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北海道におけるでん粉原料用ばれいしょ品種育成の課題と取り組み

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最終更新日:2014年3月10日

北海道におけるでん粉原料用ばれいしょ品種育成の課題と取り組み

2014年3月

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター 
研究調整役(芽室担当) 森 元幸

【要約】

 でん粉原料用ばれいしょ品種は、「紅丸」が約50年間にわたり主要品種の地位を守り、1996年に「コナフブキ」が置き換わり現在に至っている。「コナフブキ」はジャガイモシストセンチュウに抵抗性を持たず、近年の気象変動により収量が伸び悩んでいる。そこでシスト線虫抵抗性に加え、でん粉品質が優れ、気象変動にも安定生産できる有望系統が育成されつつある。数十年の歳月と世代を超えた育種研究者の努力により、北海道に適した品種が育成されてきた。

はじめに

 でん粉原料用ばれいしょは北海道でのみ生産されており、産業として成立してから100年以上の歴史がある。1868年の明治維新をきっかけとして北海道の開拓は急速に進められ、冷涼な気候に適したばれいしょは1900年ごろに栽培面積が1万ヘクタールを超え、開拓民の日々の糧を支える貴重な作物となった。第一次世界大戦(1914〜1918年)が勃発し、ヨーロッパで戦火が拡大するに従い、世界のでん粉需給がひっ迫した。これを受け、北海道各地で水車動力を利用したでん粉製造が開始され、輸出産業として成長した。

 当初は「アーリーローズ」「神谷薯」「ペポー」など外国からの導入品種が原料用として栽培されたが、でん粉製造に適する多収品種の需要に応え、1943年に初めての国産品種「紅丸」が育成された。「紅丸」は1949年に北海道で5万8192ヘクタールと栽培面積が最大に達し、1996年に「コナフブキ」が栽培面積を超えるまで約50年間も主要品種の座を保った。その後、「コナフブキ」は主要品種の地位を保ち、2012年には1万2593ヘクタールの栽培面積となった。

  2000年以降、「コナフブキ」では対応が難しい問題として、ジャガイモシストセンチュウ対策と気象変動対応が急務となっており、本稿では、その育種的なアプローチを紹介する。

1.ジャガイモシストセンチュウの発生確認

 1972年に北海道で初めてジャガイモシストセンチュウ(Globodera rostochiensis)の発生が確認され、発生地は道内で拡大するとともに、長崎県や青森県などでも発生を確認し、全国の発生面積は1万ヘクタールに達し、さらに増加傾向にある。

 本線虫は土壌中に生息し、ばれいしょの根に寄生して養分を吸収し、線虫密度が高くなると大幅な減収を引き起こす。卵を温度や湿度変化から守るシスト(卵嚢)は化学的・物理的に耐久性が高く、自然条件の土壌中で10年以上も卵の活性を維持し、シストが付着した塊茎およびシストが混入した土と共に移動して伝染が拡大する。このため世界的にも植物検疫上で第一級の有害線虫とされ、汚染ほ場での採種栽培が禁止されるなど、ばれいしょ生産システムに大きな障害となっている。市場販売される「男爵薯」や「メークイン」、ポテトチップ原料となる「トヨシロ」、そしてでん粉原料用の「コナフブキ」など、1985年以前に育成された全ての国産品種は本線虫に対し抵抗性を持たない。

 本線虫の発生確認と同時に、総合防除の基幹となる抵抗性品種育成に着手し、1978年に「ツニカ」が命名登録され、その後多数の抵抗性品種が導入もしくは育成されてきた。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種を感染ほ場で栽培すると、農薬を用いた化学的防除なしでも土壌中の線虫密度が減少する(図1)。

 また、生産された塊茎にシストが付着しないため、シストの混入した土壌の移動を防げば、生産物の流通を通しての発生面積拡大は抑制できる。さらに抵抗性品種の利用は、輪作や化学的防除の利用との相乗効果により、より効果的な手法となる。
 

2.ジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種の導入と国産品種の育成

 既存の国内品種の中にシスト線虫抵抗性品種を見つけることができなかったため、外国から抵抗性品種を導入し評価を進めた。1971年に旧東ドイツから導入した「Tunika」と「Skutella」をはじめとして多数の抵抗性品種を海外から導入し、生育特性と生産力を評価するとともに、線虫発生地帯における適応性を検討した。これにより「Tunika」は、線虫発生地帯の主要品種「紅丸」および「農林1号」に代わるでん粉原料用抵抗性品種として認められ、1978年「ばれいしょ導入3号」として登録され、「ツニカ」と命名されるとともに北海道における奨励品種に採用された。

 一方、「コナフブキ」のでん粉特性はリン含量と離水率が高いことから、水産練り製品への利用に不適であった。そこでリン含量と離水率が低い「紅丸」タイプのでん粉品質を有する「アスタルテ」が導入された。また当初はでん粉原料用として導入された「プレバレント」は、でん粉原料用に加え独特の食味を有する生食用として、斜里地域の特産品種向けとして導入された(表1)。

