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〜北海道斜里町「ポテト・プロジェクト・チーム」の取り組み〜

でん粉原料用ばれいしょの単収向上に向けて
〜北海道斜里町「ポテト・プロジェクト・チーム」の取り組み〜

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最終更新日:2015年3月10日

でん粉原料用ばれいしょの単収向上に向けて
〜北海道斜里町「ポテト・プロジェクト・チーム」の取り組み〜

2015年3月

札幌事務所 所長補佐 坂上 大樹

【要約】

 斜里町では、でん粉原料用ばれいしょの単収向上を図るため、斜里町農業協同組合、斜里町農業協同組合中斜里澱粉工場、北海道オホーツク総合振興局網走農業改良普及センター清里支所の現場担当者が「ポテト・プロジェクト・チーム」を編成し、単収の低い生産者を対象とした営農指導に取り組んでいる。指導を受けた生産者の単収向上など成果を上げている。

はじめに

 でん粉は、異性化糖、水あめなどの糖化製品の原料になる他、熱を加えると粘性、弾力性、保水性などのさまざまな特性を有することから、食品、工業製品、医薬分野などで幅広く利用されており、2000〜3000種の利用形態があると言われている。

 でん粉はその原料となる植物の種類によって特性が異なっており、ばれいしょでん粉は、片栗粉、春雨、せんべいやボーロなどの菓子類などの主原料である他、食品の増量や食感改良、品質保持などを目的として、各種の食品の副原料として使用されている。平成21年産以降、3年連続で、でん粉原料となるばれいしょの不作が続き、ばれいしょでん粉の大幅な供給不足に陥った際、タピオカでん粉やコーンスターチへ切り替える動きがみられ(図1)、現在もばれいしょでん粉に対する需要の回復が遅れている状態となっている。ばれいしょでん粉を販売するホクレン農業協同組合連合会は、産地や行政とともに、ばれいしょでん粉の安定供給に向けたプロジェクトを始動させるなど、ばれいしょでん粉の供給体制の立て直しに懸命に取り組んでいる。


 本稿では、ホクレン農業協同組合連合会と歩調を合わせて、関係機関の現場担当者が「ポテト・プロジェクト・チーム」(以下「PPT」という)を結成し、でん粉原料用ばれいしょの単収向上に向けた取り組みを行う斜里町の事例を紹介する。

1. 斜里町の農業の概要

 斜里町は北海道の北東部、オホーツク海沿岸にあり、農業を基幹産業とする町である(図2)。定置網漁によるサケ、マスの漁獲高が全国一を誇る漁業の町であるとともに、ユネスコの世界自然遺産「知床」を擁し、年間120万人もの観光客が訪れる観光の町でもある。

 
 
 斜里町農業協同組合(以下「農協」という)の農畜産物の取扱高を品目別の構成比で見ると、ばれいしょを原料とするでん粉が17.1%と、野菜に次ぐシェアとなっている(図3)。
 

 道内2位の処理能力を誇るでん粉工場を有し、国内産ばれいしょでん粉の1割を製造する同町は、北海道を代表するばれいしょでん粉の産地となっている(図4)。
 
 一方で、同町のばれいしょの作付面積は、平成7年の3200ヘクタールから21年の2680ヘクタールに減少し、減少分がほぼ小麦に置き換わっている(図5)。

 これは、小麦生産における農作業受託組織による収穫体制の確立および受託作業の推進の取り組みによって、大規模化、農地集積が展開されてきたことに加え、近年の小麦の国際取引価格の高騰を背景に国産小麦の供給増加が期待されていることや、平成19年度からの小麦政策の転換などにより、生産者の小麦に対する生産意欲が刺激されたことも影響する。
 
 また、PPTが結成される前のばれいしょ、小麦およびてん菜の畑作3品目の経済性を見ると(表)、所得率に大きな差はないものの、小麦の投下労働時間は他の品目と比べ圧倒的に短く、労働負担という面で小麦に優位性がある。この地域における農業労働力の減少・高齢化といった構造的な変化に伴い、より手間のかからない小麦の生産へと誘引されている面もあると考えられる。
 
 小麦の播種適期とされる9月下旬の播種を励行してきた斜里町では、小麦の作付面積の拡大と相まって、ばれいしょの収穫作業と秋まき小麦の播種作業がしばしば競合するという新たな課題に直面した。このような中で生産者は、やむを得ず十分な生育期間を確保しないまま、ばれいしょを収穫することになった。その結果、ばれいしょの単収低下による所得減少を招くこととなり、近年の野菜など他作物への切り替えの増加につながった。

 また、小麦生産に力点が置かれるあまり、ばれいしょを野菜と同列に扱い、春先から小麦を播種するまでの空いた期間、土地を埋める「つなぎ」の作物であると考える生産者が増えているとのことだ。ことに経験の浅い生産者や若い年齢層の生産者の間でその傾向が強いという。農協などはこうした意識の変化は輪作体系の根幹を揺るがす重大な課題であると、強い危機感を募らせていた。

