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中国におけるでん粉製品の生産・消費動向

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最終更新日:2010年12月27日

中国におけるでん粉製品の生産・消費動向
〜国際需給への影響力を増す巨大市場〜

2011年1月

調査情報部 調査課


【要約】

 中国は世界最大のでん粉製品生産国であり、2009年には、世界全体の4割を占める2800万トンを生産した。原料作物はとうもろこしが9割以上を占め、主産地の山東省では、国内で生産されるコーンスターチの約半分が生産される。
 消費量は、生産量とほぼ同水準となっている。中でもでん粉由来の甘味料需要が急速に増加しており、2000年から2007年にかけて、生産量は約5倍となった。引き続き年間10%程度の成長率を維持するとみられる。
 今後中国では、でん粉製品製造事業者の合理化や食品技術研究への投資が進むとみられ、化工でん粉などの生産拡大が見込まれる。これに対し、天然でん粉については、需要の増加に生産が追いつかず、短期的には輸入への依存が強まると見込まれる。

はじめに

 中国は、でん粉製品の世界最大の生産地であり、また一大消費国でもある。同国においては、コーンスターチをはじめとして、ばれいしょでん粉やタピオカでん粉などさまざまな種類のでん粉が生産、利用されているが、その生産や消費の実態については不透明な部分が多い。しかしながら経済の発展とともに需要量が増加傾向にあることから、昨今のとうもろこしやタピオカでん粉など国際需給における存在感を増しており、その実態の把握が求められている。
 そこで本稿では、このような中国のでん粉製品をめぐる生産および消費動向について報告する。

1.生産

(1)でん粉製品の生産の概要
 〜生産量は世界の約4割〜

 中国はでん粉製品の世界最大の生産国であり、2009年の生産量は2800万トンと、世界のでん粉製品生産量7200万トンの39%を占めた。
 でん粉製品のうち、天然でん粉の消費額は米国に次ぐ世界第2位であり、2008年は54億米ドル(約4,600億円、1米ドル=85.27円、11月末日TTS相場で換算)に達した。
 また、化工でん粉についても主要生産国の一つであり、生産量の50〜60%を消費する製紙分野を筆頭に幅広く使用されている。2004年の時点では、国内300の化工でん粉製造業者のうち年間生産能力が5000トンを超える企業はわずか20社で、ほとんどが1000〜2000トン規模であった。これに対し最近は生産規模の拡大が進み、2007年には総生産能力は90万トンにまで成長し、2008年には総生産額が7億米ドル(約600億円)となったと見込まれる。

図1 世界の地域別でん粉製品生産量(2009)
(2)でん粉原料作物の使用状況
 〜大部分はとうもろこし〜
 中国で使用されるでん粉原料作物は、とうもろこしが主となっており、2009年には4100万トンのとうもろこしから2580万トンのでん粉製品が生産された。とうもろこし以外では、キャッサバ由来140万トン(でん粉製品生産量の4.8%)、小麦由来50万トン(1.8%)、ばれいしょ由来30万トン(0.3%)、かんしょ由来10万トン(0.1%)といずれもわずかであった。
 とうもろこしを原料とするでん粉製品の全体に占める割合は増加傾向で推移し、1995年の80.5%から、2005年以降2009年に至るまで92%前後で推移している。このため、中国におけるでん粉製品生産は、とうもろこしの生産状況に大きく影響を受ける状況となっている。

