海外編

 IV オセアニア[ニュージーランド] 


1. 一般経済の概況

 ニュージーランド(NZ)は、2000年に入り、記録的なNZドル安により食肉や乳製品など第一次産品を中心とした輸出が好調に推移し、国内需要も堅調であったことから経済が上昇に転じた。この結果、NZは最も高い成長率を達成している国の一つとなった。その後、高い政策金利などにより、2003年以降はNZドル高で推移する為替相場となった。2007/08年度の実質国内総生産額(GDP)の成長率は3.1%を記録し、失業率は前年度と同じ3.7%と雇用情勢は順調に推移した。

 貿易収支については、NZドル高で推移する為替相場や堅調な国内需要により、2007/08年度(7月〜6月)は、44億8千万NZドルの赤字を計上し、6年連続の赤字となった。

表1 主要経済指標

2. 農・畜産業の概況

 NZの農業(林業、水産業を除く)は、GDPや就業人口に占める割合がそれぞれ1割にも満たない。しかし、総産品輸出額(FOB)に占める農産物の割合は、ここ数年52%で推移しており、外貨獲得上、農業は豪州以上に重要な地位を占めている。

 中でも畜産部門は、農産物輸出額、農業粗生産額とも約7割を占めており、さらに畜産部門の中でも酪農乳業は、農産物輸出額および農業粗生産額のいずれも約5割を占め、農業の中でも酪農乳業が極めて重要な役割を果たしている。

 2007/08年度の農業粗生産額を部門別に見ると、2001年10月に国内生乳生産量の約95%を処理・加工・販売する巨大酪農企業フォンテラが誕生した酪農部門では、NZドル高、干ばつにもかかわらず、乳製品国際価格の高騰を背景に、前年度比90.6%増の99億5千万NZドル(推計)を記録した。一方、牛肉部門は、同4.5%減の20億7千万NZドル(推計)となった。

 この結果、畜産部門全体としては、同45.2%増の151億3千万NZドルとなっている。

 2007/08年度の農産物総輸出額(FOB)は、前年度比15.4%増の約202億1千万NZドルとかなり増加した。

 このうち、畜産物輸出額は、同17.1%増の約167億NZドルとなった。内訳は、牛肉(生体含まず)が約17億NZドル(3.0%減)、羊肉(生体を除く)が約25億NZドル(3.8%増)、羊毛が約6億NZドル(6.4%減)、鹿肉が約3億NZドル(14.0%増)、牛乳・乳製品が約96億NZドル(30.6%増)となり、乳製品国際価格の高騰により、牛乳・乳製品の輸出が堅調であった。


図1 農業粗生産額(2007/08年度)
図2 農産物総輸出額(2007/08年度)


3. 畜産の動向

(1) 酪農・乳業
 NZの酪農は、温暖で降雨に恵まれた自然条件を生かし、草地を最大限に利用した放牧中心の飼養形態である。このため、年間の生乳生産は、牧草の生育状況と密接に連動しており、初春となる8月から搾(さく)乳を開始し、10〜12月の初夏をピークにその後次第に減少、5月頃にはシーズンを終えるという明確な季節型生産体系を示している。生乳生産の中心となる9〜2月の6カ月間で、年間の約8割の生乳を生産する。

図3 生乳の処理状況の推移(具体例)

 NZでは、粗飼料(放牧)に依存した生産体系により、生乳生産のコストは世界的に見て最も低い水準にある国の一つといえる。生産量の約95%が輸出に仕向けられる乳製品は、NZの総産品輸出額の25%を占めており、酪農・乳業部門はNZの基幹産業として位置付けられている。

 NZの酪農は、生乳生産量については、全世界の2%強を占めるにすぎないが、乳製品の国際貿易における供給国としてのシェアは29%(2007年:生乳ベース)を占め、世界最大の乳製品輸出国となっている。このため、国内市場の規模が小さい分、生乳生産者価格、乳製品価格は、いずれも国際市場の影響を強く受けざるを得ない状況にある。

