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地域ブランド化を進める大規模畑作経営群

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最終更新日:2010年5月10日

地域ブランド化を進める大規模畑作経営群 −北海道十勝・JA 帯広大正−

2010年3月

北海道大学 大学院 農学研究院 准教授 志賀永一

 

1.十勝地域の野菜

 平成20年度の北海道の農業産出額は1兆251億円で全国の11.8%を占める。産出額を部門別にみると、乳用牛3,502億円、野菜1,786億円、米1,255億円、肉用牛587億円の順である。これらの全国シェアは47%を占める乳用牛は全国1位、野菜も8%で1位、米は6%で全国2位、肉用牛も11%で3位である。19年度から水田・畑作経営安定対策の導入により算出方法が変化したとはいえ、北海道の耕種部門では野菜が農業産出額のトップとなっているのである。
 
 ところで、小麦、てん菜、ばれいしょ、豆類などの畑作物を作付けし、酪農経営も多く、欧米的な景観をもつといわれる北海道・十勝地域の実態はどうであろうか。20年産の農協取扱高合計でみると、酪農872億円、肉用牛365億円、ばれいしょ222億円、野菜208億円、てん菜193億円、麦類177億円の順であり、十勝地域でも野菜は耕種部門の主軸となっているのである。もっとも耕種部門では固定払いが268億円で区分の上ではトップとなり、従来の算出方法ならば野菜の順位は後退するが、それでも耕種農業の主軸であることは変わりないであろう。
 
 十勝地域の野菜生産は畑作物価格が低迷する昭和60年頃から増加し、平成に入りバブルの崩壊、中国からの野菜輸入により低迷するが、農協取扱高でみたように野菜生産は十勝地域の畑作経営に定着しているのである。20年産の十勝の野菜作付面積をみると、スイートコーン3,110ヘクタール、にんじん1,520ヘクタール、長いも1,380ヘクタール、だいこん837ヘクタール、かぼちゃ617ヘクタール、ごぼう431ヘクタールと続き、近年えだまめ作付が増加し584ヘクタールとなっている。スイートコーンは作付面積は多いが、加工用途向けが大半であり生産額は多くはない。面積と生産額で大きい品目はにんじん、やまのいも、だいこん、ごぼうといった根菜類である。
 

2.JA帯広大正の野菜生産

 JA帯広大正は十勝の中心地帯広市の南部に位置する。帯広空港まで車で約10分、JA区域内には「愛の国から幸福へ」で著名な旧国鉄広尾線の愛国駅と幸福駅が有り、未だ多くの観光客が訪れている。
 
 平成20年の農家戸数は321戸、作付面積は9,100ヘクタール、122億9000万円の販売取扱高(固定払い・成績払いを含む)を誇っている。単純平均で1戸あたり28.3ヘクタール、3829万円の販売を挙げていることになる。平成20年の作付けをみると(図1参照)、小麦2,944ヘクタール、豆類902ヘクタール、ばれいしょ1,867ヘクタール、てん菜2,010ヘクタール、スイートコーン93ヘクタール、野菜548ヘクタール、飼料作物736ヘクタールである。野菜548ヘクタールのうち、長いも202ヘクタール、だいこん242ヘクタールとなっている。
 
 また、ばれいしょのうち76%は食用ばれいしょであり、加工用の作付けもあるためでん粉原料用ばれいしょの作付けはほとんどみられない。
 
資料:参考資料[4]により作成<DIV><STRONG>図1 JA帯広大正の作付</STRONG></DIV>
資料:参考資料[4]により作成
図1 JA帯広大正の作付
 このようにJA帯広大正の野菜の中心は食用ばれいしょ(メークイン、一般に北海道では食用ばれいしょは野菜ではなく、あくまでもばれいしょと考えられている)、だいこん、長いもであり、同JAは「大正3品」としてキャラクターも創作し、振興している。
 