2. PPTの結成

(1)結成までの経緯

 こうした状況に農協、斜里町農業協同組合中斜里澱粉工場(以下「でん粉工場」という)、北海道オホーツク総合振興局網走農業改良普及センター清里支所(以下「普及センター」といい、以下これらを総称して「農協など」という)は、効果的な対策が講じられずにいた。農協、でん粉工場、普及センターそれぞれの立場と役割の違いから、対策が縦割りになりがちで、情報の共有が必ずしも十分ではなかったからである。

 折しも平成21年、長雨と冷夏などの天候不順により、ばれいしょが不作に見舞われ、原料処理量は、昭和43年以来初めて10万トンの大台を割り込み、前年比で2桁台の落ち込みを記録した。生産者の経営は大打撃を受けたことから、ばれいしょに対する生産意欲が一気に減退し、輪作体系が崩壊することが懸念された。

 こうした中、農協の1人の担当者が、関係機関の現場担当者(課長以下の者。以下同じ。)に対し、「でん粉原料用ばれいしょの生産および加工に関わる現場担当者が思いを一つにし、よりよい解決策を模索しながら迅速かつ柔軟に取り組める体制を作り上げていこう」と呼び掛けたのである。

 趣旨に賛同した14名の現場担当者が平成22年にPPTを立ち上げ、人事異動などによるメンバーの入れ替わりがありつつ、現在も14名のメンバーが本業の傍ら活動している。

(2)組織体制と活動内容

 PPTは、自主的に組織された任意団体であり、決断や実行のスピード感、メンバーの自主性を重視しているため、管理運営に関する細かいルールなどは存在しない。その一方で、運営費や活動費は主に農協が負担しており、活動経過や結果は随時、農協内の所定の手続きを経て報告されている。

 主な活動内容は、日照や標高などの地理的条件などを考慮した区域(全12区域)において、平均単収を下回っている生産者のうち、PPTが特に支援の必要があると判断した者に対する営農指導である。現在、30名の生産者が対象となっている。指導の対象を限定したことについて担当者は、「現行の輪作体系を維持しつつ生産量を高めるためには、単収の向上を目指すほかない。地域農業をけん引する生産者はすでにあらゆる工夫を重ね、単収の向上に取り組んでいる。地域に少なからず存在する成績が振るわない生産者の『伸びしろ』に懸けた」としている。

 PPTのメンバーは、2〜3名を1組とする計6班に分かれ、1班当たり5〜6名の生産者を受け持って、年間4回程度の巡回指導を実施している。経験が浅いまたは比較的年齢の若い生産者に対しては基本技術の励行を指導し、ベテランの生産者に対しては地域の基準に則した作業、技術を適切に実施するよう指導することを基本としているものの、現場での具体的な指導は各班に一任されている。

 ある班は、指導する必要がある作業項目のうち、最も改善してほしい項目を繰り返し指導している。この班は、経験則からすべての課題を1年で克服するよう指導するよりも、課題を絞り2〜3年かけて指導する方が、注意やアドバイスを聞き入れてもらいやすいのではないかと考えている。

 また、ある班は、理想とする単位面積当たりの株数(ほ場の条件により異なるが、おおむね10アール当たり4500株)に近づけるため、種いもの植え付け間隔を指導している。種いもの植え付けは年に1度の作業であるため、指導するチャンスは1回限りとなる。そのため、生産者のくせを修正し、意識付けを図るのは非常に苦労するというが、最近は生産者の意識が高まってきたといい、指導の手応えを感じているという。

3. 活動の成果

(1)単収の向上

 PPTの活動による具体的な成果も見え始めている。図6は、斜里町の平均単収を100として、それを基準にPPTの指導の対象となった生産者の単収を指数化し、プロットしたものである。年を追うごとに平均単収を上回る生産者が増えていることが分かる。平均単収を上回った生産者は、平成22年産は1名、23年産は2名、24年産は4名、25年産は8名と毎年倍増し、25年産の時点で平均単収を上回った生産者が全体の4分の1を超えている。また、全体的に単収水準が底上げされているように見える。

 特に、25年産は春先の長雨、7〜8月の干ばつなど天候が不順で、決して条件が良い年ではなかったが、着実に成果を積み上げることができたことは、PPTにとって大きな励みとなった。
 

(2)生産者の変化

 PPTの指導の対象となっている生産者のS氏に話を伺うことができた。

 S氏は、3年前に父親から経営を引き継いだ当初、にんじんの生産に力を入れていた。S氏のほ場がある地区は、斜里町の中でも比較的栽培条件に恵まれた地域であるが、S氏の経験不足なども影響してか、平成23年産のばれいしょの単収は、地区の平均単収と比べ約18%、斜里町全体の平均と比べ約14%下回る成績となっていた。

