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2011/12年度農業プランがスタート(ブラジル) -持続可能型農業の推進がポイント-

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環境保全と生産拡大に向け過去最大規模の農業プランを予算化

 ブラジル農務省(MAPA)は7月1日、農業生産の拡大と農業者所得の向上に向け、2011/12年度(7月〜翌6月)の農業プランをスタートした。
 今年度は、昨今のめまぐるしく変化する国内外の農畜産物市場の動向に対応できるよう、農業生産者が必要とする支援を継続的に保証するため、農業プランに基づく営農・販売、投資などの事業融資として1072億レアル(約5兆4028億8千万円;1レアル≒50.4円)、前年度比7.2%増となる過去最大規模の予算が措置された。
 今年度の農業プランは、劣化土壌の回復や温室効果ガスの削減など環境保全を考慮しつつも、農畜産業の生産性を向上するとしており、特に、牛肉やさとうきびの生産に係る新規の融資プログラムを創設するなど、農畜産業の現状を踏まえ生産者のニーズに対応したプログラムとなっている。
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営農・販売融資は穀物生産者向け融資に上限を設置

 営農・販売融資については802億レアル、前年度比6.1%増の予算が措置された。営農融資は生産に係るすべての工程に要する費用を対象に年利6.75%で融資を行うこととし、販売融資は最低保証価格を基礎とした価格暴落時の融資(連邦政府貸付金(EGF))および政府買い上げ(連邦政府買い上げ制度(AGF))、さらに中西部など港までの流通が不利な生産地の農畜産物を対象に流通の促進に係る融資(農産物流通助成金(PEP))を行うこととし、生産者にとっては一定の所得保証対策となっている。
 昨年度までは作物ごとに融資限度額を定めていたが、昨今の好調な国際相場を考慮して、今年度は穀物に限り1生産者当たりの融資限度額を65万レアル(約3726万円)と定めた。すなわち2毛作の大規模生産者であろうが、単作の中小規模生産であろうが、融資限度額は一律ということだ。ブラジル政府はこのプランにより生産規模が70万レアル(約3528万円)以下の中規模生産者にあっても持続的に農業が行えるよう支援を行うこととしている。
 生産者の所得保証の算定基礎となる農畜産物の最低保証価格はおおむね昨年度と同額となっているが、トウモロコシとフェイジョン豆は好調な価格を反映し、前年度より引き下げられている。
 また、今年度プランの特徴として、昨今の繁殖候補牛の高値推移による牛肉不足や砂糖・エタノールの供給不足という事情を考慮し、(1)肉牛生産者に対する繁殖雌雄牛の購入時の融資(償還期間5年、金利据置18カ月、融資限度額75万レアル(約3780万円))、飼育管理に要する経費に対する融資(限度額65万レアル(約3276万円))、(2)さとうきびの株出しと植え付けにかかる融資(償還期間5年、金利据置18カ月、融資限度額100万レアル(約5040万円))が創設された。
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投資融資は環境保全と中規模農業者に配慮

 投資融資は205億レアル、前年度比13.8%増の予算が措置された。この中で、ブラジル政府の優先課題とする持続可能な農業推進を図るための、温室効果ガス削減に向けた技術の導入、森林法に規定された保存義務区域の維持・回復の取り組みなどに必要な融資として、昨年度創設された低炭素排出型農業プログラム(ABC)は、今年度も31億5千万レアル(約1587億6千万円)で前年度同額が予算措置された。また、中規模農業者支援国家プログラム(PRONAMP)も重要な課題の一つとしており、今年度は21億レアル(約1058億4千万円)が予算措置された。
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今後は中長期的プランが必要

 ブラジル最大規模の生産者団体であるブラジル全国農業連盟(CNA)では、牛肉やさとうきびの生産に係る新規の融資プログラムの創設など、今回の農業プログラムが農畜産業の現状を踏まえ生産者のニーズに対応していることに一定の評価をしている。また、これまで農業プランの手続きは農業生産者にとってはたいへん煩雑で利用しにくく利用実績の向上が運用上の課題とされていたが、昨年度の融資が960億レアル(約4兆8384億円)で予算額の96%となり過去最高の実績となったことから、この点についてもCNAでは改善の効果を評価している。
 一方で、農業政策の中長期的な計画目標をMAPAが示すべきとの声も聞こえてくる。これまでブラジルは農業生産者に対し、明確な目標値を示すことなく、需給バランスの中で生産に係る資金不足に対し融資してきた。しかしながら、昨今の世界的な食料需要の高まりから、相場次第で作付作物を選定する手法ではなく、数年先の市場需要を視野に入れた農業計画を策定し進めることが、ブラジルが今後世界のリーダー国となるためには必要となるであろう。
【星野 和久 平成23年7月19日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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