 「大正メークイン」は「さつき」、「大正だいこん」は「大吉」、「大正ながいも」は「長助」である。是非、ホームページでご覧いただきたい。それぞれ「大正」が冠せられているように、JAは「地域ブランド」戦略をすすめているのであり、次に、その取り組みをみてみよう。

3.地域ブランド戦略

 地域イメージからもたらされる価値である、地域ブランドを適切に保護するため、平成18年4月より地域団体商標制度が導入された。
 
 平成20年3月末現在、出願件数は全国で807件、北海道は36件で全国第4位であり、うち登録件数は全国371件、北海道は第7位の11件となっていた。
 
 この北海道11件のうち、「帯広大正農業協同組合」を登録団体とする地域ブランドは、「大正メークイン」「大正長いも」「大正だいこん」の3つなのである。11件の登録には4件の水産物を含んでいるから、3件の登録を誇るJA帯広大正は北海道トップの取り組みを進めているといえよう。
 
 地域団体商標登録には、「商品の信頼性の獲得」「商品の付加価値の向上」「地域経済の活性化」などが期待されているが、JA帯広大正では「安心・安全に関する具体的な取り組み」の一環として進められており、安心・安全の取り組みがあったから、制度導入まもなくで3つもの登録が行われたのである。
 
 JA帯広大正の安全・安心の取り組みは、クリーン農産物生産の推進(安全)とトレーサビリティの確立(安心)を2本柱としている。
 
 具体的には、(1)自主的な農薬検査(2)茎葉処理剤の非使用(3)生産履歴の記帳(4)土壌診断と適正施肥(5)特別栽培メークインの取り組み−などである。そして、この推進のため平成16年4月に、生産販売部に「食の安全安心対策室」を設置している。
 
 取り組みの具体例として、ばれいしょの茎葉処理を取り上げよう。食用ばれいしょなどの生産では、地中にあるイモの成熟を調整し品質を向上させるため、地上部の茎葉を枯らす作業が行われる。これが茎葉処理であり、従来は枯凋剤という薬剤が使用されていたが、茎葉を枯らすというイメージの悪さから使用に疑問が呈されたのである。
 
 そこでリーフチョッパーという草刈り裁断機とでもいうべきもので茎葉を刈り取る作業に置き換わった。しかし、リーフチョッパーが茎葉を引き上げ、地中のイモが地表に顔を出し日光を浴びることによって「青イモ」となり、商品価値を低下させる問題を生じさせた。
 
 逆にいえば、こうした問題を回避するために枯凋剤が使用されていたわけである。機械の改良と培土作業をあわせることにより、「青イモ」問題に対処しているが、JA帯広大正は平成15年産から、この茎葉処理剤の全面禁止を進めていたのである。
 
 また、病害虫の発生予察の徹底や忌避資材の活用、根菜類の線虫対策として緑肥活用が行われ、肥料使用も土壌分析に基づいて行われており、肥料や農薬の使用を最低限にする取り組みが行われている。さらに、残留農薬検査も抜き打ち調査で行われている。生産農家には厳しく、煩わしいことであるが。これら取り組みの結果として、地域団体商標登録が行われたのである。
 

4.農家の取り組みと反応

(1) 農家の概要と地域ブランド戦略への対応

 このようなJAの戦略に、農家はどのような取り組みを行っているのかをみてみよう。表に調査農家7戸の作付けを示した。22ヘクタールから50ヘクタール超まで面積は多様である。
 
 しかし、いずれもJA帯広大正を代表する農家であり、作付けを一覧してわかるように「大正3品」であるメークイン、長いも、だいこんの作付けに取り組んでいる農家である。「大正メークイン」の産地であるだけに、食用(ほとんどがメークイン)はNo1以外6戸、長いも2戸、だいこんは3戸が作付けしている。その他も4戸作付けがあるが、これは後にふれる。
 
