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ばれいしょでん粉の新たな機能性

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最終更新日:2012年11月9日

ばれいしょでん粉の新たな機能性〜豚排せつ物からの臭気低減〜

2012年11月

長崎県農林技術開発センター 畜産研究部門 主任研究員 本多 昭幸
 


【要約】

 飼料価格の高騰に伴う飼料費低減対策や飼料自給率向上の一環として、全国で食品残さを家畜用飼料として利用する取り組みが進められている。ばれいしょの産地である長崎県では、生産・流通の過程において規格外ばれいしょが大量に発生しており、これらを家畜用飼料として有効に活用することが強く望まれている。

 このような地域未利用資源を飼料利用する際、配合飼料と比較して明確な利点が示されることによって畜産農家による利用が促進されるものと考えられる。そこで、ばれいしょに含まれるでん粉の消化特性に着目して、豚用の飼料原料として利用することで、糞尿中に排出される環境負荷物質の低減に寄与する成果を得たので紹介する。

1.はじめに

 近年、環境問題に対する消費者の意識は高く、今後の養豚業が健全に維持・発展していくためには、周辺地域の環境面にも配慮した飼育管理が求められている。特に糞尿処理や臭気問題は長年養豚農家を悩ませてきた問題の一つであり、早期解決が望まれる。

 一方、長崎県におけるばれいしょの生産量は全国2位と多いが、その流通過程で生産量の約14%に当たる15,098t/年が規格外品として大量に廃棄されている1)。このことから、飼料自給率の向上や循環型社会の構築に向けて、規格外ばれいしょを飼料として有効に利用するための検討が進められてきている2)

 ばれいしょでん粉は、でん粉粒が結晶構造をとるためにα-アミラーゼによってほとんど加水分解されないことから、難消化性でん粉の一つに分類されている3)。これまで、ビートパルプのように胃や小腸ではほとんど消化を受けない非でん粉多糖類が主体で、粗タンパク質含量の低い飼料原料を豚に給与すると、尿中窒素排せつ量および糞尿からのアンモニア揮散量を低減できることが報告されており4)、非でん粉多糖類と類似した消化特性を有するばれいしょでん粉を給与した場合にも同様の効果が期待される。

 そこで、ばれいしょでん粉を配合し、さらに豚の窒素排せつ量の低減に有効な低タンパク質飼料5)として栄養調整した飼料を肥育豚に給与した際の、糞尿中の環境負荷物質ならびに臭気の低減効果について検討した。

2.試験方法

 トウモロコシ、大麦および大豆粕を主体に配合した標準的な栄養水準の仕上げ期飼料を給与する対照区と、ばれいしょでん粉を20%配合し、他の穀類等により栄養調整した低タンパク質飼料を給与するでん粉区の2区を設けた。でん粉区の飼料は対照区と比較してエネルギー含量が同等で、粗タンパク質含量が約4%低くなるように設計した(対照区vs.でん粉区:14.0vs.10.6%)。この2種類の飼料を以下の試験1および試験2で用いた。


○試験1:窒素出納試験

 平均体重が64.0kgの肥育豚(去勢雄)4頭を2頭ずつの2群に分け、対照区とでん粉区に割り当てた。これらを環境制御室に収容し、1期8日間の飼料反転法により窒素出納試験を行った。すなわち、それぞれの試験用飼料を8日間一定量給与し、後半の4日間の糞尿を分離して全量採取した。次いで、試験用飼料を反転して、同様の方法で試験を実施した。得られた糞尿中の窒素含量を測定し、糞尿への窒素排せつ量を求めた。また、飼料中の窒素摂取量から窒素排せつ量を差し引くことで体内への窒素蓄積量を算出した。


○試験2:豚舎内アンモニア濃度測定試験

 試験には図1に示した構造が同じウインドウレス豚舎2室を使用した。平均体重が70.0kgの肥育豚(去勢雄)8頭を用いて、4頭ずつ2群に分けて群飼し、試験1と同様の飼料を用いて1期7日間の飼料反転法による給与試験を実施した。すなわち、それぞれの試験用飼料を7日間給与し、次いで、両飼料を反転して同じ日程でさらに給与した。その間、飼料は飽食給与し、水は自由飲水とした。

