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〜いぶすき地域でん粉原料用かんしょ部会長 前村千香男氏〜

でん粉原料用かんしょ生産の省力化および新たな品種への取り組み
〜いぶすき地域でん粉原料用かんしょ部会長 前村千香男氏〜

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最終更新日:2016年3月10日

でん粉原料用かんしょ生産の省力化および新たな品種への取り組み
〜いぶすき地域でん粉原料用かんしょ部会長 前村千香男氏〜

2016年3月

鹿児島事務所 岸本 真三市

【要約】

 でん粉原料用かんしょの主要産地の一つである鹿児島県南九州市でいぶすき地域でん粉原料用かんしょ部会長を務める前村千香男氏は、でん粉原料用かんしょ生産の省力化による経営安定や新品種「こなみずき」の生産に取り組んでいるだけでなく、地域の取りまとめや指導農業士として新規就農者の育成にも奮闘し、産地の活性化に貢献している。

はじめに

 でん粉原料用かんしょの生産地域を大別すると、鹿児島県の薩摩半島、出水薩摩、伊佐姶良、大隅半島、熊毛と宮崎県南西部となる(図1)。でん粉原料用いも交付金制度加入者で見る地域ごとの生産者数は、大隅半島が最も多く、続いて、熊毛、薩摩半島であり、その3つの地域で全体の約85%を占めている(図2)。その中で、薩摩半島南部に位置する南九州市は、市町村別に生産者数を分けた場合、2番目に多い産地である(表1)。

 その南九州市で、かんしょ栽培を約50年続けている前村千香男氏(78歳)は、長年培ってきた知見を産地の活性化に生かすため、JAいぶすきの組合員で構成されるいぶすき地域でん粉原料用かんしょ部会(以下「部会」という)の部会長として地域の取りまとめや指導農業士(注)として新規就農者の育成などに日々奮闘している。本稿では、長年の経験に裏付けされた前村氏のでん粉原料用かんしょ生産の省力化による経営安定や生産拡大が期待されている新品種「こなみずき」の生産の取り組みについて紹介する。

(注)各地域で青年農業者の育成・指導に取り組む農業者として各都道府県知事から認定された者のこと。
 
 

1. 南九州市のでん粉原料用かんしょの生産構造

 でん粉原料用かんしょの生産者数は、高齢化などの影響により減少傾向にある。南九州市のでん粉原料用かんしょ生産者数においてもその傾向は同様で、平成19年産の1528戸から、27年産には726戸と大幅に減少している(図3)。特徴的な数値としては、法人数が19年産、20年産と一桁であったが、27年産は26法人となり、割合としては3.6%と全体(鹿児島県および宮崎県の合計。以下同じ)平均の1.9%を上回っている点である(表2)。

 また、南九州市では、収穫面積が1ヘクタール以上である生産者の割合はおおむね上昇傾向で推移しており、平成27年産においては42.3%と全体平均の30.0%を大きく上回っている(図4表3)。生産者1戸、法人当たりの収穫面積を見ると、法人数が二桁を超えた平成21年産以降は個人の生産者の3〜5倍の規模で推移していること(図5)や、南九州市の60歳以上の生産者は、全体平均より約30アールも広い収穫面積を有していることが分かる(表4)。
 
 

2. 前村氏の生産概要

(1)生産概況
 前村氏は南九州市頴娃(えい)町で昭和42年ごろからかんしょとキャベツ生産をしていたが、主たる農業経営としては畜産(肉用牛肥育)であった。家族経営の畜産農家として、大家畜ならではのやりがいを感じてはいたものの、取引価格の乱高下や家族の病気などを機に将来の家族の負担を考慮し、平成17年に全ての牛を売却し、畜産農家から耕種農家へかじを切った。

 前村氏の現在の生産品目はかんしょとキャベツであり、作付面積は約10ヘクタール(うち2ヘクタールは借地)、内訳はかんしょ7ヘクタール(うちでん粉原料用2ヘクタール、焼酎原料用3ヘクタール、青果用2ヘクタール)とキャベツ3ヘクタールとなっている(図6)。また、作物別の収入割合から見ても、かんしょを中心とした経営体であることがうかがえる。かんしょの品種は、でん粉原料用は「シロユタカ」および「こなみずき」、焼酎原料用は「コガネセンガン」、青果用は「べにはるか」となっている。

 栽培体系はでん粉原料用かんしょの「シロユタカ」は、4月〜6月上旬まで植え付け作業を行い、工場の受け入れ期間(注)に合わせて9月中旬〜11月まで収穫作業を行っており、後述する「こなみずき」は平成27年産において12月4日〜8日の5日間で集中的に出荷を行った。焼酎原料用の「コガネセンガン」は収穫期間がでん粉原料用より若干早くかつ長いため、植え付け作業は3月下旬から行っている。青果用の「べにはるか」については、植え付け作業は4月中旬から、収穫作業が10月中旬からとなっており、かんしょが傷つかないよう専用の掘取機を利用をしている。また、キャベツは青果用の契約栽培であり、夏まきと秋から冬まきを行っている(図7)。

