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土壌凍結深の制御による野良イモ対策技術の開発

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最終更新日:2013年11月11日

土壌凍結深の制御による野良イモ対策技術の開発

2013年11月

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
北海道農業研究センター生産環境研究領域
上席研究員 広田 知良

【要約】

 国内最大のばれいしょ生産地帯である北海道・十勝地方では、初冬の積雪増加による土壌凍結深の減少に伴い、収穫後、畑に残ったばれいしょが越冬して雑草化し、後作の生育阻害、連作障害、病害虫発生などの原因となる、いわゆる「野良イモ」の問題が深刻化しており、この防除は人手によることから大きな負担となっていた。この問題に対して、土壌凍結深の制御による野良イモ対策手法を開発し、さらに、低コストで安定的な効果が期待できる技術指針の作成と現場農業機関から発信する農業気象情報システムを構築した。

はじめに

 北海道は、ばれいしょの生産量が全国の約8割を占め、その中でも十勝地方は全国の3割以上、北海道の4割以上を占める大生産地帯である。また、冬は気温が低く、かつ晴天日の多い寡雪地帯である土壌凍結地帯として知られている。しかし近年、初冬におけるまとまった積雪により、土壌が寒気にさらされることがないことから土壌凍結が浅くなり、収穫後に畑に残ったイモが生き残りやすくなっている。

 大規模畑作地帯の十勝地方では、イモを機械で効率的に収穫するが、収穫時に土と一緒にこぼれ落ちる小粒塊茎や掘り残した塊茎が1ヘクタール当たり数万〜数十万個程度、畑に取り残される。この輪作畑の栽培の翌年に生き残ったイモから萌芽するのが 「野良イモ」である。雑草化した野良イモの発生は多いところで1ヘクタール当たり2万株以上になる。野良イモは雑草として次年度の作物と競合するだけでなく、病害虫発生要因、また、次回のばれいしょ作付け時には異品種混入の原因となるなど、多くの問題となるので防除が不可欠である。野良イモの萌芽のタイミングは塊茎の深さにより時間差を生じ、除草剤散布による防除作業は必ずしも効果的でなく、人手による繰り返しの抜き取り作業で対応せざるをえない。この野良イモを夏場に取り除く作業量は、1人当たり1ヘクタールで30〜70時間程度と、夏の暑い時期に長時間にわたる人手による重労働が必要となる。また、抜き取り作業を実施しても、完全に塊茎を除去しなければ再び野良イモとなり、萌芽のタイミングがばらばらのことも加わって、重労働の割には除草効果が上がらないこともある。元々、機械化による農業の効率化、省力化を図ってきた十勝地方にとって、新たに生じたこの野良イモ防除の作業は大きな負担となった。

1.雪割り

 十勝地方における野良イモ問題の根本の要因は、初冬の積雪の増加に伴う土壌凍結深の減少であるので、雪を取り除くことにより、土壌の凍結を促進して、野良イモを死滅させることは可能と着想できる。

 この作業として、生産者は、トラクターなどの作業機械により雪を一定間隔で割り広げ、地表面を縞状に露出させる雪割りと呼ばれる現実的な方法を発案した(図1)。寒気にさらされる土壌露出の部分は凍結が進む。雪山の部分の土壌は凍らないので、雪割り部の土壌凍結が進行した後に、山の部分の雪を割り広げて、雪山と谷を交代させることで畑全面の土壌を凍結させることができる。1ヘクタールの畑を対象に雪割りを実施する場合、所要時間は1回30分以内、前・後期2回で合計1時間程度である。これは夏の野良イモ掘りに要する時間の実に数10分の1の時間となる。しかも、作業が冬の農閑期に実施できる。広い畑の雪を持ち出さずにすむため、除雪した雪の置き場を新たに確保する必要もない。この極めて合理的な雪割り作業は、十勝地方の一部の地域では大きく広がり、絶大な野良イモ防除効果が認められた。ただし、雪割りを実施するタイミングや土壌を露出する期間は雪割り作業者の勘と経験に委ねられていた。このため、雪割りを実施しても、凍結不足のため野良イモ防除が不十分となったり、逆に凍結過剰で春先の農作業にも支障を来し、さらには、経験のない異常気象発生時には、熟練した雪割り経験者でも、野良イモ防除が不十分になる例も出てきた。
 

2.土壌凍結深制御手法の開発

 そこで、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター、地方独立行政法人北海道立総合研究機構農業研究本部十勝農業試験場、十勝農業協同組合連合会の共同研究により、雪割り作業に注目して、勘と経験の作業を科学的根拠により雪割りを実施して、野良イモ防除に最適な土壌凍結深になるように制御する方法を開発した。

 まず、ほ場試験において地中のばれいしょ塊茎は、塊茎位置の日平均地温が−3℃を下回ると生存できないことを明らかにした。また、収穫後のイモの大部分は地表下15センチメートルまでに存在することが、生産者の畑での実態調査からわかった。すなわち、深さ15センチメートルの日平均地温が−3℃に低下すれば、畑の野良イモは防除できることになる。雪割り後の土壌を露出した条件で、土壌凍結深が30センチメートルになれば、深さ15センチメートルの日平均地温を−3℃にすることができることがわかった。したがって、土壌凍結深30センチメートル以上を野良イモ防除のための目標土壌凍結深とすれば良いことになる。

