海外編

 VI 中国 




1. 一般経済の概況

 中国の経済は、96年から2000年までのデフレ時代を経て、昨今の経済成長率は9〜11%という水準を維持している。その要因としては、工業生産の拡大、海外からの投資拡大や国民生活水準の向上による消費の伸びなどが挙げられる。2006年の経済成長率は、前年に引き続いて中国政府が「科学的な発展観」に基づき投資と消費の関係を合理的に調整するとした、いわゆるマクロコントロール政策による景気の引き締めなどがあったものの、投資や貿易などに支えられ、前年を1.2ポイント上回る11.6%と4年連続で10%以上の高い伸びを示した。2006年の都市部登録失業率は、国有企業改革の影響などで上昇を続けた2003年までに比べ、好調な経済と雇用創出により、前年を0.1ポイント下回る4.1%となった。

 なお、中国は世界最多の13億1,448万人の人口を有しているが、その約6割は農村部に住んでおり、都市部との貧富の格差が著しいのが実態である。最近は、都市部への大規模な人口流入による諸問題に加え、同一地域内における格差問題なども表面化し始めている。

 2006年の消費者物価上昇率は、住宅、自動車、通信関連などの需要がおう盛であったものの、過熱投資に基づく供給過剰により、工業品を中心に価格が下落したことなどから、前年を0.3ポイント下回る1.5%となった。

 貿易は、2001年の世界貿易機関(WTO)加盟に伴う関税品目の約7割の輸入関税の引き下げ、国内の経済成長や生産力の向上、為替相場の影響などから、2002年以降輸出、輸入とも大きく増加しており、2006年は輸出額、輸入額とも前年をそれぞれ27.2%、19.9%上回る大幅な伸びを示し、貿易収支は1,775億ドルの黒字となった。

表1 主要経済指標



2. 農・畜産業の概況

 中国は、日本の約26倍に当たる960万平方キロメートルの国土を有しており、そのうち2006年の耕地面積は前年比0.25%減の1億2,178万ヘクタール(中国国土資源部「2006年中国国土資源公報」による)であった。

 また、農家経営規模を農家人口1人当たり経営耕地面積で見ると、ここ数年は全体として増加する傾向にある。しかし、退耕還林政策(後述)などにより耕地面積が減少する一方、農村部の常住人口は年々増加していることから、実態的には、農家人口1人当たりの耕地面積は年々減少しているものと推測される。識者によると、このような乖離(かいり)が生ずる要因として、耕地の現有面積の統計上の問題などが挙げられている。

 農林牧漁業の総産出額および部門別の生産額の推移を見ると、総産出額は85年から95年の10年間で大幅な増加を見たが、95年以降は緩やかな増加で推移している。

 生産額の分野別構成比では、農産物は80年には全生産額の75.6%であったが、2006年では50.8%と低下し、畜産物が18.4%から32.2%、水産物が1.7%から10.4%へと増加しており、国民所得向上による消費構造の変化がうかがえる。

表2 耕地面積と農業労働力の推移



3. 畜産の動向 

(1)酪農・乳業

 中国の酪農は、古くは中国北部や西部居住の少数民族地域の遊牧民が、黄牛(東南アジアから中国北部にまで分布する黄褐色の牛の総称)やヤクの乳を利用して乳製品に加工する自給自足型の農業であったが、改革開放政策が実施された以降、急速に発展している。また、経済発展に伴う生活水準の向上による都市部を中心とした食生活の西洋化や、中央・地方政府などによる栄養価値に関する普及啓もうなどもあり、牛乳の消費も拡大している。国連食糧農業機関(FAO)によると、2006年の中国の生乳生産量(牛のみ)は3,224万9千トンで世界第3位(全世界のシェア5.9%)となっているものの、生産拡大に向けた乳牛の改良や飼養管理、衛生管理、飼料確保、酪農家の集約化に加え、コールドチェーンほか流通体制の整備など、今後に向けての課題も多い。