北島の酪農場での放牧風景

(1) 主要な政策

 酪農・乳業に対する国内の価格支持政策は存在しないが、2001年9月まで、ニュージーランド・デイリーボード(NZDB)が乳製品の一元輸出機能を持っていた。しかし、同年10月、二大酪農協とNZDBの販売機能を取り込んだ巨大酪農協(乳業メーカー)フォンテラが誕生し、酪農産業の再編が達成された。

 今後、NZ政府は、NZDBの機能を引き継いだフォンテラが有する、いわゆる乳製品の独占輸出権(乳製品の輸入割り当てを実施している国への輸出権)について、当初予定の2010年から前倒しして廃止する考えを示している。


(2) 生乳の生産動向

 生乳生産は、1990年代に入り好調な輸出を反映して増加基調となり、1990/91年度から1997/98年度までの間、処理量ベースで年率4.6%と増加し、また、経産牛の飼養頭数も同4.0%の増加となった。その後、経産牛頭数はいったん減少したものの、国際的な乳製品相場の好転などから近年はおおむね増加基調で推移している。2007/08年度の経産牛飼養頭数は、前年度比2.2%増の約401万3千頭となった。近年の生乳生産量は、乳用経産牛1頭当たり搾乳量の増加から右肩上がりで推移してきた。2007/08年度は、干ばつの影響もあったが、乳製品国際価格の高騰により生産者乳価がかなり引き上げられたことが大きく影響し、過去最高を記録した前年度をわずかに下回る1,474万5千トン(前年度比2.6%減)となった。

図4 乳用経産牛頭数と生乳処理量の推移

 一方、酪農家戸数は、地価の上昇などから新規参入が難しく、また、ほかの畜産との競合などから減少を続けている。しかし、規模の拡大により1戸当たりの経産牛飼養頭数は一貫して増加しており、2007/08年度は351頭となった。このうち300頭以上を飼養する経営は全戸数の47.0%(前年度比2.0ポイント増)、500頭以上を飼養する経営は18.8%(同1.7ポイント増)となっている。

 NZの生乳生産は北島を中心としたものであるが、近年は南島での拡大が目立っており、2007/08年度の経産牛頭数を見ると、北島は前年度比0.2%減の276万頭とわずかに減少したものの、南島は同8.7%増の126万頭とかなり増加した。これは、酪農の適地である北島の地価高騰に加え、フォンテラ設立に当たりNZDBが行っていた南島への移入制限措置を撤廃したことから、南島での新規参入が増加していることによるものである。


図5 酪農家戸数と飼養規模の推移
表2 地域別の飼養戸数・頭数・規模の推移

(3) 牛乳・乳製品の需給動向

 NZの乳製品生産は、かつて、法律に基づき輸出を一元管理するNZDBの市場戦略により調整されていたが、フォンテラの設立に際し、どの乳業メーカーでも輸出が自由に行えるようになった。しかしながら、同国におけるフォンテラの乳製品生産のシェアは、依然として95%を占めることから、事実上、同社の一元管理状態となっている。

 近年は、バターや脱脂粉乳など原材料としての性格が強い、いわゆるバルク商品からの脱却を狙い、製品の付加価値化や多様化を図るとともに、世界的な脂肪過剰を見越して、生乳を丸ごと利用できる全粉乳やチーズの生産拡大が推し進められている。また、輸出相手国は、フォンテラの企業戦略と相まって、北米、EU地域、アジアや南米など世界140カ国となっている。フォンテラは、2002年に世界的な大手食品メーカー「ネスレSA」と合弁企業を設立し、2003年1月から中南米の市場での乳製品製造・販売会社の運営など国際市場への積極的な進出を図っている。

 2007/08年度の乳製品輸出は、乳製品国際価格の高騰により、輸出額においては増加したものの、干ばつの影響もあり、輸出量については、バターは前年度比15.2%減、脱脂粉乳は同17.7%減となった。一方、チーズは、前年度並みの同0.3%減、全粉乳は同1.9%減とわずかな減少にとどまった。


