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でん粉原料用かんしょの育種の経過と今後の研究方向

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最終更新日:2011年9月9日

でん粉原料用かんしょの育種の経過と今後の研究方向

2011年9月

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 
畑作研究領域上席研究員 吉永 優


【要 約】

 でん粉原料用かんしょについては、長年、高でん粉・多収の育種が進められてきており、「ダイチノユメ」や「コナホマレ」など単位面積当たりのでん粉生産能力が優れた品種が育成されている。近年では、でん粉の付加価値向上をめざした育種も行われており、低温糊化性でん粉はその成果である。こうした原料用かんしょの育種の経過、品種の普及状況や今後の育種の課題について述べる。

1.高でん粉・多収をめざした育種の経過

 かんしょ育種において、高でん粉・多収は古くからの育種目標であり、最大多収をめざす挑戦が多くの先人たちによって進められてきた。高でん粉・多収の育種が本格的に行われるようになったのは、1937年に農林省酒精原料用指定作物試験地が鹿児島など3カ所に設置され、交配や選抜技術の基盤が整備されてからであろう。ただし、当時は第2次世界大戦前夜の緊迫した情勢にあり、国産燃料を確保するためアルコール原料用の育種が進められた。1942年には鹿児島の試験地で「農林2号」が育成された。本品種は主に九州で普及し、「コガネセンガン」が登場するまで、でん粉原料用として重要な役割を果たした1)

 戦後、国はかんしょ作農家の所得安定を図るため、でん粉生産や甘味資源としての利用を振興したことから、引き続き高でん粉・多収の育種が進められ、のちにでん粉白度などの品質も育種目標になった。1950〜60年代には「甘藷における遺伝的特性の解明と優良品種選抜法の開発」の研究が行われ2)、高でん粉・多収の育種法が確立された。その概要は以下の通りである。

 一般にかんしょは他殖性のため、自家受粉しても種子は実らず、近親交配を重ねると後代の生育は弱勢化する。ただし、自家受粉で結実する自殖可能な系統も若干存在するほか、近親交配による生育の弱勢程度も形質により差がある。当時、さまざまな品種を親にして自殖や近親交配などを行い、その後代のでん粉含量やいもの収量を調査した。その結果、でん粉含量は、自殖による弱勢化の程度が少なく、高でん粉系統の自殖後代で、でん粉含量の分布が高でん粉側に偏ることから、遺伝子の相加的効果の大きな形質であること、これに対し収量性は、自殖による弱勢化が大きく現れ、遺伝子の優性効果(雑種強勢)が大きい形質であることがわかった。

 こうした知見に基づいて、(1)近親交配などを行って相加的効果の大きいでん粉含量の遺伝子を集積した母本を養成する、(2)母本の相互交配から雑種強勢が大きく現れる組み合わせを検出する、(3)有望な組み合わせの種子を大量に採種して、でん粉含量の指標となる切干歩合(乾物率)について効率的な選抜を行う、という育種法が提案された。また、雑種強勢が大きく現れるように外国産遺伝資源など遠縁の品種を積極的に交配親に用いた。こうして1966年には、当時としては画期的な高でん粉・多収の「コガネセンガン」が育成された2)。その後も九州と関東の育成地において、それぞれ優良母本が養成され育種が進められた。1980年代には「シロユタカ」、「シロサツマ」など、現在のでん粉原料用の主力品種が育成された。2000年代になると「ダイチノユメ」や「コナホマレ」など、さらに単位面積当たりのでん粉生産能力が優れた品種が育成された。現在もこれらの品種の能力を上回る新品種の開発が続けられている。

2.でん粉の付加価値の向上や低コスト化をめざした育種

 近年、新工場で製造されたかんしょでん粉を用いて、かまぼこ、ラーメンなどの商品開発が行われており、かんしょでん粉の地産地消に対する関心が高まっている。ところが、かんしょでん粉には需要拡大に際して大きな課題がある。食品の品質に関わるでん粉の糊化特性などがコーンスターチとばれいしょの中間で特徴がない。このためかんしょでん粉の約8割は糖化製品用に使われており、安価なコーンスターチと競合している。そこで農水省は特徴ある高品質なでん粉により糖化製品用以外の固有用途を拡大する政策を推進しており、育種もこれに対応してきた。その成果が低温糊化性でん粉を含む「こなみずき」の育成である3)。「こなみずき」は、低温糊化性でん粉が初めて実用化された青果用品種「クイックスイート」(2002年育成)を母本に用いて、でん粉収量などを改良したものである4)。低温糊化性でん粉の糊化開始温度は、通常のかんしょでん粉より約20℃低く、他の作物のでん粉に比べても低い。従来のかんしょでん粉より耐老化性などに優れた高品質なでん粉であり、食品への利用拡大が期待される5)

