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でん粉製剤を使用した環境保全型農業への取り組み

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最終更新日:2010年10月5日

でん粉製剤を使用した環境保全型農業への取り組み

2010年10月

住友化学株式会社 アグロ事業部普及部 主任部員 西川 章

 

はじめに

 近年、消費者の食に対するニーズは、高度化・多様化が進んでいます。中でも品質が良く、より安全なものへの関心が高まっています。
 
 当社では、これらの多様化する消費者ニーズに応えるため、農産物への安全性が高く、環境にやさしい農薬の開発に取り組み、「でん粉」を有効成分とするソフトな殺虫・殺ダニ剤を開発し販売するに至りました。
 

「でん粉製剤」開発の経緯

 生産者の間では信頼される産地の確立に向けて、化学農薬を中心とした害虫防除のみに頼らず、天敵の活用や耕種的、あるいは物理的な防除法などを適度に組み合わせ、経済的に被害が生じない程度に害虫の密度をコントロールするIPM(総合的病害虫管理)の考え方が普及しつつあります。IPMの考え方が広まるにつれ、種々の天敵昆虫農薬や花粉媒介昆虫(マルハナバチ、ミツバチ)の利用が増えるとともに、これらの有用昆虫類に悪影響を与えない農薬の必要性が高まっています。
 
 一方、これまで数多くの殺虫・殺ダニ剤が開発、販売されてきましたが、ハダニ類やアブラムシ類など世代交代の速い微小害虫は、同じ作用性を持つ薬剤を使い続けると効力が低下する(いわゆる抵抗性が発達しやすい)ため、常に新しい作用性の薬剤の開発が望まれています。
 
 これらの現状や要望を念頭に置き、有効成分を探索した結果、食品として広く利用されているでん粉溶液がハダニ類やアブラムシ類などの微小害虫に高い物理的殺虫活性を示すことを見出しました。その後も検討を重ねた結果、1998年5月に野菜・花き類などさまざまな植物に使用できる「でん粉製剤(液剤)」を、2003年6月には主に果樹類に使用できる「でん粉製剤(水和剤)」を開発、販売しました。
 
 「でん粉製剤(水和剤)」の有効成分には、天然由来(原料は、ばれいしょおよびタピオカ)の食用でん粉を使用しており、日本農林規格(改正JAS法)の定める有機農産物の生産に使用可能な防除資材として認定されています。
 
 
 
 
 

「でん粉製剤」の特長

1.有効成分はでん粉

 「でん粉製剤」は、有効成分として食品に広く使用されているでん粉を使用しており、人畜に対して高い安全性を有し、環境に対する影響がほとんどない環境にやさしい農薬です。

2.物理的にハダニ類、アブラムシ類を防除

 「でん粉製剤」の作用性は、粘着効果による虫体の捕捉と気門封鎖による窒息によるもので、速効的に効果を発揮します。また、物理的な殺虫作用であるため、害虫の薬剤抵抗性発達の恐れがなく、化学農薬に対する抵抗性が発達した害虫に対しても安定した効果を発揮します。
 
 
 
 

3.有用昆虫・天敵類への影響が小さい

 「でん粉製剤」は、ミツバチ、マルハナバチ、カイコなどの有用な昆虫に対して影響がほとんどないことが確認されています。また、天敵類に対しても影響が小さいことが知られています。
 
 
 
 

天敵との組み合わせによる害虫類の防除

1.「でん粉製剤(液剤)」と天敵農薬チリカブリダニによる防除効果試験例

 「でん粉製剤(液剤)」とハダニの天敵であるチリカブリダニの体系散布によるいちご(施設栽培)のカンザワハダニへの密度抑制効果について検討した結果を図2に示します。「でん粉製剤(液剤)」とチリカブリダニをそれぞれ単独で処理するよりも両者を組み合わせることによって、長期間にわたってハダニの増殖を抑制する効果が認められました。
 
 「でん粉製剤(液剤)」は速効性がありますが、残効期間が短いため、1回の散布では、散布後日数の経過にともない、ハダニが再び増殖します。ちなみに、「でん粉製剤(液剤)」を単独で処理する場合には、5〜7日間隔で連続2回散布すると効果的です。また、天敵農薬のチリカブリダニはハダニの密度低下効果が現れるまでに時間がかかります。初期のハダニの密度が高かった今回の検討では、十分な密度抑制効果が得られなかったものと思われます。
 
 これに対し、体系処理では、先に散布する「でん粉製剤(液剤)」で初期のハダニ密度を低下させ、その後放飼するチリカブリダニの捕食効果によりハダニの増殖を抑制するものと考えられます。
 
 本技術の注意点として、「でん粉製剤(液剤)」は、チリカブリダニに直接かかると影響があるため、先に「でん粉製剤(液剤)」を散布し、薬液が乾燥した後にチリカブリダニを放飼する必要があります。また、天敵が十分に定着している場合には、害虫が集中的に分布する部位のみに「でん粉製剤(液剤)」をスポット散布すると効果的です。
 
 
 

2.「でん粉製剤(水和剤)」と土着天敵類による防除効果試験例

 かんきつ園では、通常夏季にミカンハダニが増殖するとともに、これを捕食するキアシクロヒメテントウやケシハネカクシ類などの天敵が飛来することが知られています。これらの土着天敵類に影響を及ぼさない「でん粉製剤(水和剤)」と土着天敵を活用したミカンハダニへの密度抑制効果について検討した結果を図3に示します。
 
 「でん粉製剤(水和剤)」の散布により、ハダニの密度を低く抑制する結果が得られました。土着天敵(主にハネカクシ類)の個体数は、「でん粉製剤(水和剤)」散布区で無処理区と同じ程度確認されており、「でん粉製剤(水和剤)」の散布による影響はほとんどなく、これらの土着天敵もハダニの密度抑制に寄与しているものと思われます。
 
 ミカンハダニは化学農薬に対してわずか数年で抵抗性を発達させる場合もあるので、物理的な効果で殺虫効果を示す「でん粉製剤(水和剤)」は、かんきつ園でのIPMによく適合するものと考えられます。
 
 
 
 

おわりに

 これまでご紹介してきました通り、「でん粉製剤」(商品名:「粘着くん液剤」、「粘着くん水和剤」)は有効成分であるでん粉の特性を生かし、天敵類に悪影響をほとんど及ぼさない環境にやさしい殺虫・殺ダニ剤です。速効性に優れる「でん粉製剤」と、持続的な効果を発揮する天敵類との組み合わせは、それぞれの効果を補完し合い、高い防除効果が得られるものと考えられます。
 
 このような、でん粉製剤の特性を充分に生かせる場面での活用方法を今後も検討し、近年注目されている環境保全型農業やIPMなどの流れに沿った、持続型農業をサポートする資材として広く活用されることを期待します。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713



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