海外編

 V 南米【ブラジル】 




1. 一般経済の概況


 ブラジル地理統計院(IBGE)が公表した2005年の国内総生産(GDP)の成長率は、農業部門の大幅な減産による同部門のGDPの低下を要因として、前年の4.9%を下回る2.9%となったものの、失業率の減少、実質所得の段階的な回復、前年に続く海外との取引などに支えられた国内経済活動は低位ながら安定していたといえる。この間、政府の経済安定目標の一つである物価対策は、上半期中続けられた政策金利の引き上げによって抑制され、消費者物価上昇率は2002年の二ケタ台から、2005年は一ケタ台の5.7%となった。また、全国6大都市を対象として調査した失業率は前年の11.5%から一ケタ台の9.8%へ減少している。

表1 主要経済指標

 2005年の輸出は前年比22.6%増の1,183億800万ドル、輸入は同17.1%増の735億5,100万ドルといずれも過去最高を更新し、貿易収支は同33.0%増の447億5,800万ドルの黒字となった。年間を通じてドル安傾向が続き、輸出部門の収益に影響を与えたにもかかわらず、食肉部門を含む輸出は拡大した。




2. 農・畜産業の概況


 2005年は、(1)天候不順による穀物の大幅な減産、(2)主要穀物の国際価格の下落による生産者価格の低下、(3)ドル安の為替レート、(4)口蹄疫の再発、−などにより、農畜産部門にとって打撃を受けた年となった。このような中、農産物輸出は順調に推移し、農業部門の輸出額は前年比11.8%増の436億ドルと史上最高を記録し、全輸出額の36.8%を占めた。一方、小麦を中心とした農産物輸入額は全輸入額の7%を占める51億8千万ドルとなり、農業部門の貿易収支としては384億ドルの黒字となった。輸出品目の中では、食肉、砂糖およびアルコール、木材およびその製品が最大となっており、特に海外の需要の増加に応じた砂糖およびアルコールは前年比49.7%増、食肉は同29.4%増と輸出額が大きく伸びたが、大豆およびその加工品は、輸出価格の低下により、同6%の減少となった。

 2005年における農産物25品目(畜産物5品目を含む)の農業粗生産額は、前年を10.7%下回る1,757億レアルとなった。

表2 農場面積と農場数の推移



3. 畜産の動向

(1)肉牛・牛肉産業

 ブラジルの肉牛生産は約1億8千万ヘクタールの広大な草地を利用した放牧肥育が中心で、耐暑性に優れたインド原産のゼブーに属するネローレ種を主体に飼養されている。牛肉生産の約8割が国内消費向けである。

 2005年は、前年に続き好調な牛肉輸出が進む中、5月に行われた国際獣疫事務局(OIE)総会で、ブラジル北部地方のアクレ州が口蹄疫清浄地域の承認を受け、政府が進める口蹄疫撲滅計画に前進があったが、10月には主要生産地域であるマットグロッソドスル州、12月には隣接するパラナ州において、口蹄疫の発生が確認されたため、政府および関係部門は新たな事態への対応を迫られることになった。口蹄疫の発生により、53カ国におよび海外市場の全面または地域的な牛肉および豚肉輸入の停止措置が取られた。(なお、現在はチリが輸入停止を継続しているものの、EU、ロシア、中東諸国など多くの国で輸入を再開している。)



(1)牛の飼養動向

 2005年の牛飼養頭数(水牛、乳牛を含む)は、2億715万頭となっている。牛の飼養頭数を州別に見ると、中西部のマットグロッソ州(シェア12.9%)、マットグロッソドスル州(同11.8%)、南東部のミナスジェライス州(同10.3%)、中西部のゴイアス州(同10.0%)の順となり、これら4州で全国の牛飼養頭数の45.0%を占める。また、OIEが認めた口蹄疫ワクチン接種清浄地域(15州および連邦区)の飼養頭数は1億7,179万頭で全体の82.9%となる。


図1 牛飼養頭数(2005年)
図2 州別牛飼養頭数


(2)牛肉の需要動向

ア.生産動向
 2005年のと畜頭数は、前年比8.1%増の2,803万頭となった。と畜頭数の増加により、2005年の牛肉生産量(枝肉ベース)は前年比9.0%増の945万5千トンとなり、昨年に続き米国に次ぐ世界第2位の牛肉生産国として全生産量の17%を占めた。

