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北海道におけるジャガイモシストセンチュウの発生状況と対応

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最終更新日:2016年3月10日

北海道におけるジャガイモシストセンチュウの発生状況と対応

2016年3月

地方独立行政法人北海道立総合研究機構 農業研究本部
上川農業試験場 研究部 生産環境グループ 
研究主幹 古川 勝弘

ジャガイモシストセンチュウについて

 ジャガイモシストセンチュウ(学名Globodera rostochiensis、以下「センチュウ」という)は、生活史の中にシストという段階を持つ線虫の一種で、国際的に重要なばれいしょ害虫である。シストとはメス成虫が変化したもので、センチュウの場合、直径0.2〜0.6ミリメートルの球形で(写真1)、数百もの卵が入っている(写真2)。このシスト内の卵は低温・乾燥に強く、年に約30%の自然減はあるものの土壌中で10年以上生存する。

 ばれいしょなどの寄主作物が植え付けられると、根から出るふ化促進物質に反応し、幼虫がふ化、シストから出て根に侵入し、根内で成長する()。メスは、成熟してくると頭部を根に残したまま胴体を外に出し肥大、根から出たオスと交尾する。メスは初め白いが間もなく黄化し(写真3)、やがて外皮が硬化した褐色のシストとなる。センチュウは北海道では年に一世代であり、このシストが翌年以降の発生源となる。

 症状として、地上部では早期の葉の萎凋(いちょう)が見られる。甚だしい場合は、下葉が枯れ、上位葉のみ残る“毛ばたき症状”を呈する。地下部には、初期(7月上旬)には白色、中期(7月中旬〜8月上旬)には黄色のメス成虫、後期(8月上・中旬以降)には褐色のシスト着生が認められる。

 センチュウの被害は減収である。密度が高いと、50%以上の減収となる場合もある。またセンチュウは、植物防疫法で定められた有害動物であるため、発生地域では種ばれいしょの生産・流通が制限され、防除対策のための労力・金銭的コストも大きく、さらにさまざまな不利益が生じる。
 
 
 

北海道での発生状況と対応

 センチュウは、日本では北海道後志(しりべし)管内で1972年に発生が確認された。次いで、1977年にはオホーツク管内で発生が認められた。2014年度末で、北海道内52市町村で認められ、1万1000ヘクタールを超える発生面積となっている。発生推移は、2000年ごろまでは発生地域内の面積増が主であったが、ここ十数年は発生面積の増加は緩やかであるものの、道内各地に点在しているという傾向が認められる。ほぼ毎年、新たな発生地が確認され、今後も警戒が必要な状態である。なお、道外では長崎県、青森県、三重県、熊本県で発生が確認されている。

 発生拡大防止のため、「植物防疫法」をはじめとした法令・規程により、種ばれいしょはセンチュウ未発生ほ場で生産することとされている。北海道においては「ジャガイモシストセンチュウ対策基本方針」などにより、一般ばれいしょも対象として検診を行うことが定められている。そして、これらに基づき、未発生地における早期発見、発生地においては密度把握のため、各地域において検診が進められている。

 さらに、センチュウの密度低下に有効な抵抗性品種の普及を促進するために、北海道では抵抗性品種の普及目標が示されている1)。これは、2022年までにでん粉原料用では100%、生食・加工用ばれいしょでは30%、全体で50%の普及面積率を目指すものである。種ばれいしょの増殖率が低いことがネックであるが、早期の目標達成が望まれる。

基本的対策

 まず、畑に入れない・畑から出さない、侵入・拡大防止対策が重要である。そして、未発生地での早期発見と、発生地で適切な防除対策を取るための検診が重要である。これらは、個々の生産者ができる部分もあるが、それだけでは十分ではなく、検診体制の整備を基礎とした地域としての対応が必要である。

侵入・拡大防止対策

 幼虫は根への侵入のため移動性を持つが、それ以上動き回ることはない。分布の拡大は、シストが何らかの方法でほ場に入ることによる。

 発生ほに近い未発生ほでは風や流水といった自然現象による侵入が起こり得る。これを防ぐことは非常に困難であるが、地域内の発生ほの位置が分かっているならば、防風対策、排水溝の整備など、ある程度の対応ができる。

 より重要で、防ぐことができるのが人為的な要因である。正規の種ばれいしょ使用は原則である。また、土壌を含む種苗などの持ち込みには、十分な注意が必要である。さらに、農機具や作業機械、衣服などに土砂が付着し、それによって運ばれることもある。これらの洗浄、また他の畑に入る場合には靴カバーを使用するなど、常に意識することが重要である。

 前述のようにシスト内の卵は毎年自然減があるため、非寄主作物を組み入れた長期輪作が有効な対策となる。この中に密度低減効果の高い抵抗性品種を組み入れるとさらに効果的である。これにより密度を下げ、汚染拡大の危険性を減らすことができる。また、未発生ほでも抵抗性品種栽培は有効である。未発生ほにセンチュウが侵入したとしても、抵抗性品種では増殖が抑制されるため、発生ほとなることを未然に防止できる。

