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ウルグアイの牛肉パッカーの調査報告

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 ウルグアイにおける牛肉輸出パッカーは25施設、そのうち日本向け輸出認定を取得しているのは16施設となっている(表1)。なお、2017年現在、牛のと畜実績があるパッカーは36社である。
 ウルグアイの牛肉生産量は、2018年において、全国のと畜頭数の約2割に相当する約50万頭の生体牛がトルコへ輸出された影響で、国内でと畜する牛が不足していることから、2019年は減産することが見込まれている(図1、2)。このような状況下で、当機構では、2019年5月に、日本向け輸出認定を取得している3社を訪問し、施設の概要や生産・輸出動向に加え、対日輸出に関する将来性について取材した(表2)。本海外情報では、その概要について報告する。
 なお、本調査の詳細(需給動向、農場調査報告等)は、「畜産の情報」2019年9月号(8月26日発行)に掲載予定であるので、併せて参照されたい。
表1
図1
図2
表2

1 BREEDES PACKERS URUGUAY (BPU)

 BPUは、設立が2010年と比較的新しく、南米トップクラスともいえる最新設備を備えたパッカーである。2017年に、イギリス資本Sisters Food Group社から日本ハム株式会社に売却され、現在同工場には日本人駐在員が2名配置されている。
 2019年の生産量は、同国の生産状況を反映し、減産が見込まれている。取扱品種は、ヘレフォード種が6割、アンガス種が4割となっているが、近年はフィードロットが同国内で進展していることもあり、アンガス種の割合が高まっているという。そのため、同様にフィードロット由来の牛の割合も増加している。
 輸出は、中国向けが全体の6割(重量ベース)を占めており、今後もこの割合は増加が見込まれているという。特に、本年5月に入ってからは中国からの引き合いが日に日に強まっている。前述の要因により、生体牛価格が高騰しており、パッカーの収益を圧縮している中、この状況は1つの明るい兆しになるという。その他、高級牛肉無税枠(QUOTA481)を利用したEUへの輸出も行われている。EUへ輸出する際は、部位単品のパターンと、14パーツなどのセット売りの双方で取引を行っているが、近年は中国が「余った部位を買ってくれる」(同担当者)とのことから、前者での取引が増えているという。
 なお、対日輸出については、現在サンプル調査などを行っている段階であるとのことだった。

2 FRIGORIFICO SAN JACINTO-NIREA S.A.

 NIREAは、ウルグアイで唯一、荷受業者を通さないで生産者から直接牛を全頭受け入れており、同社と生産者と話し合いで年間の出荷計画を作成するなど、「生産者の気持ちに寄り添う」というモットーを創業時から大切にしている。2019年に資本が完全にアルゼンチン企業へ移ってからも、変わらぬ経営方針を貫いている。2018年の生産量は、ウルグアイ全国の情勢に加え、工場のリノベーションを行っていることから、減少傾向で推移した。一方、前述の通り、生産者と1対1の関係を重視し、年間の出荷計画を整備したため、トルコへの生体牛輸出を行った契約生産者はいなかったことから、全国的に減産が見込まれる中、将来的なと畜頭数の回復を見込んでいる。
 これに加え、NIREAでは、(1)プレミアムの基準をホームページに公表し、生産者間で不利が出ないようにする(2)1頭ごとの重量を計測し、生産者にフィードバックする(他社のほとんどが、重量計測はロット単位で行っている)など、情報の透明化に努めている。
 輸出は中国向けが中心であり、EUやメルコスールにも行っている。対日輸出については、ハンバーガーのパテの原料をフローズンで既に開始しているという。また、将来的には、レストラン向けにチルドの高級牛肉を販売したいと考えている。この場合、ウルグアイ産牛肉の強みである「Natural Beef(注)」であることを最大限アピールしたいことから、フィードロット由来ではなく、牧草肥育牛肉を販売したいとしている。

(注)ウルグアイで生産される牛肉の多くは「Natural Beef」と形容され、輸出時もプロモーションワードとして使用されている。この定義は、ウルグアイ食肉協会(INAC)によると、「(1)畜産副産物未使用(2)成長ホルモン未使用(3)「自然」に近い形で飼養している牧草肥育」であるとのことである。

3 FRIGORIFICO MATADERO CARRASCO S.A.

 CARRASCOは、ブラジル資本のMinerva社が所有するパッカーである。Minerva社は、CARRASCO以外にウルグアイで3施設保有しており、グループ全体のと畜頭数は全国最大となっている。
 2019年の生産量は、国内の状況を反映して減産見込みとなっている。と畜頭数に占める牧草肥育の割合が9割程度と、全国平均(約8割)よりも高くなっている。これはMinervaの「自然環境に基づいた牛肉を生産する」という方針から、放牧かつ牧草肥育をメインに考えているためである。また、アンガスとヘレフォードの割合も6:4とアンガスの方が高くなっている。これは、同パッカーのルーツとなるPUL(施設番号7、表1参照)のオーナーがアンガス種を重視していたという歴史があることから、現在に至るまでアンガス種を肥育する生産者が多いことが要因として挙げられる。
 輸出は、中国向けが全体の7割程度を占め、その他EUや米国、カナダにも仕向けている。また、同パッカーの特徴としては、市場の多角化を意識していることから、韓国向け輸出を行っている点がある。2013年の解禁以降、市場開拓を進め、2016年ごろまで積極的にプロモーションを行っていた。しかし、その後は、中国向けの増加や、現地輸入関税と利益のバランスが取れないことなどを要因に、減少傾向となっている。今後も、一定の取引は続けていくが、急激に増加することは考えにくいとしている。
 日本向けには、すでに3月に航空機で2トン輸出したという。現在、日本のバイヤーと交渉を行っているが、韓国同様、関税面でのデメリットが大きいことに加え、現在は特に中国からの引き合いが強いことから、日本が買い負けている状況だという。なお、Minerva社の輸出担当者によると、日本でウルグアイ産牛肉は、米国や豪州との競合はあるが、品質面で勝負できると考えている。

【佐藤 宏樹 令和元年6月17日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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