(3)産業構造 〜製造業者の規模はさまざま〜
(a)概要
 世界におけるでん粉製品産業上位10社による市場占有率を地域別に見ると、EU90%、北アメリカ99%、南アメリカ77%に対して、アジアはわずか22%と特徴的になっている。(図2参照)
 中国におけるでん粉製品生産も、ほかのアジア諸国同様、原料作物の生産を含め、多数の小〜中規模層によって構成されている。特に、とうもろこし以外のものは発展途上である。
 中国政府は、自国のでん粉製品など穀物加工産業が、国際市場において競争力を持てるよう、企業の合理化、大規模化を進めている。また、ブランド化などによる高付加価値化製品の輸出も促進している。
図2 世界のでん粉製品上位企業による市場占有率
 図3に、中国におけるでん粉製品工場の分布図を示した。
 コーンスターチを見ると、山東省では、国内生産量の約1/2が生産され、その加工も盛んに行われている。同省では、でん粉産業は民間が中心となっているが、政府も輸出用コーンスターチを製造する協同組合を支援している。次いで、吉林省が生産量のおよそ1/4を占める国内第2位の生産地である。ここでは、政府の補助によって製造処理施設の効率性を向上させており、酸、化学製品、食品、食品添加物、医薬品、甘味料などの生産に重点を置いている。3番目に大きいのは河北省で、生産量の15〜20 %を占めると見込まれる。
 キャッサバ由来でん粉製品の生産については、広西壮族自治区が国内の2/3を占める最大の生産地で、次いで広東省が1/4を占める。
 また小麦でん粉については、原料小麦が河南省で生産されている。
 なお、ばれいしょでん粉については、でん粉情報2010年11月号調査・報告「中国のばれいしょでん粉需給」
http://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000018.html
を参照されたい。
図3 中国におけるでん粉製造工場の分布図
(b) 主なでん粉製品製造業者の概要
 ここでは、コーンスターチおよびばれいしょでん粉について、国内の主要製造業者の概要を紹介する。

ア.コーンスターチ

China Starch 社
 China Starch社は、山東省に本拠を置く国内最大のコーンスターチ製造業者である。コーンスターチと甘味料を生産、販売するほか、国内最大のリジン製造業者の一つでもある。製造工場は、寿光、臨清に立地し、寿光では45万トンのコーンスターチおよび5万5000トンのリジン、臨清では40万トンのコーンスターチおよび10万トンのとうもろこし由来甘味料の年間生産能力がある。
 最近、需要の増加が見込まれるとし、コーンスターチ165万トン、甘味料30万トンまで生産能力を拡大する計画を公表した。

Dacheng グループ
 Dacheng グループは、アジアで最も大きいとうもろこし加工企業で、かつリジン生産量では世界最大を誇ると自らを評している。6つの加工工場を持ち、グループ全体での年間処理能力は320万トンに達する。コーンスターチ、化学薬品、高タンパク飼料、リジンおよび甘味料を生産している。

Zhucheng Xingmao Corn Developing社
 Zhucheng Xingmao Corn Developing社は、飼料から燃料まで幅広い範囲の製品を生産している。とうもろこしの高度加工の主要企業の一つであり、コーンスターチおよび化工でん粉、イノシトールが主力である。 
 1993年に山東省で創業し、所有する7つの工場の合計とうもろこし処理能力は、年間400万トンを超え、従業員数も1万人以上と言われる。表1は、製品ごとの生産量であるが、これらを約40もの国に輸出していると報告されている。
 資産総額は50億元(約650億円、1元=13.03円、11月末日TTS相場で換算)、このうち固定資産額は26億元(約340億円)に上る。また、同社は、中央および地方政府が推進する複数の食品技術に関する研究のみならず、中国農業部が計画する地域に適した農業生産の促進にも参加している。
表1 Zhucheng Xingmao Corn Developing社の年間生産量
Chengfu Food グループ

Chengfu Food グループは、中国のでん粉市場における主要な非公開企業の1つである。黒龍江省に本拠を置く同グループは、年間40万トンのとうもろこし処理能力を持ち、飼料、リジン、MSG(グルタミン酸ナトリウム)、有機肥料、包装資材および甘味料を生産し、2006年の合計生産量は9万1720トンであった。従業員数は1300人で、主に東アジア諸国とロシアに輸出している。

イ.ばれいしょでん粉

China Essence グループ
 China Essence グループは、ばれいしょでん粉とその加工製品(インスタント麺など)の最も大きな製造業者の一つである。本部は北京、内モンゴル自治区、黒龍江省などの中国東北部に5つの支部がある。また、「碧港」、「東北」、「水牛」という3つのブランドを持っており、21省にある48の都市で使用されている。年間生産能力は、ばれいしょでん粉17万トン、ばれいしょでん粉由来製品2万2000トン、化工でん粉1万8000トンである。