早期発見

 検診には植物検診と土壌検診がある。

 植物検診は、センチュウ感受性品種の根にメス成虫(シスト)の寄生が見られるか調査する方法で、早期発見に有効である。適期は、白〜黄色のメス成虫が見られる7月上旬から8月上旬ごろである。早期枯凋(こちょう)などの生育不良株、収穫物の堆積場跡、ほ場の出入り口付近などが狙い所である。

 土壌検診は、ほ場から土壌を採取し調査する方法である。適切に土壌を採取することが重要で、ほ場全体から八歩幅(約6メートル)の格子状に採取する八歩幅法が基本である。しかし、八歩幅法は労力を要するため、簡便なジグザグ法が開発された2)。ただし、ジグザグ法は発生地域内の一般ほの密度調査のための採取法であるので、未発生地および種ばれいしょほ場では八歩幅法による採取を行う。

 土壌検診でのセンチュウ調査法は二つある。従来法はよく乾燥させた土壌を水に入れ攪拌し、浮いてきたものをふるい集め、シストの有無を調べるというものである。シストが認められた場合は集めて破砕、卵密度を調査する。なお、シスト数=卵数ではないので、卵密度調査は必須である。

 もう一つはプラスチックカップ検診法(カップ法)である3)。カップ法では、検診土壌を詰めた透明プラスチックカップに感受性品種の小イモを入れ、暗黒条件で7〜8週間培養し、カップ内に伸びた根に土壌中の卵密度に応じて形成されたメス成虫(シスト)数を調査する。ばれいしょの根への寄生状況を観察するもので、簡単で精度が高い。小清水町で本法による生産者自らによる検診がなされており、また別の地域では従来法に替えて採用されている。

 これらの検診により、未発生地において認められた場合は、北海道病害虫防除所に連絡し、発生を最小限にとどめるための対策を取る。発生地における検診結果は、発生状況に応じた適切な対策を取るために利用する。ここで重要なのは、地域における総合的対策を取るために、情報を共有することである。これにより、例えば地域内の高密度ほ場や地区に対し重点的な対策を取ることなどができる。センチュウ発生はデリケートな問題で配慮が必要だが、地域全体の取り組みが必須であるので、地域内の合意の下、情報共有ができる体制作りが必要である。

防除対策

 まず、検診により各ほ場の発生状況を把握する。無発生であれば感受性品種栽培ができる。発生ほでは原則として抵抗性品種を作付けする。

 抵抗性品種では、ふ化促進物質に反応して幼虫が根に侵入するところまでは同様であるが、幼虫は根内で栄養が摂取できず死滅、土壌中の卵密度が低下する。減少率は、非寄主作物では約30%だが、抵抗性品種では80〜90%と大きい。また、低密度条件下で一作後、抵抗性品種では、ほぼゼロまで低減するのに対し、感受性品種では極めて高い密度まで増加することもある()。輪作体系の中に抵抗性品種を組み入れることにより、密度を低く抑えることができる。

 最近、ナス科対抗植物を利用した密度低減法が開発された4)。これは、トマト野生種の一種またはハリナスビを休閑緑肥として栽培することによりセンチュウ密度を低減するもので、抵抗性品種とほぼ同様の密度低減効果がある。
 

ジャガイモシロシストセンチュウの発生

 2015年に、日本では未発生であったジャガイモシロシストセンチュウ(学名Globodera pallida、以下「シロシスト」という)が北海道で確認された5)。シロシストはセンチュウと近縁で、生態・形態はほとんど同じであるが、少なくともいくつかのセンチュウ抵抗性品種への寄生が認められている。そして、名前に現されているようにメス成虫は白く、黄化せずに褐色のシストとなる特徴を持つ。

 その後の調査で、発生は一部ほ場に限られていることが明らかにされた。基本的な侵入・拡大防止対策は、センチュウと同様である。ただし、植物検診においては抵抗性品種を対象とする必要がある。シストの外観ではセンチュウとの区別は困難であるので、土壌検診では抵抗性品種を使ったカップ法の利用が考えられるが、適した品種などの検討が必要である。

 また、既存のセンチュウ抵抗性品種は密度低減策とならない可能性がある。これに替わる技術として、前述のナス科対抗植物の利用が期待される。ハリナスビはヨーロッパで利用されており、北海道での有効性実証試験が望まれる。

おわりに

 日本においては、センチュウおよびシロシストの発生は限られており、今後とも“普通のものとしない”ことが、日本の農業を守ることとなる。そのため、センチュウ・シロシストに対する抵抗性品種、新規防除法、高精度な検診法など、新たな技術開発への期待が大きい。試験研究のさらなる進展が望まれる。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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