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下院農業委員会が次期農業法案を公表(米国)

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 米国の現行農業法は、2014年から2018年までの5年間の時限措置であり、現在、2019年から2023年の5年間に適用される次期農業法の検討が進んでいる。米国の農業純所得は、現行の農業法が適用される前の2013年には1237億ドルであったが、近年は毎年減少を続け、最近の予測では2018年には595億ドルと2013年から52%減少するとされており、農業所得の向上が特に期待されている。
 2018年4月12日、下院農業委員会は、次期農業法案を公表した。その概要および米国の農業団体の反応は、次のとおりである。
1.農業政策
 価格損失補償(PLC)と農業リスク補償(ARC)は、継続・強化される。PLCでは、補てん算定の基礎となる単収が現在適用しているものから更新できるようになり、補てんの発動基準となる参照価格が市況に合わせて調整されるようになる。ARCでは、郡間の格差を緩和するため、リスク管理庁(RMA)によって収集された統計を優先的に利用するなどの改善が行われる。生産者は、PLCかARCのどちらに加入するか選択する機会が与えられる。
 また、酪農マージン保護プログラム(MPP)も継続・強化され、その名称は、酪農リスク管理プログラム(DRM)に変更される。DRMにおいても、1戸につき500万ポンド(2270トン)の生乳に対して適用される低い掛け金単価は、さらに引き下げられるとともに、マージンの最大保障水準は100ポンド当たり8ドルから9ドルに引き上げられる。また、クラス1乳価の算定式は、酪農家が将来の市場におけるリスク管理を行いやすいよう調整される。
 
2.栄養
 食卓に食料を用意するのに困っている人々を支援するため、栄養プログラムを継続・強化する。そして、良い賃金仕事や経済的な自立、自分自身や家族にとってより良い将来を得るために必要な技能を学ぶ手助けをするのに重要な訓練を提供する。
 
3.貿易
 外国による貿易に関する不当な措置が増加しているため、次期農業法では、セーフティネットの強化、貿易促進および市場開拓に重要な手段への財政支援を是認し、回復させる。また、外国による不公平な貿易措置によって影響を受けた生産者を支援するための農務長官の権限を維持する。
 具体的には、USDAの貿易促進および市場開発に関するプログラムは、国際市場開発プログラムに一本化される。このプログラムには、現行の市場アクセスプログラム(MAP)や外国市場開発(FMD)などが含まれることとなり、予算規模は年間2億5500万ドルになる。
 
4.環境保全
 農業生産と環境保全を両立するための措置の導入に対して支援を行う環境改善奨励計画(EQIP)の予算は年間30億ドルに増額され、環境保全活動などに対して支援する保全管理計画(CSP)はEQIPに組み込まれる。これにより、被服作物の利用といった新たな環境保全への取り組みにおいて顕著な投資が可能になる。
 
5.作物保険
 国内のほぼすべての生産者、農村部の銀行や企業からの要望により、作物保険は守られる。必要に応じて、改良が行われる。
 
6.規制改革
 生産者から苦情の多い規制の煩わしさを簡素化し削減する。例えば、絶滅危惧種法(ESA)における殺虫剤の登録に係る煩雑な審査過程を改革する。また、保全プログラム間の複雑な手続きなどを削減する。
 
7.農村開発
 米国の農村地域は、都市部と同様のブロードバンドへのアクセスやインフラを有するべきである。農村地域のブロードバンドのための予算を計上し、USDAに対して将来的なブロードバンドの基準を創設するよう求める。
 また、農村地域における雇用や経済活動を促進するために、農村開発戦略を強化する。
 
8.動物衛生
 全米動物疾病対策プログラムおよび口蹄疫ワクチンを備蓄する米国のためだけの新たなワクチンバンクを創設するとともに、全米動物衛生研究所ネットワークの強化を図る。
 2019年度予算で動物衛生対策として2億5000万ドルを計上する。この内訳は、全米動物疾病対策プログラムに7000万ドル、ワクチンバンクの創設および運営に1億5000万ドル、全米動物衛生研究所ネットワークに3000万ドルである。2020年から2023年は毎年5000万ドルが追加され、このうち少なくとも3000万ドルは全米動物疾病対策プログラムに配分される。
 なお、これに関連し、4月26日のUSDAの公表によると、農務長官は、口蹄疫ワクチンの研究・開発を行うために、遺伝子操作された非感染性の生きた口蹄疫ウイルスをプラムアイランド動物疾病センターから米国本土へ移動させることを承認した。これまで、生きた口蹄疫ウイルスの米国本土への移動が承認された例はなく、米国政府のワクチン開発に対する本気度がうかがえる。
 
9.専門的農作物および有機農作物
 野菜や果樹などの専門的な農作物は、米国農業の成功に重要な役割を担っており、米国の食料政策において必要不可欠な要素である。新たに創設する国際市場開発プログラムの下で、専門的な農作物のための技術支援の予算を回復させる。また、専門的な農作物に対する作物保険の拡充と改善を求める。
 さらに、有機農業の研究と拡大の戦略(OREI)の予算を増額するとともに、有機産品の不正輸入をなくすための資源を提供する。
 
10.新規就農者
 新規就農者を支援するいくつかの取り組みを維持する。作物保険に加入しやすくするとともに、奨学金プログラムを設ける。米国が世界で最も安全で豊富で手頃な食料を供給するために必要な政策変更を研究する「農場の変化に関する委員会-2050年への必要性」を創設する。
 
【下院の次期農業法案に対する関係団体の声】
 この農業法案に対して、米国の農業団体はおおむね歓迎の意を示している。主な団体の意見は以下の通りである。
 
・全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)
 トウモロコシ農家が先行き不透明に陥っている状況の中、農業法案が市場アクセスプログラム(MAP)と外国市場開発(FMD)の予算を回復し、農業リスク補償(ARC)を改正することを歓迎する。また、環境保全に関するプログラムへの生産者の参加拡大などについても評価する。今後も作物保険やARC、貿易の促進に関するプログラムといった農家が最も関心を持っている政策を注視していく。
 
・米国大豆協会(ASA)
 生産者が農作物価格の低下や農業を取り巻く厳しい環境に直面する中、安定した見通しを得られるよう、一刻も早い次期農業法の改正を望む。
 
・全米生乳生産者連盟(NMPF)
 酪農家は4年連続の乳価下落という状況にさらされており、セーフティネットの改善が非常に重要である。酪農マージン保護プログラム(MPP)におけるマージンの最大値を9ドルに引き上げることにより、酪農家はより柔軟性を持つことができるようになる。
 
・全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)
 米国の肉牛生産者にとっての優先事項を守ることに一生懸命取り組んでくれた農業法案に携わる農業委員会メンバーとマイク・コナウェイ委員長に感謝する。引き続き、口蹄疫ワクチンバンクの創設と十分な基金の確保、海外市場の開拓や市場アクセスの改善を働きかける。
 
・全米豚肉生産者協議会(NPPC)
 口蹄疫の発生に備えて、口蹄疫ワクチンバンクを設置し、疾病対策に万全を期すことが非常に重要である。口蹄疫が発生した場合、米国経済に及ぼす影響は甚大なものとなり、深刻な財政難に陥ることとなるため、事前の準備が重要である。
 
【調査情報部 平成30年5月17日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4397