(1)政策

 国家評議会は89年、酪農・乳業を初めて国家経済の発展を推進するための重要な産業と位置付け、融資、技術、インフラ支援などの政策を確立した。さらに97年、国務院は「全国栄養改善計画」により酪農・乳業を重点的発展産業とするとともに、2000年には、小・中学生(学制の違いにより、日本の小・中学生とは必ずしも一致しない)に対する飲用牛乳の摂取を促進し、その体位向上と牛乳・乳製品の消費拡大などに資するため、「学生飲用乳計画」を実施した。その後も、酪農・乳業企業を重要な発展企業として支援することが決定されるとともに、生乳生産基地の発展計画などが相次いで実施に移されている。

図1 乳牛飼養頭数と生乳生産量の推移


(2)生乳の生産動向

ア.飼養頭数
 乳用牛の飼養頭数は、近年一貫して増加傾向で推移しており、特に2003年は前年比30.0%増の893万頭、2004年は同24.0%増の1,108万頭とその伸びが著しく、2005年は同9.8%増の1,216万頭と伸び率が鈍化したものの、2006年は同12.1%増の1,363万頭となった。

表3 乳用牛飼養頭数の推移

 中国の乳用牛は、一般に3分の2がホルスタイン種およびその交雑牛などで、3分の1程度がシンメンタール種、在来牛である黄牛タイプの三河牛種・草原紅牛種などの純粋種であるといわれている。これらのうち主要な乳用牛は、黄牛雌牛とホルスタイン雄牛の交雑種に、さらにホルスタイン雄牛を累進交配して作出された中国黒白花牛(Chinese Black and White)と呼ばれる品種で、中国では85年以降、ホルスタイン種の血統が87.5%以上のもの(=ホルスタイン雄牛を三代以上交配したもの)を中国ホルスタインと呼んでいる。しかし、乳牛の改良や飼養管理技術などが先進国に比べてまだ遅れていることや、乳肉兼用種も飼養されていることなどから、乳牛の生産性はまだ低く、中国の1頭当たり年平均生乳生産量は約3,500〜4,200キログラムとされている。


イ.生乳生産量
 生乳生産量は、牛乳の栄養知識の普及などによる消費拡大に刺激され、98年以降一貫して増加傾向で推移している。特に2003年は前年比34.4%増、2004年は同29.5%増、2005年は同21.8%増と伸びが著しく、2003年の生乳生産量1,746万トンに対し、2006年は同16.0%増の3,193万トンと、わずか3年間で2倍近くまで増加した。

表4 牛乳需給の推移

ウ.地域別生産動向
 生乳生産は、その多くが中国東北部から華北、西北部など主に北方地域で行われている。2006年の主産地の生乳生産量は、内蒙古自治区869万2千トン(全国シェア27.2%)、黒龍江省460万3千トン(同14.4%)、河北省407万6千トン(同12.8%)、山東省215万8千トン(同6.8%)、新彊ウイグル自治区179万8千トン(同5.6%)などとなっており、華北・東北地方に属する上位3省・自治区で54.4%と中国の生乳生産量の過半を占める。

 なお、飼養頭数の最も多い地域である内蒙古自治区(乳牛飼養頭数301万6千頭、全国シェア22.1%)、河北省(同224万5千頭、16.5%)および新彊ウイグル自治区(同222万9千頭、16.4%)は飼養頭数シェア55.0%、生乳生産シェア45.6%を占めるが、特に内蒙古自治区の生乳生産量は、前年を25.8%上回り、2003年に黒龍江省を抜いて以降、全国第1位の座を揺るぎないものとしている。

 また、天津市(68万3千トン)、北京市(61万9千トン)、上海市(22万1千トン)などの大・中都市郊外でも生産が行われており、生産規模や飼養管理水準の高さに加え、能力の高い輸入乳用牛の導入などもあり、近年急速な成長を見せている。



(3)牛乳・乳製品の需給動向

ア.消費動向
 2006年の牛乳消費量(乳製品向けを含む)は、前年比15.8%増の3,193万トンとなった。中国における牛乳・乳製品の消費量は近年、生活水準の向上に伴う食生活の多様化や牛乳・乳製品の栄養価値の普及、啓もうなどの消費拡大対策の奏功から、大都市における消費が大幅に増加している。

 中国国家統計局による2006年の都市部における1人当たり牛乳・乳製品消費量は、前年比3.0%増の25.54キログラムとなった。このうち牛乳(中国で鮮乳・純牛乳などと呼ばれているもので、日本の統計上は、牛乳や加工乳、乳飲料など「飲用牛乳等」と分類されているもの)の1人当たり消費量は、同2.2%増の18.32キログラムとなり、5年前の2001年と比較すると1.5倍となった。

