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EUのバイオエタノールをめぐる状況

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最終更新日:2010年8月4日

EUのバイオエタノールをめぐる状況

2010年8月

調査情報部調査課 係長 前田 昌宏

 
 
 EUのバイオエタノール生産においては、原料としてとうもろこしや小麦、てん菜などが利用されている。とうもろこしおよび小麦はでん粉原料作物でもあり、てん菜は砂糖の原料となる。このため、同地域におけるエタノール生産動向は、砂糖またはでん粉需給と関係が深い。そこで、本稿では、米国農務省の報告などを基に、EUにおけるバイオエタノール需給の現状についてまとめたので紹介する。
 

1.バイオエタノール関連政策

 2009年4月6日の欧州理事会において、「気候・エネルギー政策パッケージ」(The EU Energy and Climate Change Package) が採択された。このパッケージの一部として位置付けられている、再生可能エネルギー利用促進指令(The Renewable Energy Directive、以下「RED」)においては、バイオエタノールを含む再生可能エネルギーについて、2020年までに達成すべき目標として、次の3点が定められている。
 
 a.全エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を20%に引き上げること。同時に、輸送用燃料消費に占めるバイオ燃料の割合を10%以上とすることを各加盟国に義務付け
 
 b.温室効果ガス(Green House Gas)排出量を1990年比で20%削減すること
 
 c.エネルギー効率を20%向上させること
 
 以下では、これら目標のうち、バイオエタノールと関連性の深い a と b について概説する。

(1)消費目標

〜2020年までに輸送部門における総燃料使用量の10%をバイオ燃料に〜
 
 a の「全エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を20%に引き上げる」という目標は、EU全体での目標数値であり、加盟国ごとの数値はEU委員会が各国の実績や経済力などを考慮して設定している。(表1参照)
 
 
 加盟国ごとの数値を見ると、主要国では、フランス23%、ドイツ18%、イタリア17%、英国15%となっている。なお、2008年の実績(推定値)は、フランス7.5%、ドイツ7.7%、イタリア8.2%、英国2.6%で、EU全体では8.2%となっている。
 
 一方、「2020年までに輸送用燃料消費に占めるバイオ燃料の割合を10%以上とする」という目標は、すべての加盟国に一律で義務付けられている。EUの輸送部門における燃料使用量は、他の分野と比較して伸びが大きく、2020年までに毎年1%の割合で増加すると予測されている。そのため、エネルギーの安定的な確保や温室効果ガスの削減を図ることから、この目標が設定された。
 
 輸送用燃料消費の内訳は、ディーゼル類が約6割、ガソリン類は約4割とディーゼル類の消費量が多くなっている。こういった需給事情を反映して、ディーゼルに混合されるバイオディーゼルがバイオ燃料の約8割を占め、バイオエタノールは残り2割となっている。なお、非食用セルロースやバイオマスから生産される先進バイオ燃料(Advanced Biofuel)については、後述する温室効果ガス削減の観点から期待されているものの、技術面などで未成熟であり、相当量が生産されるには数年を要するとみられている。
 
 輸送部門に占めるバイオ燃料の割合は、増加傾向で推移しているものの、2010年は4%程度にとどまるとみられ、2010年時点の目標である5.75%が達成されることはないと見込まれる。(表2参照)
 
 
 
 

(2)持続可能性基準

〜化石燃料と比較して、バイオ燃料の温室効果ガスの削減率が35%以上であること〜
 
 b の「温室効果ガス排出量を1990年比で20%削減する」という目標に基づき、バイオ燃料については、持続可能な生産の確保無しにその利用を推進すべきではないとの考えから、「持続可能性基準(Sustainability Criteria)」が定められている。消費目標への計上や補助を受ける場合、この持続可能性基準を満たす必要がある。また、この基準は、EU域内で生産されるものだけでなく、第3国から輸入されるものにも適用される。
 
 具体的には、バイオ燃料として認められるためには、化石燃料と比較した温室効果ガスの削減率が35%以上なければならない。ただし、2008年1月時点で稼働していた工場については、2013年3月までの猶予期間が与えられている。さらに2017年からはこの削減効果基準は50%に引き上げられる。さらに2017年から生産が開始されるバイオ燃料は60%の削減効果が求められることになっている。
 
 REDで定められた品目別温室効果ガスの削減率は、表3のとおりとなっている。
 
 
 
 これによると、製造条件を限定しない小麦からのエタノール生産やパーム油からのバイオディーゼルは温室効果ガスの削減率が小さく、今後バイオ燃料として認められない可能性が高い一方、てん菜やさとうきびから生産されるエタノールは、前述した2017年の50%基準を満たしていることから、これらの原料から生産されるエタノールは有利な立場にある。また、この基準は、域内バイオ燃料産業の保護の役割を果たしているとの見方もある。
 
