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ダイコンとかんしょの畦連続使用栽培におけるかんしょの線虫害の軽減効果

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最終更新日:2015年9月10日

ダイコンとかんしょの畦連続使用栽培におけるかんしょの線虫害の軽減効果

2015年9月

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター 畑作研究領域 主任研究員 鈴木 崇之

【要約】

 ダイコン−かんしょ畦連続使用栽培は、かんしょ植え付け時に新たに耕うん・畦立てを行わず、前作ダイコンの畦を引き続き使用する栽培法である1),2)。この栽培法では、かんしょ栽培前に耕うん・畦立てを行った場合に比べて、ネコブセンチュウによるかんしょの被害が軽減された。

はじめに

〜かんしょの線虫防除の問題〜
 かんしょは、連作が可能な作物である。しかし、かんしょ栽培下で激増し、後作に被害を及ぼす病害虫が存在するので、連作する際には、これらの病害虫を適切に防除することが前提になる。かんしょの病害虫としては、土壌病原菌(立枯病菌、つる割れ病菌、紫紋羽病菌など)、植物寄生性線虫、コガネムシ類が挙げられる。この中で植物寄生性線虫は、作物に寄生して栄養を摂取し、正常な生育を阻害するので、生産する上で大きな問題となる。

 日本のかんしょ栽培で問題となる植物寄生性線虫は、ネコブセンチュウとネグサレセンチュウである。これらの線虫はすでに広く産地にまん延しており、その防除は、D−D剤などのくん蒸剤やホスチアゼート剤などの粒剤といった、数種類の殺線虫剤による処理に依存しているのが現状である。殺線虫剤以外の対策技術としては、線虫対抗植物(その栽培により線虫の増殖が抑制される作物)や線虫抵抗性品種の利用、太陽熱消毒の利用などの技術が開発されている。しかし、いずれの技術もコストや収益性の面から、その普及は現段階では限定的となっている。

 この報告での研究対象はネコブセンチュウ(図1)である。この線虫は、かんしょの他にもニンジン、ダイコン、ばれいしょなど、多くの畑作物を寄主にしており、世界的にも重要な有害線虫である。ネコブセンチュウは寄主の根に侵入すると根を変形させ、こぶを作る。特に根菜類では、商品部位である根の肥大が正常に行われなくなるので、商品部位の外観が悪化し、その価値が低下するので、大きな問題になっている。
 

1. 畦連続使用栽培

 畦連続使用栽培は、前作で使用した畦に後作を直ちに植え付ける栽培法で、土壌に残存した養分や前作で使用した資材を有効に利用できる技術である。この技術を用いた生産体系としては、これまで、ダイコンとかんしょを対象とした、有機栽培体系が提案されている1),2)

 この生産体系では、南九州地域の有機質資源である焼酎廃液濃縮液をダイコン作付前に1回施用し、冬から春にかけてのダイコン栽培後、夏季にかんしょを畦内に残存した養分を用いて栽培する(図2)。

 生産者ほ場における現地実証試験では、畦連続体系で栽培したダイコンの10アール当たりの収量は、いずれの年も地域の平均収量を上回った。また、かんしょの収量も地域の平均収量を上回った。

 畦連続体系のかんしょでは、慣行のかんしょ単作と比較し、土地生産性(10アール当たり付加価値額)は慣行より52%向上し、労働生産性は19%向上した。さらに、春ダイコンはダイコンの端境期に出荷できるため高単価・高収益であり、春ダイコンを合わせた体系全体の土地生産性は慣行かんしょ単作の6.9倍、労働生産性は1.4倍となった。このように、体系全体の労働生産性も高まり、合理的な体系であることが示されている。
 

2. 本研究の目的

 九州沖縄農業研究センターで畦連続使用栽培による試験を重ねる中で、かんしょの線虫害が軽微であることが観察された。ただし、詳しい解析は行われておらず、畦連続使用栽培がネコブセンチュウ(以下「線虫」という)による被害に及ぼす影響はこれまで不明であった。そこで、冬季ダイコンと夏季かんしょの畦連続使用栽培が、かんしょの線虫害に及ぼす影響の解明を目指し、ほ場での栽培試験を行った。なお、詳細は参考文献3)および4)を参照されたい。

3. 材料と方法

 試験は九州沖縄農業研究センター内の線虫汚染ほ場(宮崎県都城市、腐植質黒ボク土)で行った。ダイコン、かんしょとも、中高平高畦(植え床幅80センチメートル、頂部の高さ25センチメートル、肩部の高さ20センチメートル)を用いたマルチ栽培とした。ダイコンは畦肩部に2条植えとし、品種「春風太」を12月から翌年3〜4月にかけて、長繊維不織布により適宜被覆して栽培した。かんしょは品種「コガネセンガン」を、畦頂部に1条植えで、4月から9〜10月にかけて栽培した。

