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〜南九州市知覧町瀬世地区の取り組み〜

でん粉原料用かんしょ生産で地域の農地を守る
〜南九州市知覧町瀬世地区の取り組み〜

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最終更新日:2014年8月11日

でん粉原料用かんしょ生産で地域の農地を守る
〜南九州市知覧町瀬世地区の取り組み〜

2014年8月

鹿児島事務所(現 調査情報部) 渡辺 陽介
            調査情報部 坂西 裕介

【要約】

 南九州市知覧町瀬世地区では、地区内の遊休農地の解消のため、瀬世農用地利用組合を設立し、集落営農に取り組んでいる。組合員の多くが兼業農家であることや自作地を有していることから、組合員の作業可能時間が限られる中、地域の基幹作物であるでん粉原料用かんしょを生産することにより、作業の効率化や組合運営の安定化を図っている。

はじめに

 わが国では、高齢農業者の引退などに伴い遊休農地が増加する中、農地の維持・保全が課題となっており、この課題に対応するため、集落営農などが取り組まれている。

 集落営農は、地域ぐるみで農作業の共同化や機械の共同利用を行うことにより、経営の効率化を目指すものであり、農業者の高齢化や担い手不足が進行している地域において、有用な形態として全国的に拡大している。本年2月時点における全国の集落営農数は1万4717(注)に及び、そのうち、鹿児島県は142となっている。

 鹿児島県南九州市知覧(ちらん)町瀬世(せせ)地区では、平成23年に兼業農家が中心となって「瀬世農用地利用組合」(以下「組合」という)を設立し、でん粉原料用かんしょなどの生産を共同で行っている。本稿では、地区内の遊休農地を借り受け、集落営農を通じて農地の維持・保全を図る同組合の取り組みについて紹介する。

(注)農林水産省「集落営農実態調査(平成26年2月1日現在)」

1. 瀬世地区の概要

 南九州市は、平成19年12月に頴娃(えい)町、知覧町、川辺(かわなべ)町の3町が合併して誕生し、人口は3万8073人(平成26年6月30日現在)である。薩摩半島の中央部に位置し、農業が盛んで、特にお茶とかんしょの生産量が多い。かんしょはでん粉原料用、焼酎用、青果用が生産されている。青果用かんしょは、鹿児島県により「かごしまブランド産地」の指定を受けており、「知覧(ちらん)紅(べに)」ブランドが有名である。

 瀬世地区は、水田と畑が混在する知覧町の中部に位置し、280世帯のうち30世帯が農業に従事している。周辺地域に比べると、大規模な生産者が少なく小規模な生産者が点在している状況にあり、ほ場の規模も小さい。
 

2. 組合の設立経緯

 瀬世地区では、農業者の高齢化などにより遊休農地が発生していたが、小規模な兼業農家が多いこと、狭小で農業機械を使用することができない農地が多かったことなどから、これらの農地を借り受け、耕作を続ける者がいない状況が続いていた。このような状況下、平成22年6月、鹿児島県南薩地域振興局と南九州市から瀬世地区に対し、「集落営農を行わないか」との打診があった。これを受け地区内の遊休農地の増加に危機感を持っていた、後に組合の役員となる5名の生産者が中心となって、同振興局と南九州市の助言・指導を受けながら、組合の設立に向けて検討を開始した。

 検討に当たっては、まず、農業従事世帯を対象としたアンケート調査により意向確認を行った。アンケート調査では、「後継者はいるか」「農業を続けられなくなった場合、農地を組合に貸し付ける意向はあるか」などを調査した。アンケート調査の結果、組合に農地を貸し付ける意向のある者が確認されたが、一方で「自分の畑は自分で守る」との意識や共同作業への抵抗も強く、地区内で協議を重ねたものの意見はなかなかまとまらなかった。

