消費量は、消費者の健康に対する関心の高まりにより90年代から減少傾向で推移しており、2005年は前年比2.4%減の4.1キログラムとなった。国別では、フランス(7.4キログラム)、ドイツ(6.4キログラム)での消費が多いが、マーガリンやデイリースプレッドの消費が多いデンマーク(1.6キログラム)などの北欧の国や、オリーブ油など植物油脂の消費が多い南欧の国では少ない。

表4 1人当たり飲用乳消費量の推移

表5 バター需給の推移
表6 1人当たりバター消費量の推移
   
 
図5 バターの国別生産量(2005年)

ウ.脱脂粉乳
 EU25カ国は、脱脂粉乳の生産量では全世界(約336万トン:USDA資料)の約3割(2005年)のシェアを占める世界最大の生産地域である。

 2005年のEU25カ国の生産量(バターミルクパウダーなどを含む)は111万トンで、前年を2.4%上回った。これは、脱脂粉乳の需要が好調である中、生乳生産量が増加したことに加え、カゼインや全粉乳の生産量の減少によりその原料となる生乳が脱脂粉乳に仕向けられたことによるものである。

 2005年のEU25カ国の域外への輸出量は、19万4千トンとなった。主な輸出先は、アルジェリア(3万2千トン)、エジプト(1万5千トン)などの北アフリカやタイ(2万1千トン)、インドネシア(1万6千トン)、ベトナム(1万1千トン)などの東南アジアなどである。生産の減少に伴い需給が引き締まったことから、2000年10月以降、介入在庫はゼロとなった。しかし、2002年には脱脂粉乳の生産量が大きく伸びたこともあり、2002年3月以降介入在庫が生じたが、2004年に続き2005年も消費量が生産量を上回ったことから、期末在庫量は前年比87.5%減の8千トンと大幅に減少している。


表7 脱脂粉乳需給の推移
図6 脱脂粉乳の国別生産量(2005年)


エ.チーズ
 EU25カ国は、チーズの生産量では全世界(約1,383万トン:USDA資料)の約5割(2005年)のシェアを占める世界最大の生産地域である。

 チーズ生産量は、堅調な域内需要に加え、世界的な需要増加を背景に95年から2004年までの10年間で、EU15カ国で約16%増加した。99年には、ロシアの経済悪化による同国向け輸出の停滞の影響で一時的に生産の伸びが鈍化したものの、その後回復している。2001年には、BSE問題の再燃による代替需要生産の拡大により、最近では最大の伸びを示したが、その後落ち着き、2005年のEU25カ国の生産量は前年比1.5%増の857万3千トンとなった。このうち主に牛乳を原料として乳業工場で製造されるものは786万8千トン(マルタを除く)となっている。


表8 チーズ需給の推移
図7 チーズの国別生産量(2005年)

 2005年のEU25カ国の域外への輸出量は54万5千トンであった。堅調なチーズの国際価格およびロシアの経済発展により、着実に増加が見られている。主な輸出先はロシア(12万1千トン)、米国(11万2千トン)、日本(5万トン)である。

 一方、域外からの輸入量は、10万2千トンであった。主な輸入先は、スイス(4万2千トン)ニュージーランド(2万3千トン)、豪州(1万8千トン)である。

 2005年のEU25カ国のチーズ消費量は839万4千トンで、1人当たりの消費量は18.4キログラムであった。国別の1人当たりの消費量には、加盟国間でかなりの差があり、フランス(22.9キログラム)、ドイツ(22.1キログラム)などで多く、スロバキア(9.3キログラム)、イギリス(11.1キログラム)などで少なくなっている。


図8 チーズの輸出先国(2005年)
表9 1人当たりチーズ消費量の推移

(4)生乳および牛乳・乳製品の価格動向

ア.生乳生産者価格
 生乳については、バターや脱脂粉乳の介入買い上げ措置を通じて、間接的に価格を支持するための目標となる生乳指標価格が設定されていたが、2003年のCAP改革により、2004年4月1日に廃止された。