 
 さて、JAの産地ブランド戦略は、記述のように生産農家に生産履歴の記帳のほか、肥培管理面での取り組みを必要とさせる。
 
 この取り組みについて、だいこんを10ヘクタール作付けしているNo1は、「野菜の産地は10年でダメになっているところが多い。ダメになった産地は課題を見つけ取り組みを行っていない産地である」と回答し、さらなる取り組みの必要性を強調している。
 
 また、食用ばれいしょ作付けが9.3ヘクタールと最も多いNo3は、ばれいしょの個選を行い箱詰めまで行っているが、「月毎に決済され、生産者番号が入るので品質もよくなった。日本一のメークインの産地を維持するためにはJAの取り組みに賛同している」と回答し、さらに種子の品質、販売の強化を通じて、JAとしての産地維持を目指す必要があると述べている。また、野菜作付けはないが、食用のほか種子ばれいしょ生産も行うNo5は、「地域団体商標登録はJA帯広大正でなければできない取り組みである。さらに努力を続けるべきだ」と回答している。
 
 このような回答になる背景は、No7が回答したように「地域団体商標登録で新たに付加された義務はなく、従来までやってきたこと」を反映した取り組みであったためである。各作物の部会役員も多かったが、進めてきた取り組みが地域団体商標登録に反映しているという意識であり、取り組みが認められたと考えられているのである。

(2) 「反10万」の目標

 農家にさまざまな取り組みを要請する地域ブランド戦略を、農家はいともたやすく実践している。この理由に「反10万」の目標があると、筆者は考えている。
 
 「反10万」、従来から北海道の畑作経営で売り上げ目標とされた数値で、単位は「万円」である。豆の十勝といわれ、小豆などの相場に一喜一憂していた時代に運も手伝い「反10万」を実現したことはあるだろう。しかし、小麦、てん菜、でん粉原料用ばれいしょ、大豆など、行政価格が設定されていた作物の作付けでは、この目標は実現できない。
 
 当然のことながら、近隣農家の水準をはるかに超えるような単収をあげることが必要で、十勝の畑作農家は単収向上に非常に熱心である。ところが行政価格の低迷もあり、単収を向上させてもこの目標を実現することはできず、農業所得額の確保を目指して、野菜作の導入などに取り組んできたのである。「反10万」を実現できる作物・品目は、食用や加工ばれいしょ、各種種子生産、これに野菜が加わり、これら作付けを安定して行うことが必要になる。
 
 これら高い収益が期待される作物の作付けは、十勝地域では帯広市を中心とした地域が中心である。JA帯広大正はまさにその中心地なのである。
 
 その証拠を図2に示した。図はJA帯広大正の取扱高を作付面積で除し、10アール当たりの扱い高(売り上げ)を示したものである。
 
 豆類は5万円程度であり、小麦も8万円前後であったが、平成19年度以降、水田・畑作経営所得安定対策の導入に伴い、取扱高として固定払い、成績払いといった助成金を除く品代だけを計上することとなったため急落している。
 
 この急落は10万円前後であったてん菜についても同様である。経営所得安定対策は大豆、でん粉原料用ばれいしょも対象であるが、作付けの少ないJA帯広大正では影響がきわめて少なく、ばれいしょの10アール当たり売上は低下傾向にあるとはいえ15万円ほどで推移している。さらに、野菜(スイートコーンの作付を含む)に目をむけると、乱高下は大きいが40万円ほどとなるのである。
 
 
 
 助成制度の変更があるため、豆類+ばれいしょ+小麦+てん菜の取扱高に、固定払いと成績払いの金額を含め、当該作物の面積で除した「助成込み畑」と、さらに野菜を含めた売り上げである「畑作野菜計」を示した。
 
 食用ばれいしょを含んでいるにもかかわらず、「助成込み畑」でようやく「反10万」をクリアできるかどうかであること、野菜が加わった「畑作野菜計」で「反10万」を上回る水準を実現していることがわかるであろう。
 