 そのため、前述の5名が中心となって、生産者ごとに個別に説得を行った。現在、組合で事務局長を務める内園哲郎氏は、「共同作業への抵抗感を払拭するための意識改革に苦労した」と当時の状況を振り返る。内園事務局長は「高齢化が進む中、自分たちの農地をどう守っていくのか」「高齢者でも元気なうちは、農作業に取り組み現金収入を見込める環境を作ろう」と説得して回ったという。当初は、組合員のすべてのほ場で共同作業することを検討していたが、地区内の遊休農地を対象に共同作業を行うことで合意し、組合の設立に至った。

 かくして、平成23年3月11日、設立総会が開催され、組合員15名による組合が設立された。
 

3. 組合の概要

 組合の概要は表のとおりである。 

 組合の特徴として、組合員に兼業農家が多いことが挙げられる。平成26年4月時点の組合員数は16名であるが、このうち兼業農家が12名を占める。このほかの組合員は専業農家が2名、農地の所有者(非農家)が2名である。組合員の平均年齢は61歳で、最年長は78歳、最年少は45歳となっている。

 組合は、地区内の遊休農地を組合員または組合員以外の所有者から借り受け、作付けを行っている。組合員は、このほか自作地でもでん粉原料用かんしょなどを別途栽培している。ほ場の借り受けに当たっては、10アール当たり6000円の土地賃借料を支払っているが、知覧地区の平均と比較すると安価であるため、今後、引き上げを検討している。

 組合ではでん粉原料用かんしょのほか、焼酎原料用かんしょ、水稲、ゴマの生産を行っている。かつて水田であった遊休農地では水稲の栽培も行っている。かつては、水田ででん粉原料用かんしょの作付けを試みたこともあるが、湿田が多く収量が低かったことなどから、現在は行っていない。また、ゴマの生産は組合の設立を契機に、収入の確保を目的として有機栽培により開始したが、収穫時期が台風の襲来時期と重なるため、軌道に乗るまでには至っていない。

 平成25年産の作付面積は4.6ヘクタールである。品目別ではでん粉原料用かんしょが3.1ヘクタール、水稲が0.7ヘクタール、焼酎原料用かんしょが0.5ヘクタール、ゴマが0.3ヘクタールとなっており、でん粉原料用かんしょが約7割を占めている。組合の主な収入は、これらの農産物の販売収入となっている。

 作業は組合員が分担して行い、作業を行った組合員に対し1時間当たり875円の賃金を支給している。なお、組合では農業機械を所有していないため、農業機械による作業は組合員が所有する農業機械を利用する。農業機械による作業に対しては、作業面積に応じて南九州市農業委員会が定める農作業標準賃金を支給している。

 内園事務局長は、作業スケジュールの作成から、組合員への出役要請、作業人員確保までの各調整をすべて1人で行っている。しかし、組合員の多くが兼業農家であること、また、自作地の作業が優先されることから、組合作業に時間を割ける人員を確保するのに苦労するという。特に、繁忙期や悪天候により作業が延期となった場合の作業人員の確保は困難になる。内園事務局長は「任意組合であるため作業を強制することができない難しさがある」と話す。
 

4. でん粉原料用かんしょの生産

 組合ではでん粉原料用かんしょを中心とした栽培体系をとっている。でん粉原料用かんしょを選択した理由について、内園事務局長は 1)市場価格に左右されず販売価格が安定していること 2)台風などの自然災害に強いこと 3)組合員が自作地でも栽培していること 4)他作物に比べ作りやすいこと−の4点を挙げている。

 販売価格が安定していることは、組合の運営にとってメリットが大きいと考えられる。組合では、土地賃借料や賃金などの経費が発生するが、主な収入は農産物の販売収入である。でん粉原料用かんしょは年度ごとに1トン当たりの販売価格と交付金単価が決まっていることおよび自然災害に強いことから、収入を見込みやすく、収入に見合った事業計画を立てることが可能である。

 組合員が自作地で栽培していることも選択の理由として大きい。新たに農業機械を導入する必要がなく、組合員が所有する農業機械を有効利用することが可能である。また、各組合員が自作地に植え付けるために育苗した苗の一部を組合用に利用する上、組合員が作りなれた作物であること、他作物に比べ作りやすいこともあって、効率的に作業を行うことが可能である。