 原料用かんしょ生産における課題は、栽培に労力がかかり、生産コストが高いことである。生産費の約7割を労働費が占め、10a当たりの労働時間は50時間程度で、特に育苗から定植に多くの労力を要する。このため植え付け機の改良6)などが進められており、今後の成果が期待される。一方、九州沖縄農業研究センターでは、省力化をめざしてばれいしょのように種いもをほ場に植え付ける直播栽培が可能な品種の開発に取り組んできた。直播栽培は苗生産や植え付け作業が不要になり、播種、畦立て、マルチの機械化一貫作業体系が期待できる。直播栽培では親いも(種いも)が肥大すると、蔓根いも(子いも)の収量が低くなるため、親いもの肥大が少なく、蔓根いもを多く着生する品種が必要である。最近では直播栽培でも挿苗栽培並に多収を示す系統が選抜されてきている。ただし、でん粉含量の向上や加工適性の改良を重点的に進めていく必要がある。

3.でん粉原料用品種の普及状況や課題について

1)シロユタカ(1985年九州農業試験場(現:九州沖縄農業研究センター)育成)
 でん粉原料用の主力品種で栽培面積は約4,500ha。「コガネセンガン」より多収で、栽培条件にかかわらず収量は安定している。でん粉歩留は24%程度で「コガネセンガン」並。萌芽性が優れ、病虫害にも比較的強い。鹿児島県全域で栽培されている。

2)シロサツマ(1986年農業研究センター(現:作物研究所)育成)
 栽培面積は種子島地域を中心に約500ha。いもの収量性やでん粉歩留は「シロユタカ」並み。萌芽性やいもの貯蔵性は良好である。

3)コナホマレ(2000年九州農業試験場(現:九州沖縄農業研究センター)育成)
 栽培面積は100ha程度で減少傾向。「シロユタカ」よりでん粉歩留は2ポイント以上高く、収量は2割ほど多い。萌芽数はやや少なく、節間が長い苗になるので、育苗や採苗がしにくく、植え付け時の節数が少なくなると、いも個数が減って減収する。また、いもの貯蔵性がやや難で、掘り取りが遅れると軟腐病が発生しやすい。

4)ダイチノユメ(2003年九州沖縄農業研究センター育成)
 栽培面積は約400ha。収量性、でん粉歩留は「コナホマレ」と同程度である。いもの貯蔵性が良好で、センチュウにも強い。いもの形状が長紡錘形で、特にマルチ栽培において長くなりやすい。このため収穫時にいもの先端が切断されやすいので、掘り取りの際には注意を要する。原料コスト低減に向けて、今後の普及の取り組みが望まれる。

5)こなみずき(2009年九州沖縄農業研究センター育成)
 低温糊化性でん粉品種。栽培面積は数ha程度。収量性、でん粉歩留は「シロユタカ」と同程度。ただし、多収をねらう長期マルチ栽培では収量が劣る。平成23年3月、農林水産省の「農業新技術2011」に選定され、生産現場に迅速に普及・定着させる必要がある品種として位置づけられた。

4.今後のでん粉原料用かんしょ育種の課題

 一層の高でん粉・多収品種の育成に取り組む必要がある。通常のでん粉については、長年の育種によりでん粉含量に関する遺伝子が集積されているが、低温糊化性でん粉については、育種開始からまだ10年程度しか経過しておらず、母本が限られ、改良に時間を要する。また、低温糊化性でん粉は劣性形質で後代の出現頻度も低い。このため、低温糊化性でん粉の効率的な選抜法の開発・利用により育種を加速させる必要がある。一方で、特色あるでん粉を作出するため、アミロース含量や粘度特性などについて改良を進めていかなくてはならない。そのほか生産者のニーズに対応して、育苗や収穫がしやすい品種の育成も重要である。また、植え付け機などの技術開発に対応して、苗の質や再萌芽性などの選抜も重要になるであろう。

文 献

1)樽本 勲、さつまいもでん粉人列伝〜2. 長谷川浩と農林2号〜、でん粉情報2009年12月号

2)樽本 勲、さつまいもでん粉人列伝〜3.坂井健吉とコガネセンガン〜、でん粉情報2010年2月号

3)片山健二、新しい低温糊化性でん粉品種「こなみずき」の特性、でん粉情報2011年4月号

4)片山健二、でん粉原料用かんしょの品種育成について、でん粉情報2008年3月号

5)片野豊彦、かんしょでん粉の特性とその利用、でん粉情報2008年7月号

6)鹿児島県農業開発総合センター・大隅支場、さつまいも挿苗機の開発・改良、でん粉情報2009年1月号
 
 
 
 
 
 
 
 
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