 試験区として、慣行栽培同様ダイコン収穫後に耕うん(2回)してかんしょの畦立てを行った、耕うん・畦立て区と、ダイコン収穫後の畦をそのままかんしょ栽培に用いた、畦連続使用栽培区を設けた(図3)。なお、施肥については、この試験では化学肥料を用いた。

 調査は、畦内の土壌を採取して線虫頭数を調査するとともに、ダイコンおよびかんしょ収穫時に収穫物の線虫害を調査した。
 

4. 結果と考察

 かんしょ栽培前に耕うん・畦立てを行った場合に比べて、畦連続使用栽培では、かんしょの線虫害(塊根のくびれや割れなど)が軽減された(図4)。試験は2008〜2009年と2010〜2011年の2回行ったが、同様の傾向が認められた。

 冬季ダイコンの栽培中に、線虫密度は低下し、ダイコン栽培後には畦上層(畦肩部からの深さ0〜10センチメートル層)で下層に比べ低くなった()。

 ダイコン収穫後、かんしょ栽培前に耕うん・畦立てを行った場合、畦上層の線虫密度は、作業前に比べて高くなった()。畦連続使用栽培では耕うん・畦立てによる土壌のかく乱がないため、線虫害発生に大きく影響する畦上層の線虫密度が低い状態を、かんしょ栽培前にも維持できることが、線虫害軽減の一因であると推察された。

 なお、ダイコンについては、いずれの試験区でも線虫害は認められなかった。線虫の活動にはある程度の地温が必要であるが、ダイコンの栽培期間は冬季であり、低温であるため、被害が発生しなかったと考えられる。
 

おわりに

 土壌中の線虫頭数は、冬季から春季にかけて減少するが、土壌下層では多くが夏季まで残存する。このことは、かんしょ植え付け前の春季に耕うん・畦立てを行う慣行の栽培体系では、土壌下層に残存している線虫を畦の中に混ぜ込んでしまうことを示している。線虫害の発生には畦内の線虫密度が大きく影響するので、畦内の線虫密度をどう制御するかが、被害を軽減する鍵と言える。畦連続使用栽培は、この線虫の混ぜ込みを回避できる点で、合理的な栽培法といえる。なお、この研究ではネコブセンチュウを対象としており、ネグサレセンチュウについては検討をしていないが、似たような効果が期待できるかもしれない。

 ただし、この技術は線虫を殺すわけではないので、線虫害の軽減効果は必ずしも強くはないことには留意が必要である。実際に、この効果は、ダイコン栽培前に殺線虫剤を使用した場合には及ばなかった4)。従って、この畦連続使用栽培技術のみで完全な被害回避を目指すのではなく、環境条件と線虫頭数の状態を考慮しつつ、さまざまな防除手段を組み合わせて、被害を経済的な許容水準以下に維持する、いわゆる総合防除の一環として利用していくことが必要になる。

 南九州地域では、かんしょは災害に強く、少肥・少労で収量・価格が概して安定していることに加え、定植期・収穫期に幅があり比較的大面積に作付可能なため、一定面積が栽培されている5)。しかし、さらなる栽培面積の拡大には、生産コスト削減が不可欠であり、そのためにも、総合防除の考え方を導入し、不要な薬剤防除を減らしていくことが必要であろう。青果用さつまいも産地の一部では普及を想定した取り組みが行われており6)、今後は、加工用かんしょにおいてもこのような取り組みを進めていく必要がある。

 現在、国内で殺線虫剤として登録された農薬数には限りがある。将来、価格が上昇したり、環境への影響の懸念などから廃止に至ったりする農薬があるかもしれない。近年、臭化メチルの使用が廃止されたが、その際、病虫害防除を臭化メチルに依存していた作物については、栽培体系の大幅な変更を余儀なくされた。このように、限られた殺線虫剤に防除を過度に依存することは、生産上大きなリスクを伴う。今後は、線虫の動態に基づいた合理的な防除方法について、研究と普及を進める必要があるだろう。

参考文献
1)九州沖縄農業研究センター畑作研究領域 2013. ダイコン−サツマイモ 畦連続使用栽培システム.
2)新美ら 2015. 土地、労働生産性ともに高いダイコンサツマイモ畦連続使用有機栽培体系. 主要普及成果(2014年度),農研機構.
3)Suzuki et al. 2014. Nematol Res, 44:1−8.
4)鈴木ら 2014. ダイコンとサツマイモの畦連続使用栽培ではサツマイモの線虫害が軽減される. 研究成果情報(2013年度),農研機構.
5)久保田ら 2009. 福田晋編, 共生農業システム叢書 第6巻 西日本複合地帯の共生農業システム−中四国・九州. 農林統計協会, 東京. 64−106.
6)佐藤ら 2015. 殺線虫剤削減にむけた砂質土壌におけるサツマイモネコブセンチュウ被害予測. 普及成果情報(2014年度),農研機構. 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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