 労働力は、妻の淳子(じゅんこ)さんと娘婿の3人であり、機械の取得については、平成17年に牛を売却して得た資金などを活用して機械を順次取得し、現在は、大型トラクター2台、小型トラクター2台、掘取機2台(でん粉原料用兼焼酎原料用、青果用各1台)、除草専用機1台、防除機2台、つる処理機1台、マルチ張機1台を利用している。

(注)工場の受け入れ期間は、年によって変動する。
 
 
(2)省力化の取り組み
 前村氏は、昭和40年ごろに農業を学ぶために米国へ3年間留学し、米国ならではの圧倒的な大規模経営を目の当たりにし、農作業の省力化や農業経営を継続していくことの重要性を学んだ。帰国後は、米国とは環境が大きく異なる日本における農業の在り方を考え、日々試行錯誤を繰り返しながら実践してきた。

 日本における農業の在り方を考えた上で、生産者にとって身近にある地域内の関係機関との連携が重要であると感じた前村氏は、部会の部会長として、また指導農業士として、経験の浅い生産者などに「『地域の連携による生産体制づくり』が安定した経営につながる」と説く(図8)。

 すなわち、かんしょ栽培においては、部会に加入することでJAの営農指導や前村氏のように経験豊かな農業の先輩から栽培の技術に関するアドバイスなどを受けることができる。一方、行政の研究機関からは、病気発生時の速やかな分析と防除対応の方法を知ることができ、畜産農家や堆肥センターからは良質な堆肥を入手することができる。
 前村氏自身もこのような地域の関係機関との日頃からの交流を欠かさない。

 こうした地域の連携から得られた情報などを生かして、前村氏は主な農作業の省力化として、地力を生かした施肥、収穫時期を考慮した生分解性マルチフィルムの利用、および除草剤散布作業の機械化に取り組んでいる。
 
ア.地力を生かした施肥
 前村氏のほ場がある南九州市頴娃町は、平安時代などに起こった開聞岳の噴火の影響による肥沃(ひよく)な黒土地帯である。そのため、初期の施肥においては、完熟堆肥でなくとも、もともと備えられた地力を生かせると前村氏は考えており、ほ場の状態を確認した上で、堆肥の種類や施肥の時期などを調整している。経験に裏付けされた施肥管理を行うことで、地力を可能な限り維持し、長期的視点で省力化につなげている。

イ.収穫時期を考慮した生分解性マルチフィルムの利用
 焼酎原料用かんしょは、8月下旬から収穫が始まるが、夏の暑い時期の収穫作業は体力的にきついため、この時期に収穫を迎えるかんしょのほ場では、生分解性マルチフィルムを利用している。一般的なマルチフィルムより高価だが、炎天下の中、マルチフィルムを剥がす労力を考慮すると、価格に見合うだけの農作業の省力化が図られる。

ウ.除草剤散布作業の機械化
 除草剤散布作業は、タンクを担いでの移動を伴う重労働であるため、以前所有していた田植機の後部に除草剤散布用のタンクとノズルを取り付け独自に除草専用機とした(写真2)。さらに、ほ場ごとの畝幅に合わせるためノズルの幅を調節できるようにしたことで、防除剤散布作業の省力化を図った。
 
(3)でん粉原料用かんしょの生産による経営安定
 でん粉原料用かんしょの取引は、形状や大きさなどの規格がなく、総重量であることから、適時に適切な施肥や病気発生時の防除対応などをすることで、他の作物より手を掛けずに栽培できる上、制度に基づく交付金により安定した収入が見込めることが最大の魅力と前村氏は言う。新規就農者など経験の浅い生産者に対して、このメリットを生かして、「でん粉原料用かんしょの生産を経営安定の基礎とした上で、経営の柱として他用途のかんしょやオクラやキャベツなどの野菜生産を行っていくことが、耕種農家の経営の安定につながる」と前村氏は語る(図10)。
 

コラム いぶすき地域でん粉原料用かんしょ部会の主な取り組み

 
 部会では、年に4〜5回の集まりがあり(主に植え付け前、収穫前、収穫後)、生産者間の情報交換の貴重な場となっており、部会長である前村氏は、この場で地域の連携の体制づくりや指導農業士として後進の指導に精を出している。

3. でん粉原料用かんしょの新品種「こなみずき」の取り組み

(1)新品種「こなみずき」の生産および「こなみずきでん粉」の製造
 食品用途への活用が期待される、低温糊化性、耐老化性および優れた成形性を特徴に持つ「こなみずきでん粉」については、これまで本誌において複数回紹介してきたところである。

 その原料となる「こなみずき」は鹿児島県下の複数のでん粉製造事業者に出荷されているが、本稿では、前村氏が出荷しているJA南薩拠点霜出澱粉工場(年間原料処理能力2万トン)を擁するJAグループの取り組みを紹介する。

