でん粉 でん粉分野の各種業務の情報、情報誌「でん粉情報」の記事、統計資料など

ホーム > でん粉 > でん粉のあれこれ > でん粉の調理特性

でん粉の調理特性

印刷ページ

最終更新日:2011年4月8日

でん粉の調理特性

2011年4月

広島大学名誉教授 井川 佳子

【要約】

 一口にでん粉といっても様々な種類があり、利用するときの性質に特徴がある。調理に利用する場合にはこの特徴を調理特性と言い、人々はそれぞれの調理特性を知って好ましい食感や外観の食べ物を作り上げてきた。ここでは、日常使用されることの多い、ばれいしょでん粉、かんしょでん粉、とうもろこしでん粉について、よく利用される調理を取り上げ、各でん粉の調理特性との関係を中心に解説した。

1.でん粉に共通した調理特性

 でん粉は直径5ミクロン程度(例:こめでん粉)から50ミクロン程度(例:ばれいしょでん粉)の大きさを持ち、日常生活においては粉体としてよりも適量の水と共に加熱して得られる糊やゲルの形で用いられることが多い。従って、糊やゲルの流動性や粘度、これに外力を加えたときの抵抗や壊れ方などの性質と同時に、透明感やつやなどの外観が利用するに当たっての重要な指標となる。

 さらに、実際の調理では糊化する温度や温度幅に加え、糊化した後の変化が調理方法や出来上がりの良否に影響するので、でん粉の基本的な性質は調理を科学的にとらえ、調理のこつを知る上でも関係が深い。こうした性質はでん粉の種類、即ち、どんな植物が貯蔵したでん粉かによって異なっており、さらに細かく見れば、各植物の品種や生育環境に依って異なってくる。このような詳細な違いについては個々の研究報告や解説書に委ね、ここでは要約で述べた3種の市販でん粉に絞って話を進めたい。

2.ばれいしょでん粉

 ばれいしょ(馬鈴薯;じゃがいも)の中でもでん粉用として栽培されているいもを原料に、国内では北海道を中心に製造され、一般には片栗粉という名称で売られている。でん粉そのものは他のでん粉と比べて粒径が大きくて白い。握りしめると、きしむような感触を持つ。

 懸濁液を加熱すると60℃付近で糊になりはじめ、さらに高温で透明感のある粘度の高い液状になる。ばれいしょでん粉0.5〜1%の糊液は、少しとろみのある薄くず汁やかきたま汁などの汁物として利用され、保温がよくなると同時に具材が沈むことを防止する。

 図1の写真は、卵を用いた代表的な汁物である「かき玉汁」について、汁にばれいしょでん粉を加えた場合(右)と加えない場合(左)の状態を示している。ばれいしょでん粉を加えない場合は明らかに卵の破片が沈み、加えると破片がふんわり浮かんで、全体に見栄えの良い出来上がりになっている。またばれいしょでん粉の添加は、調味して水溶きでん粉でとろみをつけた高温の汁に、最後に卵を流し入れる際にも役立っており、卵が薄膜状になりやすく、かき玉汁の理想とされる「むら雲」を思わせる状態に仕上げるための重要なポイントになっている。
 
 
 同様に3〜5%濃度のばれいしょでん粉を加えて加熱すると、八宝菜やあんかけ料理などのどろりとした汁となる。こうした料理は口当たりがよく、ボリューム感が増し、外観につややかさが加わる。また煮汁と具材を同時に絡めて食べることができ、煮汁中に溶出した成分を無駄なく摂取できる。ただし、調製直後の糊は粘性が大きく絡みやすいが、時間の経過と共に急激に粘度低下を生じるので、ばれいしょでん粉を加え仕上げてから、短時間の間に提供することが大切である。

