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鹿児島県におけるさつまいもの試験研究について

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最終更新日:2013年2月12日

鹿児島県におけるさつまいもの試験研究について

2013年2月

鹿児島県さつまいも・でん粉対策協議会(鹿児島県農業開発総合センター大隅支場)
 


【要約】 

 鹿児島県はさつまいもの作付面積・生産量が全国1位の大産地であり、その用途も多様であることから、長年にわたり各種試験研究に取り組んできた。現在、環太平洋経済連携協定(TPP)問題など、農業を取り巻く状況は厳しいものがあるが、本県の基幹作物であるさつまいも振興のため、品種選抜、栽培技術、機械開発などについて、関係部署が連携をとりながら様々な成果を現地に普及できるよう、試験研究に取り組んでいる。

1.はじめに

 鹿児島県におけるさつまいもの試験研究は、明治34年に県内外の優良品種を集めて開始された。その後一旦中止されたが、大正5年に再開し、昭和8年からは一部の業務は農事試験場鹿屋分場で行われ、昭和12年には農林水産省指定酒精原料作物試験地が農事試験場本場に設置され、新品種育成並びに栽培試験を開始した。昭和22年に農林省鹿児島農事改良実験所が開設されてからは、本場と鹿屋分場で品種試験並びに品種選定試験を平行して実施した。その後、名称は農業試験場、農業開発総合センターと変わり、現在同センターの本部、大隅支場、熊毛支場で試験研究を実施している。

2.品種の変遷と試験研究の歴史

(1)品種の変遷

 ア 戦後〜30年代

 昭和20年代に鹿児島県で栽培されていた代表的な品種は、「七福」、「つるなし源氏」、「ベルベット」、「農林2号」、「隼人いも」がある。「七福」は明治33年にアメリカから導入され、別名「アメリカいも」とも呼ばれた。「農林2号」は、昭和17年に交配育種により作られたでん粉用品種である。「ベルベット」と「隼人いも」はともに大正時代にアメリカから導入された。

 昭和20年代後半になると、いもの中央部分がうっすらと紫色を帯びた「ナカムラサキ」が登場した。昭和34年に食味が良くて収量の多い「高系14号」が県の奨励品種として普及し始めると、これまでの品種は多収であったでん粉用原料「農林2号」を除いて徐々に面積が減少した。 


イ 昭和40年代〜60年代

 昭和40年代は「コガネセンガン」が登場した。でん粉用から焼酎用、食味も良いことから青果用としても面積が増加し、現在も幅広い用途で栽培されている。

 昭和40年後半から50年後半まで品種は大きく変わらなかったが、その後、でん粉用では「シロユタカ」、「シロサツマ」、青果用では「ベニアズマ」、「ベニオトメ」、カロテン含量の高い「ベニハヤト」などが普及した。 


ウ 平成以降

 焼酎用の「ジョイホワイト」、食用色素・ペーストなどの加工原料用の「アヤムラサキ」、「ジェイレッド」、でん粉用の「コナホマレ」、「ダイチノユメ」、青果用の「べにはるか」が育成され、多様な用途に対応できるようになった(図1)。
 
(2)品種試験の変遷

 本県の品種試験は育成された系統の適応性を判断する研究を中心に実施し、前述した品種を奨励品種及びそれに準ずる適品種に採用している。また、平成11年には県独自に種子島在来種から4品種を選抜し、それぞれ「安納紅」、「安納こがね」、「種子島ろまん」、「種子島ゴールド」と命名し、品種登録した。これらの品種は青果用、加工用として栽培され、特に「安納紅」は市場でも高い評価を得ている。


(3)栽培試験の歴史

 育苗方法、栽植密度、施肥方法等の試験は奨励品種採用時に実施されてきた。その中で普及に移された主な成果には以下のような技術がある。 

ア 育苗技術
 種いもの量、大きさ、切断いも、催芽法、苗の大きさ、つる先苗等の試験が行われ、栽培基準が作られてきた。中でも、昭和30年頃から普及したビニールを活用することでトンネル育苗の技術を確立し、育苗を容易にするとともに植付時期も早めた。 

イ 施肥技術
 昭和初期から化学肥料に関する試験が行われ、カリの増収効果が高いことが明らかになり、肥料の配合割合に活かされた。また、平成になってからは家畜ふん堆肥を利用した栽培技術も開発された。 

ウ 栽培技術
 各々の品種における栽植密度や栽培期間が検討され、適正な栽植密度や栽培期間を明らかにした。また、かつて実施されていたつる返しは試験の結果、効果がないことを明らかにし、作業の省力化を図っている。時代に応じた新たな技術の開発にも取組み、昭和40年代に登場したポリフィルムマルチのさつまいも栽培での利用効果の確認・普及や、5〜6月収穫を可能にしたビニールハウス栽培法の確立、品質向上のための病害対策や、単収向上のための茎頂培養を活用したウイルスフリー苗活用技術を確立するなど、現在では一般的になった技術も試験研究により開発されたものが数多くある。