 単収を向上させ、可能な限り経営耕地も拡大してきたが、農産物価格は低迷し農業所得は減少する。こうした事態に農業所得額を確保するため、労働集約的な食用ばれいしょや野菜生産が不可欠な対応として進められてきたのである。
 
 作付作物の違いによって異なるが、事例農家は経営耕地*「反10万」強の売り上げがあり、農業機械・建物・施設の減価償却費を含まない現金支出レベルで「農業所得」を算出すると、最も少ない事例であっても1000万円、多い事例では2000万円を超える「農業所得」をあげている。
 
 この基礎となるのが、地道な安全・安心への取り組みであり、その結果としての地域団体商標登録という地域ブランド戦略が繰り広げられていたのである。
 

5.秘かな取り組み

 事例農家調査によると、JA帯広大正の農家の取り組みは、上記の取り組みにとどまらないようだ。秘かに次期戦略へとつながりそうな取り組みが進められていた。試験段階にとどまるものも多く、「マル秘」を暴くようで恐縮だが、いくつか紹介させていただく。
 
 野菜の作付選択は経営耕地の拡大条件が関係している。事例No2は「拡大か野菜か悩んだが、拡大の方向を選択したが、種子ばれいしょの作付上限7ヘクタールの作付ができるように」という経営戦略を考えている。しかし、先の作付表「その他」は新規野菜などの取り組みである。その取り組みをみると、No4は玉ねぎ直播(加工用)のほか、さつまいもと壬生菜の試験栽培に取り組んでいる。北海道の玉ねぎは北見、富良野、岩見沢が中心であるが、計画生産が行われているため後発の十勝は加工用途に限定され、その分単価は低い。しかし、作付面積を確保できる作物であり、将来生食向けへの期待もある。壬生菜は漬け物向けで新たな販売先を模索し、さつまいもは地元洋菓子メーカーと品質向上を目指し試験栽培を行っている。
 
 No6は有機JAS生産の認証を受けている。現在、メークイン、大豆、生食スイートコーン、枝豆、かぼちゃなどの有機JAS生産を行い、平成22年は小麦の一部も有機JAS生産を行う計画である。また、No7は生食ゴボウに加えて、長ネギの試験栽培に取り組んでいる。これら作物の中には、すでに軌道に乗り、生産部会を通じて収穫機械の共同利用を行うような作物から、未だ「売り物になるものをどう生産するか」という段階のものまで存在している。
 
 新規作物であるが故に栽培経験がなく、種子・資材メーカーに指導を仰いでいる。しかし、成否はわからないが、生産者単独での取り組みでなく、JA職員が関わりを持ち、少量であっても販売する努力が行われていることが特徴である。このJAとタイアップした取り組みがJA帯広大正の強みであると考える。
 
 また、No1はだいこんハーベスタのコンテナ部の改良を機械メーカーと進め、育苗ハウスの倒壊を契機に全面積てん菜直播に取り組んでいる。てん菜直播はエン麦を播種、発芽、生育後にロータリー耕を行い、そこにてん菜の播種を行い発芽期の風害を避けようとする栽培法で、天候不順の平成21年度でも移植に劣らない収量を誇っていた。このような既存の作物、栽培法にも新たな創意・工夫が行われている。
 
 JAとタイアップした農家の創意工夫が地域ブランド戦略を生み出したのであり、この秘かな取り組みも同様であって、今後の地域ブランド戦略にさらなる期待が高まるのである。JA帯広大正の取り組みを支えているのは、一生懸命働いて所得をあげ、よりよい生活をしたいという農家・JAの行動である。この当たり前である「一生懸命な取り組み」が評価される情勢を望みたい。
 
 最後になったが、未だ農作業の残る中の調査にご協力いただいたJA帯広大正の農家の方々、青山営農振興部長をはじめとするJA職員の方々、十勝農業協同組合連合会鱈場企画室長に御礼申し上げる。
 

参考資料

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713