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でん粉を原料とした液体肥料

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最終更新日:2012年9月10日

でん粉を原料とした液体肥料

2012年9月

味の素株式会社 生産統括センター 資源開発部 木坂 広明
 


【はじめに】

 味の素グループのアミノ酸生産工場では、それぞれの地域で栽培される入手しやすい植物原料を、微生物の力で発酵させることによってさまざまなアミノ酸を製造しています。また、佐賀県にある九州工場では、タピオカ由来のでん粉を原料に用いて発酵させ、核酸を製造しています。当社のうま味調味料には、これらのアミノ酸・核酸が含まれています。

 私たちは、アミノ酸や核酸を製造する際に得られる発酵液を用いて、肥料の開発に取り組んでいます。
 
 

1.資源循環型のアミノ酸生産の取り組み

 うま味調味料に含まれるグルタミン酸や核酸は、サトウキビやタピオカ、トウモロコシなどの農作物から得られる糖やでん粉を原料に用いて発酵法によって製造しています。これらの商品を安定的に生産するためには、農作物を持続的に調達する必要があり、土壌や地域環境に配慮した農業が重要です。味の素グループでは、30年以上前から各地の農家の方々と協力して、副生物を地域農業に還元する、資源循環型のアミノ酸製造の仕組みを作り上げてきました。この副生物には有機質やミネラルなどが豊富に含まれ、これを肥料や飼料に加工して100%有効利用しています。

2.農業水産資材開発に向けて

 私たちは、植物や動物を用いて、アミノ酸や核酸等の有効性に関する研究に取り組んでいます。この研究の中で様々な効果を見出し、アミノ酸や核酸、ミネラル、有機質等を豊富に含む発酵液を活用した商品の開発を行ってきました。例えば、植物自身が持つ病気に対する抵抗力を高めることができる葉面散布剤や、根張り促進効果が報告されている核酸を多量に含む液体肥料、資源枯渇が懸念される魚粕の代わりになる、タンパク質が豊富なアミノ酸発酵菌体飼料など、お客様にとってより付加価値があり、生態系保全や資源保護にも貢献できる製品の研究・開発を行っています。

3.アミノ酸、核酸を含む農業資材の紹介

(1)発根と根の伸長を特異的に促進させる核酸を含む液体肥料

 これまでに、北海道大学との共同研究で、核酸には発根と根の伸長を特異的に促進する効果があることが分りました。特に、植物の根を任意濃度の核酸溶液で処理すると根量が増加するだけでなく、土壌中の養分を吸収する根毛の発達が促進される事が明らかになりました(図2)。
 
 
 うま味調味料に含まれる核酸は、でん粉を微生物の力で核酸発酵させて製造しますが、液体肥料(商品名:「アミハート®」)は、この核酸発酵させた液体を原料としているので、核酸を豊富に含んでいます。この液体肥料を用いて、レタス、トマト、イチゴ、メロン、キュウリ、ナス、花卉類などの根元に施肥することで、生育が促進され、さらに収量が増加することが確認されています(図3)。
 
 
(2)植物が持つ病気と闘う力を活性化する葉面散布剤

 葉面から効果的に栄養成分などを吸収できる葉面散布剤(商品名:「AJIFOL®」)は、1988年にブラジルで事業展開され、今日では、ペルー、タイ、インドネシア、ベトナム、アメリカなどで販売している商品です。ご利用いただいた生産者の方から「農薬の使用量が減った」との声を頂き、その効果およびメカニズム解明に取り組んでいます。

 植物の表皮に病原菌が付着し、細胞内に侵入すると、植物は病原菌の侵入や増殖を阻止しようとする防御応答をとることが知られています。その防御応答の一つとして、植物は抗菌酵素の生産量を高め、病原菌を駆除しようとします。これまでの研究から、この商品を植物の葉に散布すると、植物の防御応答が生じ、キチナーゼの生産が高まる事(図4)、さらに、この応答を利用し、事前に葉面散布処理した植物は、その後、病原菌を感染させても、病気になりにくいことが分りました(図5)。
 
 
 
 
(3)育苗時期に根張りを促進する液体肥料

 「丈夫な苗を作りたい」「根張りをしっかりさせたい」「定植後の活着を良くしたい」と言った、生産者の声にお応えするために、育苗時期での利用を目的に開発した液体肥料(商品名:「早根早起はやねはやおき®」)です。根張りを促進することが報告されている核酸と鉄を含み、また、窒素、リン酸、カリウムの量をバランス良く配合した資材です。
 
 

4.おわりに

 味の素グループの事業活動は、世界各地において農・畜・水産資源や遺伝資源を活用し、地域に根ざして事業展開しており、生物多様性の保全は、地球社会にとっていのちの恵みを支える重要な課題であると同時に、味の素グループ自身にとっても、事業の存続・発展の基盤となる最も基本的な取り組みです。味の素グループでは、「大地の恵みを活かし切り、地域の豊かな実りを育む」循環型の生産仕組みに積極的に取り組んでいます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713