 このほか、原生林や森林地帯、法律や国際的な条約により指定された保全地域、自然草地などさまざまな生物多様性を持つ土地や炭素貯留機能の高い土地においては、バイオ燃料の生産は認められていない。
 
 なお、バイオ燃料の原料作物の生産に伴う間接的な土地利用の変化(Indirect Land Use Change、バイオ燃料用作物の生産により、当該土地で従来生産されていた作物等が別の土地で生産されることに伴う土地転換)による温室効果ガスの排出の影響について、EU委員会は2010年12月までに報告書を公表するとしている。
 
 

2.バイオエタノールの需給動向

(1)生産

(1)−1生産量の動向
〜増加傾向で推移する見込み〜
 
 EUにおけるバイオエタノールの主要な生産国は、フランス、ドイツ、ベネルクス諸国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ)、英国、スペイン、ポーランドである。生産量は、右肩上がりで推移しているものの、2007年および2008年は、原料となる小麦などの穀物価格が高騰していたことなどから、製造工場の稼働率は5割に達していなかった。
 
 しかしながら、2009年の生産量は、前年比約30%増となる34億8000万リットルまで急増するとみられている。これは、原料作物価格が2008年後半から急落し、2009年を通じても比較的低い水準で推移したためである。さらにバイオエタノール製造工程で生産されるDDG(Distillers Dried Grain、乾燥した蒸留穀物残さ)などの副産物価格が、植物性たん白の域内需要の底固さから堅調であったため、2009年下半期は、エタノール製造業者にとって過去最高の利益率を記録することとなった。
 
 生産量は今後も増加傾向で推移するとみられる。このため、生産能力は、2006年に24億4000万リットルであった生産能力は、2011年には80億リットル、生産量は、16億3000万リットルから53億8000万リットルまで拡大すると予測されている。生産能力の拡大を示す代表例として、2010年中の稼働が予定されている3つの大規模工場がある。このうち2工場は英国に所在し、生産能力はそれぞれ約4億リットルである。1工場は年初に稼働しており、もう1つは10月以降に稼働開始の予定である。英国は保管施設が十分でなく、国内需要も旺盛でないため、当該2工場で生産されるバイオエタノールは、大部分が国外向けとなるとみられている。また、残りの1工場はロッテルダムに所在し、その生産能力は4億8000万リットルで、6月から稼働している。
 
 しかしながら、製造事業者の利益率は、2010年1月以降のエタノール価格の下落に伴い悪化している。業界は、域内生産量の増加、消費の落ち込み、輸入品との競合―に伴う供給過剰を懸念しており、これらに対応するため、燃料向けから、飲料用や化学薬品、医薬品向けのエタノール生産へシフトしたケースも見られる。
 
 
 
 
 
 
(1)−2原料使用
〜2010年には、穀物生産量の3%、てん菜生産量の10%を占める見込み〜
 
 EUでは、バイオエタノールは主に、小麦、とうもろこし、ライ麦、てん菜から作られている。2009年のエタノール向け原料の使用量は、小麦が前年比53.0%増となる251万トン、とうもろこしが同86.4%増となる220万トン、ライ麦が同42.7%増となる137万トン、大麦が同34.5%増となる74万トン、てん菜が同1.3%減となる893万トンと推計される。穀物については、価格の下落から使用量が前年から大幅に増加しているが、てん菜については微減となった。これは、2007年後半から2008年前半の間は、穀物価格が高騰したためてん菜の利用率が高かったが、2009年半ば以降に砂糖の国際需給がひっ迫したことによるものである。
 
 2010年に予測される44億3000万リットルのバイオエタノール生産に必要となる原料は、約900万トンの穀物、約1000万トンのてん菜となっており、これはEUの穀物生産量の約3%、てん菜生産量の約10%を占める。また、DDGなどの副産物の生産量は330万トンに達し、主に国内の畜産飼料向けに利用され、これはEUの穀物飼料の約2%程度に相当すると予測されている。
 
 とうもろこしのバイオエタノール生産への利用は、スペインおよびハンガリー、ポーランドなどの中央ヨーロッパで増加するとみられる。例えば、ハンガリーでは、年間50万トンのとうもろこしを使用する工場が2011年末に完成予定である。これに対し、北西ヨーロッパでは、小麦を主原料とした生産が続くとみられる。
 
 
 
 

