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クック郡で導入された「ソーダ税」が4カ月間で廃止(米国)

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 近年、世界中で肥満や糖尿病が深刻な課題となっており、糖類を含む飲料に対する課税が提案されてきた。米国でも3年ほど前から、各地の自治体で通称「ソーダ税(Soda Tax)」を課す動きが広がりつつある(2016年12月20日発海外情報参照)。このような状況の中で、イリノイ州の州都であり同国第3の都市としても知られるシカゴ市を含む同州のクック郡においても、2016年11月に同税(名称は「Sweetened Beverage Tax」)の導入が郡政委員会で可決(可否同数により議長裁決。)され、同郡は、ソーダ税を課す同国で最も広い行政区域となり、大きな注目を集めていた。
 
 当初は2017年7月1日からの施行を予定していたが、イリノイ州小売業者協会(The Illinois Retail Merchants Association)による施行差し止め訴えがあったため、約1カ月遅れの8月2日から、以下のような課税内容により施行された。
  • 砂糖や人工甘味料を含む缶とペットボトルの飲料に対し、1オンス当たり1セント(1缶(約360mL)当たり12セント(13.8円(11月6日付けTTS:1米ドル=115円))、1ボトル(1.8L)当たり64セント(73.6円))を課税
  • 対象は、炭酸飲料、スポーツドリンク、フレーバーウォーター、エナジードリンク、牛乳含有量50%未満の砂糖入りコーヒー、茶など
  • 自動販売機や店員の手により作られるレモネードや炭酸飲料なども、提供された量に基づき1オンス当たり1セントを課税。提供時のロス(カップから溢れたりする分)として、総量に対して5%削減して計算
  • 対象外となるものは、100%果汁ジュース、牛乳・豆乳・ライスミルクなどの乳様成分を50%以上含んでいる飲料、乳児用粉乳、医療用飲料など
 
 しかしながら、報道情報などによると、導入後も住民をはじめとして、小売店、レストラン、製造業者などから多くの反発があったとされている。例えば、郡境に近い住人が同税のない隣町まで買い物に出かけたり、ファストフード店でソーダの「お代わり」に追加料金を設定する(同国のファストフード店では通常「お代わり」は無料)などにより、同郡内の飲料の売り上げが減少するという影響が出始めた。一般的に同税を導入した場合、その税率以上の割合で売り上げが減少すると言われているが、同郡の場合、売り上げの減少は、税率(10〜20%相当)を大幅に上回り、50%近くに達する事例もあった。
 
 すると、反対派の郡議員や関連業界団体は、こうした住民や業者などの反発の動きに乗じて同税廃止に向けた動きを加速化させた。そして、10月11日の郡政委員会での投票により廃止案が可決(12:2)され、同税は11月末日をもって廃止されることが決まった。
 
 なお、同税の導入から撤廃までの動きに関連する状況を整理すると以下のとおりである。
 
171108海外情報(ソーダ税)図
 また、主な利害関係者や各派の主張などは以下のとおりである。

−主な利害関係者
● クック郡政委員会(議長のプレニクル氏を含めて17名、同郡は民主党優位)
 • 民主党議員(支持派)
 • 共和党議員(反対派)

● 主な支持派ロビー
 • マイケル・ブルームバーグ氏(前ニューヨーク市長)

● 主な反対派ロビー
 • 米国飲料協会(The American Beverage Association)
 • イリノイ州小売業者協会(The Illinois Retail Merchants Association)
 • 「Can the Tax」連合(同州の小売、レストラン、飲料関係団体で構成)
 • 小売業者、飲料業者、レストラン経営者
 
−支持派の主張
  • ソーダ税の導入により、約2億ドル(約230億円)の財源不足を補うことができる。
  • 財源不足による刑事司法や健康保険関連に対する予算カットを防止。
  • 幼児期の肥満と戦い、米国の公衆衛生を向上させる(ブルームバーグ氏)
 
−反対派の主張
  • 主に貧困層が税を負担できない(最終的に90%の住民が反対した)。
  • ソーダ税の導入により、特に郡境に近い住民は、他の郡で買い物をするようになり、郡内では、甘味飲料の売上が減り、小売業者の利益を圧迫しているだけでなく、当初期待したほどの税収が得られなかった。
  • 小売業者やレストランによっては、飲料による売り上げが50%近く低下した。
 
−廃止へと向かった理由
 反対派議員や小売業者、不満を有した住民によるたゆまぬロビー活動により、当初は支持を崩さなかった民主党議員も、次期(2018年に選挙が予定)の再選のために反対派の声を聞かざるを得ない状況に追い込まれ、廃止を推進する議員が出てきた。
 
 このように、シカゴ市を含む広い行政区域でのソーダ税導入は、注目を浴びたが、導入からわずか4カ月間で廃止されることになった。同国では、下表のとおり、西海岸有数の都市であるシアトル市でも2018年1月からの導入が新たに決定されたほか、導入の是非に関する議論が数多く進行中である。今回の動きが、それらの議論に影響を与えるのかどうかが注目される。
 
171108海外情報表1
【調査情報部 平成29年11月8日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397