ただし、都市部における牛乳・乳製品消費量の伸びは、その主要品目である牛乳類が、飼料・包装材価格の高騰などを背景とした小売価格の上昇(2006年=前年比2.7%高の500グラム当たり2.28元)や需要の伸びの落ち着きなどにより鈍化していることから、ここ数年は全体に頭打ちの傾向にある。

 一方、農村部における消費量は、年を追うごとに徐々に増加しており、2006年の1人当たり牛乳・乳製品の消費量は、同10.1%増の3.15キログラムとなり、5年前の2001年と比較すると2.6倍にまで増加した。しかし、たんぱく源を食肉、卵、水産物に求め、牛乳・乳製品に対するなじみが薄いという食文化の伝統や所得面の理由などから、絶対量としては依然として少ないものとなっている。


図2 1人当たり牛乳・乳製品の消費量の推移
表5 1人当たり牛乳・乳製品の消費量の推移

イ.乳製品需給
 乳製品の生産は、かつては粉乳が主体であったが、近年はヨーグルトの生産・消費の伸びが著しく、その生産量はすでに粉乳を上回り、液状乳(約7割はUHT乳=日本で言うLL乳)の約17%を占めるに至っている。

 しかし、乳幼児向けおよび中高齢者向けを中心に、粉乳が主要な乳製品の一つであることには変わりがなく、チーズ、バターの生産・消費はまだこれからという段階である。

 2006年の粉乳の需給について見ると、全粉乳の消費量は前年比12.6%増の107万1千トンと引き続き増加し、生産量も同12.2%増の103万トンと消費量とほぼ同程度の伸びを示したものの、消費量の伸びが生産量をやや上回ったことから、輸入量は同13.8%増の7万4千トンとなった。全粉乳は、還元乳やヨーグルト、アイスクリーム、焼き菓子などの原材料として用いられるが、昨今の乳製品の国際価格高騰の一方で、中国国内の強い需要にけん引されて国内生産量が増加することから、国内の全粉乳ユーザーは、国際相場より1割程度安価とされる国産品を使用する方向にシフトしているといわれる。

 これに対し、脱脂粉乳は、2004〜2005年にかけて中国各地で発生した粉乳の安全性をめぐるさまざまな事件によって、2年連続で消費量が減少したことから生産量も減少を続けたほか、2005年には輸入量も減少に転じた。その後、粉乳の品質管理の向上などにより、2006年の消費量は同14.9%増の11万6千トンとなった。中国では、脱脂粉乳を溶いて飲む習慣は比較的新しいもので、大都市の年配者が健康上の理由で消費するのが主流であるといわれている。米国農務省(USDA)は、脱脂粉乳の生産量はここ何年かは減少するものの、堅調な国内需要と国際価格の上昇を背景に、2007年以降は徐々に増加基調を示すものと予測している。

 中国農業部の発表などによると、2006年の牛乳・乳製品の主要輸入相手国はニュージーランド(NZ)、米国、フランスおよびオーストラリア(豪州)などで、これら4カ国が中国の牛乳・乳製品輸入額に占める割合は8割強とされる。品目別には、粉乳類やホエイなどの輸入額が多いが、伸び率では、チーズの輸入額が前年比4割以上の増加となった。また、輸出については、香港特別行政区、台湾、ミャンマー、イラクおよびフィリピンなどアジア・中東地区向けが多く、これら5カ国・地域向けが、中国の牛乳・乳製品輸出額の約9割を占めているとされる。品目別には、練乳類や液状乳の輸出額が多く、香港向けがかなりのウェイトを占めている。


