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十勝地方における野良イモの発生問題とその対策事例

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最終更新日:2010年9月1日

十勝地方における野良イモの発生問題とその対策事例

2010年9月

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター

寒地温暖化研究チーム 研究チーム長 廣田 知良

 

 北海道・十勝地方は、土壌凍結深の顕著な減少に伴いジャガイモ収穫跡畑では、前年度の収穫時にこぼれた小イモが越冬して、翌年に芽を出し雑草化する、「野良イモ」の多発を生じるようになった。
 
 この問題に対して、冬の農閑期に畑の雪割り(除雪)などで、野良イモを的確に防除する深さまで土壌凍結を促進させつつ、凍結が行き過ぎて春先の農作業に支障を来さないように凍結深を最適な深さにコントロールする技術が開発されつつある。
 
 日本を代表する大規模畑作地帯であり、我が国のジャガイモ生産量の30%以上を占める十勝地方では、1990年代頃から野良イモと呼ばれる新たな雑草の問題に悩まされています。野良イモとは、収穫後に畑に残った小イモが翌年に芽を出し雑草化することです(図1)。
 
 野良イモは後作物の生育阻害、各種病害虫発生要因になるため、防除が不可欠です。しかし、防除作業は人手で実施せざるをえず、野良イモの防除作業量は機械化・省力化による合理化で大規模輪作農業を展開している十勝地方においては深刻な労働負担となっています。
 
 
 
 なぜ、近年になって十勝地方で野良イモの問題が生じたのでしょうか。これには気候変動が関係しています。
 
 十勝地方の冬は寒さが厳しく、しかも断熱作用のある雪も比較的少ないため、土が凍る“土壌凍結地帯”として知られています。しかし、十勝地方・芽室町の(独)農研機構北海道農業研究センターの観測値では1980年代後半以前は年最大土壌凍結深が40−50センチメートル以上のことも珍しくなかったのですが、最近は土壌凍結深が著しく浅くなっており、凍結深が20センチメートル以下の年が多くなっています(図2)。
 
 つまり、これまでは土壌凍結によって凍死していた小イモが、凍死せずに越冬し翌年に芽を出し雑草化するようになり、野良イモが発生するようになったのです。
 
 
 それでは、なぜ土壌凍結深が近年減少しているのでしょうか。私たちはまず、地球温暖化の影響を考え、気温上昇がその要因ではないかと考えました。しかし、1980年代後半以降の土壌凍結深の減少傾向が現れてからの冬の気温を調べてみると上昇傾向はみられていないことがわかりました。つまり、気温は土壌凍結深減少の直接の要因ではありませんでした。
 
 ところで、雪には断熱作用があり、土壌凍結が発達するのは日平均気温が0度以下で積雪深が20センチメートルに達するまでの期間に限られています。そこで積雪を調べると、近年、初冬に積雪深が20センチメートルを超える傾向にあることがわかりました。
 
 つまり、初冬における積雪深の増加が土壌凍結深減少の直接要因でした。すなわち、これまでは土壌凍結によって凍死していた小イモが、近年は初冬に雪が早く積もることによって凍死せずに越冬し翌年に芽を出し雑草化するようになり、野良イモが発生するようになったのです。
 
 この野良イモの問題に対して、現在、冬の雪割りと呼ばれる技術が新たに開発されつつあります(図3)。これは、冬の間に断熱作用のある雪をトラクターなどの作業機械で除雪して、土壌凍結を促進し野良イモを凍死処理する技術です。この方法は一部の農家は実施し始めており、実際に効果をあげています。
 
 雪と氷で閉ざされた農閑期の冬に自然の雪氷資源を上手に利用して無農薬で野良イモ防除を行い、また大規模ほ場でも作業機械を用いれば、雪割り作業を1ヘクタールで1回につき数十分〜1時間以内と短時間で終えられ、除草の大幅な省力化を実現している点でも、優れています。しかも、気候変動(土壌凍結深減少)に対して、生産現場自ら自発的に適応した見事な実例でもあります。
 
 
 
 
 ただし、問題点もあります。雪割りをしても凍結深が深すぎると野良イモを凍死させることはできても、融凍が遅れて、ほ場排水に影響を及ぼし、春作業に支障を来すこともあります。逆に当初の見込みより凍結深が浅ければ野良イモの多くは越冬して生き残ります。雪割りによる土壌凍結促進による野良イモ防除は、まだ農家の試行の段階にあるのが現状です。
 
 そこで、私達も、野良イモ防除に有効でかつ、土壌凍結促進が作物や農地に悪影響を残さないよう最適な土壌凍結深を明らかにし、かつ最適な土壌凍結深に制御できる技術を確立する研究に(独)農研機構北海道農業研究センター、(道総研)十勝農業試験場、十勝農業協同組合連合会と共に取り組んでいます。
 
 これは私たちが開発した地温・土壌凍結深推定モデル(Hirota et al., 2002)を用いることで、農家の勘と経験に頼った現在の試行技術が、科学的な方法に基づく野良イモの発生予察、雪割りの作業必要性の判断、あるいは必要な場合に、実施のタイミングや期間を判定し、情報を発信するものです。
 
 農業と気象は密接に関わっています。これまでは、大規模土地利用型農業では天気任せにするしかなく、人為的な環境制御は不可能とされていました。しかし、野良イモ対策をきっかけとして実施されはじめた雪割り・土壌凍結深制御の対策技術は,これまで不可能とされていた大規模土地利用型農業での環境制御を部分的にも実現可能にするものと考えています。
 

引用文献

*1 Hirota et al : Decreasing soil-frost depth and its relation to climate change in Tokachi, Hokkaido, Japan.
J. Meteorol. Soc. Jpn, 84, 821-833. (2006).
 
*2 Hirota et al : An extension of the force-restore method to estimating soil temperature at depth and evaluation for frozen soils under snow.
J. Geophys. Res., 107, D24, 4767, 10.1029/2001JD001280.(2002).
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713



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