Changhong Potato Starch社
 Changhong Potato Starch社は、河北省に位置し、年間1万トンの生産能力がある。ばれいしょでん粉の生産および加工工場を所有する。また、ほかの地域から持ち込まれるでん粉や野菜の加工も行っている。

Inner Mongolia Nailun Agricultural Science and Technology社
 Inner Mongolia Nailun Agricultural Science and Technology社は、年間生産能力が、ばれいしょでん粉10万トン、化工でん粉2万トンであり、推定資産総額は6億3000万元(約82億円)とされる。また、種子の開発、ばれいしょでん粉の高度加工と販売促進、より広範囲な化工でん粉の利用に関する研究も行っている。

Gansu Xingda starch industry Company社
 Gansu Xingda starch industry Company社は、甘粛省にあり、ばれいしょでん粉の年間生産能力は4万トンである。従業員数は68人である。

Runkai Xuanwei Starch Industry Company社
 Runkai Xuanwei Starch IndustryCompany社は、雲南省の宣威(年間生産能力3万トン)および大理(年間生産能力6万トン)でばれいしょでん粉を生産している。ばれいしょを加工するだけではなく、栽培、作付、伝播の技術研究やばれいしょでん粉化工機器の販売も行っている。
 2006年まではオランダのAvebe社の合弁会社であったが、現在は独立している。 従業員数は170人で、政府からの支援も受けている。

(3)天然でん粉の生産コスト 〜トン当たり約200米ドル〜

 図4は、2007年から2009年の3年間における世界の地域別原料別の天然でん粉の生産コストの平均値を比較したものである。中国のコーンスターチ生産コストは、トン当たり200米ドル(約1万7000円)と、タイのタピオカでん粉およびEUのコーンスターチと同水準となっている。天然でん粉生産コストは、原料価格や需給動向および内外の経済状況によって大きな影響を受ける。
図4 世界の天然でん粉生産コスト
2.価格の推移

(1)コーンスターチ

 図5は、中国におけるコーンスターチの工場出荷価格の推移である。1990年代後半から2000年にかけては、とうもろこしが豊作であったため、1996年のトン当たり340米ドルから2000年の同165米ドルへと大きく下落した。その後、2005年までは同170米ドル〜210米ドルの間で比較的安定的な推移を見せた。2006年以降は上昇傾向で推移し、2008年に同335米ドルに達した。2009年も同320ドルと300米ドルを超える水準を保っている。
 この価格上昇の背景としては、2008年の国際的な穀物価格の高騰や中国におけるとうもろこしの加工制限政策がある。中国政府は2007年以降、食用としてのとうもろこしを確保するため、工業用(でん粉製品、バイオ燃料など)仕向け割合の上限を国内生産の26%までとしている。
図5 中国のコーンスターチ工場出荷価格の推移
(2)ばれいしょでん粉

 中国では、ばれいしょでん粉の約8割が食品向けに利用されており、特に製麺向け需要が強い。
 原料価格によって左右されるコーンスターチとは対照的に、ばれいしょでん粉は利用される季節によって価格が決定する。中国での麺消費がピークを迎える9月〜翌3月に生産量の約2/3が流通する。
 中国ではばれいしょでん粉は、ほかの天然でん粉と比較して高水準である。国際的に穀物価格が上昇した2007/08年度(4月〜翌3月)、2008/09年度は、原料となるばれいしょ価格の上昇を受けて、ばれいしょでん粉価格も、トン当たり6188元(約8万600円)、5873元(約7万6500円)と高騰した。
表2 ばれいしょ及びばれいしょでん粉の出荷価格
3.消費