表6 全粉乳需給の推移
表7 脱脂粉乳需給の推移



(2)肉牛・牛肉産業

  中国の肉牛生産の歴史は新しく、90年代に入りそれまでの役畜の飼養から本格的な牛肉生産への取り組みが始められた。FAOによると、2006年の中国の牛肉生産量は717万3千トンで、米国(1,191万トン)、ブラジル(777万4千トン)に次ぐ世界第3位であり、そのシェアは、全世界の11.8%を占めている。しかし、北京、四川、上海、広東の4大系統の中国料理において、その食材として牛肉が利用されることはあまりなく、肉類の消費の中で牛肉は比較的低い水準にあった。また、従前は牛肉のほとんどが役用老廃牛由来のものであったが、近年の肉牛改良に伴う肉質向上や所得向上により、生産、消費とも増加している。しかし、牛肉の消費量は、世界的に見ると依然として低い水準にある。



(1)牛の飼養動向

 2006年の牛飼養頭数(乳牛を除き、水牛を含む)は、酪農・乳業の好調な発展を反映し、牛全体に占める乳牛の割合が増加したことなどから、1億2,581万頭と前年を2.8%下回った。牛のうち1億頭弱が黄牛(水牛およびヤクを除く在来種)と呼ばれる役肉兼用型で、全国の約4分の3を占めている。純粋種が少なく交雑種がほとんどであるため、改良面での制約が大きく、枝肉重量も小さいのが現状である。USDAによると、2006年の平均枝肉重量は134.4キログラムであった。黄牛のうち秦川牛、南陽牛、魯西牛、晋南牛が代表的な肉用品種とされており、これらは、主に中央平原地帯で飼養されている。

 牛の飼養頭数を地域別に見ると、伝統的な放牧地帯である西部地帯(内蒙古自治区、甘粛省、新彊ウイグル自治区、青海省、チベット自治区)に加え、中央平原地帯(河南省、河北省、山東省、安徽省など)、北東地帯(黒龍江省、吉林省、遼寧省)が主な飼養地帯となっている。

 なお、中国では野草地などの放牧地が不足しているため、過放牧による土壌流出などの環境問題も発生しており、牛飼養頭数の大幅な拡大を阻害する要因となっている。こうした背景もあり、中国では99年から、過剰な開墾で表土の流失が著しい傾斜耕地や砂漠化・アルカリ化などが深刻な地域の耕地を林地または草地に戻す「退耕還林政策」が実施されていたが、国務院は、耕地の予想以上の減少懸念などを背景に、2007年8月9日付け国務院通知をもって、第11次5カ年規画の期間(2006〜2010年)内に実施予定の約133万ヘクタール規模の退耕還林について、2006年分として配置済みの約26万7千ヘクタールを除き、当面実施しないとした。


図3 肉牛飼養頭数と牛肉生産量の推移
表8 肉用牛飼養頭数の推移


(2)牛肉の需要動向

 2006年の牛肉生産量は、前年を5.4%上回る750万トンとなった。主要な生産地区の生産量を見ると、河南省109万3千トン(全国シェア14.6%)、河北省90万トン(同12.0%)、山東省81万1千トン(同10.8%)、吉林省53万トン(同7.1%)、遼寧省44万4千トン(同5.9%)、内蒙古自治区38万2千トン(同5.1%)、新彊ウイグル自治区38万トン(同5.1%)、安徽省34万4千トン(同4.6%)などとなっている。

 1人当たり牛肉消費量は、経済成長による需要の伸びから2002年と2006年を比較すると、4.6キログラムから5.6キログラムと増加し、5年間の年平均伸び率は5.4%となった。

 牛肉輸入量は、WTO加盟に伴う関税率の引き下げから、2002年には2万6千トンと前年を4割強上回った後、2004年以降は減少が続いたが、2006年は前年並みの3千トンとなった。主な輸入先は豪州、NZとなっており、輸入牛肉は、国産と比較して高品質なため、主に大都市の富裕層や高級ホテル向けなどに供給されている。

 2006年の牛肉輸出量は、9万トンと前年を1.1%下回ったものの、ほぼ同水準となった。主な輸出先は香港特別行政区、韓国、中近東などであった。

表9 牛肉需給の推移

(3)牛肉の価格動向

 2006年の牛肉卸売価格は、著しい経済成長に伴う畜産物消費構造の変化を背景とした牛肉消費の伸びなどに支えられ、前年比2.2%高の1キログラム当たり16.46元となった。しかし、中国国家統計局による1人当たりの消費量は、都市部で豚肉20.00キログラムに対し2.41キログラム、農村部で同じく15.46キログラムに対し0.67キログラムと、依然として低い水準にある。

