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ベルギーの農産物販売協会、アフリカ豚コレラ(ASF)の対応について発表

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 ベルギーのフランダース農産物販売協会(VLAM:Vlaams Centrum voor Agro-en Visserijmarketing (Flanders' Agricultural Marketing Board))は7月8日、昨年9月に自国で確認されたアフリカ豚コレラ(ASF)の感染の発見から、これまでに行った対応について発表した。
※ベルギーフランダース農産物販売協会(VLAM)は、フランダース地域政府および産業界からの受託により、国内外におけるフランダース地域産農産物などの販売促進を行う非営利団体。(同協会ホームページより)
 
 アフリカで常在的にあった本疾病は、ロシアおよびその周辺諸国での発生後、養豚産業の盛んな欧州諸国でも徐々に感染が拡大している状況にあった。なお、ASFは豚、イノシシの病気であり、人に感染することはない。
 
 ASFについては、発生予防に努めることが極めて重要ではあるが、今回、VLAMが発表したベルギーの確認後の対応は、養豚の盛んな地域ではなかったという面もあるが、国内養豚場や野生イノシシに感染拡大させないために講じた対応策として専門家から評価され、成功例の一つとされている。ASFは欧州諸国でも感染拡大の脅威が続いているが、ベルギーの取った対応により、ベルギー産豚肉はEU域内に輸出可能となった。この、ベルギーが取った対応について、次の通り紹介する。
 
<野生イノシシでの確認から初期対応まで>

 2018年9月13日、ベルギー最南東部のリュクサンブール州エタル市で、2頭の野生イノシシにASFウイルスが確認された。確認後、ベルギー連邦フードチェーン安全庁(FASFC: Belgiums Federal Agency for the Safety of the Food Chain)は、欧州委員会との協力および法律に基づき「感染区域」を定めた。その後、感染拡大防止のため、同区域内に飼養される豚について同年9月27日から10月3日までの間にすべて予防的な殺処分を行った。
イノシシの発生地域など
参考:ベルギーの地図。赤色の線の内側が「感染区域」。青色の区域は高リスクとされた「区域U」、それ以外は警戒区域等からなる「区域T」(VLAMウェブサイトから)
<ベルギーにおける予防対策および監視>

・登録
 すべての養豚場は、FASFCの全国レベルのデータベースである  「SANITEL」に登録されなければならない。また、すべての豚は識別され、豚の出入りを記録した帳簿を持たなければならない。
 ※ベルギーでは現在、620万頭の豚が7200戸の養豚場に飼養されている。FASFCの担当官が登録や施設、衛生状態を確認する。
・予防
 全国レベルでの包括的な予防計画が策定されている。この計画には、養豚場における物理的な防護、豚の集合禁止、養豚場への入場制限および厳格なバイオセキュリティーの適用、食品残さの使用禁止、豚輸送車の清掃、消毒などが含まれる。
・周知
 FASFCおよび地方自治体による周知キャンペーンの企画。
・検査
 養豚農家は、3カ月以上の間隔で最低でも年に3回、獣医師による飼養豚の臨床検査を受けなければならない。獣医師は通知すべき疾病の症状を確認し、養豚経営者と面談を行う。
・分析
 2018年9月の野生イノシシでの確認以降、養豚経営者は、豚または死亡豚に疾病の兆候が見られた場合、直ちに獣医師を呼ぶ義務がある。獣医師は、24時間以内に農場に飼養されているすべての豚を診察しなければならない。ASFが否定される場合であっても、獣医師はFASFCの指示に従い、ASFを含む鑑別診断のため、3つの血液サンプルを採取しなければならない。
 ※2018年9月13日から2019年4月2日までの間、血液サンプルは938農場、4081頭から採取されたものの、分析結果はすべて陰性であった。
・検疫
 豚を農場に導入する際、事前に4週間の検疫期間を設ける。
 
<近隣諸国との連携>

 感染区域は、フランス、ドイツ、オランダに近接しており、感染拡大防止のため、この4カ国は次の連携を行った。
・継続的な協議、協力、情報交換
・調和が取れ一貫した国境を越えた対策
・連邦政府、地方政府、民間企業での共同の取組
 
<結果:国内飼養豚に感染なし>

 ベルギー当局は2019年2月17日、下記のとおり発表した。
・感染区域内に1539頭の野生イノシシ(死体も含む)を発見し、処分した。
・監視の強化区域の飼養豚で3450回の検査が実施されるも、すべて陰性。
・確認以来、飼養豚での感染は一切なし。
 
<継続的な取り組み>

 すべての利害関係者(養豚農家、獣医師、政府)は、バイオセキュリティー確保のため、現在も警戒状態にある。
[養豚場]
・強化された受動的監視の維持
[野生イノシシ]
・死体の集中的な捜索および処分
・野生イノシシの継続的な駆除
・複数のフェンスの設置(フランスへの設置も含む)
 
<結論:「完全な透明性が不可欠」>

 FASFCの首席獣医官は、「ベルギーは、各国専門家と状況および技術面について、日常的に連絡するなど近隣諸国とより密接な提携を行っている。ベルギー、欧州、世界レベルでASFを管理し、ベルギーおよび商業パートナーなどとの間の信頼関係を確保するためには、広域にわたる全国的な提携に加え、近隣諸国をはじめ、EU加盟国、EU加盟国以外に対する完全な透明性が不可欠であると確信している。従って、FASFCは多様なプラットフォームを通じて、状況および対策について引き続き情報提供を行っていく」と結論を述べた。
 
<トレーサビリティが迅速な検出および対応を可能に>

 ベルギーがASF確認時に適切に対応できたことは驚くべきことではない。広範囲な監視システムにより、ベルギーは予期せぬ問題に取り組む準備ができている。7000以上のすべての国内養豚場および飼養豚はデータベースに登録されている。トレーサビリティは耳標で管理され、豚の出生地や移動などは完全に追跡可能である。懸念のASFについても、各関係者間で事前にさまざまな提携がとられていた。これにより、FASFCが迅速に疾病を検出し、迅速に対応することが可能となる強力なネットワークが構築された。
 
<輸出への影響>

 国内の飼養豚に感染はなく、野生イノシシ間のASF拡散も避けられ、ASF撲滅という最終目標は達成された。これにより、ベルギーからのEU向け豚肉輸出の影響は、比較的限定されたものとなった。一方、EU域外では、特にアジアでの影響が大きかった。ベルギーのEU域外向け豚肉輸出量のアジア向けシェアは79%から38%に減少し、輸出量は以前の約50%に減少した。
 
 以上がVLAMの発表である。
 この発表でVLAMは「ASF撲滅( eradicate ASF )という最終目標は達成された」としているが、野生イノシシでの確認は散見されている。
 なお、VLAM傘下のベルギー食肉事務所(BELGIAN MEAT OFFICE)によると、飼養豚の処分を行ったすべての養豚農家に対しては、EU、国、地方政府から補償が行われている。
【調査情報部 令和元年7月25日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527