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世界のキャッサバの生産動向

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最終更新日:2012年5月10日

世界のキャッサバの生産動向

2012年5月

東京農業大学 准教授 稲泉 博己
 

【要約】

  キャッサバは中南米原産のイモノキ(Manihot)属の根茎類である。現在世界のほとんどの熱帯地域で栽培されているが、特にアフリカ地域ではトウモロコシに次ぐ第2の主食として重要である。一方アジア地域では食用作物としてよりも、タイなどをはじめ輸出用作物、工業原料化が進んでいる。さらに原産地域中南米では、これまで伝統的食料として一定の需要はあったものの、研究開発に関してあまり関心の対象とならず、工業原料化という点ではアジアに遅れてしまった。ところが近年アフリカ、中南米においてもキャッサバを取り巻く環境が変化しつつある。工業用でん粉はもとより、バイオ燃料需要にも注目されている。そこで本稿ではキャッサバの歴史から最近の世界の生産状況、さらに今後の動向について検討した。

1.キャッサバの歴史と作物的特性

 キャッサバは中南米原産のイモ類だが、アフリカでは既に16世紀に、またアジアでも19-20世紀に拡大した。このうちアフリカにおけるキャッサバ栽培の第一の契機となったのが、コンゴ王とポルトガル人との緊密な関係と考えられている。第二の契機は、後の植民者による救荒対策としての栽培奨励であり、またより重要なのはキャッサバが現地の農法に適合していたことであるとされている。さらにナイジェリアのキャッサバ拡大の要因について、国際熱帯農業研究所(IITA)の研究によれば、a)収益性、b)多様な加工可能性、c)gari(ガリ)注)調理の簡便性、d)ヤムイモやコメに比べ安価、e)他作物が育ちにくい土壌や気候条件下でも良く育ち繁殖も容易、などをあげている。

 同じアフリカ域内でも、キャッサバ導入の契機やその後の拡大の状況は一様ではない。しかしその一方でアフリカのみならず、世界の熱帯地域に広まったキャッサバには奇妙な共通点もある。例えば原産地ブラジルでは“cultura de pobres”、またアフリカ地域でも“poor man’s food”、“neglected food”あるいは“women’s crop”などと呼ばれ、さらに比較的遅く伝わったとみられる東南アジア、インドネシアでは“makanan orane miskin”とみなされるなど、日本の「イモ野郎」同様いずれの地域でも「貧者の食べ物」として蔑称を与えられているのである。このことはもちろん上述の導入・普及の歴史が影響しているとみられるが、それは逆に昨今の食料情勢の中で重要性が再認識されていることと表裏一体の関係にあると言えるだろう。

 他方キャッサバには有毒な青酸生成物質(シアン化グルコシド等)が含まれ、一般にその多寡によって生食可能な甘味種と解毒のための加工を必要とする苦味種に分けられている。ところがシアン化合物の多寡と形態的な差異との関連はなく、分類学的に言えばどちらも同じManihot esculentaであり、形態差は品種の違いに過ぎない。また短い保存期間=生キャッサバ収穫後72時間で傷むという性質があり、輸送網が整備されていなければ生食利用の範囲は生産地周辺に限定される。これらの特徴もあり、キャッサバは世界各地で様々な加工法が見られる。特に食料品の加工法には、各地で様々に工夫され、貴重な食文化を表したものと言える。また通常利用する地下部=根だけではなく、植物全体が利用されている。アフリカ地域の一部でも、葉が重要なタンパク源として利用されている。また茎は植え付け資材として取引されている。

注)主に西アフリカで見られる、キャッサバを加工して作られる食品

2.世界のキャッサバ生産と加工の概況

(1)世界のキャッサバ生産

 FAOデータベース(FAOSTAT)を用いた図1−5によれば、1961年以降ほぼ50年の期間中、世界全体で見たキャッサバ生産量は2倍以上に増加している。しかし最近年においては、これまで世界のキャッサバ生産をけん引していたアフリカとアジアの生産の伸びが鈍化している(図1)。この理由は図2に明らかなように、これまでキャッサバ生産をリードしてきたナイジェリアとタイ、特に病害発生によるタイの落ち込みが影響しているものと見られる。これらの国に代わって近年生産を伸ばしているのは、インドネシア、ガーナ、アンゴラ、さらに生産量そのものはまだそれほど大きくないものの、カンボジアの増産の勢いが目覚ましい。このように世界のキャッサバ生産はより多くの国々が加わってきていると見ることができるだろう。
 
 
 
 
(2)世界のキャッサバ生産性

 キャッサバの生産性に関する図3では、図1、2の生産量とは異なった変動がみられる。まずアジア地域では近年まで順調に生産性を伸ばしてきていたが、中南米地域は変動幅が大きい。また最大の生産地域であるアフリカは、生産性上昇の速度が遅く、近年ようやく1haあたり平均10トンに達した。すなわちアフリカ地域の生産量の伸びは、主に作付面積の拡大によるものと言える。これを続けることは、可耕地面積の減少から既に限界である。換言すればアフリカのキャッサバ生産は、一層の生産性の向上が必要である。さらに病害や気候変動に対応する必要も含め、品種改良等科学技術への投資も不可欠である。
 
