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米国の異性化糖の需給動向

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最終更新日:2015年8月10日

米国の異性化糖の需給動向

2015年8月

調査情報部

【要約】

 異性化糖を砂糖に置き換える米国での動きは一段落したように見えるが、現在の砂糖価格の低迷や異性化糖の大口需要者である食品・飲料メーカーの動きなどを考えると、異性化糖の消費が今後増加に転じる要素は今のところ見当たらない。NAFTAによる完全自由化後、輸出需要によって安定した生産量を保っているHFCS55においても、メキシコの異性化糖市場が飽和状態にあるため、これまでのように国内需要の減少を輸出でカバーすることは難しいと考えられる。

はじめに

 異性化糖(HFCS:High-fructose corn syrup)は、1960年代に日本で開発され、その後、米国で商業的生産が始まった。当初製造されたHFCS42(注1)(果糖分42%のもの)は、甘味が不十分であるとの理由により、その消費量は多くはなかったが、1970年代に、より甘味の強いHFCS55(注1)(果糖分55%のもの)が開発されると、砂糖に比べて安価であったことから大手の飲料メーカーが砂糖の代替品として使い始め、その後、清涼飲料の消費拡大に伴いHFCS55の消費量も増加し、1999年には米国の異性化糖消費量は、1400万トンまで増大した。

 しかし、2000年代に入ると、消費者の自然志向の高まりを背景に食品に対しても「自然(Natural)」を求める傾向が強まったこと、米国砂糖協会が実施した消費拡大の取り組みなどが成果を上げたこと(詳細については、砂糖類情報2009年7月号「米国で砂糖消費が拡大〜「Natural」をキーワードに展開する消費拡大活動」を参照)、2008年半ばにトウモロコシ価格の高騰により異性化糖価格が上昇したことなどの要因により、砂糖の消費量は減少から一転、増加に転じた。一方、砂糖の代替品として用いられていた異性化糖の生産量および消費量は、砂糖の消費拡大の影響を受け、減少することとなった。

 本稿では、北米自由貿易協定(NAFTA)(注2)の枠組みにおいて、異性化糖および砂糖貿易が完全自由化された2008年から最近までの動きを中心に、米国の異性化糖の生産、消費、輸出入などの需給動向および生産コストについて、英国の調査会社(LMC International)のレポートを基に紹介する。
 なお、本文中の為替レートは、1米ドル123円(2015年6月末TTS相場)を使用した。

(注1)異性化糖は、トウモロコシなどのでん粉を分解して得られたブドウ糖に酵素を作用させ、ブドウ糖の約半分を果糖に変えて作られる。当初、果糖のできる割合は42%までにしかならず、甘味度は砂糖に比べ低いものであった。その後、砂糖の甘味度に合わせて果糖分を55%まで引き上げる製法が確立された(砂糖類情報2001年9月号「甘味料の甘さについて」より)。
(注2)カナダ、メキシコ、米国の3カ国によって1994年1月に発効された自由貿易協定。

1 国内動向

 最近10年間の米国の異性化糖と砂糖の消費動向を見ると、2012年まで異性化糖は年平均3%ずつ減少し、砂糖は年平均3%ずつ増加して推移してきたが、2012年以降は、ほぼ横ばいで推移している(図1)。このことから、米国内での異性化糖を砂糖に置き換える動きは、一段落したように見える。
(1)生産消費動向
ア. HFCS42

 HFCS42は、生産量のほとんどが米国内で消費されており、輸出に仕向けられる分は、生産量の5%前後とわずかである。生産量および消費量は、2005年、2006年をピークに、最近10年間では年平均3%ずつ、合計では100万トン以上減少しており、現在ではピーク時の7割程度となっている(図2)。この生産量および消費量の減少は、食品・飲料メーカーが異性化糖ではなく再び砂糖を甘味料として用いるようになったことが原因だが、これには後述するように、2008年のNAFTAによる完全自由化により、メキシコから低価格の砂糖が輸入されるようになったことが大きく影響している。
イ. HFCS55
 HFCS55の生産量は、消費減退に伴い10数年前から減少傾向にあったが、2008年のNAFTAによる完全自由化以降、メキシコ国内で拡大する炭酸飲料向けの需要に対応する形で増加に転じており、減少し続けているHFCS42とは対照的に、ここ5年間は、HFCS42の約2倍の700万トン前後で安定的に推移している(図3)。現在では、米国内で生産されるHFCS55のうち2割程度が輸出に回されている。
(2)生産コスト
 異性化糖の製造に必要な費用としては、原料(トウモロコシ)費、労働費、燃料代などがあり、これから異性化糖製造過程で得られる副産物(グルテンミール、グルテンフィード、コーン油)から得られる収入を差し引いたものがいわゆる「生産コスト(注3)」となる。