南島の羊の放牧地。近年は、酪農への転換が進む
表3 生乳生産量および乳製品輸出量の推移

(4) 乳価の動向

 生乳生産者価格は、乳製品の国際需給に大きく影響され、国際価格やNZドルの為替相場の動向などに左右される。

 2007/08年度は、記録的な乳製品国際価格の高騰により、乳固形分キログラム当たりの価格は前年度比7割高の7.67NZドルと過去最高となった。


(2) 肉牛・牛肉産業
 NZの肉牛生産は、豪州以上に草地に依存した生産体系となっており、放牧肥育がそのほとんどを占め、穀物肥育は例外的といえる。

 年間の牛肉生産(と畜)の傾向は、生乳生産と同様に牧草の生育ステージと密接に連動しており、生乳生産が終了する5月にピークを迎える。その後は春先にかけて大きく減少という季節型を示している。このため、最低となる8〜9月のと畜頭数は、ピーク時である5月の3分の1程度にまで減少する。

図6 生産コストと平均支払乳価の推移(乳固形分ベース)

 豪州の牛肉生産は、そのほとんどが肉専用種によるものであるが、NZでは、肉用牛として飼育される3分の1程度の牛が、乳用種または乳用種・肉用種の交雑種によるものとなっている。

 酪農部門から供給される乳用種の雄牛は、子牛肉として出荷されるものが多いが、残りは去勢しないまま飼養され、乳用経産牛と同様に加工用牛肉(ひき材用途)として、米国を中心とした北米市場に輸出されている。このことから、酪農部門は、肉牛供給という面からも牛肉生産にとって重要な側面を担っている。

 NZの牛肉生産は、酪農部門と同様に、国内の市場規模が小さいことから産業として輸出依存度が高く、生産された牛肉のうち、6割程度が輸出に向けられている。このため、肉牛生産もまた、価格面などで国際市場の影響を強く受けているといえる。

図7 月別と畜頭数の推移(成牛)

(1) 肉用牛の生産動向

 肉用牛の飼養頭数は、収益悪化による経営規模の縮小や、肉用牛から酪農、養鹿、林業など収益性の高い部門への転換などが背景となり、1995年6月期の518万頭をピークに減少を続けていた。また、1997/98年度および1998/99年度と2年連続で発生した東部を中心とする干ばつにより、早期出荷や繁殖牛のとう汰も進んだ。その後も、ほかの畜種への転換などで飼養頭数は大きく回復せず、また2007/08年度は、干ばつの影響もあり、2008年6月時点の肉用牛飼養頭数は、前年並みの425万4千頭となった。

表4 牛飼養頭数の推移

(2) 牛肉の需給動向

 牛肉の生産量は、1996/97年度を境に減少傾向にあったが、干ばつから回復したことで、2000/01年度には増加に転じている。2007/08年度の生産量は、酪農部門における生産者乳価の高騰を受けて乳用経産牛のと畜頭数が減少したものの、干ばつの影響による早期出荷などから前年度をわずかに上回る64万トン(前年度比1.9%増)となった。

 2007/08年度の輸出量は、前年度を3.1%上回る36万トンとなった。輸出相手先では、最大の輸出先である北米市場向けが輸出量全体の54%(前年度比4ポイント減)を占め、次いで北アジア向けは26%(同4ポイント減)となっている。

表5 牛肉需給の推移

(3) 牛・牛肉の価格動向

 北米向け輸出の多くを占める加工用牛肉の価格は、輸出が不振を極めた95/96年度を底に回復傾向にあったものの、2002/03年度は、最大の輸出市場である米国での乳用牛のと畜頭数の増加などによる需給緩和により落ち込みを見せた。その後、米国経済が好調に推移したことや、2003年5月にカナダで発生したBSEによる同国産牛肉の米国への供給がストップしたことなどから価格は上向きに転じた。しかし、上昇基調にあった加工用牛肉価格は、2年連続して下落し、2007/08年度は、前年度比0.9%安のキログラム当たり210.0NZセントとなった。一方、高品質牛肉価格は、2年連続して上昇し、2007/08年度は、同3.4%高のキログラム当たり333.0NZセントとなった。