表10 牛肉価格の推移



(3)養豚・豚肉産業

 豚肉は、食肉全体の消費量の3分の2を占めており、歴史的にも最も好まれている食肉である。FAOによると、2006年の中国の豚肉生産量は5,292万7千トンと世界第1位であり、そのシェアは、全世界の約半分を占めている。しかし、年間と畜頭数と飼養頭数との比は1.38で、欧米諸国では1.5以上となっているのに対し、近年その生産性は向上しているものの、依然として欧米水準には達していない。また、国民の赤肉志向と生活水準の向上に伴い、脂肪の多い中国在来種と赤肉の多い外来種との交雑による肉質改善が取り組まれている。



(1)豚の飼養動向

 2006年の豚飼養頭数は、前半の豚肉価格下落により損失を恐れた養豚農家が、母豚のと畜や子豚の安売りをしたことや、夏場を中心に多発した高病原性豚繁殖・呼吸器障害症候群(PRRS)の影響などから、4億9,441万頭と前年を1.8%下回った。中国では、従来から農家の副業として2〜5頭程度の豚を飼養し、有機肥料としてのたい肥利用が行われている。近年は大規模な専業経営の養豚農場も都市近郊を中心に増加しているものの、このような副業経営が出荷頭数に占めるシェアは4分の3と、依然として豚肉生産において重要な地位を占めている。

  豚の飼養頭数を地域別に見ると、中央平原地帯である四川省5,757万頭(全国シェア11.6%)、河南省4,678万7千頭(同9.5%)、湖南省4,379万8千頭(同8.9%)、河北省3,006万4千頭(同6.1%)、山東省2,778万5千頭(同5.6%)、雲南省2,618万2千頭(同5.3%)、広西チワン族自治区2,612万5千頭(同5.3%)などとなっており、7省・自治区で全体の52.2%を占めている。


図4 豚飼養頭数と豚肉生産量の推移
表11 豚飼養頭数の推移


(2)豚肉の需給動向

 2006年の豚肉生産量は、中国国家統計局によると、前年を3.7%上回る5,197万2千トンとなった。生産量は、90年から95年にかけて58%増加したが、近年は安定的に推移している。主要な生産地区の生産量を見ると、四川省541万3千トン(全国シェア10.4%)、河南省470万3千トン(同9.0%)、湖南省449万6千トン(同8.7%)、山東省380万7千トン(同7.3%)、河北省352万2千トン(同6.8%)、雲南省260万6千トン(同5.0%)、広東省259万5千トン(同5.0%)などとなっている。

 1人当たり豚肉消費量は、経済成長による需要の伸びなどから、2002年と2006年を比較すると、33.8キログラムから39.2キログラムと増加し、5年間の年平均伸び率は3.8%となった。

表12 豚肉需給の推移

 2006年の豚肉輸入量は、9万トンと前年の約2.2倍となった。主な輸入先は米国、香港特別行政区、デンマークなどとなっており、主として大都市の富裕層や高級ホテル、レストラン向けなどに供給されている。

 2006年の豚肉輸出量は、59万5千トンと前年を79.8%上回った。主な輸出先は香港特別行政区、韓国、ベトナム、キルギスタン、フィリピンなど近隣諸国が中心となっている。また、香港向けを主体として、2006年は172万3千頭(うち香港向け160万2千頭:シェア93.0%)の生体輸出も行われている。


(3)豚肉の価格動向

 2006年の豚後肢肉の卸売価格は、前年比10.2%安の1キログラム当たり10.86元となった。豚肉価格下落の原因としては、@2005年の豚肉価格がまだ比較的高かった時期に、利益を当て込んだ養豚農家が生産規模を拡大した結果、2006年上半期に豚の出荷頭数が増えたこと、A経済成長に伴い食肉消費の多様化が進み、相対的に豚肉の消費量が減少したこと、B口蹄疫や連鎖球菌症、鳥インフルエンザなど重大な動物感染症発生に対する心理的影響から、食肉消費が全体に落ち込んだことなどが挙げられている。

