海外編

 VI 南米[アルゼンチン] 


1. 一般経済の概況

 2001年末から2002年初めにかけての深刻な経済危機の後、対外債務の支払延期、ペソの固定相場から変動相場への移行などにより、2003年初頭より景気は回復し始めた。2003年5月、キルチネル現政権が発足し、2003年8月、国際通貨基金(IMF)との交渉を再開し、各年の目標値を設定した経済3カ年計画を提示することによって、IMFおよび金融機関との公的債務再融資協定の合意に至ったが、2004年9月に一部債務の期限延長を要請、IMFはこれを承認した。その後、2006年1月には、IMFに対する債務の全額が返済された。2007年は、金融市場が安定的に推移し、消費の刺激を目的に給与および年金支給額を引き上げる一連の措置を実施したことなどから、国内消費は好調に推移した。為替は1ドル=3.10ペソ前後で安定的に推移し、外貨準備高も増加傾向を維持し年末には462億ドルとなった。失業率(主要都市部)は8.7%(2006年)から7.5%(2007年)に低下し、経済成長率は8.7%(2007年)と2002年後半からの上昇傾向を維持した。


 2007年の輸出は、前年比20.1%増の557億8千万ドルと前年に続き過去最高を更新した一方、輸入も順調な景気の回復を反映して同30.9%増の447億1千万ドルとなり、貿易収支は111億ドルの黒字となった。

表1 主要経済指標

2. 農・畜産業の概況

 全国の農業経営体32万戸の所有面積は、1億7,700万ヘクタールとなっており、このうち3,500万ヘクタールが農耕用地、1億4,200万ヘクタールが牧草地として利用されている。ブエノスアイレス州を中心とするパンパ地域は、平たん、かつ肥よくな土地条件に加え、気候も温暖で降雨に恵まれ、農畜産物の主要産地となっている。

 アルゼンチンの農業は実質国内総生産(GDP)の5.3%と、国内経済に占める比率は大きくないが、農産物輸出額は全輸出額の5割強を占め、農業は外貨獲得上、極めて重要な地位にある。2007年の農林水産品(1次産品)およびその加工品の輸出額(FOB)は、前年比24.3%増の315億4千万ドルとなった。その内訳は、穀物類が46億6千万ドル(36.6%増)、乳製品が6億4千万ドル(16.6%減)などとなっている。


3. 畜産の動向

(1) 酪農・乳業

 放牧酪農による生産が行われており、生産はパンパ地域に集中している。サンタフェ州(全生産量の35.5%を占める、2001年)、コルドバ州(同34.5%)、ブエノスアイレス州(同24.4%)が主要生産州である。乳牛の品種はホルスタイン種が約95%を占めている。

 生乳生産量は、乳業工場の近代化や加工処理能力の拡大などを背景に、92年以降一貫して前年を上回って推移し、99年には1,033万キロリットルに達した。しかし経済危機などの影響を受け、国内需要が減退し、生乳が供給過剰となったことから、99年に生乳価格が急落し、これに伴う収益性の悪化による経営離脱や、大豆の国際価格の上昇による優良草地の大豆畑への転換などから生乳生産量の減少が続き、貿易収支は輸入超過となった。一方、2002年の通貨切り下げによる価格の優位性から2004年〜2006年まで乳製品輸出は大幅に増加したが、2007年は長雨による牧草地の冠水や政府の輸出管理の強化から、かなり減少した。


(1) 生乳の生産動向

 主要生産州で長雨が続き多くの牧草地が冠水したため、2007年の生乳生産量は、前年比6.2%減の952万7千キロリットルとなった。



(2) 牛乳・乳製品の需給動向

 2007年の牛乳・乳製品の消費量(生乳換算ベース)は、763万3千キロリットルと生乳生産量の80.1%を占め、1人1年当たりでは194.0リットルとなっている。なお、飲用乳の1人1年当たりの消費量(2007年)は43リットル、乳製品は32.6キログラムとなっている。

 乳製品生産量の内訳は、チーズが48万7千トン、ヨーグルトが51万1千トン、粉乳が20万8千トンなどとなっている。

表2 牛乳・乳製品の需給

 また、牛乳・乳製品の輸出量は、生乳生産量の減少から、主要輸出品目である全粉乳やチーズなど(両品目で全輸出量の8割以上を占める)が減少したため、前年比36.1%減の181万5千キロリットルと大幅に減少した。輸出先国は、1993年から2000年にはメルコスル諸国が全輸出量の8割を占めていたが、近年は3割台まで低下している。2007年はブラジル、アルジェリア、ベネズエラの3カ国向けが、いずれも全粉乳を主な品目として全体の4割以上を占めている。

 なお、政府は大幅な税収不足の補完や国内の小売価格上昇の抑制を目的に、2002年3月より主要農産物に対し輸出課徴金制度を設けている。例えば粉乳輸出税については、これまで輸出額(FOB価格)の10%であったが、2007年2月以降は、これを輸出額の5%を最低とし、輸出額が政府の定める基準価格を超過した場合、税率の割合が増加する算定式を定めた(2007年4月の税率はおおよそ60%)。なお、2007年11月以降は気象条件の影響が克服され、生乳生産が回復したことに加え、全粉乳などの輸出量・価格とも好調が続いたことから、粉乳類などの税率が引き上げられた(輸出課徴金に関する詳細はP122参照)。



