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牛乳乳製品の短期需給見通しを公表(EU)

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 欧州委員会は2015年10月16日、農産物の短期需給見通しを公表した。この見通しは年3回公表され、今回は3月、7月に続く3回目となる。このうち、2015年の牛乳乳製品需給見通しの概要を紹介する。

生乳生産量は1.1%増

 2015年の生乳生産量は、第1四半期(1〜3月)が前年同期比1.3%減、第2四半期(4〜6月)が同2.5%増となったが、通年では同1.1%増と見込んでいる(7月見通しの同0.9%増から上方修正)。これは、オランダ、アイルランド、ポーランド、デンマークなどで増加する一方で、酪農主産国であるドイツとフランスが前年割れと見込まれることによるとしている。
 直近の統計によると、EU15カ国(東欧諸国加盟以前の加盟国)の6・7月の乳用経産牛飼養頭数は、前年比1.2%増となっており、特にアイルランド(同5.7%増)、オランダ(同3.5%増)、英国(同2.0%増)の伸びが大きい。しかし、生産者乳価の低迷から乳用経産牛の淘汰が進むものとみられ、第2四半期に見られた生乳増産の勢いは弱まるものと考えられている。

乳製品価格は底を打つも生乳価格は下落傾向

 脱脂粉乳の卸売価格は、2015年9月末時点で前年同期比20%安となっているものの、同年8月末を底にわずかに上昇している。また、チーズの卸売価格も同20%を超える安値となっているが、チェダーチーズの価格はニュージーランド産を上回っているものの、米国内の堅調な価格と対米ドルでのユーロ安傾向により米国産に対しては競争力を有している。さらに、バターの卸売価格は、域内外の需要に支えられ、同6%安まで回復しており、公的買入価格を30%以上上回っている。
 欧州委員会の諮問機関である牛乳乳製品市場観測委員会(MMO)は9月23日、今後の価格見通しを公表し、乳製品の需給は改善傾向にあり、卸売価格は年末まで横ばいで推移するが、その後は上昇するとしている。一方で、卸売価格の上昇が生乳価格に反映されるには2〜3カ月を要することから、生産者乳価の低迷は当分続くとしている。2015年7月のEU平均生産者乳価は、100キログラム当たり29.70ユーロ(4039円:1ユーロ=136円)となっているが、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)、ハンガリー、ルーマニアなどでは25ユーロを下回っており、これは、これらの地域における生乳の生産コストや製品の売価、流通構造を反映しているとされている。

乳製品生産は消費増や輸出拡大で上方修正

 2015年のチーズ生産量の予測値は、前年比1.0%増の966万5千トンと7月見通しから上方修正された。これは、域内での消費(サンドウィッチやピザ需要)が好調なことによる。一方、輸出に関しては、EU最大の輸出先であったロシアの禁輸措置が影響し、2015年1〜7月累計で前年同期比11%減となっているが、価格低下により価格競争力が回復するのに伴って輸出先が拡大しており、2015年全体では前年比4.5%減に改善するとしている。
 バターおよび脱脂粉乳については、価格低下による需要拡大等により、2015年の生産量をそれぞれ前年比5%増、8%増としている。
 バターの需要増については、マーガリンに代わって域内消費が伸びていること、また、2015年の輸出量が、サウジアラビア、米国、エジプト、シンガポールなどの需要増から前年比13%増の15万トンに達することから生じると見込んでいる。PSAにより2015年9月末時点で15万トン以上のバターが市場隔離されているが、需給の改善により同年12月末には1万トン程度まで縮小するとみている。
 脱脂粉乳は通常、EUの生産量の半分が域内の乳製品や菓子類の製造に向けられ、残りの半分が輸出されるという需要構造にある。2015年1〜7月までの輸出量は、前年同期比9%増となった。価格の低下とユーロ安で推移する為替相場が中東や東南アジア諸国向け輸出を後押ししており、2015年の輸出量は、前年比5%増の67万8千トンに達すると見込んでいる。公的在庫やPSAにより2015年9月末時点で4万5千トンの脱脂粉乳が市場隔離されているが、輸出状況によっては、今後もさらなる積み増しが行われることになる。2015年末には、公的在庫5万5千トンとなり、民間在庫2万5千トンが新たに積み増しされるとしている。
【中野 貴史 平成27年10月21日発】
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