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ばれいしょでん粉品質改良の取組み

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最終更新日:2012年7月10日

ばれいしょでん粉品質改良の取組み

2012年7月

地方独立行政法人北海道立総合研究機構 農業研究本部
 北見農業試験場作物育種グループ 研究主任 池谷 聡
(現北見農業試験場地域技術グループ 研究主査)

 

【はじめに】

 北見農業試験場では、でん粉原料用ばれいしょのでん粉品質の改良のための育種を行ってきた。平成22年には、固有用途に適する「紅丸」の品質と「コナフブキ」の収量性を兼ね備えた「コナユキ」を育成した。その後は、さらなる収量性と品質の改良を目標にして品種育成を行っている。

1.でん粉品質について

 ばれいしょでん粉の用途は大きく糖化用途と固有用途に分かれる。

 糖化用途のでん粉は、特にばれいしょでん粉である必要はなく、糖化用途原料でん粉全体に占めるばれいしょでん粉の割合はごく一部で、約90%をコーンスターチが占めている。

 一方、固有用途は、糊になる温度が低く、糊の粘度が高い等の、ばれいしょでん粉特有の性質を活かした用途であり、水産練り製品、片栗粉、即席麺や春雨等の麺製品、海老せんべい等の菓子類等である。固有用途は、ばれいしょでん粉の需要を維持していく上で重要である。

 このように、固有用途は重要だが、平成元年から平成17年まで一貫して固有用途の需要量は減少している(図1)。この間平成7年まではヨーロッパから輸入されたばれいしょでん粉が、それ以降(矢印で示す)は主にタイから輸入されたタピオカでん粉が、固有用途の減少量とほぼ同じだけ増加しているので、これらのでん粉に置き換わったと推測される。一方、でん粉原料用ばれいしょの主力品種も、この期間内に「紅丸」から「コナフブキ」に置き換わった(図2)。「コナフブキ」はでん粉含有率とでん粉収量が「紅丸」より高く、生産者やでん粉工場にとって経済的に有利であったのが置き換わった理由である。しかし、固有用途には「コナフブキ」より「紅丸」のでん粉品質が適するといわれている。そのため、固有用途の減少は、価格的な面もあるが、品種が入れ替わったことによるでん粉品質の低下も一因と考えられる。
 
 
 ばれいしょでん粉の品質では、特に離水率とリン含量が重要である。離水率は塩水中で糊化させたでん粉ゲルを冷蔵貯蔵するときに水が分離する割合で、でん粉製品の貯蔵製の指標である。離水率は低ければ低いほど良い。また離水率が低くなると、糊化する温度が低下する、ゲルの弾力性が向上するなど、その他の品質も向上する。タピオカでん粉はこの離水率が特に優れ、ゲルの弾力性も優れる。リン含量は、でん粉に結合しているリンの含量で、糊化した時の糊の粘りの強さに関係している。リン含量が高いと粘りが強くなる。粘りが強いことは、ばれいしょでん粉を他のでん粉と分ける重要な性質であるが、強すぎると安定性が低下するため、リン含量は高すぎない方が良い。「紅丸」は、この離水率とリン含量が「コナフブキ」より低いため、「コナフブキ」より固有用途に適すると考えられている。

2.でん粉品質が「紅丸」並の新品種「コナユキ」

 以上のような背景から、ばれいしょでん粉の需要を維持していくためには、「紅丸」の品質と「コナフブキ」の収量性を併せ持つ品種が必要であると考え、当試験場では「コナユキ」を育成した(平成22年 北海道優良品種)。

 「コナユキ」のでん粉品質を表1に示す。リン含量は「コナフブキ」より低く、「紅丸」並である。離水率も「コナフブキ」より低く「紅丸」並である。糊化特性は、糊化開始温度が「コナフブキ」より低く「紅丸」並、最高粘度は「コナフブキ」より低く「紅丸」並、その他の特性値もほぼ「紅丸」並である。これらのことから、「コナユキ」のでん粉品質はほぼ「紅丸」並であると考えられる。また、図3は蒲鉾に使用した場合の「コナユキ」と「コナフブキ」の蒲鉾物性を示したものである。弾力を示す破断凹み値(注1)が「コナユキ」は「コナフブキ」より高く、「コナフブキ」より弾力があり、「コナフブキ」より蒲鉾などの水産練り製品の適性が高いと考えられる。
 
 
 
 
 「コナユキ」の枯ちょう期(注2)と収量性を表2に示す。「コナユキ」は「コナフブキ」並の中晩生の枯ちょう期で、いもの収量(上いも重)は「コナフブキ」よりやや多く、でん粉含有率(でん粉価)はほぼ「コナフブキ」並で、でん粉収量(でん粉重)もほぼ「コナフブキ」並である。
 
 
 また、「コナユキ」は、「紅丸」「コナフブキ」にはないジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ。近年、ジャガイモシストセンチュウ発生圃が増加しており、特に必要とされている病害虫抵抗性である。

 以上のように、「コナユキ」では「紅丸」並の品質と「コナフブキ」並の収量性を併せ持たせることができたが、小粒いもが多いことや、多湿の条件下では収量性が低下する等の欠点もあり、現在、導入が予想される地域で適切な栽培法を検討するための栽培試験が行われている。「コナユキ」の種子生産は、本年度が採種の段階にあたっており、来年度から本格的な栽培が行われる見込みである。

