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ばれいしょでん粉の安定供給に向けて〜それぞれの立場から求めるもの〜

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最終更新日:2016年5月6日

ばれいしょでん粉の安定供給に向けて〜それぞれの立場から求めるもの〜

調査情報部 札幌事務所

【要約】

 平成27年度第2回地域情報交換会では、生産、流通、実需者、研究、行政の各関係者をパネリストに迎え、「ばれいしょでん粉の安定供給に向けて〜それぞれの立場から求めるもの〜」と題し、パネルディスカッションを行った。パネルディスカッションでは、でん粉原料用ばれいしょ生産の課題やばれいしょでん粉の安定供給に向けた取り組みなどについて意見交換が行われた。

はじめに

  当機構札幌事務所は、平成28年2月19日(金)に札幌市内で「平成27年度第2回地域情報交換会」を開催した。

  同交換会では、ばれいしょでん粉の用途、ばれいしょやばれいしょでん粉をめぐる情勢および課題について共通認識の醸成を図るため、全国農業協同組合連合会麦類農産部でん粉・食品原料課調査役の濱本義隆氏と、池田食品株式会社代表取締役の池田光司氏の2名による基調講演を行った。基調講演の後、濱本氏、池田氏、斜里町農業協同組合営農部営農振興課課長の遠藤充氏、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター畑作研究基盤研究領域上席研究員の田宮誠司氏、北海道農政部生産振興局農産振興課主査の森澤美佳氏をパネリストに迎え、「ばれいしょでん粉の安定供給に向けて〜それぞれの立場から求めるもの〜」と題しパネルディスカッションを実施した。

  本稿では、パネルディスカッションの内容を基にばれいしょでん粉の安定供給に向けた各者の取り組みなどについて報告する。

1. ばれいしょでん粉の位置付け

 ばれいしょでん粉は食品から工業製品まで幅広い分野で使用されており、用途は多岐にわたる。農林水産省によると、平成26でん粉年度(10月〜翌9月)におけるばれいしょでん粉の用途別販売割合は、糖化製品向けが24%と最も多く、次いで片栗粉向け23%、ミックス粉・レトルト食品向け、化工でん粉向けがそれぞれ16%である(図1)。販売量の過半を占める食品では片栗粉をはじめ、ボーロやえびせんべいなどの菓子、麺類(春雨を含む)、水産練製品、食肉製品などで使用されている。濱本調査役は、ユーザーのばれいしょでん粉に対する評価について、「白度や精製度などに対するクレームはほとんどなく、基準の厳しい食品業界においても高い評価を得ている。近年ではISOなど国際認証の取得やフードディフェンスへの対応などが求められている」と紹介した。
 

 

  一方、ばれいしょでん粉の供給量は平成21年度以降、減少傾向で推移しており、特に22、23年度はでん粉原料用ばれいしょの不作により、22年度は17万9000トン、23年度は16万8000トンと大きく落ち込んだ(図2)。供給量は24年度以降、回復傾向にあるものの、依然として20万トンを下回る状況が続いている。こうした状況に対し、濱本調査役は、「ユーザーからは安定供給が求められている。現在、需要は回復傾向にあるものの、新商品に使用されるまでには至っていない」と指摘した。また、22、23年度の対応について、「約1年前から不作により供給量が減少することが予想されていたので、前広にアナウンスすることにより、ユーザーがばれいしょでん粉から他のでん粉への切り替えなどの対策を講じるための時間を確保した」と話す。一方、ユーザー側の対応について、「水産練製品や即席麺、業務用片栗粉では化工でん粉に切り替えたり、家庭用片栗粉では、1パック当たり300グラムから250グラムに減量した事例が見られた」と紹介した。さらに、「他のでん粉に切り替えると表示が変更されてしまうため、現在でもばれいしょでん粉に戻ってきていない事例もある」と指摘した。

 北海道産のばれいしょでん粉と生乳を使用したタマゴボーロを製造する池田社長は、当時の対応について、「タマゴボーロに他のでん粉を使用すると味が落ちるので切り替えは考えなかった。販売先には出荷量が減少する旨を説明し理解を求めた」と振り返った。また、「現在の供給量はどのように決まっているのか。例えば、各社の需要量を把握してそれに見合った量の供給を目指していくといった発想がこれからの時代には求められているのではないか」と指摘した。