 EU25カ国の2005年の国別生乳生産者価格(農家渡し、脂肪分3.7%)は、CAP改革によるバターや脱脂粉乳の介入価格の削減により、前年度を1.8%下回る100キログラム当たり27.00ユーロとなった。国別で見てもほとんどの国で前年度を下回った。

イ.牛乳小売価格
 ドイツの2005年の全脂乳(回収ビン)の小売価格は、1リットル当たり0.83ユーロであった。


表11 ドイツにおける牛乳小売価格の推移

表10 主要国の生乳生産者価格


ウ.バター卸売価格
 2005年のEU各国のバター卸売価格(工場渡しまたは倉庫渡し)は、介入価格の引き下げや生乳生産量の増加に伴うバター生産量の増加などにより、主要国では前年を下回った(フランス:前年比7.7%安、ドイツ:同7.4%安)。


表12 主要国のバター卸売価格


エ.脱脂粉乳卸売価格
 2005年のEU各国の脱脂粉乳卸売価格(工場渡し)は、バター同様、介入価格の引き下げや生乳生産量の増加に伴う脱脂粉乳の生産量の増加などにより、主要国では前年を下回った(ドイツ:前年比4.0%安、フランス:同2.4%安)。


表13 主要国の脱脂粉乳卸売価格


オ.チーズ卸売価格
 2005年のEU各国のチーズ卸売価格(工場渡し)は、全体的に生産量の増加により低下している。こうした中、フランスのエメンタールチーズは、需要の増大により、前年を上回った。


表14 主要国のチーズ卸売価格



(2)肉牛・牛肉産業

 2005年のEUの牛肉生産量は、FAOによると世界の牛肉生産量(約6,400万トン)の13%を占めている。幅広い気候・地理・歴史的条件の下、さまざまなタイプの牛(肉用種、乳用種、乳肉兼用種)が飼養されており、牛肉の生産構造や生産する牛のタイプ(子牛、経産牛、去勢牛、雄牛など)は、国によってかなり異なっている。このような中、EUにおける牛肉自給率は2002年までは、100%を超えていたが、2000年末のBSE問題の再燃によって低下した消費が回復し、消費量が生産量を上回ったことから、2003年以降、牛肉の純輸入地域となっている。


(1)主な政策

ア.介入買い入れ
 域内の牛肉価格が下落した場合、加盟国の介入機関を通じ、一定基準を満たす牛肉を買い入れ、市場から隔離することにより、価格を一定以上に維持している。2002年6月30日までは、域内または加盟国・地域の牛肉市場平均価格が、介入価格となる84%または80%の水準を2週間連続して下回った場合に発動される通常介入(買い入れ数量上限あり)と、価格が極端に低下した場合に実施されるセーフティーネット介入(買い入れ数量上限なし)の2つの方式が実施されていたが、通常介入については、2002年6月30日に廃止され、同年7月1日以降、民間在庫補助に移行した。

 セーフティーネット介入は、規則(EC/1208/87)に基づく枝肉の欧州平均市場価格が、2週間にわたって1,560ユーロ/トンを下回る場合に実施される。

イ.民間在庫補助
 EU市場でR3に格付けされた雄牛の枝肉基本価格を100キログラム当たり222.4ユーロと定め、EU平均市場価格が基本価格の103%を下回り、それが継続する可能性がある場合に、一定量の牛肉を一定期間、自己負担により在庫する業者に対し助成が行われる。

ウ.直接支払い
 2000年度からの介入価格の引き下げにより減少した農業所得を補償するため、繁殖雌牛奨励金などの奨励金について、単価が引き上げられたほか、2000年には新たにと畜奨励金が新設された。

