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2010年 世界の主要乳業メーカー売上高ランキングが発表される

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 オランダに本拠地を置く農業向けを中心とした金融機関ラボバンクは先頃、2010年世界主要乳業メーカー売上高ランキングを発表した。これによると、首位はネスレ社(スイス)で、2位のダノン社(フランス)とともに前年と同じ順位を堅持した。前年3位であったラクタリス社(フランス)は4位に後退し、フォンテラ社(ニュージーランド)が5位から3位へと欧州勢に割り込んだ。
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欧州の乳業メーカー、合併・買収が加速

 上位20社のうち半数の10社は欧州に拠点を置く企業であった。ただし、上位に位置するといっても安泰というわけではない。欧州の乳業メーカーにあっては、域内市場が縮小する中で、激しい企業間競争からの生き残りをかけ、2000年以降、企業合併や買収が進む。

 企業再編の背景は主に3点ある。1点目は積極的な海外展開である。景気の低迷などにより域内販売が伸び悩んでおり、企業として海外展開の強化は不可欠である。海外展開で「果実」を得て域内販売の苦戦を補う。現地企業を買収するなど多国籍化を図り、安定した増加が見込める海外の需要を確保し経営基盤を強化している。
 ネスレ社(スイス)やダノン社(フランス)は、現地企業との合併や買収によりアジアなど新興国を中心に積極的な事業展開をしている。特に、中国においては両社とも、90年代は中国メーカーとの業務提携が中心であったが、近年においては、中国国内での牛乳・乳製品の消費の旺盛な需要を取り込むため、乳業プラントを買い取るなど本格的な参入を進めている。

 2点目はブランドの獲得である。域内市場が縮小している状況では、新たな製品開発への投資には慎重にならざるを得ない。欧州の乳製品市場は成熟しており、高付加価値製品を開発しなければ、低価格を売りにするメーカーとの競合により大きな利益は期待できない。企業買収は、買収される企業の製品ブランドを獲得できるメリットがある。販売網や多種多様な製品も手に入り、販路拡大も期待できる。
 ラクタリス社(フランス)は2008年にスイスのチーズ製造メーカー、2010年にスペインの乳業メーカー3社を買収し、スイスとスペインにおいてブランド力のある製品を獲得している。2011年にはイタリア乳業メーカー大手のパルマラット社の買収にも乗り出した。パルマラット社のチーズやヨーグルトのグルーバル・ブランドに着目したもので、イタリア市場での販売網にも期待を寄せているものと考えられる。実現すれば世界第2位の乳業メーカーが誕生する。

 3点目は生乳価格の安定と生産者の囲い込みである。酪農生産者などで構成する協同組合が出資する乳業メーカー(以下、「酪農協系乳業」という。)は小売との製品価格交渉を優位に進めるため、再編巨大化する傾向にある。酪農協系乳業の規模が小さければ、小売からの値下げ圧力が大きくなるからである。2011年4月、ドイツの酪農協系乳業ノルドミルヒ社とフマナ社が企業合併し、ドイツ国内市場7割を占めるドイツ最大の酪農系乳業DMK社が誕生したことは、再編巨大化の一例といえよう。 
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 酪農協系乳業による生産者の囲い込みは国内にとどまらない。2015年の生乳クオーター制度廃止を見据え、域内市場において足元を固めるため国境を越えた合併も行い、広域に生産者を囲い込む。
 オランダの酪農協系乳業のフリースランド・フーズ社とカンピーナ社は2008年に合併し、世界最大の酪農協系乳業が誕生した。合併後のフリースランド・カンピナー社はオランダ、ドイツ、ベルギーの生産者16,000戸以上を抱え、ハンガリー、ルーマニアなど東欧においても事業を拡大している。
 デンマーク最大の酪農協系乳業であったMDフーズ社は2000年、スウェーデン最大の酪農協系乳業アーラ・フーズ社と合併し、新生アーラ・フーズ社が誕生した。2011年に入って、ドイツの酪農協系乳業ハンサ・ミルヒ社とも合併が決定している。この合併により、酪農戸数はドイツの生産者が加わり3カ国で7,000戸以上となる。このほか、同社は2011年7月、ブランド力のあるドイツのチーズ製造メーカーに対しも買収提案しており、ドイツ市場での積極的な事業展開を行う考えである。もはや、一国一酪農協系乳業という時代は終わりを告げたといえよう。

 欧州の大手乳業メーカーは、域内市場の掘り起こしを事業戦略に置きながらも、潜在的に「肥沃な需要」のあるアジアなど海外市場に傾注していくため、今後とも現地企業との合弁・買収を加速するものと考えられる。一方で、酪農協系乳業は、4年後に迫る生乳クオーター制度廃止に向けて、域内市場において足元を固めることおよび生産者を囲い込むため、欧州においてさらなる合併を模索するものと考えられる。 



【藤原 琢也 平成23年8月5日発】
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