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北海道産ばれいしょでん粉を使った冷麺

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最終更新日:2012年2月10日

北海道産ばれいしょでん粉を使った冷麺

2012年2月

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター 
上席研究員 野田 高弘

はじめに

 ばれいしょでん粉は、他の食用のでん粉と比較し粘度が高く、膨潤度が大きいといった他のでん粉にない優れた特性があり、この特性を活かした多岐に渡る用途がある。本稿では、ばれいしょでん粉と最近育成された超強力粉「ゆめちから」を用いた北海道産原料100%の冷麺の開発について概説する。

1.冷麺原料

 冷麺の起源は韓国であり、ソバ粉、緑豆粉、小麦粉、ばれいしょでん粉、さつまいもでん粉等を原料に製造されている。冷麺には、透明感、弾力性を有するといった特性がある。冷麺は、我が国では盛岡冷麺が最も有名で、一般的に、小麦粉とばれいしょでん粉の混合粉にかん水を配合して生地を調製し、押し出し装置を使用することで製造できる。冷麺の特性は、原料の種類や配合比によって左右される。盛岡冷麺は、ゴムのような弾力性が特に強いことが特徴であり、ばれいしょでん粉の特性が活かされた製品の一つである。ばれいしょでん粉の配合割合としては、30〜70%が最も望ましく、20%以下だと盛岡冷麺らしい強い弾力性が不十分となる。鹿児島県においては、ばれいしょでん粉の代替として、さつまいもでん粉を利用した冷麺の製造に関する研究が実施され、さつまいもでん粉の冷麺は、ばれいしょでん粉を用いた冷麺とは異なり、ソフトな食感であることを明らかにしている1)。最近、北海道農業研究センターにおいて超強力小麦である「ゆめちから」が育成された。超強力小麦粉は、パンや麺の形を保つ働きをする小麦タンパク質であるグルテンの弾力性が極度に強いといった特徴がある。超強力小麦粉を、国内産中力小麦粉に混合することによりその脆弱な生地物性が改善され、強力粉として利用できる。また、ばれいしょでん粉、かんしょでん粉、コーンスターチなどのグルテンを含まない粉と混ぜてもコシが強く切れにくい麺類が製造できると考えられる。そこで、「ゆめちから」の超強力小麦粉とばれいしょでん粉との混合粉を用いれば、北海道産100%の原料を用いた高品質の冷麺が製造できる可能性がある。

2.冷麺原料としてのばれいしょでん粉に望まれる性質

 根茎でん粉にはリンがでん粉中のグルコースにエステル結合したリン酸基の形で存在するが、ばれいしょでん粉にはこのようなリン酸基が特に多いことで知られている。また、ばれいしょでん粉は他の起源のでん粉と比べ粒子径が大きい。でん粉のリン酸基や粒子径は、でん粉の物性に影響を与えていることは知られていて、リン酸基を多く含み大粒径ものは粘度が高いということが判明している。そのため、ばれいしょでん粉は他の起源のでん粉と比べて粘度が極めて高いといった固有の特徴がある。一方、ばれいしょでん粉の特性には品種間で差異が認められており、現在でん粉原料用としての主力品種である「コナフブキ」は、これまで主力品種だった「紅丸」に比べ、リン含量が高い、粒径が小さいことが知られている。

 当センターでは、ばれいしょでん粉の更なる用途開発を目的として、品種別ばれいしょでん粉特性の研究2)やばれいしょでん粉を利用した新規食品の開発研究3)をこれまでに実施している。このような中で、リン含量やメジアン径(注)の大きく異なる13種のばれいしょでん粉(リン含量は500-1132ppm、メジアン径は25.8-42.0μmの間にそれぞれ分布)と「ゆめちから」の超強力小麦粉との混合粉(ばれいしょでん粉:小麦粉=1:1)を用い、ノズル押し出し式により冷麺を試作し、特に強い弾力性を有する冷麺原料として、ばれいしょでん粉に望まれる性質についても検討した。茹で時間4分の冷麺について切断試験を行い、破断力(BF)、破断変形量(BD)について求めた。BF/ BD値が高いものほど弾力性が強く良食感の冷麺であると判断した。図からBF/ BD値は、ばれいしょでん粉のメジアン径と負の有意な相関が、リン含量と正の有意な相関が認められた。以上の結果から、粒径が小さくリン含量が高いタイプのばれいしょでん粉と「ゆめちから」の超強力小麦粉を用いることにより、良食感の冷麺を製造できることが明らかとなった。

(注)ある粒子を2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量になる径について定義される。平均径とはごくわずかであるが異なる値となる。粒度分布の測定装置では一般にはメジアン径が算出される。
 
 

3.「コナフブキ」でん粉の冷麺への利用

 ばれいしょは北海道の畑作地帯において基幹的作物であり、その約半数がでん粉原料用として利用されていて、でん粉原料用品種である「コナフブキ」、「紅丸」、「アーリースターチ」、「アスタルテ」、「サクラフブキ」等が作付けされている。現在では、「コナフブキ」が約1万5000haの栽培面積に達し、でん粉原料用品種全体の90%近くを占めている。一方、これまで主力品種だった「紅丸」は、ここ数年での落ち込みは激しくなっている。「男爵薯」をはじめとする生食用品種や「トヨシロ」をはじめとする加工用品種において、規格外のはね品がでん粉用に向けられ、ばれいしょでん粉生産量の約20%が、これらのはね品に由来する。

 現在、北海道のばれいしょでん粉の大部分は農協系の大規模でん粉工場で製造されており、品種別のばれいしょでん粉はほとんど製造されていない。しかしながら、「コナフブキ」の割合が極めて大きいため、大規模でん粉工場で製造されている大部分のものについては、「コナフブキ」の割合が70%を超えていて、「コナフブキ」主体のでん粉と考えて良い。「コナフブキ」は、これまでの主力品種だった「紅丸」に比べ、リン含量が高いため、離水しやすいといった欠点があり、水産練り製品、タレ、ソース等の固有用途の一部で不評となっている。上記の研究成果により、大規模でん粉工場で製造されていて安定供給が確保されているリン含量が高いタイプの「コナフブキ」主体のでん粉を冷麺に利用すると製品の品質向上につながることが明確にできた。

4.冷麺タイプの新規の麺「十勝じゃが麺」開発

 現在、地場産農産物を利用した付加価値の高い製品等を創出することが全国的に取り組まれている。これまでに北海道産の小麦粉を使用したラーメン、うどん、パスタは存在したが、北海道産原料のみの冷麺は存在しなかった。そこで、上記の研究成果に基づいて、山本忠信商店株式会社と西山製麺株式会社が共同で、北海道十勝産「コナフブキ」主体のばれいしょでん粉と北海道十勝産「ゆめちから」の超強力小麦粉を用いて、冷麺タイプの新規の麺「十勝じゃが麺」(写真)を開発した。「十勝じゃが麺」は、トマトのイタリアンソース、暖かい「つけ麺」の汁、冷たい汁のいずれでも好評を博しており、商品形態としても、多岐にわたっている。既に、北海道十勝管内のホテル・旅館で紹介されていて、商品化を目指した取り組みが行われている。今後、「十勝じゃが麺」の販売拡大による北海道十勝産ばれいしょでん粉、小麦粉の消費拡大に期待しているところである。
 
 

参考文献

1)田丸保夫,食品と技術,9,22-24,2008.
2)野田高弘,でん粉情報,10,9-13,2008.
3)野田高弘,でん粉情報,11,18-22,2008.
このページに掲載されている情報の発信元
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