 なお、2003年のCAP改革により、これらの生産にリンクした直接支払いは、原則、生産とはリンクしない直接支払い(デカップリング)へと統合された。ただし、加盟国は、これらの生産と結びついた直接支払いについてもデカップリングと併せて継続することが可能となっている。


(ア)繁殖雌牛奨励金(Suckler cow premium)
 繁殖雌牛を飼養する肉用牛生産者(生乳出荷量がゼロまたは生乳生産枠(クオータ)が120トン以下の生産者)に対し、1頭当たり200ユーロの奨励金が交付される。

(イ)特別奨励金(Beef special premium)
 雄牛や去勢牛を飼養する生産者に対し、肉牛の生存中に2回(10カ月齢および22カ月齢(雄牛は1回のみ))まで、各農家90頭を限度として、去勢牛1頭当たり150ユーロ、雄牛1頭当たり210ユーロの奨励金が交付される。

(ウ)と畜奨励金
 牛を一定期間飼養後、と畜または域外に輸出した生産者に対し、8カ月齢以上の牛1頭当たり80ユーロ、1カ月齢超7カ月齢未満の子牛1頭当たり50ユーロの奨励金が交付される。


エ.輸出補助金
 EU産牛肉の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに設定される。

オ.BSE関連対策
 動物性たんぱく質の飼料利用全面禁止などのBSE撲滅対策、牛肉の安全性を確保するための30カ月齢超の食用向けの健康な牛に対するBSE全頭検査などが実施されている。



(2)肉牛の生産動向

ア.牛飼養経営体数
 2005年のEU25カ国の牛飼養経営体数(乳牛飼養を含む)は235万5千戸で、2003年のEU25カ国ベースの参考データ(266万1千戸)に比べ11.5%減となっている。なお、EU15カ国では、122万4千戸となっている。

 牛飼養経営体数は、2003年のEU25カ国ベースの全農業経営体数(987万戸)の26%を占めていることから、EU全農業経営体の4分の1は何らかの形で牛を飼養していることになる。牛飼養経営体数(2003年)の多い国は、ポーランド(84万6千戸)、フランス(24万5千戸)、ドイツ(19万8千戸)、イタリア(17万3千戸)、スペイン(16万6千戸)の順となっている。

図9−1 国別牛飼養頭数(2005年12月)
表15 牛(乳牛を含む)飼養経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移

イ.飼養頭数
 EU25カ国の2005年12月現在の牛飼養頭数は8,580万6千頭(乳用経産牛を含む)で、前年同期比0.7%減となった。

 2005年のEU25カ国の1戸当たりの飼養頭数は32.0頭で、2003年のEU25カ国ベースの参考データと比較して1.8頭減少している。EU15カ国で見ると2003年では、オランダ(95.9頭)、イギリス(95.5頭)、ルクセンブルク(92.4頭)から、ポルトガル(16.2頭)まで飼養規模の差が大きい。スペイン(39.5頭)、イタリア(38.9頭)、ギリシャ(30.2頭)などの南欧の国では、飼養規模が相対的に小さい。

 また新規加盟国では、最も牛飼養経営体数が多いポーランドで6.5頭など、飼養規模が相対的に小さいことから、EU15カ国の1戸当たりの飼養頭数は57.8頭(2003年)に対し、EU25カ国の1戸当たりの飼養頭数は33.8頭(2003年)となっている。


図9−2 国別タイプ別牛飼養割合


(3)牛肉の需給動向

ア.牛と畜頭数および牛肉生産量
 2005年の牛と畜頭数は2,805万7千頭となった。国別のと畜頭数を見ると、フランス(534万頭)、イタリア(413万頭)、ドイツ(377万頭)、スペイン(276万頭)、イギリス(241万頭)の順で、これら5カ国でEU25カ国の全と畜頭数の約66%を占めている。

 また、牛肉生産量は、過去最高の866万トン(枝肉換算)を記録した91年(12カ国)以降減少傾向にある。2005年(25カ国)においては、791万トン(枝肉換算)となった。