 JAグループにおける「こなみずき」の原料の生産および製品の製造の状況については、平成24年産からJA南薩拠点霜出澱粉工場の受け入れが始まり、4年間で原料の生産量は約2.4倍、製品の製造量は約3.2倍と伸びていることに加え、単収および歩留まりも上昇傾向にある(表5)。

 「こなみずきでん粉」は低温糊化性などの特性からかんしょでん粉の新たな市場開拓のツールとして、そのブランドイメージを関係者一体となって育てていくことが求められる。そのためには、原料の生産と製品の製造と販売の歩調を合わせる必要があり、原料の生産においては、各地域においてJAの選定した技術のある生産者にJA育苗センターで生産された苗の配布を行い、生産者は契約に基づく計画生産の実施に取り組んできた。

 こうした状況の中で、平成27年産の原料生産量が997トンと前年から飛躍的に伸びた理由は、「こなみずき」の需要の拡大に伴い、生産に限界があったJA育苗センターからの苗の配布から一部を生産者の要望も踏まえて種芋の配布に切り替えたことにより生産者自らが種芋から契約に基づく生産に見合った苗数を育苗することで、需要に応じた生産体制の拡大が可能となったためである。

 また、「こなみずき」の製造においては、そのでん粉の特性上、他のでん粉原料用かんしょとは厳格に区分する必要があることから、JA南薩拠点霜出澱粉工場では、他のでん粉原料用かんしょからでん粉を製造した後、一度機械を洗浄してから「こなみずき」だけを受け入れ、工場稼動に係る経費を踏まえ、短期間で製造を行っている。平成27年産の製造が前年産より倍増した結果、歩留まりも2.8ポイントも上昇したことから、今後は、工場の規模に見合った製造量となるよう「こなみずきでん粉」の市場の拡大が期待される。
 
(2)前村氏の「こなみずき」生産の取り組み
 前村氏は、JAいぶすきの依頼を受け、平成24年産に作付面積約70アールの栽培から始め、27年産においては、育苗委託方式の導入により作付面積約90アールまで増やした。栽培の特徴としては、「こなみずき」は、晩生であることから栽培期間を長く設けるため、4月下旬から植え付け作業を行っている点である(図7)。

 また、JA南薩拠点霜出澱粉工場の平成27年産の「こなみずき」の受け入れは5日間となっていたことから、限られた労力で収穫作業をする必要があり、他の品目、品種も配慮した生産計画が重要となる。

 今後、「こなみずき」の生産の拡大には、他のでん粉原料用かんしょとの混同があってはならないため、前村氏は、「契約を守ることができる生産者の育成」が部会の重要な課題であるとし、生産者の育成に注力している。

 さらに、前村氏は、生産の拡大のみならず、需要拡大につながるよう「こなみずき」の存在を消費者に広く知ってもらうため、関係機関とともにPR活動にも積極的に取り組んでいる。

おわりに

 前村氏は、日本の農業は、米国と比較すると小規模ではあるものの、小規模であるからこそ生産者と関係機関との連携が育まれやすい環境にあり、これが地域農業を支えると考えており、自らが率先してこれまでの経験を経験の浅い生産者に余すところなく伝えることで、地域の次の担い手を育成し、産地の活性化に貢献している。

 また、前村氏は、「継続して農業を営むことが大切」という考えのもと、農作業の省力化に取り組むことによりでん粉原料用かんしょの作付面積2ヘクタールという規模を実践している。

 今後期待される「こなみずき」の生産の拡大には、前村氏が言う「約束を守ることができる生産者の育成」が必要不可欠であるとともに、広く実需者や消費者へ「こなみずき」をPRしていくことが重要となるであろう。当機構においても、関係機関から協力をいただきながら「かんしょでん粉製造事業者と実需者との交流会」などを通じて周知を図っている。

 最後に、お忙しい中、取材にご協力いただいた前村氏をはじめとした関係者の皆さまに改めて御礼申し上げます。
【参考文献】
丸吉 裕子、坂西 裕介(2015年)『大規模法人におけるでん粉原料用かんしょの生産〜農業生産法人株式会社イーストファームの事例〜』砂糖類・でん粉情報(2015年4月号)
門脇 文雄(2011年)『でん粉を原料とした生分解性マルチフィルム』でん粉情報(2011年11月号)
片山 健二(2011年)『新しい低温糊化性でん粉品種「こなみずき」の特性』でん粉情報(2011年4月号)
時村 金愛(2012年)『新しいかんしょでん粉の特徴と食品への利用』でん粉情報(2012年7月号)
吉永  優(2013年)『かんしょでん粉の市場価値の向上をめざして〜でん粉原料用かんしょの新品種「こなみずき」〜』砂糖類・でん粉情報(2013年2月号)
丸吉 裕子(2014年)『かんしょでん粉の用途拡大に向けて』砂糖類・でん粉情報(2014年3月号)
鹿児島事務所(2011年)『鹿児島県薩摩半島に大型かんしょでん粉製造工場完成』でん粉情報(2011年10月号)
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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