 2006年の豚肉価格の下落はまた、これ以上の損失を恐れた養豚農家による母豚のと畜や子豚の安売りなどを招き、豚および豚肉価格下落の悪循環を生み出した。しかし、同年7月以降、母豚および子豚の淘汰(とうた)が出荷頭数の減少を招いたことに加え、豚の主要な生産地でもある南部において、台風や洪水、あるいは干ばつなどにより飼料価格が高騰したこと、さらに高病原性PRRSの影響などが重なり、豚および豚肉価格は上昇に転じた。

表13 豚肉価格の推移



(4)鶏肉産業

 中国の養鶏は、70年末の農政改革を契機として大きく発展し、豚肉に次ぐ食肉として消費されるとともに、輸出産業としても位置付けられるようになった。FAOによると、2006年の中国の鶏肉生産量は1,023万3千トンと米国に次いで世界第2位であり、そのシェアは、全世界の約15%を占めている。これには、国内のみならず、海外資本を導入したインテグレーションによる契約生産に基づき、海外の優良品種や生産技術の導入などを行った結果、生産性が向上したことが大きく寄与している。

表14 鶏飼養羽数、出荷羽数の推移


(1)鶏肉の生産動向

 2006年の鶏(正確には家きん)飼養羽数は、53億7千万羽と前年を0.8%上回った。養鶏産業はインテグレーションによる急成長から、98年以降供給過剰に陥り、価格が低迷したため、輸入鶏(ブロイラー)から、国内需要が高く中国人の好みに合う風味や歯ごたえのある鶏肉が生産できる在来鶏、いわゆる地鶏への生産転換が国内向けに行われている。在来鶏と輸入鶏との交配による品種改良も盛んに行われており、鶏肉生産の約半分がこの改良種により行われている。

 2006年の鶏肉生産量は、前年比1.5%増の1,035万トンとなり、近年一貫して増加傾向で推移している。

表15 鶏肉需給の推移


(2)鶏肉の需給動向

 鶏肉輸出は、2001年後半以降、家畜衛生や飼養管理という困難な問題に直面している。すなわち、鳥インフルエンザ、ニューカッスル病など家きん感染症の発生に加え、抗生物質の残留問題などにより、EUや日本などにおいて中国産鶏肉などの輸入一時停止措置が講じられた。このため、鶏肉輸出量は2002年以降減少を続けたが、2005年は上半期を中心に香港などへの輸出が回復基調となって増加に転じた。

しかし、2005年下半期に一部地域で発生した鳥インフルエンザの影響などで、2006年は上半期の生産収益が大幅に減少して農家の飼養意欲が低下し、その後の需要の高まりにより下半期には生産が回復したものの、通年では生産量の伸び(1.5%増)が堅調な国内消費量の伸び(2.8%増)を下回ったことなどもあり、輸出量は前年比2.7%減の32万2千トンとなった。主な輸出先は香港特別行政区、韓国、マレーシアなど近隣諸国が中心となっているが、中国の鶏肉輸出量は、生産量の約3%を占めるにすぎない。

 なお、2006年3月、米国は中国産の加熱処理済み家きん肉の市場を開放したが、その対象は米国またはカナダから輸入された生鮮家きん肉を中国で加工したものとされる。しかし、中国国内でと鳥処理された鶏肉のUSDA承認工場が国内になく、中国産鶏肉の米国向け輸出に結びつかないことや、輸入生鮮肉の加工後の再輸出自体に中国業界があまり興味を示さなかったことに加え、中国産品の安全性をめぐる問題などもあって、鶏肉の米国向け輸出は、このところむしろ減少傾向にある。



(3)鶏肉の価格動向

 2006年の鶏肉の生体卸売価格は、2005年下半期の鳥インフルエンザ発生の影響などで上半期は下落を続けたが、堅調な鶏肉需要などに支えられ、5月になって底上げし、12月には年内最高を記録したものの、通年では前年比9.3%安の1キログラム当たり8.62元となった。また、2006年の鶏肉(丸どり)卸売価格は、同様に3.2%安の同8.35元となった。