 HFCS55の生産コストは、HFCS42より平均して1トン当たり50〜60米ドル(6150〜7380円)高いものの、両者とも原料費が生産コストの変動要因となっており、そのためHFCS42およびHFCS55の生産コストは、ほぼ同じような動きで推移している(図4図5)。

 労働費や燃料代、電気代などの経費が安定している一方で、近年では、トウモロコシ価格の変動が大きいことから、異性化糖の生産コストも2012年が最も高く、その後2年間で約30%低下するなど、大きく変化している。

(注3)生産コストの算出については、米国の平均的な規模である年約125万トンのトウモロコシを処理する工場をベースに推計した。
(3)異性化糖消費をめぐる動き
ア. 食品・飲料メーカーの異性化糖離れ

 2015年2月上旬、米国の大手食品飲料メーカーであるクラフトハインツ社(注4)が同社の人気商品である「Capri Sun」(写真)で使われている甘味料を、異性化糖から砂糖、ショ糖、ステビアの混合甘味料に変えると発表した。この理由は、表面上は、子供達に安心な食べ物や飲み物を与えたいという親心に応えたものとしているが、現在、世界的に砂糖価格が低迷していることを考えると、これによりクラフトハインツ社は大きな経済的メリットを享受することは間違いない。また、クラフトハインツ社は、2010年以前は「Capri Sun」には砂糖を用いていたが、2011年に砂糖価格が高騰したことから異性化糖に切り替えており、今回は全く逆のことが起こったと言える。

 異性化糖離れを表明しているのはクラフトハインツ社だけではない。同じく2月に、米国最大手のチョコレートメーカーであるハーシー社(注5)が、ミルクチョコレートなどの製品について、異性化糖からサトウキビ由来の砂糖に徐々に切り替えると発表した。遺伝子組み換えトウモロコシが広く生産されている米国において、原料に異性化糖を用いる限り、製品に遺伝子組み換え作物は含まれていない、と主張することは難しい。しかし、少なくとも北米で生産されているサトウキビには遺伝子組み換え品種はないことから、あえて批判的な見方をすれば、この切り替えによって、ハーシー社は製品を「non-GM」としてアピールすることができる。

 これら最近の2社の例を見ると、この異性化糖から砂糖へ切り変えた決定の裏側にある本当の理由は明らかではないが、大口需要者である食品・飲料メーカーによる異性化糖離れは、米国内の異性化糖消費の減退が進むことを意味している。

(注4)イリノイ州に本社を置く。年間売上高は約80億米ドル。
(注5)ペンシルバニア州に本社を置く。年間売上高は約71億米ドル。
イ. 食生活指針による摂取制限
 米国保健福祉省(HHS)と米国農務省(USDA)が5年ごとに公表する「米国民の食生活の指針」の改訂に向けて、医療・栄養・公衆衛生学の専門家で構成する米国食生活指針諮問委員会は、2015年2月に両省の次官あてに改訂の基礎データとなる報告書を答申した。これまでも、食生活指針では「糖類(注6)の過剰な摂取を控えるように」との記述がされていたが、広い範囲に及ぶためあくまでも質的な表現にとどまってきた。2010年の報告書では、「SoFAS(固形脂肪と糖類)は全カロリー摂取の15%以内に制限すべきだ」と答申されたが、「固形脂肪と糖類」というような寄せ集め的な表現では、一般の米国民にとって、そもそも、それぞれの構成分が何割を占めているか分からないため、理解するのが困難であった。

 しかし、本年の報告書では初めて、「糖類から摂取するカロリーは総摂取カロリーの10%未満にとどめることが望ましい」と糖類に限った数値が明示され、このことは、米国内で砂糖や異性化糖などの糖類の消費が28%減少することを意味するため、関係者に衝撃を与えた。

 ほとんどの米国民にとって、食生活の指針は単なるガイドラインにすぎない。しかし、学校給食や、公共施設や食料アシスタントプログラム(注7)における食事の献立などには用いられることから、およそ7人に1人の米国民に影響を与えると推計される。そのため、この糖類の摂取制限が、この後公表される食生活の指針の中で規定されたとしても、直ちに大きな影響を与えることはないとされるが、健康的な食生活を求める動きと相まって、長期的には異性化糖や砂糖の消費が減ることは十分考えられる。