 1頭当たりの平均枝肉重量(2005年)は、成牛で317.6キログラム、子牛は137.1キログラムであった。

表16 牛肉需給の推移(枝肉換算)

イ.輸入および輸出
 輸入については、ガット・ウルグアイラウンド合意に基づき、さまざまな関税割当や近隣国との特恵制度が設けられている。2005年のEU25カ国の域外からの輸入量は、前年比3.2%増の52万トン(枝肉換算)となった。生産量が減少したことから輸入量は増加している。主な輸入先は、ブラジル、アルゼンチンなどである。

 輸出については、従来から北アフリカおよび中東などが主要輸出先となっている。しかし、2001年秋以降のBSE問題の再燃や2002年2月の口蹄疫(FMD)の発生により、多くの国で一時的にEU産牛肉の輸入禁止措置が講じられた。2005年のEU25カ国の域外への輸出量は、前年比33.5%減の21万8千トン(枝肉換算)となった。牛肉輸出量は、生産量の減少により、大きく減少している。

ウ.消費
 2000年10月のフランスでのBSE感染牛の販売疑惑や同年11月にドイツ、スペインでBSEの初発例が発見されたことなどにより、牛肉の安全性に対する疑念がEUの消費者に広がったことから、2001年のEU15カ国の消費量は前年比5.8%減の686万3千トンとやや落ち込んだ。しかし、2002年以降回復し、2003年より、牛肉の消費は99年(749万9千トン)の水準を超えて推移している。なお、2005年のEU25カ国の消費量は前年比1.3%減の814万3千トンであった。

 1人当たりの牛肉消費量も同様に、2001年には18.3キログラムと前年を1.0キログラム下回ったが、2003年には2001年レベルからから1.9キログラム増加し、20.2キログラムとなった。なお、新規加盟国での牛肉消費量は、まだそれほど高くなく、2005年のEU25カ国の牛肉消費量は、17.7キログラムとなっている。

エ.介入在庫
 96、97年にBSE問題の影響による価格下落に伴い、介入買い入れが実施されたことにより急激に増加した介入在庫も、98年末の50万4千トンをピークに減少し、2000年末にはわずか2千トンにまで減少した。しかし、2000年末のBSE問題の再燃により、牛肉価格が落ち込んだため、通常介入だけでなくセーフティーネット介入も実施された。また、従来、介入買い上げの対象となっていなかった経産牛を買上対象とした特別買い上げも実施された結果、2001年末の介入在庫量は前年同月の22万2千トンに達していた。その後消費の回復により、在庫は減少し、2004年、2005年はゼロとなった。

表17 主要国の成牛1頭当たり平均枝肉重量

表18 主要国の成牛参考価格の推移


(4)肉牛・牛肉の価格動向

ア.枝肉卸売価格
 2005年の枝肉卸売価格は、域内で発生した鳥インフルエンザの影響により鶏肉からそれ以外の食肉に需要が移行したことにより主要国では前年を上回った。

イ.小売価格
 2005年の小売価格は、枝肉価格の上昇に伴い多くの加盟国で上昇したと考えられるが、イギリスでは小売業者による値下げなどの販売戦略がとられ、前年を下回った。


表19 牛枝肉卸売価格の推移

表20 牛肉小売価格の推移



(3)養豚・豚肉産業

 2005年のEUの豚肉生産量は、世界の豚肉生産量(約1億43万トン:FAO資料)の21%を占めている。EUは豚肉自給率107.6%の純輸出地域である。特に、デンマークの輸出量はEU全体の輸出量の約4割を占め、米国の輸出量の約1.4倍に相当する。EUでは、加盟国間で差が大きいものの、食肉消費量に占める割合は豚肉が最も大きい。