(2)消費

〜消費目標水準には達しないものの、堅調に推移〜
 
 生産量と同様、消費量も堅調に推移しており、2006年から2009年の間は、毎年8〜10億リットルの増加となった。2008年は原油価格が高騰したことから、エタノール需要は増加した。2009年については、原油価格が、急落した後緩やかに上昇したが、エタノール価格の上昇幅がそれよりも大きかったため、需要の伸びは鈍化することとなった。しかしながら、エタノール消費はバスやタクシー業界、公用車によって支えられ、増加傾向を維持している。
 
 今後は、消費義務目標や予定されているE10の導入などを考慮すると、2011年には60億8000万リットルに達すると予測されている。主な消費国は現在と同じくドイツおよびフランスであろうが、フランスが自給するのに対し、ドイツでは一部輸入に頼ることが考えられる。また、ベネルクス諸国、英国、スペイン、ポーランドでは生産余剰が発生し、輸出が見込まれるため、域内貿易が活発になるとみられる。
 
 
 
 

(3)輸出入

(3)−1貿易管理制度
 
 EUにおけるバイオエタノールの輸出入については、2つのHSコードが主に使用されており、無変性エタノールが220710、変性エタノール(*注1)が220720となっている。ガソリンとの混合物については、その割合に応じてほかのHSコードが使用されている。なお、バイオディーゼルについては、脂肪酸アルキルエステル(fatty-acid mono-alkyl esters)のHSコードが使用されているが、その化学組成によってほかのコードが使用されることもある。
 
 関税は、無変性エタノールが1リットル当たり0.192ユーロ(約21円、1ユーロ=109.31円、6月末日TTS相場)となっており、変性エタノールは同0.102ユーロ(約11円)である。英国およびオランダ以外の加盟国は、国内産業を保護するため、変性エタノールより関税の高い無変性エタノールに限ってガソリンとの混合を認めている。業界関係者の中には、エタノール混合物が、その混合割合によっては、「その他化学物質(HSコード3824)」と分類され、6.5%の従価税となる(1リットル当たり約0.025ユーロ、約3円)という抜け穴を指摘する声もある。
 
 また、EUは、エタノール輸入に関しての特恵貿易制度を有している。一般特恵関税制度(Generalized System of Preferences)、EBA(Everythig But Arms(*注2))及びコトヌー協定(*注3)に基づくものである。これらの対象となる国は、無税でEUにエタノールを輸出できる。
 
 また、このほかにエジプトとノルウェーも、EUへの無税輸出が認められている。
 
(*注1)加工・混合などの手段により飲用に適さないようにされたエタノール
 
(*注2)後発開発途上国50カ国で生産される武器以外の全産品(Everything but Arms)に無税、割当制限なしで市場参入を認める措置。
 
(*注3)EUとアフリカ・カリブ海・太平洋諸国(ACP諸国)との間で2000年6月に結ばれた国際協定。
 
 
 
(3)−2輸入の動向
 
 2009年におけるEUのバイオエタノール輸入量は9億リットルと、前年の11億リットルから約20%の減少となった。これは、ブラジルからの輸入減に加え、高い在庫率、国内生産量の増加、世界的な需給ひっ迫によるものである。
 
 2010年については、ブラジル国内市場での需要増や域内での生産量増加などからさらに減少し、7億6000万リットルと見込まれる。
 

3.まとめ

 EUでは、小麦やとうもろこしなどのでん粉原料作物のエタノール仕向け量は増加傾向にあるが、2010年における穀物のエタノール仕向け割合は3%と見込まれており、米国の38%(2009/10年度(9〜8月)におけるとうもろこしの燃料用エタノールへの仕向け割合、LMC社推定値)と比較すれば、でん粉需給への影響は限定的であると言えよう。また、てん菜のエタノール仕向け割合は10%と、穀物よりも高いが、これはEUが2006年以降、砂糖制度改革によって砂糖の生産量を削減し、てん菜の新たな用途としてバイオエタノール生産を振興した結果であると考えられる。
 
 しかしながら、2007年4月にEU委員会が試算した結果によると、2020年に輸送部門における総燃料使用量の10%をバイオ燃料が占めた場合、小麦やとうもろこしなどのバイオエタノール仕向け量は5900万トンと見込まれ、これは域内の総穀物需要量の19%に相当することとなる。この仕向け量は、単収の向上や休耕地の利用による生産増で対応できるとしているものの、価格については、2006年の水準と比較して3〜6%上昇すると予測している。こうしたことからも、砂糖やでん粉原料作物に与える影響を考慮し、引き続きEUにおけるバイオ燃料の動向について注視していきたい。
 
 

参考資料

米国農務省「EU-27 Biofuels Annual 2009」
 
EurObserv’ER 「The State of Renewable Energies in Europe 2009」
 
小泉達冶「バイオ燃料と国際食料需給」(農林統計出版)
 
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713