 「ツニカ」を母本とする交配からは比較的優良な後代が得られ、本線虫に抵抗性を有する多数の優良品種が育成された。「ツニカ」を母親とする「トヨアカリ」は初めての国産抵抗性育成品種で、「ツニカ」より高でん粉多収のでん粉原料用品種である。さらに「トヨアカリ」を父親として、「コナフブキ」よりでん粉収量の多い「サクラフブキ」が育成された。「ツニカ」を母親とする「ムサマル」はフライ適性の優れる加工食品用であるが、でん粉価が高く多収であることからでん粉原料用として栽培された。さらに「ムサマル」を母親として「こがね丸」が育成され、本来はフライ向け加工食品用であるがでん粉原料用として栽培されている。また「ムサマル」を母親として、早掘り収穫適性のある「ナツフブキ」が育成されている。

 米国コーネル大学からジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種間の交配種子を導入し、シスト線虫抵抗性遺伝子を3重式に持つ母本系統「R392-50」が選抜された。この「R392-50」を交配に用いた後代は、96パーセント以上がシスト線虫抵抗性を保有することから、抵抗性の選抜効率が飛躍的に向上した。「R392-50」を父親として早掘り収穫適性のある「アーリースターチ」が育成され、前述の「こがね丸」や「ナツフブキ」は「R392-50」の孫に相当する。「アスタルテ」より多収でリン含量と離水率が低い「紅丸」タイプのでん粉品質を有する「コナユキ」は、「紅丸」に「R392-50」の孫を交配して育成された。
 
 でん粉原料は収量性が第一義であり、「コナフブキ」の多収性の壁は大きい。1972年以降の数十年間は、シスト線虫抵抗性の導入を最優先としたため、それ以前の育成系統に比べ収量水準が劣るばかりでなく、栽培のしやすさや他の病害に対する抵抗性、さらにでん粉品質など利用特性の改良も犠牲にせざるを得なかった。このような状況で、シスト線虫の高濃度汚染地を中心に、「アーリースターチ」「アスタルテ」「サクラフブキ」などの抵抗性品種が作付けされている。2012年のでん粉原料用作付面積1万5685ヘクタールのうち、シスト線虫抵抗性品種の合計は2,719ヘクタール(17%)であり、「コナフブキ」の1万2593ヘクタール(80%)に遠く及ばない(表2)。
 

3.近年の気象変動と収量レベルの低下

 2001年以降の国内産ばれいしょでん粉の供給量は、約24万トンで推移していたが、2009年を境として急激に供給量が低下し、6万トン(25%)減の18万トン程度となった。これは畑作物に対する政策転換の影響や担い手の構造変化を原因として、でん粉原料用作付面積が、約1万8000ヘクタールから2,000ヘクタール(11%)減の約1万6000ヘクタールになったことによると考えられる。しかし、でん粉供給量の減少率25パーセントは、作付面積の減少率11パーセントより大きく、他の要因も考えられる。そこで10アール当たりの収量が関係していると考え、でん粉供給量と比較すると、2001年以降の両値は漸減傾向にあり、増減の推移も類似していた(図2)。2001年以降で10アール当たりの収量が最も高かった2003年は低温年であり、最も低かった2010年は高温年であったことから、生育期間中の気象が要因であると類推した。
 
 ばれいしょの生育温度は10〜25℃であり、高温限界をはるかに超える最高気温30℃について、それぞれの年の超過日数を比較した。対象地域は、ばれいしょの主産地である十勝とオホーツクとした。2003年は最高気温が30℃を超えたのが数日に対し、2010年は1桁多い日数であった(表3)。生育限界を超える暑さにより作物体が消耗し、また高温性の病害が発生し、10アール当たりの収量に大きく影響したと考えられる。2030年代の気象予測には温暖化が示されており(表4)、今後2010年のような高温年の頻度が増加すると考えられる。
 
 気温が上昇し降雨が増えるような気象の変化は、ばれいしょの生育に次のような影響を及ぼすと考えられる。
  1. 生育限界を超える高温により、収量が減少しでん粉価が低下する。
  2. 地上部の生育が早生化することにより、熟期が早くなり生育日数が短くなる。
  3. 乾燥と過湿の交互の繰り返しにより、褐色心腐や中心空洞、二次成長などの生理障害が増加する。
  4. 生育の早生化により疫病の初発が早くなるとともに、高温過湿により軟腐病が増加し、青枯病発生のリスクが高くなる。
  5.  高温によりアブラムシ類の発生時期が拡大し、媒介されるウイルス病の発生リスクが拡大する。
 これらの負の要因を克服するためには、近縁野生種などを利用した新たな耐病虫性の付与、暑さに強い生理的な遺伝形質の導入に加え、形態的に草型が直立し防除など機械での栽培管理が容易である、物理的に根圏が広く生育が安定している、などの改良が必要である。多くの場合、これらの改良は熟期の晩生化を招くが、温暖化により熟期が早生化することと相殺されると考える。