3.「コナユキ」以降

 平成18年から平成20年にかけて、固有用途の需要は大きく拡大した(図4)。この背景には、従来、化工でん粉用としてタイ産タピオカでん粉とヨーロッパ産ばれいしょでん粉が使用されていたが、平成19年から新たに経営安定対策に係る制度が始まり、国産でん粉も使用できるようになった中で、(1)ヨーロッパ産ばれいしょでん粉が大幅に値上がったこと、(2)同年暮れからの中国製冷凍餃子問題で食品の国産品指向が高まったことがある。これらの影響によりヨーロッパ産ばれいしょでん粉に代わり国産ばれいしょでん粉の使用量が増加したと推測される。

 このようにヨーロッパ産ばれいしょでん粉の価格は上昇し、その結果、輸入量が減少したのに対し、タピオカでん粉の輸入量は増加している。タピオカでん粉も値上がりしているが、ヨーロッパ産ばれいしょでん粉と比較するとまだかなり安価で、品質面では離水率やゲルの弾力性が優れるため、固有用途の需要拡大は、タピオカでん粉の輸入量には影響を及ぼさなかった。このことから、状況次第では、再びタピオカでん粉に置き換わる可能性があると考えられる。これから固有用途の需要量を維持し、さらに拡大していくためには、タピオカでん粉から置き換わっていくことが必要となるが、そのためには、品質面では、離水率をさらに向上させていくことが重要である。

 また、平成21年から23年にかけては、再び固有用途が減少しているが(図4)、これは以前のように他種のでん粉に置き換わったためではなく、気象条件の悪化により、ばれいしょが不作となり、でん粉の生産量が需要量をまかないきれなくなったためである。このような状況が続くと、国産ばれいしょでん粉のユーザーが少しずつ離れてしまう可能性があるので、多少不作となってもでん粉生産量を維持することができるように、今の収量水準を超える多収品種が必要である。
 
 
 以上のことから、今後の北見農試の目標として、1)「コナフブキ」をしのぐ多収性を持ち、高品質な品種の育成、2)「紅丸」より品質の優れる品種の育成、の2点を重点に品種育成を行っている。

4.「コナフブキ」より多収の「北育20号」

 前述の1)の目標について、現在育成中の「北育20号」を紹介する。

 図5に4カ年の各地のでん粉収量(でん粉重)を示す。のべ8カ所の試験カ所のうち6カ所で「コナフブキ」より10%から15%多収であった。その他、枯ちょう期は「コナフブキ」よりやや遅く、いもの粒の大きさを表す上いも平均重は「コナフブキ」よりも大きい。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ。でん粉特性を表3に示す。「北育20号」のリン含量と離水率は「紅丸」「コナユキ」には及ばないものの「コナフブキ」より低い。また平均粒径が「紅丸」より大きい。
 
 
 
 
 このように「北育20号」は、「コナフブキ」より収量およびでん粉品質が優れ、前述の1)の目標をある程度達成している系統である。「北育20号」は、現在のところ、平成25年度の品種化を目指して試験を継続する予定である。

5.「紅丸」より品質の優れる系統

 前述の2)の目標は、離水率やリン含量が「紅丸」よりも低い系統が選抜されてきている。そのうち「K05112-8」について、離水率の「紅丸」との比較を図6に示す。これは1週間ごとに1ヶ月までの離水率を測定したものであるが、「K05112-8」は「紅丸」よりも常に10%から15%も離水率が低く、離水率が「紅丸」より改善されている。また表4に示すように「K05112-8」は「紅丸」よりも糊化開始温度が2.4℃低く、破断凹み値が高く「紅丸」よりゲルの弾力が強い。このような特性を持つ「K05112-8」は「紅丸」よりも固有用途の適性が高いと考えられる。
 
 
 
 
 次に「K05112-12」についてリン含量と糊化特性の「紅丸」との比較を表5に示す。「K05112-12」のリン含量は「紅丸」の半分程度である。そのため、糊の粘りの強さを表す最高粘度は「紅丸」の半分程度である。また、最高粘度時温度は「紅丸」よりかなり高い。さらに、粘度の安定性を示すブレークダウン(注3)は半分程度と小さく、「紅丸」より粘度安定性が高い。このような特異な性質を示すでん粉がどのような用途に向くのか、あるばれいしょでん粉のユーザーに評価していただいたところ、冷麺適性が特に高く、竜田揚げの食感が優位に向上するとの評価をいただいた。粘度自体は低いので冷麺適性が高いことについては意外な結果であったが、でん粉が糊になるとき、でん粉粒が水分を吸って膨張する間は粘度が上がっていくが、最高粘度に達してでん粉粒が崩壊すると粘度は下がっていくことを考えると、「K05112-12」のでん粉は最高粘度に達する温度が非常に高いので、様々な加工で熱を加えてもでん粉粒が崩壊しにくい特徴があり、この特徴が製品の物性に影響を与えていると考えられる。
 
 

<参考文献その他>

1.二國二郎監修:でん粉科学ハンドブック 昭和52年 朝倉書店 東京
2.不破英次他編集:澱粉科学の事典 平成16年 朝倉書店 東京
3.北海道馬鈴しょ生産安定基金協会:北海道における馬鈴しょの概況
4.山本和夫:「でん粉」 ジャガイモ事典 財団法人いも類振興会 p101-106

(注1)破断凹み値:でん粉ゲルを直径数ミリの棒で圧縮すると、ゲルが凹んでいき、ある長さまで棒が進むと破断する。この最初の状態から破断するまでの長さのこと。ゲルの弾力性を表す数値。
(注2)枯ちょう期:ばれいしょが自然に枯れた月日。
(注3)ブレークダウン:でん粉は水に縣濁して温度を上げていくと糊になり粘度が上がっていき、ある温度(最高粘度時温度)に達すると粘度が最高(最高粘度)になり、その後粘度が低下する。最高粘度と低下後の粘度の差。
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