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米国乳製品協会及び米国バター協会の合同年次会合が開催(米国)

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 2017年4月23日から25日まで、米国シカゴ市で米国乳製品協会(ADPI)と米国バター協会(ABI)の合同年次会合が開催された。会合では、一般会員など向けのパネルディスカッションを中心とした全体会合と両協会の理事、分野別委員による理事会、専門委員会が並行して行われた。理事会、専門委員会は、一般会員などには非公開とされた。
 今回の会合の出席者は、954名(米国農務省(USDA)からの22名を含む)で米国内の乳業、酪農協同組合が中心であったが、米国外からの出席者も多かった。米国外からの出席者は、北米が46名(カナダ41名、メキシコ5名)、南米が5名(ペルー4名、ベネズエラ1名)、欧州が44名(オランダ11名、英国8名、デンマーク8名、アイルランド7名、ドイツ6名、スイス3名、フランス1名)、アジアが10名(日本6名、シンガポール3名、フィリピン1名)、オセアニアが22名(豪州13名、NZ9名)であった。
 全体会合では、バター、乳糖、パーミエートの最近の動向やラクトフェリンなど新たな乳製品の規格について個別のセッションが開催された他、乳業界の代表者によるパネルディスカッションが行われた。主な内容は以下のとおりであった。

1.バター
 米国では、2014年以降、バターの消費が前年比2〜8%増で推移しており、消費者のバター回帰として説明されている。この現象は、バターの乳脂肪の主要成分である飽和脂肪酸の摂取は、心臓疾患と直接的な関係を有しないとする大規模な研究成果が最近公表されたことと関係があるとされているが、発表者であるデイリー・マネージメント・インク(酪農チェックオフ団体)のトーレスゴンザレス博士は、この研究成果はバター摂取量の増加を奨励しているわけではなく、さらに研究を深める必要があることを強調した。

2.乳糖
 世界の乳糖の95%は、米国、ドイツ、オランダ、デンマーク、フランス、ニュージーランド(NZ)の6カ国で生産されている。国(地域)別の生産割合は、EU47%、米国39%、NZ9%、その他5%となっている。従って、世界の乳糖の86%がEUと米国に支配されている。
 米国の乳糖輸出量の70%は、カリフォルニア州、オレゴン州、アイダホ州の3州で生産されたものである。2016年の乳糖の生産量は、49万4000トンであり、その仕向け先は、国内消費27%、東南アジア向け17%、中国向け13%、オセアニア向け11%、日本向け9%、メキシコ向け7%、その他16%となっている。オセアニア向けは、NZが中心であり、同国の輸入は、98%が粉乳の成分標準化のためのものである。
 世界的な成分標準化用乳糖の需要は、全粉乳用が今後5年間で12.6%増加し年間4万トン、脱脂粉乳用が同6.6%増加し同7万2000トンに達すると見込まれる。
 2017年の育児用調製粉乳の販売量の成長率は、前年比4〜18%と見込まれ、最大140万トンに達する見込みである。中国は、2016年に22万1372トンの育児用調製粉乳を輸入しており、これを乳糖に換算すると最大で7万トンに達する。

3.パーミエート
 パーミエートは、乳タンパク質濃縮物やホエイタンパク質濃縮物の製造工程において、限外ろ過のろ液として生産される乳製品であり、乳糖を主体としている。現在のところ、国際規格が定められていないため、飼料用が中心となっているが、世界最大の生産者である米国にとって、食用として付加価値を高めることが関心事項である。
 世界のパーミエートの生産量は、以下のとおりである(表1)。

170511海外情報表1(ADPI)
 パーミエートの供給側に影響を及ぼす事項として、(1)米国とEUの生乳生産が好調であることから、脱脂粉乳の価格が安いこと、(2)フル稼動で生産しているチーズの在庫が積み上がっていること、(3)ホエイの価格が高いこと、(4)アルゼンチン最大の酪農協であるSancorが破産したこと(ただし、会場のアルゼンチン関係者から問題ない旨の発言があった。)の4項目が挙げられた。また、需要側では、(1)中国で飼料用需要が増加していること(豚の収益性良好)、(2)米ドルが高いこと、(3)パーミエートの在庫水準が十分でないこと、(4)飼料用の販売が順調であることが挙げられた。
 なお、国際規格化の状況について、USDA農業市場局のトンプソン担当官から、2015年7月にコーデックスで提案された規格案が、2017年3月にステップ8(最終段階)となり、7月には総会の議題として採否が諮られる予定であることが報告された。現在の規格案では、乳糖含量(下限)が76.0%、タンパク含量(上限)が7.0%、乳脂率(上限)が1.5%、灰分(上限)が14.0%、水分(上限)が5.0%とされている。

4.米国乳製品協会(ADPI)の定める規格
 ADPIは、さまざまな乳製品の規格を定めており、2016年には、(1)ラクトフェリン、(2)初乳、(3)インスタント全粉乳の規格を策定した。また、2017年中に制定される見込みの規格としては、(1)ネイティブ・ホエイ(チーズ製造工程によらないホエイ)、(2)αラクトアルブミン、(3)βラクトグロブリン、(4)乳性ミネラル、(5)ホエイタンパク加水分解物がある。これらの乳製品に規格が必要とされるのは、技術の進展に伴い、従来、単一の製品としては成立していなかったものが、新たな機能性に着目した付加価値を生むようになっているためである。
170511海外情報図1(ADPI)
 原料乳製品の価格は、一般に加工度が高まるにつれて高くなり、ラクトフェリンの場合には、1トン当たり20〜40万米ドルに達する(図2)。
170511海外情報図2(ADPI)
 さらに、新たな高付加価値乳製品の例として、ホエイタンパク・リン脂質濃縮物(WPPC)の特徴が紹介された。WPPCは、ホエイタンパク分離物(WPI)の製造工程で分離された乳脂肪から得られるものであり、現在のところ、規格が存在しておらず、『PROクリーム』、『Salibra?700』、『ホエイクリーム』などさまざまな名称で取引されている。WPPCの長所は、(1)乳性リン脂質に富むこと、(2)乳脂肪球膜、免疫グロブリン、ラクトフェリン、成長因子といった生物活性物質を含むこと、(3)炎症と細胞の自然死の抑制やガン細胞の成長の抑制に関与したり、認知能力とストレス耐性を改善する可能性があることとされる。アイスクリーム、サラダドレッシング、製菓・製パンの際の乳化剤として利用されている。

5.乳業界の代表者によるパネルディスカッション
 酪農協の副代表、乳糖製造業者、大規模酪農家が会場からの質問に答える形式で議論が行われた。この中で最も注目されたのは、豆乳、アーモンド乳といった植物性の乳製品代替品に関するものであり、これらは、特に飲料の分野で酪農にとって、非常に大きな脅威であるとの認識が表明された。植物性飲料の成長率は、牛乳の成長率を上回って推移しており、特に、近年は消費者の健康志向の高まりに乗じて、付加価値と栄養価の高さを売りにしている点が特徴である。牛乳は、長い時間をかけて栄養上の価値を確立してきたが、植物性の乳製品代替品は、このような酪農家の努力にただ乗りするだけでなく、今や横取りする勢いとなっている。このような流れを断ち切るためには、『Milk』という表示は動物の生産物であることを示すという連邦規則を厳格に適用することと、若年層の教育を行う必要性があることが強調された。
【渡邊 陽介、小林 誠 平成29年5月12日発】
このページに掲載されている情報の発信元
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