(1)でん粉 〜糖化製品向け4割、MSG向け3割〜

 中国におけるでん粉消費量は、生産量とほぼ同水準であり、2009年は2780万トンと推定される。このうち、とうもろこし由来の消費量は2550万トンと最も多い。次いでキャッサバ由来220万トン、ばれいしょ由来70万トン、小麦由来50万トンとなっている。
 コーンスターチは自給されている一方で、ばれいしょでん粉はEUから、タピオカでん粉は大部分がASEAN諸国(主にタイ、ベトナム)から輸入されている。
 とうもろこし由来のでん粉製品は、中国における急成長分野の一つである。1998年から2007年までの間に、とうもろこしの工業(でん粉、エタノールなど)仕向け量は4倍まで増加した。
 図6に、2000年から2009年における平均でん粉仕向け先割合を示した。これを見ると、ブドウ糖などの糖化製品が最も多く、38%を占める。
 次いで風味付けなどに利用されるMSGが30%となっている。中国は、世界最大のMSG生産国であり、最近では、年間400万トンのコーンスターチから150万トンのMSGが生産され、一人当たり年間消費量は0.5キログラムと推定される。MSG製造業者については、ここ数年で統廃合が進んでおり、小規模企業は原料高に伴う収益の悪化などから閉鎖するものもある。最近大きなシェアを占めているのは河北省のMeihua社、河南省のLotus社、山東省のLinghua社およびQilu社などの大企業である。
 また、リジンなどのアミノ酸の生産も国内飼料向けに急速に伸びている。リジンの生産には年間200万トンのコーンスターチが使用されている。
 化工でん粉向けは7%となっている。化工でん粉の用途としては、2005年では、製紙、繊維向けが約5割を占め、次いで飼料向け19%、食品向け11%と続く。(表3参照)
 エタノール向けとしては、2008年に1160万トンのコーンスターチが仕向けられた。現在のところ、中国国内には燃料用エタノール工場が5カ所存在する。このうち安徽省、黒龍江省、河南省、および吉林省の4工場が原料として穀物を使用しており、2008年の生産量は146万トンであった。なお、原料については、8割がとうもろこしで2割が小麦または米と推定されている。もう一つの工場は、広西壮族自治区に位置し、キャッサバから12万トン(2008年)の燃料エタノールを生産した。
図6 でん粉の仕向先割合
表3 化工でん粉の仕向け量
(2)でん粉由来甘味料 〜コスト安を背景に拡大傾向〜

 中国における甘味料生産は急速な成長を見せている。2000年から2007年にかけて、生産量は120万トンから590万トンまで増加し、今後も年10%程度の成長率を維持するとみられる。これは、砂糖よりもコーンスターチを利用した甘味料の生産コストが低いことが大きな要因である。なお、甘味料製造業者は、山東省、吉林省、河北省といったでん粉生産地にその多くが所在し、3省で国内生産量の約85%を占める。
図7 中国のでん粉由来甘味料生産の推移
4.今後の見通し 〜加工品は生産増も、天然でん粉は輸入 依存か〜

 中国のでん粉市場は、中長期的に成長を続けると見込まれ、中国国家糧油信息中心は、でん粉製品の総生産量は、今後10年間、毎年10%ずつ成長すると予測している。現在は、とうもろこしからのでん粉生産が主体であるが、今後はキャッサバ、ばれいしょからのでん粉生産が増加するとみられる。特に、ばれいしょでん粉産業は、生産能力に余裕があるため、政府も原料用ばれいしょの増産に取り組んでいる。
 成長を支えるために取り組むべき課題としては、より高いでん粉含有量を持つ原料作物品種の開発、バイオテクノロジーの開発と幅広い利用の開発―が挙げられる。専門家によれば、付加価値の高い化工でん粉やでん粉製品などについては、天然でん粉輸出の収益性が減少傾向にあるため、生産が拡大するとみられている。一方、天然でん粉に目を向けると、需要の増加に供給が追いつかず、短期的には輸入への依存が強まると予想される。
 このような市場の拡大を反映し、今後さらに製造業者の合理化や食品技術研究への投資が進むとみられる。巨大なでん粉需要国としてその存在感を増している中国については、でん粉需要を輸入に頼る我が国にも影響があるため、今後も引き続き生産動向などについて注視していきたい。
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