 この雪割り後の土壌凍結深30センチメートルを達成するために、気象データ(積雪深と気温の日平均値)を入力データとする土壌凍結深推定の数値モデルで計算・予測しながら最適な深さに制御する、土壌凍結深制御手法を開発した。この土壌凍結深制御手法により、気象庁のアメダスなどで観測されている気温と積雪深のデータから土壌凍結深の推定と予測、そしてコントロールができる。言い換えると土壌凍結深制御手法は、雪が優れた断熱材であることに着目したもので、雪割り作業のタイミングと期間を気象データからの計算によって、積雪を上手にコントロールすることで、凍結深を促進させるばかりでなく、凍結深が過剰になるのを抑制することも可能とした制御技術である。これにより、生産者の勘と経験による技術が、科学的な方法に基づく凍死による野良イモの防除効果の判定、雪割り作業必要性の判断、実施のタイミングや期間を判定できる技術となる。

 土壌凍結深制御手法の考え方に基づいて決定したスケジュールでの雪割りの実施により、土壌凍結深30センチメートル以上を達成することで、現地実証の結果では、無処理対比で95パーセント以上、野良イモが防除できることを示すことができた(図2)。過度な土壌凍結による悪影響の懸念を抑える観点も併せると、最適な土壌凍結深は30〜40 センチメートルである。凍結過剰の対策としては、後期雪割りの最適土壌凍結深の達成後に降雪がしばらく期待できないときは、後期除雪期間終了後の割り戻しによる雪を用いた地表面の再被覆があげられる。
 
 なお、この土壌凍結深制御手法による雪割りが無理なく適用可能な気候帯は、12月〜翌年2月の平均気温が−5℃以下の地域である。変動する年々の気象条件において雪割りの効果を安定的に高めるために、後期の雪割り実施後、土壌凍結深30センチメートルを確実に達成するための後期雪割り実施晩限を設定した(図3)。例えば、確率上30年に1度の頻度で出現する暖冬年の気象に対応可能な実施晩限は、十勝地方の平野部では1月下旬〜2月上旬となる。
 
 さらに、寒さが足りず、土壌凍結・雪割り処理の効果が不十分な場合の補完技術としては、秋季のイモ塊茎を表層に集めて、イモを地中深くより温度が低い表層表面になるべく集める表層集積や、イモをあらかじめ傷つけてイモを腐りやすくさせる塊茎損傷処理が残存塊茎の枯死率向上に有効である。逆に秋の反転耕起作業は、冬季の地温がより高い深層の土壌へ塊茎を深く潜り込ませることで、塊茎を越冬させる可能性を高めるので、実施しない方が良い。

 これらの土壌凍結深制御手法は生産者自身が適切な雪割りを実施するための意志決定支援ができる農業気象情報システムの構築へと発展し、十勝地方では土壌凍結と野良イモ防除に関する情報は、十勝農協連の運営する「営農Webてん蔵」を通して、十勝の農協24団体と生産者で利用されることになった(図4)。また、十勝に次ぐばれいしょ生産地帯であり、かつ十勝と比較的類似の気候条件であるオホーツク・網走地方でも技術の適用可能性があると考えられる。
 
参考文献
1)北海道農政部,北海道立総合研究機構農業研究本部,2013:土壌凍結深の制御による野良イモ対策技術 (アクセス日:2013年10月12日)
2)農研機構,2013:土壌凍結深の制御による野良イモ対策技術 (アクセス日:2013年10月12日)
3)Hirota T., Y. Iwata, M. Hayashi, S. Suzuki, T. Hamasaki, R. Sameshima, I. Takayabu, 2006: Decreasing soil-frost depth and its relation to climate change in Tokachi, Hokkaido, Japan. J. Meteor. Soc. Japan, 84, 821-833.
4)HirotaT., K. Usuki, M. Hayashi, M. Nemoto, Y. Iwata, Y. Yanai, T. Yazaki, S. Inoue,2011; Soil frost control: agricultural adaptation to climate variability in a cold region of Japan. Mitig. Adapt. Strateg. Glob. Change. 16.791-802.
5)広田知良,2010:十勝地方における野良イモの発生問題とその対策事例. でん粉情報,36 32-34.
6)Yazaki, T., Hirota, T., Iwata, Y., Inoue, S., Usuki, K., Suzuki,T., Shirahata, M., Iwasaki, A., Kajiyama,T., Araki, K., Takamiya, Y., and Maezuka, K. 2013:Effective killing of volunteer potato(Solanum tuberosum L. )tubers with soil frost control using agrometeorological information- an adaptive countermeasure to the climate change utilizing climate resources in a cold region -Agr. Forest Meteorol., 182-183, 91-100.
7)矢崎友嗣,広田知良,鈴木剛,白旗雅樹,岩田幸良,井上聡,臼木一英,2012:北海道の気候条件から見た土壌凍結深制御による野良イモ防除の作業日程,生物と気象12,12-20.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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