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乳価下落を受け、酪農生産者団体はMPPの改善を要請(米国)

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 米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)が5月31日に公表した「農産物価格(Agricultural Prices)」によると、米国における4月の全国平均乳価(All milk price:飲用向け乳価と加工原料向け乳価の加重平均価格)は、前月と比較して100ポンド当たり30セント下落し、同15.0米ドル(1キログラム当たり約37円:1米ドル=112円)となった。これは2010年4月の同14.6米ドルに迫る低い価格水準にある(図1)。
160603海外情報図(米国:MPP)
 一方で、生乳生産コストの多くを占める飼料価格については、現在、比較的低水準にある(図2)。このため、米国政府の酪農政策の柱である「酪農マージン保護プログラム(MPP)」については、保障マージンを最も高い8米ドルに設定している(最も発動されやすい)農家であっても、マージンがこの8米ドル水準を下回って発動したのは、同プログラムの運用開始以降、12期中4期(連続する2カ月で1期)のみとなっている(図3)。
160603海外情報図2(米国:MPP)
160603海外情報図2.5(米国:MPP)
160603海外情報図3(米国:MPP)
 昨今、平均乳価が低水準で推移しているにもかかわらず、このようにMPPがほとんど発動されない状況に対し、全米生乳生産者連盟(NMPF)のRandy Mooney委員長は、米国下院畜産・海外農業小委員会の証人喚問の場で次のように訴えかけている。
 「MPPは将来にとって正しい酪農政策だと確信しているが、効果的なセーフティネットという意味では本来の目的を完全には果たせていない。つまり、多くの米国の酪農家を、このような(低水準の乳価が続く)環境下では十分に守ることができていないということだ。」
 さらに同氏は、MPP創設時の審議プロセスについても言及し、「MPPを創設する議論の過程で、飼料コストの算定式を現実よりも低く見積もるような修正が行われ、飼料コストが過小評価されたまま、保険掛け金は低くならなかった。この修正が行われていなければ、2015年度にはより多くの酪農家がMPPの恩恵を受け、結果として、2016年度の加入者も増えていたのではないか。」と述べている。

 このような生産者団体からの要請や、実際の発動状況を踏まえると、2014年に乳価が比較的高値にあった頃と比較して、飼料コストの下げに比べて乳価がそれ以上に下落していることから、生産者側の感覚としてMPPの発動基準が物足りないレベルにあるとみられる。さらに、マージンの算出は全米の平均的な数値を用いており、地域によっては算出されるマージン以上に経営状況が厳しい地域もあると推察される。今年度は、政権交代のタイミングでもあり、今後、同プログラムのより柔軟な運用と改良に期待する声も強く、今後の同プログラムの運用には注目が集まっている。

 なお、USDAは、MPPマージンは今年の夏にかけて6米ドル付近まで下がり、その後、年末にかけて8米ドル以上の水準に戻ると予測している。
【調査情報部 平成28年6月3日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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