3.用途別品種と栽培上の課題

(1)でん粉原料用品種 

ア 奨励品種:シロサツマ、シロユタカ、コナホマレ、ダイチノユメ 

イ 課題:原料確保のための多収品種の他に、低温糊化性でん粉を持つなど新たな用途に利用できる品種が求められている。また、生産コスト低減のための機械化作業体系の開発や茎葉及び加工残さの有効利用方法の技術確立も望まれている。
 
 
(2)焼酎原料用品種

ア 奨励品種:コガネセンガン 

イ 課題:主力品種であるコガネセンガンの安定供給のため、低コスト育苗及び貯蔵技術の開発や線虫抵抗性等コガネセンガンにない特性を持った新品種の導入が求められている。
 
(3)青果・食品加工用品種 

ア 奨励品種:高系14号(ベニサツマ)、コガネセンガン、べにはるか 

イ 課題:青果用では、形状、皮色の優れた良食品種の導入が求められている。また、食品加工用では用途別適品種の選定が期待されている。なお、既存品種に対する生産安定のため、栽培技術の確立も求められている。
 
 

4.現在取り組んでいる試験研究課題

(1)高品質でん粉さつまいもの栽培技術の検討

 さつまいもは鹿児島県の普通畑作付面積の20%を占める重要な品目で、その約40%にでん粉原料用さつまいもが作付けされている。原料用さつまいもから生産されたでん粉の約80%は糖化原料用で、食品への直接利用が少ない状況にある。 このような中、耐老化や低温糊化等の特性を有するでん粉を含む品種「こなみずき」が育成され、新たな用途開発が期待されているが、栽培技術やでん粉製造技術が確立されていない事などから、栽培面積が拡大していない状況にある。このため、低温糊化等の高品質なでん粉を含むさつまいもの鹿児島県での栽培適性を評価するとともに低コスト多収栽培技術の開発、品質向上に向けた栽培技術の確立に取り組んでいる。


(2)種子島特産さつまいもの優良系統の選抜及び栽培技術の確立

 種子島在来のさつまいもから選抜・育成し、平成10年・11年度に登録された「安納紅」、「安納こがね」、「種子島ろまん」、「種子島ゴールド」は、地域の特産品として振興が図られ、現在、全国的に人気が高く、当地域での生産は急増し、生産が需要に追いつかない状況が続いている。これらの品種は、品種登録時点では紡錘形の形状の良いいもを選抜したが、一般的な青果用のさつまいも品種に比べて単収や上品率が低く、いもの形状や肉色等の品質、生産力の低下が懸念されている。

 そこで、栽培技術、系統選抜、ウイルスフリー苗供給体制といったさつまいもでは欠かすことのできない基本的な項目について、優良系統の選抜・育成、省力・低コスト挿し苗増殖技術の確立、収量・品質向上のための栽培・保存技術の開発、と3つの方向から課題解決にあたっている。

 上記の技術確立により種子島特産さつまいもの品質・収量の安定・向上が図られ、さらに農家の収益性及び生産額が増加することが期待される。


(3)ネコブセンチュウに対する効率的防除の検討

 平成19年度に焼酎原料用さつまいもの施肥施薬・土壌消毒・畦立・マルチの畦立同時施肥施薬技術を確立し、省力・低コスト化が可能となった。その後、センチュウ類の防除剤であるD−D剤の入手が困難になり、作業体系の見直しが求められたが、代替農薬として考えられる接触型薬剤は植付前全面土壌処理での登録があるものの、畦立同時作業を行う上では作条土壌処理等での検討が必要となることから、処理方法・処理量・処理機械の違いによる防除効果を比較・検討し、効率的な施用技術の開発に取り組んでいる。


(4)植付作業の省力・軽作業化に対応した挿苗機の開発

 さつまいも栽培の中で、唯一機械化が遅れて長時間労働を強いられている植付作業について、民間企業と協力して植付機(挿苗機)を開発し、普及に移した。人力作業と比べて4〜5倍の作業効率が図られるが、大規模経営体等からは更なる効率化が望まれており、改良に取り組むと共に挿苗機に適した省力的な苗生産のシステムの開発も進めている。
 

5.おわりに

 鹿児島県は全国有数のさつまいも産地であり、作付面積も大きく、その用途も多様である。そのため、試験研究においても様々な取組が行われ、新しい技術を開発し普及してきた。現在、環太平洋経済連携協定(TPP)問題など、さつまいもを取り巻く状況は厳しいものがあるが、今後も品種選抜、栽培技術、機械開発等の関係部署が連携をとりながら試験研究を実施し、本県の基幹作物であるさつまいも振興のための技術開発を進めていきたい。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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