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2011年上半期の豚肉輸出は堅調に推移(チリ)

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上半期輸出量は前年同期比6.6%増

 チリ農業省農業政策・調査局(ODEPA)によれば、2011年上半期(1〜6月)の豚肉貿易状況について、輸出量は約4万8524トンで前年同期比106.6%、輸出額は約1億8893万ドル(約147億3654万円;1ドル≒78円)で同124.8%となり堅調に推移していることが分かった。
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韓国の緊急輸入対策に対してチリのみ恩恵にあずかれず

 輸出先別にみると、ここ数年同様、韓国、日本が上位を占め、全輸出量の約65%となる。しかし、日本向けは前年同期比132.3%であったのに対し、韓国向けは同84.6%と減少している。この理由をチリ養豚生産者協会(ASPROCER)輸出部長ロレンソ氏は次のように分析する。韓国向けは、チリ韓国FTAにより2014年の無税に向け段階的に関税率を引き下げてきたことにより、これまで市場における優位性を獲得してきた。2011年では輸入関税率は通常25%のところ7.1%となっている。しかし、韓国は昨年から続く口蹄疫の影響から2011年の豚肉需給はひっ迫し、価格高騰を引き起こしたことから、今年5月、政府により緊急対策が決定され、豚肉13万トンの輸入無税(関税率0%)枠が発表された。このため、北米産が大量に韓国市場に流入し、チリ産豚肉の韓国市場における価格の優位性はなくなった。韓国とFTAを締結するチリにとっては、韓国市場の急な開放の恩恵にあずかることが出来ない。このため、高価格で安定した日本への輸出にシフトしてきたわけだ。日本市場への進出拡大は容易ではないが、幸い、輸出額が伸びているので、この傾向は今年いっぱい続くであろう。

(参考)韓国、鶏肉や乳牛などの新たな輸入無税枠を設定(平成23年5月19日)

 韓国における2011年1-6月の豚肉輸入量は、政府の無税枠決定の影響から約21万9600トンで前年同期比219.9%となり、すでに昨年一年分の輸入量を超過している。ほとんどの輸入先国が前年同期比100%超に対し、チリは1万2417トンで同73.8%と唯一前年割れしている。シェアも2010年1-6月16.4%から2011年同期は5.7%と大幅ダウンとなった。
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 日本の豚肉輸入状況を財務省貿易関税統計でみると、2011年1-6月の輸入量は44万4725トンとなり、米国・カナダが63%で上位を占める中、チリは4%で第5位の輸入先国となる。チリからの輸出量が前年同期比30%増とするが、大きな日本市場に与える影響力は未だ少ないと言えよう。
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ロシア向けが急増、本年5月からは中国向けも輸出開始

 国別で目立った動きを示したのがロシアであり、2011年1-6月のロシア向けは1557.1トンで前年同期比1303%と飛躍的な伸びを示している。ロシア市場の急成長と需要増による価格高騰からチリ産豚肉は今後も拡大するであろう。また、同様の状況は中国にも言える。中国国家検験検疫局は2011年に入りチリの豚肉処理施設6カ所を輸出施設に認定した。このうち1施設からは、本年5月に中国に向けて初出荷され、さらに下期には残る3施設が輸出を予定している。この2大市場の拡大見通しに関するチリの豚肉生産関係者の見通しとして、中国については近い将来チリにとって有力な市場となるが、ロシアは自国生産も拡大中と聞いており一時的な輸入との見方が強い。さらに、隣国アルゼンチンに関しては、同国の牛肉供給量不足と価格高騰から豚肉需要が増したことを要因として、2011年1-6月のチリからの豚肉輸出量は2465トン、前年同期比117.2%となった。しかし、アルゼンチン政府は明確な理由もなく輸送トラックを入国拒否するなど安定した貿易相手国としては対応が難しいとのことだ。

今後は生産拡大に意欲的

 本年4月にチリ中央銀行から発表された国内経済動向によれば、2010年はGDP成長率5.2%、消費者物価上昇率3%となり、景気好転の兆しが見えているとのことだ。また国際通貨基金(IMF)公表の一人当たりのGDPも、チリは1万1828ドル(約92万2584円)となり、南米で唯一の1万ドル超に成長してきた。
 ロレンソ氏(前出)によれば、最近のチリ豚肉業界は、2008年のダイオキシン混入による韓国向け製品の輸出停止、国際金融危機による国際市場縮小、2009年の人への豚インフルエンザ流行による消費減退、2010年2月の中南部地震による生産性低下など、マイナス要因が続いたため、2011年は好調な景気好転の流れにうまく乗り、輸出拡大を狙いたいとする。
 豚肉の国際需要の増加を背景に、大手養豚企業AGROSUPERでは、2014年までに母豚を倍増する計画があり、実際、年末から、チリ北部などの一部の地域で大規模養豚施設が稼働する。同様な増頭は同FRIOSAでも計画中とのことだ。チリの1人当たり豚肉消費は年間約25キログラムであり、これ以上の増加は見込めないことから、増頭分は全て輸出に向けられる。ASPROCERでは、2011年に肥育豚を258万3千頭、豚肉生産量を52万3千トンと、ともに前年比5%増と予測する。国際的に豚肉需要が高まる中、今後のチリ産豚肉の生産および輸出の拡大に注目したい。
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【星野 和久 平成23年7月30日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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