 さらにばれいしょでん粉濃度を上げ、20%程度にすると透明感のあるゲルが得られ、くず桜や水まんじゅうの衣として利用されている。

 以上のように、ばれいしょでん粉糊が示す透明感、高い粘度、くせのなさ、ゲルの持つ独特の粘りと弾力は、料理を特徴づけると同時に好ましい食感や外観に寄与している。

3.かんしょでん粉

 かんしょ(甘藷;さつまいも)の主にでん粉用品種から製造されている。一般にはわらび餅用の粉として販売されているので、これをかんしょでん粉と認識していない消費者が多い。くずでん粉と似た性質を持っているので、精製度が高く大粒子の多い良品質の製品はくず粉の代用として利用されることがある。

 わらび餅を作る際は、水に粉が15〜20%程度となるようにきれいに懸濁させ、粉の沈殿を防ぐために、木じゃくしなどでゆっくりと鍋底からかき混ぜながら加熱する。70℃を過ぎると透明なかたまりが表れるので、撹拌の手を休めずに全体に透明感が出てから3分以上加熱する。この時点での加熱が不十分であると、粉臭さが残りゲルの老化が早く進行する。また、ゲルの白濁や老化を遅らせるために、5%程度の砂糖を懸濁液に加えておくと有効である。加熱終了後は水の中に少しずつ落とすか、内側をぬらしたバットに流してゲル化させる。

 かんしょでん粉はばれいしょでん粉に比べ白濁しやすいゲルを形成するので、長時間の冷却や放置は外観や食感を損なう。下に示した写真は、十分に加熱してほぼ透明な状態になってから、約20℃に1時間放置したかんしょでん粉ゲル(左)と、ばれいしょでん粉ゲル(右)を並べたものである。いずれも透明度は低下しているが、左のゲルの方が白濁が進んでいることが分かる。

 市販のわらび餅は店頭での保存時間が長く白濁が避けられないので、タピオカでん粉を用いたり、かんしょでん粉とタピオカでん粉を混合させたりして白濁を遅らせる工夫をしたものが多い。家庭で作る場合は、出来上がりから食べるまでの時間を短くすると良い。
 
 

4.とうもろこしでん粉

 菓子の材料として使用されることの多いとうもろこしでん粉は、コーンスターチの名称で知られている。ばれいしょやかんしょのでん粉に比べ小さな粒子から成っており、糊化する温度は65〜70℃とやや高い。 糊液にしたときの粘度は低く、透明感がない白さとなり、ゲル化しやすい。このような特徴から、ブラマンジェ(フランス語で白い食べ物)と呼ばれるゲル状の冷菓などに使用されてきた。

 とうもろこしでん粉で作るブラマンジェは、分量の牛乳(生クリームを加える場合がある)、砂糖、バニラエッセンスと、液体の10〜15%にあたるでん粉をよく混ぜ合わせ、撹拌を続けながら100℃近くまで加熱してでん粉を糊化させ、型に入れて冷やしたものである。液体が水の場合には、とうもろこしでん粉の湖化温度は65〜70℃であるが、牛乳中では5℃程度高くなり、砂糖が加わることでさらに高い温度で湖化が完了する。加熱終了の目安として、「鍋底から大きな泡が出はじめてから2〜3分以上の加熱を続ける」、と言われるのはこのためである。ジャムで作ったソースなどを添えて、ゲルの白さとのコントラストを楽しみながら食べる冷菓である。

 バタースポンジケーキにとうもろこしでん粉を使用する場合には、粉全体の1/2〜1/4をでん粉に代える。とうもろこしでん粉を加えると小麦粉100%に比べ湖化温度が上昇するので、ケーキ生地を適度のかたさや食感を持つケーキに仕上げるためには、十分な加熱が必要である。できあがったケーキはしっかりとしているが、もろさのある軽い食感になる。これは、ドイツ菓子としてなじみの深いフランククルタークランツなどの生地として知られている。

おわりに

 これまで記してきたように、でん粉それぞれの調理特性を知ることは、でん粉調理のこつを会得することである。また、この知識を利用して独自の工夫を加えた料理を生み出すこともできる。そのようなことに、この一文が役立てば、幸いである。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713