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2018年の乳製品輸出に影響を及ぼす8つの要因を公表(米国)

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 米国乳製品輸出協議会(USDEC)は2018年1月5日、2018年の乳製品貿易に影響を及ぼすと見込まれる8つの要因について以下のとおり公表した。

1. 貿易協定

 北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉の妥結を後押しする。同交渉で重要なことは、米国産乳製品にとって最大の輸出先であるメキシコおよびカナダへの優先的な市場アクセスの追求と、カナダが進める不平等で、米国および世界の乳製品市場へ破壊的な影響を与える乳価制度の見直しである。
 メキシコがNAFTAから脱退した場合、同国の経済成長の減退、雇用の減少および消費者価格の上昇を導き、購買意欲および乳製品需要の増加を妨げることとなる。これは、同国へ乳製品を供給するすべての企業に影響を及ぼす。
 また、米国はNAFTAや米韓自由貿易協定など発効済みの通商協定の見直しに焦点を当て続けているが、輸出競合国は市場開拓に向けた新たな協定の交渉を推し進めている。USDECは、2018年も、米国が主要な農畜産物輸入国との新たな交渉により、どのように市場を取り戻すかについて、政治家へ圧力をかけ、輸出競争力強化のために活動する。

2. 中国の乳製品需要と米国の供給力

 2017年1〜10月の中国向け輸出量は、同国の生乳生産量の減少を反映し、前年同期比で25%増加した。
 中国の輸入量に占める米国産の割合は過去3年間減少している。これは、輸出競合国であるニュージーランドや豪州が中国と通商協定を締結していることに加え、為替も影響している。
 2018年は、人口および所得の増加や都市化などに伴う消費量の増加が見込まれるものの、同国の生乳生産量が前年比3%程度増加すると予測されていることから、過去10年間のように急速な増加(年平均14%)を維持できるかが懸念される。

3. 新たな供給国

 近年、ベラルーシ、カナダ、イラン、トルコなど新興輸出国が主要市場に進出しており、2017年のこれらの国を合計した輸出量は豪州の2倍になった。
 中でも、カナダの動向が気がかりである。同国の2017年の生乳生産量は、前年比約5%増加したのに対し、2017年1〜10月の脱脂粉乳輸出量は、国際価格を下回るよう生乳取引価格に係る制度を改定したことで、前年同期の3倍以上となる6万1000トン超となった。
 一方、各国は、それぞれ課題を抱えており、例えば、ベラルーシは、製品の種類が限定的で、かつ、これまで輸出のほとんどを占めてきたロシア市場に適合した規格となっている。しかし、いずれの国も課題を乗り越え、輸出を拡大しようとしている。

4. EUの脱脂粉乳在庫

 脱脂粉乳の公的在庫は、2017年末時点で38万トンにまで積み上がっている。購入者が少ない上、脱脂粉乳が増産している中、スプリングフラッシュ(春先の季節的増産)が迫っていることから、欧州委員会は、2018年の介入買い入れ制度を大幅に見直し、3月1日以降、どの製品をいくらで買い入れるかを決めることになる。自動発動ではなくなるので、在庫が積み上がることはなくなるだろう。
 EUと米国の脱脂粉乳在庫を合わせると、世界市場にとって非常に大きな懸念材料となる。

5. バターの需給

 2017年に最も驚いた出来事の一つは、バター価格の高騰である。2018年も、世界的に堅調な需要、在庫の減少、より高い利益が見込まれるチーズ生産の増加など価格高騰を引き起こした要因が引き続き存在している。
 我々は、今年のバター価格は、輸入国の買い控えにより、記録的な高値となった前年を下回るとみているものの、これは、EU産とニュージーランド産の脱脂粉乳価格が低迷する中で、どこまで生産を伸ばすかにかかっている。

6. 中東および北アフリカにおける経済回復の可能性

 2014年夏以降の石油価格の下落に伴う経済成長や消費者の購買意欲の減退により、産油国の乳製品需要は2017年まで減少傾向で推移した。2017年11月、石油輸出国機構(OPEC)が石油の減産を2018年末まで延長することで合意したことを受けて、石油価格は上昇した。
 国際通貨基金は、産油国における2018年のGDP成長率は、1.5%から3%に達すると予測している。石油や経済の動向は、乳業関係者が待ち望んでいる中東、北アフリカの乳製品輸入が回復するかどうかを左右する。

7. チーズ競争の激化

 チーズは、世界の乳製品輸出国において、潜在的な成長が最も見込める品目である。豪州、EUおよびニュージーランドのチーズ製造業者は、世界市場を激しく攻め立てようとしている。
 ニュージーランドは、中国、東南アジア、韓国および日本の消費者やフードサービス向けモッツァレラチーズやクリームチーズの製造能力拡大に投資をしている。
 近年で最も大きな出来事の一つは、EUがロシアの禁輸措置により、ロシア向けに輸出していた25万トンのチーズを中国や日本、韓国、中東、メキシコなどへ仕向けたことである。また、EUは、地理的表示制度によるチーズの名称の保護などを進めている。
 チーズ生産は、バターや脱脂粉乳よりも高い利益が見込まれることから、2018年の生産量が減少することはないだろう。どの輸出国が輸出先との関係を強化できるかが、市場シェアの動向を左右する。

8. EUおよびニュージーランドの生乳生産

 EUの生乳生産量は、2017年第3四半期に前年同期比3%以上増加し、第4四半期には同4%以上の増加が見込まれている。2018年は、ドイツおよびフランスの生産回復とアイルランドおよびポーランドのさらなる増加により、著しい増加が見込まれている。
 また、ニュージーランドについても、2017/18年度(7〜6月)は、天候(9月の多雨、12月の干ばつなど)の影響が限定的であったことから、前年度比1〜2%増加すると見込んでいる。
 EUおよびニュージーランドともに、生産者価格は2017年末に下落したものの、酪農家の収益は黒字を維持しているものとみられる。
 2017年下半期の主要乳製品輸出国(アルゼンチン、豪州、EU、ニュージーランド、米国)の生乳生産量は、前年同期比2.5%以上増加した。USDECの試算では、世界の乳製品需要は増加しているものの、主要輸出国が年間で1.5%以上生乳を増産すれば、需要の増加を上回る。これ以下であれば好ましいバランスとなるが、2018年後半まではこのバランスまで戻らないと見込まれる。
【渡邊 陽介 平成30年1月22日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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