(3) 牛乳・乳製品の価格動向

 2007年の生乳価格(乳業メーカーによる生乳1リットル当たりの生産者支払い価格)は、国内の生乳生産が不足する中、世界的な乳製品需給のひっ迫を背景に国際乳製品価格が上昇したことから、前年を50.0%上回る0.72ペソとなった。

 また、牛乳(低温殺菌乳)の卸売価格は、同16.1%上回る1.08ペソとなった。



(2) 肉牛・牛肉産業
 肉牛生産は、肥よくなパンパ地域を中心に、アンガス、ヘレフォードを中心としたヨーロッパ品種およびその交雑種による放牧肥育を主体とした生産が一般的に行われている。

 家畜衛生に関しては、北パタゴニアB地域と呼ばれるリオネグロ州とネウケン州が新たな口蹄疫ワクチン不接種清浄地域のステータスを獲得した。また、BSEステータスについては、ウルグアイ、豪州、シンガポール、ニュージーランドとともに、無視できるリスクの国と評価された。


(1) 牛の飼養動向

 アルゼンチンの牛飼養頭数は、2006年まで増加傾向で推移したが、2007年は6,071万頭とわずかに減少した。2007年の州別牛飼養頭数を見ると、ブエノスアイレス州(37%)、サンタフェ州(13%)、コルドバ州(10%)、の3州で、全体の6割を占める。


(2) 牛肉需給

ア 生産動向
  2007年のと畜頭数は、前年比11.0%増の1,489万頭、牛肉生産量(枝肉重量ベース)は同5.7%増の321万トンとなった。


図1 牛飼養頭数の推移
図2 牛の州別飼養頭数

イ 輸出動向
  2007年の牛肉輸出量(枝肉重量ベース)は、前年比4.6%減の54万トンとなった。内訳を見ると、生鮮肉が前年比7.3%減の27万トン、加工肉が同3.9%増の4万トンなどであった。また、相手国別では、生鮮肉についてはロシアが全体の36.1%、チリが同21.4%、イスラエルが同9.2%、ベネズエラが同8.5%などとなっている。また、EU向けヒルトン枠(一定基準を満たす骨なし高級生鮮牛肉に関する関税割当制度)についてはドイツが全体の5割以上を、加工肉については米国が全体の4割を占めた。

表3 牛肉需給の推移

図3 牛肉の輸出先国
毎年7月にブエノスアイレス市内で農牧展が開催

表4 穀物生産量の推移

ウ 消費動向
  2007年の1人1年当たりの牛肉消費量は、前年比8%増の68キログラムとなった。



(3) 価格

 アルゼンチンの中心的な家畜市場であるリニエルス家畜市場における2007年の肥育牛(去勢牛)価格は、前年を13.7%上回る生体1キログラム当たり2.65ペソとなった。

 また、小売価格については、ショートリブが同3.2%上回る1キログラム当たり8.38ペソ、ストリップロインが同11.2%上回る9.31ペソとなった。


(3) 飼料穀物
 世界のトウモロコシ生産の約2%を占めるアルゼンチンでは、大家畜を中心とした畜産生産が行われていることから、国内における飼料需要が少ない。このため、世界の貿易量の2割を占め、米国に次ぐ世界第2位のトウモロコシ輸出国である。しかし、土地当たりのトウモロコシ収益は大豆に比べ低いことから、トウモロコシ生産量は減少傾向にある。

 一方、大豆生産は世界の約2割を占めており、大豆の国際市場に大きな影響力を持つ。トウモロコシと大豆は作付け時期が重なり競合するため、価格関係が作付面積に反映される。また小麦は、大豆の裏作として生産される冬作小麦が生産の大部分を占める。


(1) 主要な政策

 2002年1月に通貨切り下げを実施したことから、大幅な税収不足の補完を目的に、2002年3月より主要農畜産物に対し輸出課徴金制度を設けている。以降、経済の回復に伴うインフレの進行により、食料品価格が次第に上昇したため、農産品の国内供給の安定を図ることを目的として、品目ごとに度々、税率の変更を行っている。



(2) 需給

 2007年度の生産は天候に恵まれたため、トウモロコシの生産量は、前年度比50.6%増の2,176万トンに達した。また、輸出需要の高まりにより、輸出量も同42.0%増の1,467万トンとなった。

 トウモロコシと同様にソルガム、小麦、大豆も生産量、輸出量とも増加した。品目別の主な輸出先を見ると、トウモロコシはEU、マレーシア、南アフリカ、ソルガムは日本、EU、小麦はブラジル、大豆(粒)および大豆油は中国、大豆油かすはEUとなっている。

表5 穀物輸出量の推移

(3) 価格

 2007年の穀物1トン当たりの生産者販売価格は、トウモロコシが前年を29.3%上回る367.79ペソ、大豆は同27.8%上回るトン677.57ペソ、小麦は同34.8%上回る452.11ペソ、ソルガムは同60.5%上回る337.55ペソとなった。

表6 穀物の生産者販売価格