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乳製品の短期的需給見通しを公表(EU)

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 欧州委員会は2017年7月12日、農産物の短期的需給見通しを公表した。このうち2017年の乳製品需給見通しの概要を以下のとおり紹介する。
 

生乳生産量は0.7%増の見込み

 2016年12月現在のEUの搾乳牛頭数は、前年比0.4%減と引き続き減少している。2016年の経産牛(乳用牛と肉用牛)と畜頭数は同7.8%増であったが、搾乳牛頭数の減少がわずかなものにとどまったのは、生産性の高い若い雌牛を後継牛とした生産者が多かったためと考えられる。
 2017年1〜4月の経産牛と畜頭数は、前年同期比3.5%減とやや減っているものの、2017年は後継牛も減ることから、2017年12月の搾乳牛頭数は、1.4%減と見られている。
 
 2017年の1頭当たり乳量は、新たに若い雌牛が導入されることで同1.9%増と見込まれる。ただし、粗飼料の質や量、配合飼料の給与状況によっては、乳量は抑制される可能性があると考えられる。西欧諸国では、天候不順により粗飼料の栄養価が低下しており、生乳中の脂肪分は0.7ポイント低下すると予想されている。
 
 2017年の生乳生産量(出荷量)は、搾乳牛頭数は減少するものの、1頭当たり乳量が増加することから、前年比0.7%増と見込まれている。2017年1〜5月の生乳生産量は、前年同期比1.1%減となった。1〜2月は前年同期比で大きく減少したが、その後は多くの国で前年並みの水準に回復している。EUでは、2年間にわたって乳価が低迷したが、多くの生産者は配合飼料の給与量を控えながら経営を続けてきた。生乳価格がさらに上昇すれば、生産者は配合飼料の購入量を増やして生産量を増やすと見られるため、2017年第2四半期の生乳生産量は、かなり増加すると見込まれる。
 中でも増産が顕著に見込まれるのは、アイルランド、ポーランド、英国、イタリアである。一方、減産となるのは、天候不順の2大生産国のドイツとフランス、そして、リン酸塩排出量削減のために乳牛の頭数を減らさなければならないオランダである。2017年下半期の動向は、飼料の質と量を左右する今後数週間の降雨量にかかっている。
 また、2018年は増産基調が継続し、前年比0.9%増となると予測されている。
 

需要増と供給不足からバター輸出は大幅減

 世界的にバター価格が高騰しているが、これは、世界的に乳脂肪分に対する需要が非常に強く、需要と供給のバランスが崩れていることを示している。
 EUでは、この4年間でマーガリンとスプレッドの販売(ケータリングでの使用を含む)が6%減となる一方、バターの販売は3%増となっている。また、食品加工業ではパームオイルの代わりにバターが使われるようになり、特に、製パン・製菓では、バターとクリームの使用が著しく増加しており、これは欧州に限らず世界的な動向である。
 2016年の世界のバターの貿易量は前年比7.5%増となった。しかし、2017年1〜5月の貿易量は減少している。バターの主要供給国であるニュージーランドとEUの供給量が減少しているためであり、ニュージーランドの輸出量は前年同期比11.0%減、EUは同24.9%減となった。さらに、同期間のEUのクリームの輸出量が同25.7%増と著しく伸びていることもバター市場を供給不足に追い込んでいる。
 EUでは2017年、生乳中の脂肪分が減少すると見られる中、バターと脱脂粉乳よりも利益率が大きいチーズやホエイへの生乳仕向けが増えるため、バターは生産量が前年比3.0%減、輸出量が同20.0%減となると見込まれている。そのような中、バターの域内消費は同1.0%増となることから、年末在庫は大きく減って6万5000トンとなると予測されている。
 

脱脂粉乳、生産減も輸出は大幅増

 2017年1〜5月のEUの脱脂粉乳の生産量は、前年同期比12.0%減となった。これは、生乳が利益率の高いチーズ向けに多く仕向けられたためであり、2017年は、今後もこの傾向が続くと見込まれる。
 一方、同年の輸出量は、前年比24.0%増と予想されている。2017年1〜5月での輸出量は価格が低いことから好調で前年同期比25.9%増となった。国別では、中国向けが同58.1%増と最も大きく伸びた他、アジア諸国(ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシア)向けは概して好調であるなど、サウジアラビアとエジプトを除き主要輸出先国で増加した。また、主要輸出先国の1つであるアルジェリア向けも同26.6%増であったが、下半期は、同国政府の入札やEUの国際競争力に左右される。
 大量に抱える公的在庫(35万トン)については、現在、売渡入札に付されている分(2万トン)を、今年下半期に市場に悪影響を及ばさない形で放出することが検討されている。
 

バター価格の高騰により、生乳価格も安定

 EUの平均生乳価格は、2017年当初から100キログラム当たり33ユーロ(4323円)前後で安定して推移している。これは、(1)EUの生乳生産量が減少したこと、(2)バターとチーズの需要が強いこと、(3)南米とニュージーランドの生乳供給量の減少でEUの輸出が好調なことが理由とされている。脱脂粉乳の価格はなおも低いものの、バターの価格が非常に高いことから、生乳価格は損益分岐点を上回る水準となっている。
 EU域内のバターと脱脂粉乳の価格差は、かつてないほど大きくなっており、バターは6月中旬、供給不足の中で域内外の強い需要から1トン当たり5000ユーロ(65万5000円)という歴史的な高価格を記録した。
 今後数カ月間のEUの生乳価格に影響を与える要因としては、まずは世界的な供給量の動向がある。ニュージーランドでは、天候不順や低価格により生産者は減産し、2年続けて出荷量が減少したが、生乳価格が大きく上昇すれば、生乳生産のピークを迎える9〜1月に回復するものと考えられる。また、2017年の米国の供給量は前年比2%程度の増加と見込まれている。
 EUの生産量は、生産の季節的変動に伴い減少し始めているが、2017年下半期は前年より増えると見込まれている。
 脱脂粉乳の価格は、脱脂粉乳の公的在庫が多いことで押し下げられているが、アジアを中心に需要が世界的に好調なことから、EU域内価格や国際価格が下支えされている。
 
【調査情報部 平成29年7月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527