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欧州委、収益性が低下する牛肉部門への支援を提案(EU)

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 欧州委員会は7月19日、欧州理事会において、飼料価格の高騰などにより収益性が低下している牛肉部門の困難な状況を報告するとともに、セーフティネットの見直しなど、2014年以降のCAP改革における肉牛農家への支援を提案した。

牛肉グループが設置される

 欧州の牛肉産業は、牛肉卸売価格が高水準であるにもかかわらず、飼料価格および原油価格など生産コストの増加が卸売価格の上昇を上回り、繁殖農家および肥育農家の収益性が著しく低下する事態に直面している。

 現行の政策では、介入買い入れの実施や輸出補助金の交付など、牛肉価格低落時のセーフティネットが主体で、現在のように価格が堅調であるときは、恒常的な直接支払いを除き、特段の支援策が講じられていない。

 これらの状況を踏まえ、欧州委員会は、牛肉専門グループ、助言委員会を相次いで立ち上げ、6月29日にはこれらの二つの会議を統合した共通会合を開催した。さらに、以上を総括する形で、7月15日には牛肉検討グループ(Beef Reflection Group)を組織し、欧州理事会への提案を策定したところである。

将来にわたる支援のあり方を提案

 提案された主な項目は以下のとおりとなっている。

・現在および将来にわたる牛肉需給安定に資するセーフティーネットの在り方
・CAPの第一の柱である直接支払い(所得補償)の重要性および必然性
・CAPの第二の柱である農村開発および振興

 提案に際しては、牛肉検討グループの出席者の個別意見が併せて報告された。このうち、セーフティネットの在り方については、発動基準の見直し、介入買入価格の見直し、対象牛肉(8〜12カ月齢の子牛肉)の追加を含む介入在庫および民間在庫補助の在り方や、輸出補助金の効率的な在り方に関する意見が紹介された。

 また、直接支払いの重要性および必然性については、制度の維持、加盟国間の不均衡是正、生産意欲の高い生産者への直接支払の拡充など、将来にわたる産業の発展を念頭に置いた支援や、飼料生産のための自己所有地(共同利用を含む)を保有しない肥育農家への支援など、現下の飼料価格高騰を踏まえた対応に関する意見が挙げられた。

 さらに、農村開発および振興については、農業環境政策を含む農村開発・振興政策の維持・強化および条件不利地域への継続支援に加え、生産コストの低減および持続可能な生産体制の構築に関する調査・研究および技術開発に関する意見が報告された。

生産者団体も支援策を要望

 欧州でロビー活動を行っている生産者団体、欧州農業組織委員会/欧州農業協同組合委員会(COPA/COGECA)は6月30日、欧州委員会に対し、牛肉産業の厳しい状況を訴えるとともに、短期的・広範囲な緊急支援を直接的かつ大胆に講じるよう要望した。また、飼料自給率の向上や輸出補助金のあり方など将来的な産業維持に資する支援についても、2013年以降の共通農業政策(CAP)改革の枠組みにおいて措置すべきとした。
 なお、同団体によると、域内の牛肉生産者の収益は、飼料価格の上昇を受け50%程度減少しているとされており、要望の内容と併せ、域内の牛肉産業の危機感が伺い知れる。

次期CAP改革案において支援策を具体化へ

 欧州理事会のプレスリリースでは、欧州委員会が牛肉部門の置かれている状況を説明し、2014年以降のCAPにおいて何らかの支援を講ずる予定との提案が紹介されるにとどまっている。

 関係者の間では、欧州委員会が提案に向け相次いで会合を持ったこともあり、欧州理事会ではある程度踏み込んだ議論が行われると期待する声もあったと考えられるが、生産者の求めるような具体的・緊急的な対応が決定されるには及ばない結果となった。

 EUでは既に、生乳生産者の交渉力強化などを目的とした法案(ミルクパッケージ)が議論されていることから、酪農部門での検討結果がどの程度牛肉部門に影響を与えるのかも注目される。牛肉部門の動向については、10月に予定されているCAP改革案の提示のみならず、酪農部門の議論の行方と併せて注視する必要があろう。
【藤原琢也 平成23年8月2日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部  (担当:国際調査グループ)
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