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でん粉の生分解性プラスチックへの利用について

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最終更新日:2010年11月4日

でん粉の生分解性プラスチックへの利用について

2010年11月

沖縄県工業技術センター 食品・化学研究班 主任研究員 常盤 豊

 
【要約】
 
 でん粉がプラスチックの添加剤に利用されていること、でん粉を高分子として利用する技術や、でん粉を発酵原料とした技術が実用化されている現状など、でん粉を原料に用いた生分解性プラスチックの開発の経緯について概説し、さらに環境分野におけるでん粉の利用技術は、今後、バイオ燃料からバイオ素材へ研究開発の重点が移ると予想されることを述べた。
 
 

1.でん粉と生分解性プラスチックの関わり小史

 生分解性プラスチックは、使用後に微生物や酵素の作用を受け、最終的には水と二酸化炭素にまで分解されて、環境への負荷が少ないプラスチックである。代表例として、微生物が生産するポリヒドロキシ酪酸(PHB)をはじめ、石油を原料としたポリカプロラクトン(PCL)とポリブチレンサクシネート、乳酸を重合したポリ乳酸などがある[1]。特に、でん粉などのバイオマスを原料としたPHBとポリ乳酸は、二酸化炭素の発生削減にも寄与するとして注目されている。
 
 でん粉は、組成が単純(アミロースとアミロペクチン)、比較的均一な大きさの粒子(数ミクロン〜数十ミクロン)、結晶性、などの特徴をもった高分子素材としての利用が古くから検討されてきた。
 
 でん粉とプラスチックの関わりは、1973年に英国でポリエチレンに少量のでん粉を添加し、手触り感を紙に近づけようとしたのに始まる。1990年頃には、米国やカナダででん粉入りのポリエチレン製のゴミ袋やマルチフィルムが「生分解性プラスチック」として、登場してきた。しかし、これらは光などにより崩壊はするが、生分解しないことが明らかとなり市場から消え去った。今後、でん粉入りポリエチレンの袋やマルチフィルムが、生分解性ではなく、石油資源の節約(二酸化炭素排出削減)に寄与するとして、再び市場に導入されてくることはないのだろうか。
 
 

2.でん粉を用いた生分解性プラスチックの開発動向

 でん粉を原料とする生分解性プラスチックとしては、でん粉を高分子素材として利用した研究開発が先行した。1987年、スイス工科大ででん粉を直接射出成形する技術が開発された。耐水性を付与するため、でん粉を粒状のままPCLに配合したブレンド体や糊化したでん粉をPCLで包んだブレンド体も開発され、一部は実用化されている(図1)。一方、でん粉にグラフト化、エステル化などの化学修飾を加え、プラスチック素材にする研究も数多く行われたが、高い生分解性を保持し、かつ、機械的物性の優れたプラスチック素材はいまだ得られていない。
 
 最近、でん粉を酵素や微生物によって、低分子の糖質や有機酸、あるいはでん粉とは異なる高分子などに変換し、それらを原料とした生分解性プラスチックの開発が注目されている。
 
 米国のC社は、すでに、コーンスターチから醗酵生産したL-乳酸を用いて、ポリL-乳酸を工業生産して、フィルムや容器などとして、世界中で展開している。また、ポリD-乳酸の原料となるD-乳酸も、コーンスターチや糖蜜から発酵生産されている。ポリD-乳酸とポリL-乳酸からなるステレオコンプレックスは耐熱性に優れ、今後、自動車や情報通信機器などへの用途も期待される。
 
 
 
 さらに、生分解しやすいPHBやその共重合体の微生物による工業生産も、米国や中国において、コーンスターチを原料として行われている。一方、(R)-3-ヒドロキシ酪酸(3HB)から高純度PHBを開発するため、3HBを糖質から発酵生産する研究も盛んに行われている[2]。光学活性をもつ3HBは抗生物質やビタミンなどファインケミカルの原料であり、ヒトの血液中にも常に存在している。
 
 

3.今後の課題と展望

 地球温暖化対策のため、石油などの化石資源に代わって、バイオマスの利用が注目されている。すでに、トウモロコシやサトウキビなどを利用して、年間2000万キロリットル以上のバイオ燃料が生産され、自動車の燃料などに用いられている。その一方、最近、国連食糧農業機関(FAO)は、途上国の経済回復と食料価格の低下などの要因により、2010年の飢餓人口が過去15年間で初めて減少すると予測されるものの、飢餓人口はなおも9億人を超える状況であると警告している。
 
 そこで、食料と競合しないバイオマスとして、草や木のセルロース系バイオマスを効率的に利用するための技術開発が盛んに行われている。今までに、反すう動物やシロアリに学び、多くの技術が提案・開発されている。粉砕処理と微生物・酵素による分解に加えて、生き物では不可能な高温下での蒸煮処理や爆砕処理、強い酸・アルカリ処理などの各種の分離・精製技術を駆使し、セルロース系バイオマスをナノレベル(10億分の1)にまで処理できるようになってきた[3]。
 
 しかし、現状では、セルロース系バイオマスの利用技術は、でん粉や糖蜜(砂糖)に比べて、生産性が低く実用化の壁はまだ高いと思われる。また、でん粉や砂糖の生産者にとっては、価格安定化の戦略として、食料以外の用途開発も重要と思われる。
 
 一方、欧米では、バイオ燃料について、実際の二酸化炭素削減効果があるのか、開墾・原料栽培・生産・輸送を含めたライフサイクルアセスメントで評価し、食料競合の回避や生物多様性の保全も考慮して、一定の持続可能性基準を設定する取り組みが進んでいる。
 
 21世紀のグリーン産業を目指し、化石資源に代わって、太陽光、風力、バイオマスなどの再生可能資源を利用した技術開発が注目されている。自動車では、石油を使う内燃機関からスマートグリッド技術(次世代送電網。電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化できる送電網。専用の機器やソフトウェアが、送電網の一部に組み込まれている。)に支えられた電気自動車への移行速度を各国が競っている。今後、バイオマス利用技術についても、バイオ燃料からバイオ素材へ研究開発の重点が移ることが予想される(図2)。
 
 
 

文献

[1]Y. Tokiwa Y, Calabia B. P, Ugwu C. U, Aiba S, Int. J. Mol. Sci. , 10, 3722-3742(2009).
[2]C. U. Ugwu C. U, Tokiwa T, Aoyagi H, Uchiyama H, Tanaka H, J. Appl. Microbiol 105, 236-242(2008).
[3]遠藤貴士、Synthesiology, 2, 310-320(2009).
 
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