でん粉 でん粉分野の各種業務の情報、情報誌「でん粉情報」の記事、統計資料など

ホーム > でん粉 > 主要国のでん粉事情 > カンボジア、ラオスにおけるキャッサバ事情

カンボジア、ラオスにおけるキャッサバ事情

印刷ページ

最終更新日:2013年5月10日

カンボジア、ラオスにおけるキャッサバ事情

2013年5月

調査情報部

【要約】

 カンボジア、ラオスのキャッサバについて、両国内の需要とタイ、ベトナムからタピオカでん粉原料としての需要が増加している。また、タイ、ベトナムによるカンボジア、ラオスへの外国直接投資に伴う事業による開発の進行が、カンボジア、ラオスのキャッサバ生産拡大の一因となっている。さらに、近年は中国からのエタノール原料としての需要も増加しており、両国のさらなるキャッサバの生産拡大が見込まれる。 

1.はじめに

 ASEAN地域では、人口増加と経済の成長により食品や菓子などに利用されるでん粉の需要が増加している。我が国に輸入される天然でん粉の主要供給国であるタイにおいても、でん粉生産を拡大させる中で、隣接国からの原料供給が増加している。タイのでん粉生産拡大のカギとなるこれら隣接国のカンボジア王国(以下「カンボジア」という。)およびラオス人民民主共和国(以下「ラオス」という。)のキャッサバ需給動向について報告する。

 なお、為替レートは1米ドル=95.05円を使用した(2013年3月末日TTS相場)。 

2.農業概況

(1)カンボジアについて

 カンボジアは、インドシナ半島の中央やや南側に位置し、メコン水系に開けた肥沃な土地と豊富な水資源に恵まれた農業国である。北西にタイ、北にラオス、東南にベトナムと隣接している。国土面積は日本の約半分となる約18万平方キロメートル(約1800万ヘクタール)で、中南部の平野地域、北西部のトレンサップ湖地域、南西部の海岸地域、北東部の高原地域の4地域に区分される。2009年の統計によると、農地面積は556万ヘクタールと、国土面積全体の30%以上を占めている。平野地域およびトレンサップ湖地域が農業に適した耕地として利用されており、農地面積の70%以上がコメの作付である。同国の農林水産業部門の生産額は、国内総生産額(2009年)108億米ドルのうち33億米ドルで、農業人口は就業人口761万人のうち507万人と7割近くを占めており、農林水産業は同国において重要な産業となっている。
 
(2)ラオスについて

 ラオスは、南にカンボジア、東にベトナム、北に中国、西にタイおよびミャンマーに囲まれた内陸国である。2009年の統計によると、国土面積約23万6800平方キロメートル(約2368万ヘクタール)の約80%を森林が占めており、農地面積は、メコン川左岸に沿ってビエンチャン平野から南部のパクセ平野の間のわずか235万ヘクタールと、国土面積全体の約10%にすぎない。農地面積の60%以上でコメの作付が行われており、稲作が農業の中心となっている。同国の農業生産を北部、中部、南部の3地域に分けてみると、北部では焼畑による陸稲、とうもろこし、大豆の生産が多く、中部では水稲、野菜、豆類、南部は高地が多いことからコーヒーや園芸作物の生産が多い。特に南部のボラベン高原におけるコーヒー栽培は有名である。 
図1