表16 鶏肉価格の推移
図5 鶏肉需給と卸売価格の推移




中国第11次農業5カ年規画、生乳生産は年率8%の増産目標

三農問題解決を社会の共通任務に位置付け

 中国農業部は2006年8月3日、2006〜2010年を対象年とする農業・農村経済発展第11次5カ年規画(全国農業和農村経済発展第十一個五年規画:以下「11次農業規画」)を発表した。11次農業規画では、2001〜2005年を対象とした第10次農業5カ年計画において中国共産党および国務院が最重要課題としてきた三農問題(農業の振興、農村の経済成長、農民の増収と負担減)を、社会主義新農村の建設と農業・農村経済の発展を推進するための中国社会全体の共通任務として、真剣に解決すべきものであると位置付けている。

注)「規画」とは、中国語で総合的ガイドラインを示す言葉である。中国政府は、「国民経済・社会発展第10次5カ年計画(2001〜2005)」など、これまで「計画」という指令的な言葉を用いていたものについて、市場主義経済の導入などとも相まって、計画よりも数量化指標が減らされ、戦略的な方針や任務、対策など、よりマクロ的な政策に重点が置かれた「規画」という語を用いるようになってきている。

 また、11次農業規画では、国民経済の発展と適切な経済状態にある社会の構築、そして農業・農村経済の発展に資するため、@食糧ほか農産物の効率的な供給の確保、A農業収益の向上と農民の持続的な増収の確保、B農村社会の調和のとれた発展の確保を「三大基本任務」と定め、その達成に向け努力する必要があるとしている。


食糧生産能力は5億トン、生乳生産量は5割増を目指す

 11次農業規画では、自然・資源条件、産業基盤、発展潜在能力に基づき、全国の農業地域を、@優位開発区、A重点開発区およびB適度開発区の3タイプに大別している。畜産業に関する開発区別の指針については、以下の通りである。

 1.優位開発区
 酪農業、肉用牛産業、肉用綿・山羊産業、養豚業などの産業帯建設を推進し、継続的な畜産業の構造改革に努め、家きん生産の安定と酪農・乳業の強力な発展を図り、優良品種の導入などに加え、集約化や産業化、専業化のレベルを上昇させ、畜産物の品質と市場競争力を向上させる。 

 2.重点開発区
 南部の中山間地の草資源の開発利用によって草地畜産を強力に推進し、畜産物の生産能力を増強する。

 3.適度開発区
 草原の保全と草地開発を強化し、禁牧・休牧および輪牧制度を効率的かつ積極的に活用するとともに、家畜・家きん群の構造の最適化や飼養方法の改善などにより資源の節約を図り、環境保全型の畜産業を発展させ、無公害・エコロジー・有機農法による畜産物生産を増強する。 

 一方、11次農業規画では、前期計画の最終年である2005年をベースとし、11次農業規画の最終年である2010年における主要指標=発展目標が定められている。これによると、食糧作付面積は年平均0.18%減の1億3百万ヘクタール、食糧総合生産能力は同0.65%増の5億トンを目指し、この二つの目標については、必ず達成しなければならない拘束性の指標とされ、単位面積当たりの収量増加を義務付けている。

 このほか、食肉生産量の目標については年平均1.64%増の8千4百万トン、家きん卵生産量については同0.82%増の3千万トン、生乳生産量(牛、水牛、山羊などの乳を含むと思われる)については、同8.0%増の4千2百万トンとされ、中でも生乳生産量に関しては、2005年の2千9百万トンに比べ約1.5倍の成長が期待されており、優位開発区において酪農・乳業の強力な発展を図るとした中国政府の意気込みが感じられる。



【注】中国国家統計局による農業統計の大幅修正について

 2008年5月出版の中国国家統計局編「中国統計摘要2008」によると、「2006年の(農林畜水産業関係の)データについては、第二次全国農業センサス(2006年12月末現在)の結果に基づき調整が行われた」ことにより、同局編「中国統計年鑑2007」までに掲載されている2006年の関係データが大幅に修正された。

 しかし、同局の公表データは、本書「畜産2008」掲載の畜産関係データを網羅しておらず、@本書編集時において、同局公表以外の畜産データ修正の有無が把握できない状況にあること、A「中国統計摘要2008」掲載のデータのみを修正した場合、本書の文中および図表中に修正済データと未修正データが混在し、全体として整合性が取れなくなること―などにかんがみ、2006年のデータについては、修正前のものを利用したことにご留意いただきたい。

 なお、「中国統計摘要2008」で示された修正データのうち、本書に関係する部分については、以下のとおりである。