(注6)糖類とは、砂糖、異性化糖、ぶどう糖、はちみつなどを指す。
(注7)栄養教育を通じて健康的な食生活を促進するための、子供や高齢者、低所得世帯などに対する米国農務省のプログラム。

2 貿易動向

 米国の異性化糖需給は、砂糖需給とともに、貿易政策、特にNAFTA諸国との関係に大きく影響を受けている。2008年に米国とメキシコの間で異性化糖および砂糖の貿易が完全自由化となり、メキシコから米国へは砂糖が、米国からメキシコへは異性化糖、特に、HFCS55の輸出が増加することとなった(詳細については、本誌2015年7月号「メキシコの砂糖需給および政策の動向」を参照)。

 米国からのHFCS55の輸出量は段階的に増えており、2006年、2010年には前年から倍増し、それぞれ40万トン、140万トンとなり、2012年には160万トンとピークを迎えた(図6表1表2)。その後、減少に転じ、2014年の輸出量は約125万トン、輸出金額は4億3600万米ドル(536億円)であった。

 輸出のほとんどはメキシコ向けであるが、メキシコでは昔から甘味料としては砂糖が使われてきたことを考えると、米国から異性化糖がメキシコ市場へなだれ込んだ原因が2008年の完全自由化であることは明白である。また、メキシコ国内でも異性化糖の生産が増え、特に、飲料向けでは砂糖との代替が進むこととなった。そして、このようなメキシコでの異性化糖の消費拡大のおかげで、米国の異性化糖製造企業は、国内市場の需要減によるダメージが緩和されることになった。

 しかし、現在、このメキシコ市場への販路はこれ以上拡大する余地はないように見える。実際、例えばメキシコのコカコーラボトラーが固守している砂糖と異性化糖を半々に用いるというような「混合割合の壁」もあり、今や市場は頭打ちとなっている。



 HFCS55の米国への輸入は、その多くがカナダとメキシコからであり、増加傾向で推移しているが、量的にはそれほど多くない(表3表4)。

 カナダとの異性化糖の貿易においては、工場の立地が一つの重要なポイントとなっている。つまり、カナダの異性化糖工場はカナダ中東部のオンタリオ州にあるため米国北東部への供給に有利であり、一方、米国の中西部にある異性化糖工場はブリティッシュコロンビア州などカナダ西部の市場への供給に有利となっている。また、カナダの異性化糖工場は全て、米国の大手異性化糖メーカーのひとつであるイングレディオン社(注8)の傘下にあるため、イングレディオン社は北米全体の市場の状況を見ながら、カナダから米国への輸出量を決め得るという特殊な背景も輸入状況を考える際には忘れてはならない。

(注8)イリノイ州に本社を置く。年間売上高は約57億ドル。
 なお、HFCS42については、年10万〜20万トンとHFCS55に比べるとわずかな量が、主にメキシコとカナダのNAFTA諸国に輸出されており、アジア、ヨーロッパ、南アメリカ向けもごく一部あるが、この2国で8割以上を占めている。輸入量は米国の消費量の3%以下とごくわずかであり、そのほとんどがカナダから輸入されている。

3 今後の需給見通し

 2015年〜2019年の異性化糖の消費量は、HFCS42については、飲料と食料にそれぞれ4:6の割合で使われていることから、飲料向けは減少が予想されるが、食料向けに関しては年1%程度の成長が見込まれるため、全体では平均して年0.3%程度の減少傾向で推移すると予測される(図7)。

 また、HFCS55については、炭酸飲料の消費低迷が続くことから、年0.4%の割合で、同様に減少傾向で推移すると予測される。

まとめ

 米国の異性化糖市場はすでに成熟しており、需要は飽和状態にあると言える。
 HFCS42は、国内消費の減退に伴い生産量が減少し、また、純輸入量(輸入量から輸出量を差し引いた量)も、ごくわずかである。最近では消費量の減少幅は緩やかとなっているが、反転して増加基調となる兆候は、今のところ見当たらない。

 HFCS55の国内消費もまた縮小傾向にあるが、メキシコへの輸出需要のおかげで、一定の安定した生産量を保っている。しかし、HFCS42同様、国内消費が増加に反転する要素は見当たらないことに加え、最近ではメキシコの異性化糖市場が飽和状態となっているため、今後、今のような国内需要の減少分を輸出増でカバーし結果的に生産量は安定する、という構図が続くことは難しいだろう。
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