3.キャッサバ需給動向

(1)カンボジアにおけるキャッサバ生産概況

 LMC社によると、カンボジアのキャッサバ作付面積(2008〜2010年の平均)は、18万ヘクタールと作付面積全体(354万ヘクタール)の5%を占める(図2)。キャッサバは、コメの補完的な意味合いが強く、干ばつの際に多く生産される傾向があるという。キャッサバ生産地は、トレンサップ湖地域およびメコン川水域の平野地域である。2007年における生産地別の作付面積割合(図3)をみると、最も割合が多い生産地はコンポンチャム州で、作付面積全体の半分近くを占める。タイタピオカ取引協会(TTTA)の2007年年次報告によると、タイとの国境に近いバッタンバン州とパイリン(特別市)では、タイで最も作付割合の多い品種であるカセサート50やラヨーン5を導入して作付けしていることから、カンボジア国内の品種を作付けている他の生産地よりも単収が多い。このことから、作付面積の5番目に多いパイリンの生産量は、3番目に多くなっている。 
図2
図3
 近年、カンボジア国内のでん粉需要が大きく増加するとともに、隣接国のタイ、ベトナムへの輸出が漸増傾向にあることから、国内のキャッサバ生産量は急増している。特に2006年以降は、作付面積の拡大と単収の増加が著しい。これは、堅調な需要が国内キャッサバ価格を下支えしたことで収益が改善したことや、キャッサバは栽培期間が一年未満と換金性が高いことなどがキャッサバ生産者の作付意欲を高め、作付面積の大幅な拡大につながった。これらのことから、2011年のキャッサバ作付面積は2000年と比べ25倍となる37万ヘクタール、生産量についても同年と比べ54倍となる803万トンと大幅に増加している。 
図4
図5
 図6はカンボジアの一般的なキャッサバ栽培暦である。多くの場合、3月から耕起を行い、5月までに植付けを行う。生育期間である6〜11月の間に2〜3回の除草剤散布を行い、収穫前の11月に枝の剪定をする。収穫は12月から開始されるが、キャッサバ生産者が気候条件、確保可能な収穫労働力、キャッサバの市場価格を見ながらその時期を決定する。栽培から収穫までの期間は、8〜12カ月間である。 
図6
 次に、カンボジアのキャッサバ生産コストについてカンボジア独立開発政策研究所(以下「CDRI」という。)の報告をもとに紹介する。2007年において、トンレサップ湖地域の西部に位置するバッタンバン州カムリエン地区(以下「西部地域」とする。)ではヘクタール当たり464.78米ドル(約4万4200円)、メコン川水域の平野地域である東部に位置するコンポンチャム州のメモット地区(以下「東部地域」とする。)は同329.65米ドル(約3万1300円)であった。ベトナムのキャッサバ生産コストは同597.35米ドル(約5万6800円)、タイは同578.6米ドル(約5万5000円)であったことから、カンボジアの生産コストはベトナム、タイの約3割安である。西部地域と東部地域のキャッサバ生産では、耕起や除草剤散布といった栽培管理方法が異なることから、耕起費用および除草剤費用は東部地域の方が西部地域よりも大幅に少ない。また、西部地域は多くの生産者が畑を所有することから、地代は西部地域の方が東部地域よりも少ない。さらに、トラクターの利用が多い西部地域は、トラクターの利用が少ない東部地域に比べ労働時間、労働人数が少ないことから、西部地域の人件費は東部地域を下回っている。 
表1
 カンボジアではインフラ整備の遅れにより道路事情が非常に悪く、輸送距離も長いことから、輸送費用は全コストの約4分の1を占めている。 
図7
 また、収穫費用も全コストの2割以上を占めており、これらの経費は生産者の収益を圧迫している。キャッサバの生産を行っている西部地域と東部地域では、それぞれ3種類のキャッサバ販売形態があり、その形態により収穫費用および輸送費用の負担が異なる仕組みとなっている。その仕組みの内容は、以下のとおり。 
図
(2)ラオスにおけるキャッサバ生産概況