 
(3)キャッサバ貿易

 次いで3大熱帯地域におけるキャッサバの貿易量に関しては、アジア地域以外では貿易に回る量が少ない。そうした中、ここ10年に関して言えば、経済の成長に伴って中国の輸入量が群を抜いている。一方輸出はタイが突出しているが、輸入・輸出いずれにしても年変動が非常に大きいことが図4、5からも明らかである。
 
 
 
 

3.キャッサバ加工利用の趨勢

(1)食品

 食品として基本的には生食、粉、でん粉に大別できる。

 先述のようにキャッサバには有毒な青酸生成物質が含まれているが、比較的濃度の薄い生食可能な甘味種の生食利用は茹でたり揚げたりするものが主流である。ブラジル南部では、この生食需要の伸びに応えて15年ほど前から、皮むき機−裁断機−パッキング機を備えて生食用キャッサバの大量生産に乗り出した組合も現れている。

 次にキャッサバをすりおろし、脱水・乾燥させた粉をブラジルではファリーニャ・デ・マンジョカ(キャッサバの粉)と呼ぶ。これは西アフリカのガリなど世界各地に見られるキャッサバ粉と同様の製法を持つが、地域の嗜好により風味や色に差異がある。風味は加工精製の際に発酵過程を経るかどうかで酸味が生ずるものとそうでないものに分かれる。前者はすりおろしてから流水やたまり水に3日間程度さらすことで解毒するため、この浸水期間に自然発酵が進むことによって独特の酸味が生ずる。後者は、すりおろした後直ちに脱水・加熱乾燥するもので、これによって98%の青酸生成物質除去が可能であること、また前者に比べ簡便かつ、機械化にも適しているので急速に普及している。さらに浸水発酵過程を経ていないので酸味もなく、この点でも広く受け入れられている。粉の色に関しては加工に用いられるキャッサバそのものの色の違いから生じる。

 ブラジルででん粉を意味する言葉のうち、まずアミド(amido)とは植物性炭水化物のうち主に地上部のものから精製されるもの、例えばコムギやメイズなどのでん粉を指すことが多い。フェクラ(fcula)は主として地下部つまり根菜類のでん粉を指す。そしてポルヴィーリョ(polvilho)はキャッサバ・でん粉のみを指す。こうした言葉の豊富さはキャッサバの重要性を示していると考えられる。このうちポルヴィーリョは、すりおろしたキャッサバから搾り取った液体に含まれるでん粉を抽出したものである。伝統的な製法には人手は余りかからないが、長い精製過程を要することや、特殊な環境が要求される。

 このポルヴィーリョに関しても、特殊な環境条件に左右され、質量ともに不安定だったものが、ポン・デ・ケージョ注)の国内における急速な普及という劇的な需要増を受け、大きく様変わりしている。先のファリーニャ加工同様、不安定かつ長期間を要する発酵過程を省略したもの、すなわち酸味の無いポルヴィーリョ(polvilho doce)が主流を占めている。ここでも煮沸とその後の加熱乾燥によって、発酵過程を経ることなく解毒ができるという科学的成果に基づいて大量生産が可能になった。同時に一般には敬遠されていた強い酸味が、それを付与する発酵過程を省略したことにより無味化されたことで、受け入れられたものと考えられる。

注)キャッサバでん粉で作ったチーズパン


(2)工業用でん粉

 工業用でん粉とは、食品はじめ、製紙、プラスチック、繊維、製薬、化学素材他、様々な用途に使われるでん粉であり、先の図5に見られるように先進国はじめ、新興国においても多くの需要がある。従来北アメリカではメイズ、ヨーロッパではジャガイモからでん粉を抽出して利用してきた。日本では多くを輸入してきており、最近ではタイからキャッサバ・でん粉を輸入するようになっている。

 キャッサバ・でん粉生産は他のメイズ、ジャガイモ・でん粉などに比べ、でん粉抽出が比較的容易であり、コストが安いなど、多くのメリットを持っている。しかし問題は、生産国内での生産量の不安定さとそれに伴う価格の大きな変動であった。その理由として、単年生の他原料作物と異なり長いもので2年以上の生育期間が必要であること、伝統的食料作物として他の穀類のように投資がなされてこなかったため、技術の停滞を招いてしまったとも考えられる。そうした状況がここのところ大きく変わってきたのは、研究の進展により同じでん粉でもその組成の違いにより、全く異なる性質を持つことが解明されてきたことにある。例えばコムギのパン製造に際して、その膨張や食感形成に不可欠の要素としてコムギ・でん粉にはグルテンが含まれる。これに対するアレルギー症(セアリック症等)について、健康食品業界では様々なグルテン・フリー製品が考案製造されているが、キャッサバ・でん粉は元々グルテンを持たない上に、膨張力が高いという特徴がある。その他薬品製造において、他のでん粉よりも化学反応が起こりやすいとも言われるなど、新たな需要が生じてきたことが大きい。

4.キャッサバ生産・加工利用の将来に向けて

 キャッサバを取り巻く状況は各生産・消費国内においても、そして国際的にも、それぞれダイナミックに変化していることが明らかとなった。こうした機運を捉え、今後のキャッサバ生産、加工利用の進展に関する国際的な取り組みは、従来ともすると一方通行に陥りがちだった技術移転の弊害を乗り越え、多くの関係諸国が対等な立場で、それぞれが持つ経験やアイディアの蓄積を相互に情報交換することが極めて重要になるのではないかと思われる。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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