(1)主な政策

ア.民間在庫補助
 域内の豚肉価格が下落した場合、特定の豚肉を一定期間在庫する者に対し補助金が交付される。

イ.輸出補助金
 EU産豚肉および加工品の国際競争力を維持し、輸出を促進するため、輸出補助金が交付されている。輸出補助金の単価は、域内の市場価格と国際価格との差に基づき、品目ごと、輸出先ごとに設定される。


(2)肉豚の生産動向

ア.養豚経営体数
 2005年のEU25カ国の養豚経営体数は、2003年のEU25カ国ベースの参考データ(216万5千戸)に比べ13.3%減の187万8千戸で、減少が続いている。なお、EU15カ国では、57万3千戸となっている。

 2003年のEU25カ国ベースのEU全農業経営体数(987万戸)に占める豚飼養経営体数の割合は22%である。国別では、ポーランド(64万3千戸)、ハンガリー(43万5千戸)、リトアニア(16万9千戸)、イタリア(16万9千戸)、ポルトガル(11万戸)が上位である。


表21 養豚経営体数、飼養頭数および1戸当たり飼養頭数の推移


イ.飼養頭数
 2005年12月現在のEU25カ国の豚飼養頭数は1億5,171万7千頭で0.4%増加した。なお、EU15カ国では1億2,236万6千頭で前年を0.7%下回っている。

 2005年のEU25カ国の1戸当たりの飼養頭数は69.0頭となっている。2003年のEU25カ国ベースの1戸当たりの飼養頭数は70.2頭であり、国別では、規模が大きいアイルランドの1,473.7頭、デンマークの1,165.5頭、オランダの1,040.9頭からポルトガルの20.4頭やギリシャの27.9頭まで加盟国間で大きな差が見られる。なお、新規加盟国では、飼養経営体数が多いポーランドの31.1頭、ハンガリーの12.2頭など、小規模の経営体が多いことがうかがえる。

図10 国別豚飼養頭数(2005年12月)


(3)豚肉の需給動向

ア.と畜頭数と豚肉生産量
 2005年のEU25カ国の豚と畜頭数は2億3,894万3千頭となった。また、豚肉生産量は2,110万トン(枝肉換算)となっている。

 2005年のEU25カ国の1頭当たりの平均枝肉重量は、88.3キログラムであった。


イ.輸入および輸出
 2005年のEU域外からの豚肉(生体豚、調製品を含む)の輸入量は1万4千トンとなった。

 一方、2005年の域外への輸出量(生体豚、調整品を含む)は、146万8千トンとなった。


ウ.消費
 2005年のEU25カ国の消費量は、1,965万トンであった。2005年のEU25カ国の1人当たりの豚肉消費量は、42.9キログラムであった。

表23 主要国の豚1頭当たり平均枝肉重量

表22 豚肉需給の推移(枝肉換算)
図11 豚肉の輸出相手国(2005年)


(4)肥育豚、豚肉の価格動向

ア.豚肉の市場参考価格
 豚枝肉市場参考価格(以下「参考価格」という)は、加盟国の代表的市場における豚枝肉の加重平均価格をベースとして算出される。

 2000年末に発生したBSE問題の再燃により参考価格は上昇したものの、その沈静化により下落に転じた。この下落は、2003年に下げ止まり、2004年には、日本の米国産牛肉輸入禁止による代替需要での、EU産豚肉の需要の増加、ドイツでの供給不足、年初の価格の低迷に対する民間在庫補助や輸出補助金の導入などにより上昇した。EU25カ国の2005年の参考価格は、100キログラム当たり139.13ユーロとなった。


表24 主要国の豚枝肉参考価格の推移

イ.小売価格
 2005年の豚肉の小売価格は、域内で発生した鳥インフルエンザの影響により鶏肉からそれ以外の食肉に需要が移行したことにより、枝肉価格が上昇した。これに伴い、多くの加盟国で小売価格は上昇したと考えられるが、英国では小売業者による値下げなどの販売戦略がとられ、前年を下回った。