 しかし、PPTの指導の結果、S氏の単収は大幅に向上している。図7は、各年産の斜里町の平均単収を100として、S氏の単収とS氏のほ場がある地区の平均単収を指数で示したものである。PPTの指導が開始された24年産以降、S氏の単収は、斜里町の平均単収、S氏のほ場がある地区の平均単収のいずれも上回っている。現在では、S氏は高単収を上げる生産者に成長し、加えてばれいしょの生産に本腰を入れて取り組みたいという思いに変わっている。
 
 PPTでは、S氏の単収が伸びない原因を探るため、まず始めに土壌診断を実施した。その結果、S氏のほ場は雨が降ると地下水の水位が上がり、土壌中の養分が流亡していることが分かった。そこで、S氏に土壌や追肥からの養分補給だけでは不十分であることを伝え、防除剤の散布後に、液肥を散布するよう指導した。S氏が早速これを試したところ、早い段階から茎の生長や葉のつやが良くなる見た目の変化が表れ、その後も液肥の散布を続けたところ、以前に比べて塊茎の肥大が良好となり、大きな効果を実感できたのである。現在、S氏は、農協や普及センターが主催する研修会などにも積極的に参加するようになり、新しい知識や必要な技術の習得に努めているとのことだ。

(3)現場担当者の変化

 PPTのメンバーにも新たに気づいたところや、意識の芽生えがあった。

 あるメンバーは、「活動開始当初は、生産者に優良事例の取り組みを身に付けさせることばかりに注力しすぎて、結果が出せない生産者に対し、適切な指導をすることができなかった」と反省する。それを踏まえ、指導する者の心得として、「優良事例は万能ではない。知識や情報を右から左へ伝達するだけでなく、生産者個々の条件や実情に応じてアレンジすることや、失敗した場合にリカバーする方策を持ち合わせることが必要だ」と語る。これまでの活動を通じて集めた失敗事例は、PPTのメンバーで共有され、失敗する前兆の発見や原因究明に欠かせない有益な情報として大いに役立っている。

 別のメンバーは、活動を通じ、ほんの少しの工夫や手間1つで単収が伸びる確信を得たことから、「目の前にいる生産者が実践できる範囲で、単収向上につながるヒントを一緒に探している」といい、効果が得やすい資材に安易に頼ったり、それを生産者に勧めたりすることはしないと決めている。これらを「相手の立場に立って考える」「真剣に向き合う」などという言葉で表現することは簡単であるが、当事者の苦労は並大抵なものでなかったと思われ、営農指導の質の向上への気概がひしひしと感じられた。

4. 今後の展開

 PPTでは、2年以上平均単収を上回る成績を上げ、これ以上の指導は必要ないと判断した生産者は指導の対象から外し、空いた枠に新たな生産者を迎え入れる計画だ。

 平成25年産の収量などが確定した段階で、1名の生産者を“卒業”させることができた。空いた一枠を埋める生産者を選定するに当たり、白紙の状態から総合的に検討した結果、新たな生産者を2名迎え入れることとなり、PPTが指導する生産者は1名純増した。

 過去には、指導しても全く改善する意思がない生産者もいて、その生産者はやむを得ず指導の対象から外したそうだ。生産者の意識を喚起することがいかに困難であるか、身を持って感じた出来事であった。

 PPTの目標は、新たに迎え入れる生産者をゼロにすること、いずれは全員を卒業させることである。そして、PPTのメンバーは指導した生産者が技術面で地域農業をけん引する生産者に成長することを願っている。

おわりに

 でん粉原料用ばれいしょの生産者には、でん粉は作れば売れるものという意識が根強く存在する。しかし、ばれいしょでん粉の需要後退が生じつつあり、それを生産者も認識する時期に差し掛かっている。

 斜里町では、PPTによる取り組みを通じ、生産者のでん粉に対する興味や関心が高まった。PPTのメンバーは「それでも4〜5年の歳月を要した」と謙遜するが、数字では見えてこないこうした点も農協などの組織内では成果として高く評価されている。生産性を高めていくためには、営農指導だけでなく、生産者のやる気、モチベーションをいかに高めていくかといった精神面のサポートが重要であることがしっかりと認識されている証拠である。だからこそ、PPTは任意団体でありながら、5年が経過した今でも活動が続いているのである。

 本稿で紹介した事例がばれいしょに限らず、単収を向上させたい品目を有する産地にとって参考になれば幸いである。

 最後に、今回の取材にご協力いただいた斜里町農業協同組合、北海道オホーツク総合振興局網走農業改良普及センター清里支所など関係者の皆さまに、改めてお礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713