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次期CAP予算案と関係者の反応(EU)

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 欧州委員会は2018年5月2日、共通農業政策(CAP)の次期(2021年から2027年まで)中期計画の予算原案を発表した。この予算案は、英国を除くEU27カ国での新たな枠組みであり、関係者の注目を大いに集めている。
 予算案は、前期(2014年から2020年まで(英国を除くEU27カ国))から約5%減の3650億ユーロ(48兆1800億円)となった。欧州委員会は、直接支払いと農村振興政策の2つの柱を継続するとともに、加盟国の裁量を拡大し、環境に重点を置いた持続可能な農業経営の支援を行うとしたが、削減については、難民・移民対策やテロ対策など新たな政策課題の財源を確保するためとし、加盟国に理解を求めた。
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 また、欧州委員会のユンカー委員長は5月8日、ベルギー国内で関係者を前に講演し、予算削減案に理解を求めるとともに、直接支払いについては1戸あたり6万ユーロ(792万円)の支給上限額を設ける計画を説明し、これにより大規模農場ではなく、小規模な農業経営を支援していくことを強調した。上限の設定は、直接支払いの80%がEU全体の20%に当たる大規模農場に支払われているといわれる中、補助金分配の平準化を目指したものである。予算を有効に活用することで、各加盟国の裁量で実施する小規模な農業経営への追加支援や、地域開発事業への追加助成などの充実を図るのが目的とされる。
 
 これらを受けた加盟各国およびEU域内の関係者の反応は、総じて厳しいものとなっている。
 フランスの農業担当大臣は、このような大幅かつ急激な予算削減は、直接支払いがセーフティネットになっている多くの農業経営の存続を脅かすものであると懸念を表明し、受け入れがたいとしている。同国のマクロン大統領は、従前よりCAP予算の改革に前向きな姿勢にあったが、農業大国である同国内の関係者の反発は大きく、今後の動向に注目が集まっている。
 また、EU最大の農業生産者団体であるCopa Cogeca(欧州農業組織委員会/欧州農業協同組合委員会)は5月15日、予算の削減は、農業経営そのものやEUの広大な農村部の存続に危機をもたらすものであるとして予算案に反対する旨のプレスリリースを行った。同日、ポーランド農業会議所会長は、予算削減は欧州委員会の目標とする環境および食料安全保障政策を妨げるものであるとコメントし、予算削減に対する強い懸念と反対を、ベルギーのブリュッセルでの記者会見で表明し、Copa Cogecaは同会長の発言を支持している。
 なお、ポーランドはCAPの恩恵を大きく受けている国の一つであるが、現地業界紙などによると、そのほかデンマーク、ハンガリーなど農業国を中心に予算削減に反対する声が続いている。 
 
 ユンカー委員長は、今後のスケジュールとして、来年5月の欧州議会選挙の前に予算の承認を得たいとしているが、フランスをはじめとした農業国の本予算案に対する反対が強まる中、どのように欧州委員会が承認に向けて対応していくのか、関係者の注目は高い。
【調査情報部 平成30年5月29日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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