4.期待のでん粉原料用育成品種・系統

 北海道内の各育種場が育成している新品種・有望系統は、「コナフブキ」に比べ塊茎収量が24〜30パーセント、でん粉収量が17〜28パーセントの多収である(表5)。3系統とも「コナフブキ」より熟期が遅い晩生に属し、収穫時期が遅過ぎる懸念がある。いずれの系統も塊茎の早期肥大性を有し、茎葉の枯凋前から収穫可能である。北海道における2030年代の気象予測によれば、栽培期間の気温は平均で1.8℃上昇する。ばれいしょの熟期は気温上昇により2〜3週間早まると予測され、高温が続く近年では「コナフブキ」が早く枯れ上がり、収量が伸びないと現場から報告がある。これら3系統が普及する頃は、晩生であることが必ずしも欠点となるとは限らないと推察する。

 「アーリースターチ」や「サクラフブキ」のでん粉品質は、「コナフブキ」と同様にリン含量・離水率とも高い。これに対し最新の3系統は、でん粉品質が改善もしくは特徴ある品質に改善されている。「北育20号」は「コナフブキ」の改善型、「HP07」は「紅丸」型、「北海105号」は新規特性型である(表5)。

 これら3系統の育種場は、石狩、十勝、北見と異なる気象条件の地域に立地し、育種の場の効果により生育に最適となる気象条件は異なる。いずれかの系統が、北海道内のどの地域においても「コナフブキ」より優れる特性を発揮すると期待できる。3系統とも近年中の品種登録予定であり、原原種生産も「北育20号」と「HP07」は2014年から、「北海105号」は2015年から開始され、種苗の供給体制も整えられる予定である。これにより、北海道が策定した「でん粉原料用ばれいしょ品種の2022年普及目標を、100パーセントのジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種とする(北海道馬鈴しょ安定供給に関する検討会、2012年)」を達成したいと考える。
 

5.品種育成には長期展望が必要

 ばれいしょ育種がどの様に行われているか、「北海105号」を例として紹介する(図3)。2001年に「ムサマル」を母親、「北海87号」を父親として交配し、雑種種子を播種して得られた実生個体から選抜した栄養繁殖体系統が「北海105号」である。系譜をたどると、母親「ムサマル」の来歴は全てヨーロッパ品種である。一方、父親「北海87号」の来歴は、国産品種と国内交配の母本系統である。両親は遺伝的に遠縁であり、雑種強勢による多収を目的とした交配であることが分かる。父親「北海87号」の系譜をさかのぼると、Solanum chacoenceやSolanum verneiなどの近縁野生種に至る。Solanum chacoenceは高でん粉やYモザイク病抵抗性を、Solanum verneiはジャガイモシストセンチュウ抵抗性を、それぞれ栽培種に導入する目的で最初の交配が行われた。Solanum verneiを用いた最初の交配から品種に至るまで40年以上を要し、この間に少なくとも5回以上の交配と選抜を繰り返しており、新品種育成までには長い年月と多数の育種研究者による数世代の努力を必要とする。
 
 日本は開発途上国から多数のJICA研修生を受け入れている。当研究所の業務を紹介するとき、100年以上の歴史を持つ育種研究の成果に驚きを示す。研修目的である先進的な技術よりも、100年以上前から自国に必要な作物の品種を自前で育成してきた、長期間の継続と科学技術の集積に興味を示す研修生も多い。ところが2001年頃から育種研究を担う組織体制と予算が変質し、育種を継続することが難しい状況となっている。育種事業を維持する経常費の削減、研究期間3年程度の競争的資金の比率増加、5年ごとのプロジェクト達成型の事業期制導入など、近視眼的な成果達成と評価に応じた予算配分に、育種研究者は振り回されている。一つの品種育成に10数年を必要とする育種では、この間にも複数回の競争的資金獲得の応募を行い、高い評価を勝ち取らなければならない。過去の遺産を食いつぶして何とか予算を確保している現状では、遺伝的なバックグラウンドを拡大して、画期的な品種育成と将来リスクへの備えを語ることは難しい。関係者皆さまの協力を得て、組織と予算の構造を革新し、地に足を着けた育種研究環境を整備することが必須であることを将来展望としたい。

参考文献

1. ジャガイモシストセンチュウについて

 奈良部 孝(でん粉情報2009年6月号)ジャガイモシストセンチュウの簡易検出法
 池谷 聡(でん粉情報2009年7月号)ジャガイモシストセンチュウ抵抗性でん粉原料用ばれいしょ品種育成状況について

2. ばれいしょでん粉の用途と品質・特性

 野田 高弘(でん粉情報2008年10月号、11月号)ばれいしょでん粉の科学(1) (2)

3. でん粉原料用品種の特性

 池谷 聡(でん粉情報2008年1月号)でん粉原料用ばれいしょ品種と育成の現状について
 大波 正寿(砂糖類・でん粉情報2013年9月号)でん粉原料用ばれいしょ「コナユキ」の特性について


 

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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