 アンモニアの測定は留置式アンモニア検知管(アンモニアパッシブドジチューブ、ガステック、神奈川)により、図1に示した一定の2地点で22:00から翌8:00までの10時間、毎日実施し、得られた2地点のデータの平均値を単位時間あたりに換算したものを平均濃度とした。
 
 

3.結果

○試験1:窒素出納

 ばれいしょでん粉を配合した低タンパク質飼料の給与が肥育豚の窒素排せつ量に及ぼす影響について図2に示した。でん粉区では、給与飼料の粗タンパク質含量が対照区より約3.5%低かったことから、窒素摂取量は対照区と比較して明らかに少なくなった(52.1vs.39.9g/日)。しかしながら、両区の窒素蓄積量に差は認められなかった(22.8vs.19.8g/日)。

 糞尿への総窒素排せつ量は対照区と比較してでん粉区で有意に少なかった(29.9vs.20.8g/日)。総窒素排泄量の内訳をみると、糞ではでん粉区で多かった(7.4vs.10.4g/日)が、尿ではでん粉区が対照区の45%と少なかった(22.5vs.10.3g/日)。
 
 
○試験2:豚舎内アンモニア濃度

 ばれいしょでん粉を配合した低タンパク質飼料の給与が豚舎内アンモニア濃度に及ぼす影響について図3に示した。豚舎内アンモニア濃度の経時変化に及ぼす影響を見てみると、試験開始3日目までは、試験開始前に給与した前食の市販配合飼料の影響により、豚舎内アンモニア濃度に対する試験用飼料の効果は判然としなかった。しかし、4日目以降に効果がみられはじめ、でん粉区の豚舎内アンモニア濃度は対照区と比較して低下した。その後、試験開始8日目の飼料反転に伴い、11日目までは前食の試験用飼料の影響が残存したが、12日目以降には前半と同様に、でん粉区の豚舎内アンモニア濃度は対照区と比較して低く推移した。したがって、試験期(各試験期の後半3日間)のでん粉区の豚舎内アンモニア濃度は対照区の約16%と大幅に低下した(33.6vs.5.3ppm・h)。
 
 
○まとめ

 以上の結果から、ばれいしょでん粉を配合した低タンパク質飼料の給与は肥育豚の窒素蓄積量や発育に影響することなく、一般的な飼料と比較して特に尿への窒素排せつ量を大幅に低減できることが明らかとなった。これまで、糞尿混合物からのアンモニア揮散量は尿中の窒素含量に比例して増加することが示されており6)、ばれいしょでん粉給与による大幅な尿中窒素排せつ量の低減が豚舎内アンモニア濃度の低減に貢献したものと考えられた。

4.今後の展望

 本成績は肥育豚へのばれいしょでん粉の給与が豚肉の生産過程における窒素排せつ量やアンモニア臭の低減に有効であることを示しており、今後規格外ばれいしょの積極的な飼料利用が期待される。しかし、同飼料の給与は一方で、糞量と糞の水分含量の増加が確認されており、これらは堆肥化時の処理量の増加や高水分化に伴う処理コストの増加に通じるため、より適切な給与量の検討が必要と考えられる。

参考文献

1)長崎県.2005.長崎県バイオマスマスタープラン資料編.pp.26-29.長崎県.長崎

2)嶋澤光一,本多昭幸,竹野大志,西川 徹,尾野喜孝.2007.バレイショ混合サイレージ給与が肥育豚の発育および肉質に及ぼす影響.日本畜産学会報78,355−362.

3)早川享志,柘植治人.1999.デンプンの摂取と健康―難消化性デンプンの生理機能―.日本植物繊維研究会誌 3,55-64.

4)山本朱美,伊藤 稔,古川智子,長峰孝文,亀岡俊則,古谷 修.2003.豚における低タンパク質飼料へのビートパルプの添加による尿中窒素排せつ量およびふん尿混合物からのアンモニア揮散量の低減.日本養豚学会誌 40,135-140.

5)斎藤 守.2001.ニワトリおよびブタからの環境負荷物質の低減化に関する栄養飼料学的研究の動向.Animal Science Journal 72,J177-J199.

6)山本朱美,伊藤 稔,古谷 修.2003.豚糞尿混合物のpH,尿中窒素含量および脱臭資材の添加がin vitroアンモニア揮散量に及ぼす影響.日本畜産学会報74,369-373.
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