表25 豚肉小売価格の推移




欧州委、今後のBSE対策の指針を示す

 欧州委員会は2005年7月15日、今後のEUにおける伝達性海綿状脳症(TSE)対策について、加盟各国、欧州議会および関係者と議論するための資料として、「指針(Roadmap)」を承認した。これは、これまで実施してきたBSE対策の効果により、BSE陽性牛の頭数が減少し続けていることを踏まえ、EUにおいて実施しているBSE対策に関する特定危険部位(SRM)の除去月齢、動物性たんぱく質の飼料給与禁止措置(フィードバン)、監視措置、BSEリスクに基づく第三国のカテゴリー分け、関連牛のとうた、イギリスからの牛肉輸出規制などについて、短・中期的(2005〜09年)に将来実施する施策の選択肢を示すものである。

 SRMに関しては、引き続きその確実な除去により、消費者保護のレベルを確保・維持しながら、科学的知見に基づきSRMとする部位や対象月齢を変更するとした。EUでは2000年10月から、全加盟国の家畜の可食部からSRMの除去を義務付けている。EUでは、扁桃、腸(十二指腸から直腸まで)および腸間膜はすべての月齢において、また、頭がいと脊柱(注)は、12カ月齢超の牛においてSRMと規定していた。このような中、欧州食品安全機関(EFSA)は2005年5月26日、同機関の生物学的危険に関する科学パネルが実施したSRM除去の月齢の制限に関する評価を公表し、BSEが発見された最も若い牛(28カ月齢)の月齢を下回るもので問題ないと結論付け、SRMの除去月齢を24カ月齢超に引き上げることを提案した。こうした中、欧州委員会は2005年7月19日、EUのフードチェーン・家畜衛生常設委員会に、SRMの除去月齢を12カ月齢超から引き上げる提案を行った。

 フィードバンに関しては、一定の条件が整えば、対策を緩和するとした。EUでは、2001年1月1日以降、家畜への動物性たんぱく質を飼料に利用することを禁止しているが、自然環境での混入については、リスク評価に基づきそれを許容するかどうかについて検討することとした。魚粉についても飼料に使用することは禁止されているが、反すう動物以外の動物への使用再開を提案した。

 また、BSEリスクに基づく第三国のカテゴリー分けについては、2005年のOIE総会で承認された3区分法に基づき、EUのBSE対策の移行期間が終了する2007年7月1日前に実施するとした。さらに、サーベイランスについては、BSE検査の頭数を削減しつつ、その対象を絞ったより効果的なものにし、また、BSE関連牛を即時にとうたすることについては、これを中止し、と畜時のBSE検査などに切り替えるとした。

(注) 頭がいは、下顎骨を含まず、脳および眼球を含む、脊柱は、棘突起(尾椎、頚椎、胸椎、腰椎)、横突起(頚椎、胸椎、腰椎)、正中仙骨稜、仙椎翼は含まず、背根神経節および脊髄を含む。



EU、鳥インフルエンザ対策を強化

 欧州委員会は、鳥インフルエンザに対する予防対策として、発生国からの生きた鳥、家きん肉、未処理の羽毛などの輸入の一時停止、野生に生息する鳥から、家きんやそのほかの鳥(ペット用の鳥、動物園の鳥など)への感染を減少させるなどの対策を講じた。

 リスクの高い地域の対策として、(1)家きんの屋外での飼養の禁止、(2)動物福祉の目的で設置された屋外の給水所は、野生の水鳥から十分に隔離すること、(3)野鳥が接触する給水所の水において、ウイルスの不活化が確実となっていない場合は、これを家きんに給与しないこと、(4)鳥の狩猟目的のおとり用の鳥の使用を禁止−とした。