 このほか、組合では収入増に向けた取り組みとして、平成24年産から、他の品種よりも買い取り価格が高い「こなみずき」の栽培にも積極的に取り組んでいる。

 また、でん粉原料用かんしょの収穫後のほ場の一部を近隣の農事組合法人に貸し付けており、当該法人は借り受けたほ場でだいこんの作付けを行っている。これにより、組合は冬場の管理作業を行う必要がなく、ほ場管理の省力化と農地の有効利用を図っている。
 

5. 組合運営上の課題解決のための方策

 課題の一つ目として、運営の安定化が挙げられる。現在は任意組合であり、発生した利益は組合員に分配する必要があるため、剰余金を不作時のための資金として留保することができず、運営の安定化には至っていない。内園事務局長は、標準的な土地賃借料や賃金を支払いながら組合を将来にわたって維持していくのは難しくなると考えている。また、現在、組合の運営面などの課題は、組合員全員で協議した上で意思決定を行う必要があり、課題に対して迅速な対応ができないという課題も抱えている。

 二つ目に、担い手の確保が挙げられる。内園事務局長は「高齢化により、今後、組合員は減る一方ではないか」と話す。前述のとおり、組合員の平均年齢は61歳と若くない。組合を安定的に運営していくためには、中核となる担い手を新たに確保することが必要であるが、現実には人材が不足しており簡単ではない。

 これらの課題を解決するための方策として、組合の法人化が考えられる。法人化により、剰余金の留保が可能となる。また、責任の所在が明らかになることにより、意思決定が速やかにできる体制が確立され、組合の運営が安定したものとなる。将来にわたって安定的に運営されれば、地域農業の担い手として組合の重要性が高まるであろう。しかし、組合の作付面積は法人として採算を見込むには十分ではないことから、組合員の自作地も含めた共同化の検討が改めて必要ではないだろうか。

 JAグループ鹿児島では、平成21年3月、「担い手・法人サポートセンター」をJA鹿児島県中央会に設置し、農業生産法人や将来的に法人化を目指している生産者を「地域農業の担い手として支援したい先」として選定し、「定例訪問」「事業支援」「法人化支援」「経営支援」などの支援を行っている。

 定例訪問では、「声を聴く運動」として定期的に意見や要望を把握し、事業支援では、栽培指導のための従業員研修会や契約販売の提案などを行っている。法人化支援では、JAなどの関係機関や税理士、社会保険労務士などの専門家が加わり、法人化のメリット・デメリットや手続きなどについて説明を行うとともに、法人化スケジュールの策定などを支援している。経営支援では、法人経営が軌道に乗るよう関係機関と連携して定期的に経営検討会を開催している。このほか、県や市町村においても各種支援が行われている。組合においても関係機関の支援を受けながら、法人化を視野に入れた検討を進めていくことが必要ではないだろうか。

 内園事務局長は「遊休農地を出さないためにも組合の活動を継続させたい」と意気込みを語っており、今後も組合の農地を守る取り組みに期待したい。

おわりに

 地域の農業および農地を維持していくための有用な形態である集落営農を安定的に継続させるためには、組織の法人化を進めることが重要である。鹿児島県では、法人化に向けて、JAグループなど関係機関による各種支援が行われているところであり、これらが奏功して農業生産法人の数は増加しつつある。

 今回紹介した組合は、地域の基幹作物であり、販売価格が安定している上、組合員が自作地でも栽培するでん粉原料用かんしょを主要作付品目とすることにより、作業の効率化と組合の運営の安定化を図っていた。組合の取り組みは、鹿児島県で広く生産されるでん粉原料用かんしょが主に作付けられている点で、他の生産者の模範となり得る事例といえる。今後、農業生産法人など安定した組織によるでん粉原料用かんしょの栽培を通じた農地の維持・保全の取り組みが鹿児島県内に普及することを期待したい。

 最後にお忙しい中、本取材に当たりご協力いただいた関係者の皆さまに心から厚く御礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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