イ.輸出入動向
 米国におけるBSE発生や豪州における干ばつなどにより世界の牛肉供給量が減少した中、ブラジル産牛肉の需要が高まり、2005年の輸出量(枝肉重量ベース)は前年比40.4%増の192万3千トンとなり、世界最大の牛肉輸出国の地位を維持した。

 一方、2005年の輸入量(枝肉ベース)は前年同の5万5千トンとなった。

ウ.消費動向
 1人1年当たりの牛肉消費量は2000年以降、36キログラム台の横ばいで推移してきたが、2005年は前年比1.7%増の41.2キログラムと前年に引き続き40キログラム台を維持した。


表3 牛肉需給の推移
図3 生鮮肉(冷蔵、冷凍)の輸出相手国(2005年)


(3)牛肉の価格動向

 ブラジルでは生体取引が主体であるが、生産者販売価格は、枝肉15キログラム単位で示されることが多い。2005年の生産者販売価格(サンパウロ州)は、前年比2.0%安の枝肉15キログラム当たり55.05レアルとなった。また、牛肉の卸売価格は、前年比3.3%安の枝肉1キログラム当たり4.07レアルとなった。

図4 肉牛価格の推移(サンパウロ州)



(2)養鶏・鶏肉産業

 ブラジルの鶏肉生産量は、2005年には934万8千トンと過去最高を記録し、米国、中国に次ぐ生産量を誇っている。また、2005年は生産量の29.5%の276万2千トンを輸出し、米国を抜き世界最大の鶏肉輸出国となった。



(1)ブロイラーのふ化羽数動向

 好調な輸出需要に支えられ、2005年のひなふ化羽数は前年比9.7%増の46億9,230万羽と過去最高となった。



(2)ブロイラーの需給動向

ア.生産動向
 2005年のブロイラー生産量は、輸出が大幅に増加したことなどから、前年比11.2%増の934万8千トンと過去最高を記録した。このうち3割が輸出に向けられている。

イ.ブロイラーの輸出動向
 2005年の輸出量(骨付きベース)は、前年比13.9%増の276万2千トンと過去最高を記録した。形態別に見ると、丸どりが前年比7.2%増の104万4千トン、パーツが同18.5%増の171万8千トンとなった。2005年の増加要因としては、昨年に続き、主要生産国における鳥インフルエンザの発生により、数少ない供給国としてブラジル産の需要が高まったことなどが挙げられる。

 国別では、パーツ主体の日本の輸出量が最大で、40万2千トン、次いで丸どり主体のサウジアラビアが38万トンとなった。これにロシアの25万4千トンが続き、これら3カ国で全輸出量の約4割を占めている。

ウ.消費動向
 1人1年当たりの消費量は、前年比7.9%増の35.3キログラムとなった。これは、好調な輸出が続いたことで、これに対応する生産体制が取られたが、2005年後半以降、海外の主要市場で鳥インフルエンザの人への感染を恐れた鶏肉消費の減退があり、これらの市場への輸出が減少し、国内市場に供給されたことで、1人当たりの消費量を押し上げたと見られる。


表4 鶏肉需給の推移
図5 鶏肉の輸出相手(2005年)


(3)ブロイラーの価格動向

ア.ブロイラー生産者販売価格
 2005年のブロイラーの生産者販売価格は、順調な輸出需要に支えられ、9月までは上昇を続けたが、年後半からの国内市場への供給過剰を反映して、価格は下降し、年間平均は前年比8.1%安のキログラム当たり1.36レアルとなった。

イ.卸売価格
 ブロイラーの丸どり卸売価格は前年を7.6%上回るキログラム当たり1.99レアルとなった。

図6 ブロイラ−価格の推移(サンパウロ州)



4. 飼料穀物


 世界のトウモロコシ生産の約5〜7%を占めるブラジルでは、養鶏、養豚などの畜産業を中心とした大消費国内市場が形成されていることから、輸出余力は少なく、国内供給が過剰となる場合や国際価格が高騰する場合に輸出が行われる。このため、年による変動が大きい。また、飼料基盤のぜいじゃくな北東部の養鶏生産者は、国産よりも割安のパラグアイ産やアルゼンチン産トウモロコシに依存している。

 一方、大豆は米国に次ぐ世界第2位の生産国かつ輸出国として、世界の大豆市場に大きな影響力を持つ立場にあり、また、最大の輸出品目として2005年には53億ドルの外貨を獲得している。トウモロコシと大豆は作付けが同時期となり競合するため、価格関係が作付面積に反映する。最近は価格の高い大豆が優先され、トウモロコシの生産は2003/04年を境に下降を続けている。