 各加盟国は、家きんやそのほかの鳥を一堂に集めることによるショー、展示会、文化的なイベントを禁止した。また、欧州委員会は2005年10月21日、野生に生息する鳥から、動物園で飼養しているウイルスに対する感受性の高い鳥に、鳥インフルエンザの感染を阻止するための予防対策を適用した(委員会決定2005/744/EC)。

 加盟国は、湿地や渡り鳥の飛行経路などのリスクが高い地域を考慮し、動物園で飼養するウイルスに対する感受性の高い鳥に対する措置を講じた。また、リスクアセスメントに基づき、もしこれらの鳥にワクチン接種を必要とするならば、ワクチン接種を適用する決定をしても良いとした。なお、ワクチン接種に際しては、対象品種、ワクチンの接種期間、ワクチン接種した鳥の特定、記録、移動制限などの条件が規定された。

 また、欧州委員会は2005年10月27日、英国で隔離検疫中に死んだオウムからH5N1型ウイルスの鳥インフルエンザが確認されたことに伴い、EUでの鳥インフルエンザに対する防御を高めるため、商業目的の家きんを除く生きたペット用の鳥の輸入を一時停止する決定を適用した。(委員会決定2005/760/EC)さらに、第三国から飼い主と共に移動するペットの鳥に関しては、5羽以内であれば、第三国で認められた30日間の隔離検疫を受けた場合(そうでない場合は、目的地の加盟国で30日間の隔離検疫を受検した場合)、EUに持ち込むことを認め、また、隔離検疫以外の方法としては、鳥インフルエンザに対するワクチン接種または移動前に約10日間のウイルスの分離検査で陰性であることとする委員会決定を適用した(委員会決定2005/759/EC)。



英国、30カ月齢超の牛の食肉がフードチェーンへ

 英国は2005年11月7日より、96年5月1日以降、公衆衛生保護対策として30カ月齢を超える(OTM)牛を食肉として流通することを禁止していた対策を見直し、OTM牛の食肉の市場への流通を開始した。新たな対策では、96年8月1日(肉骨粉の給与禁止措置開始日)より前に生まれた牛を除き、BSE検査で陰性であった牛の肉のみが食用として流通する。2005年9月14日に、イギリス食肉家畜委員会(MLC)が公表した「OTM処分対策の変更の影響に関する報告書」によれば、今回の変更により2005年には2万3千トン(8万頭)、2006年には18万5千トン(63万5千頭)の牛肉がフードチェーンに流通すると見込まれている。なお、これらの増加分は、すべて乳用牛由来のものと見込んでいる。また、対策前後の価格動向を見ると、この対策の変更による取引価格に与える影響はほとんど無いと考えられている。

 英国環境・食糧・農村地域省(DEFRA)は11月14日、OTM牛のと畜が可能なと畜場の一覧を公表した。この承認を受けるには獣医の検査官による2日間の査察や作業手順に係る法的拘束力のある合意を結ぶなどの厳格な基準に従う必要があり、未承認のプラントではOTM牛のと畜はできないこととなっている。また、英国食品基準庁(FSA)は2005年11月10日、OTM牛から特定危険部位(SRM)である脊柱を取り外すことが可能な食肉処理場の一覧を公表した。

 FSAは2005年11月9日、消費者向けに、BSEの現状や2005年11月7日から開始された新たなBSE対策などの情報を盛り込んだリーフレットと冊子を公表した。冊子では、OTM対策の見直しの紹介のほか、主に、

  • これまでのフィードバン、SRMの除去、機械的に食肉を分離することの禁止、OTM対策を柱とするBSE対策により、英国でのBSE陽性牛の頭数が急激に減少している

  • イギリスでは、厳格な種々の対策を講じてきた結果、これまで流通していた30カ月齢以下の牛からの食肉において、96年以降、BSE陽性牛は発見されていない

  • フィードバンやSRM除去については引き続き実施する。特にSRM除去により、BSEのリスクの99%以上は除去できる

ことなどを紹介し、英国産牛肉の安全性を改めて消費者に強調するものとなっている。