 LMC社によると、ラオスのキャッサバ作付面積(2008〜2010年の平均)は1万5000ヘクタールと作付面積全体(137万ヘクタール)のわずか1%であるが(図8)、キャッサバは痩せた土地や高地でも栽培可能な作物であるため、小規模農家にとって、現金収入を得られる重要な作物とされている。主生産地域は中部地域のメコン川流域である。2009年におけるキャッサバ生産地域別の作付面積割合をみると、中部地域で作付面積の6割近くを占め、残りを北部地域と南部地域でほぼ二分している(図9)。 
図8
図9
 ラオスでは、カンボジアと同様に近年、隣接国のタイ、ベトナムからの需要増および人口の増加による国内消費の高まりからキャッサバ生産量は急増している。同国では、2005年までのキャッサバ作付面積は年ごとに増減を繰り返し、単収はヘクタール当たり4.1〜9.5トンと低水準かつ自然環境に左右され変動している。その後、作付面積の拡大とともに生産量も増加傾向で推移していたが、2009年はかんがい用農地拡大による大豆への作付転換によりキャッサバの作付面積は減少し、生産量は前年比42%減と大幅に減少した。2010年以降は外国直接投資注(以下「コンセッション」という。)を伴う事業などにより、再び作付面積は拡大し、2011年生産量は74万3000トンとなった。なお、2005年まで低水準かつ変動が大きかった単収は、2006年以降は同10トン以上となり、2009年以降は同20トン以上とタイやカンボジアとほぼ同水準となっている。

注:開発や商業のために法律に基づき政府の所有権やその他の権利の利用権の供与が許可された投資事業のことであり、土地利用権を伴う投資事業も含まれる。(日本アセアンセンター資料より) 
図10

4.キャッサバおよびタピオカ製品における隣接国との関係

 東南アジアのタピオカでん粉生産国であるタイ、ベトナムは、隣接国であるカンボジアおよびラオスからタピオカでん粉の原料となるキャッサバ、タピオカチップを輸入している。表2、3のとおり、タイは両品目において2007年から輸入を始めており、それら輸入量のほとんどをカンボジアとラオスで占めている。

 タイにおけるカンボジアからのキャッサバ輸入量は、タイにおいて害虫コナカイガラムシが発生したことでキャッサバ生産量が減少した2009年に、15万7000トンと前年から2倍に増加し、2012年には、タイのキャッサバ生産がコナカイガラムシによる減産から回復しつつある中で、最大となった。

 次にタピオカチップについて、2012年のカンボジアからの輸入量は15万4000トン、ラオスからの輸入量は1万6800トンであった。ラオスからの輸入を開始した2010年の輸入量はわずか1500トンであったが、その後は堅調に推移している。 
表2−3
 また、タイ、ベトナム以外にも中国へのタピオカチップの輸出が大きく増加している。その背景には、中国国内のエタノール原料向けタピオカチップ需要の高まりがあり、カンボジアで2012年から、ラオスでは2007年から中国へ輸出が行われている。近年はコンセッションによる中国企業の投資もしくは合弁により、中国への輸出用としてキャッサバおよびタピオカ製品の生産が行われていることが多い。 
表4
囲み

5.おわりに

 ASEAN地域のタピオカでん粉の生産国かつ輸出国であるタイ、ベトナムにキャッサバを供給する国として、カンボジア、ラオスの役割は重要である。タイ、ベトナムの需要に応えるべく成長したカンボジアおよびラオスのキャッサバ生産は、中国国内の需要増によりさらなる生産拡大を遂げている。ASEAN地域におけるタピオカでん粉の需要は、今後も高まることが見込まれていることから、キャッサバ生産において、カンボジア、ラオスの存在感はますます大きくなるであろう。

 ASEANは、1967年の設立以来、域内経済協力・経済統合を推進してきた。1992年にはASEAN自由貿易地域(AFTA)を推進し、さらに現在は、ASEAN経済共同体(AEC)の実現に向かっている。2007年11月の第13回ASEAN首脳会議では、2020年までに財・サービス・投資・熟練労働力の自由な移動に特徴づけられる単一市場、生産基地の構築、2015年までにASEAN後発4カ国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)における域内関税の撤廃などのロードマップを示した「AECブループリント」が策定された。AECブループリントにおける単一市場、生産基地の構築の具体的な内容の中に、資本、物品の自由な移動がある。これらは、一国でキャッサバ生産からタピオカでん粉生産を一貫して行う形態から、キャッサバは安価な生産が可能な国で行い、タピオカでん粉生産は品質と安定供給が可能なタイで行うといった形態への変化を加速させる要因となるであろう。 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713