(1)主要な政策

 2005年度については、443.5億レアルが農業融資資金として投入され、また、最低価格保証制度では、国内供給不足を回避するため、生産の増加を必要とするトウモロコシについて最低価格を引き上げたほか、貧困地帯の多くを抱える北部、北東部地方の作物(カシューナッツなど)に対しての改定が行われた。畜産部門に対する支援策としては、環境保護や家畜のトレーサビリティへの取り組みや農業と畜産の複合経営を行った生産者への融資枠の拡大などが実施された。



(2)穀物の需給動向

 2004/05年度のトウモロコシ生産量は、前年度比16.9%減の3,501万トンとなった。これは中国の需要増などから大豆価格が上昇していたため、大豆の作付けが増加したことや南部地域を中心とした天候不順によりトウモロコシ生産量が大幅に減少したことなどが要因となっている。一方、大豆もトウモロコシと同様に南部地域では多大の被害があったが、全体では2004/05年度の生産量は前年比4.6%増の5,231万トンとなった。


表5 トウモロコシの需給表
表6 大豆の需給表


(3)穀物の価格動向

 2005年のトウモロコシの生産者販売価格(サンパウロ州)は、年平均で前年比10.4%安の15.69レアルとなった。これは、小麦が品質低下により、家畜飼料原料に多く利用されたことやドル安により輸出への関心が低下したことで、トウモロコシの国内供給が過剰になったことが要因に挙げられる。

表7 トウモロコシ価格の推移(サンパウロ州)



口蹄疫をめぐる情勢

2005年10月にブラジル中西部で口蹄疫が発生

 ブラジル農務省(MAPA)は2005年10月10日、中西部に位置するマットグロッソドスル(MS)州南部のエルドラド郡において口蹄疫(血清型O)が発生したことを発表した。以降、同州で発生した口蹄疫は28件に上った。12月6日にはMS州に隣接するパラナ(PR)州での発生も確認された。なお、PR州での発生は、MS州から品評会に参加するために運ばれてきた牛が関連している可能性が高いとみられている。

 2006年に入ってからは、2月にPR州、4月にMS州での発生が発表された。特に4月のMS州での発生は、3月末にアルゼンチンが牛肉輸出を停止したところであり、MS州関係者は牛肉輸出の再開を期待し始めたところであった。


口蹄疫対策を着実に実行

 2005年11月に、ブラジルとパラグアイの両国政府は、国境約1,000キロメートルを越えて家畜が移動するリスクを軽減するため以下の協定を結んだ。

  • (1)国境沿い両側25キロメートル以内に所在する農場すべてに対して、GPSを用いた経緯度の測定
  • (2)家畜(牛、水牛、ヤギ、羊、豚)を飼育する農場すべての登録
  • (3)国別に異なった色の耳標または鼻環をすべての家畜に装着
  • (4)国境沿い25キロメートル以内に所在する農場すべての家畜に両国政府の立会いの下での口蹄疫ワクチンの接種
  • (5)家畜衛生教育およびキャンペーン活動に重点を置いた公務員や生産者の技術能力の向上

 また、今回の口蹄疫の発生により、MS州では3万4,113頭、PR州では6,781頭の家畜がそれぞれ殺処分され、政府は生産者の補償に2,330万レアルを支出した。

 これらの取り組みにより、2006年4月のMS州における発生を最後に発生がみられないことから、防疫対策は着実に行われているとみられる。


2007年にはSC州がワクチン不接種清浄地域に認定

 2005年の口蹄疫発生について、MAPAは、口蹄疫は食肉輸出に多大な損害をもたらしたが同時に、

  • (1)輸出パッカーは全国に食肉加工処理場を分散したこと
  • (2)殺処分の悲惨な光景は牛群のワクチン接種に対する衛生教育キャンペーン10年分の効果を生んだこと
  • (3)国境および農地改革対象地域の管理が強化されたこと
  • (4)家畜衛生の重要性が広く認知されるようになったこと

など、官民一体となって口蹄疫対策の重要性を再認識して実行に移したことにより、今後のブラジルにおける食肉生産の発展基盤を残し、また、大きな教訓になったと前向きに総括している。

 今回のステータス取得により、SC州関係者からは、今後、日本を含むアジアやEUなど高価格部位の需要が高い市場への輸出を期待する発言が見られるところである。

 なお、併せて北部に位置するパラ(PA)州中央および南部地域がワクチン接種清浄地域として承認された。