2. ばれいしょ生産の動向

(1)北海道の動向

 北海道におけるばれいしょの作付面積は、平成15〜20年産まではおおむね5万5000ヘクタールで推移したが、21年産以降は減少傾向にあり、27年産は5万1000ヘクタールである(図3)。用途別の作付け割合を26年産で見ると、生食用33%、加工用27%、でん粉原料用31%、種いも用9%となっている。森澤主査は作付面積が減少した要因について、「農家戸数の減少に伴い、1戸当たりの経営面積が拡大したことにより、植え付けや収穫作業に手間のかかるばれいしょが敬遠される傾向にある」と指摘した。また、用途別の動向について、「近年、家庭調理用の需要が減少していることに伴い、生食用の生産量が減少傾向にある」と紹介した。

 森澤主査は品種について、「現在、道内では60種以上の品種が栽培されている」とし、用途別の動向について、「生食用では『男爵薯』『メークイン』が根強い人気があるが、近年はやや減少傾向であり、『キタアカリ』や『とうや』といった食味に優れた品種が増加している。加工用では、ポテトチップス向けの『トヨシロ』が中心であるが、近年ではポテトチップス向けの『スノーデン』や『きたひめ』、サラダ向けの『さやか』などが増加している。でん粉原料用では『コナフブキ』が圧倒的なシェアを占めているが、近年、病害虫に強い『コナユタカ』や『パールスターチ』『コナヒメ』などの新品種が注目を集めている」と紹介した。一方で、「ばれいしょは新しい品種が開発されているが、切り替えがなかなか進まないという特徴がある。『男爵薯』『メークイン』『トヨシロ』『コナフブキ』といった品種は、昭和50年代以前に導入された品種で、ばれいしょの重要病害虫であるジャガイモシストセンチュウに抵抗性を持たないため、今後は抵抗性を持つ加工適性などに優れた新品種への切り替えが課題である」と指摘した。

  北海道のばれいしょ生産の大きな課題として、ジャガイモシストセンチュウへの対策が挙げられる。ジャガイモシストセンチュウは防除が困難な害虫で、収量が最大で半減することがある。昭和47年に道内で初めて発生が確認されて以来、発生地域は拡大しており、現在では道内52市町村で発生が確認されている。こうした中、北海道では「北海道ジャガイモシストセンチュウ防除対策基本方針」に基づき、早期発見、防除の実施、まん延防止対策の実施に併せ、抵抗性品種への切り替えを推進しているところであるが、森澤主査は、「抵抗性品種の普及率は、平成26年産で22.6%と高くない状況にある」と指摘した。

(2)産地の動向

 北海道におけるばれいしょ生産は、オホーツク地域と十勝地域で生産量の約8割を占めている。オホーツク地域にある斜里町は、北海道を代表するばれいしょでん粉の産地であり、道内2位の処理能力を誇るでん粉工場を有している。斜里町の耕地面積約1万ヘクタールのうち、ばれいしょの作付面積は約2500ヘクタールで、でん粉原料用はそのうち約2000ヘクタールと、ばれいしょ全体の8割を占めている。

  遠藤課長は、斜里町におけるジャガイモシストセンチュウへの対策状況について、「斜里町では、土壌中の線虫密度の低下に向けて抵抗性品種の普及に取り組んでいるところである。抵抗性品種の普及率は、平成8年産では約10%だったが、27年産には約50%と20年かけて少しずつ上昇している。28年産の作付け予定では60%を超えており、今後はコナユタカ、コナヒメ、パールスターチなどの新品種の作付けを開始する予定もあることから、さらに増加する見込みである」と紹介した。

 また、でん粉原料用ばれいしょについて、「生食用と加工用は出荷先や販売方法によって契約価格や相場の変動により収入に変動が生じるが、でん粉原料用は販売価格が決まっているため、安定した収入が得られるといったメリットがある。収穫量が収入に直結するため、生産者の単収向上に対する意欲は高く、土壌分析に基づいた施肥などにより単収向上に取り組んでいる。また、生食用と加工用はハーベスタを利用しても1日当たり40〜50アールしか収穫できないが、でん粉原料用は同1.0〜1.5ヘクタールの収穫が可能であり、秋の労力軽減につながっている。こうした状況から、斜里町では今後もでん粉原料用を基盤としたばれいしょ生産になっていくと考えられる」と指摘した。また、でん粉原料用ばれいしょに対する生産者の意識について、「平成22年産の不作を機に生産者の意識に変化があった。それまでばれいしょでん粉は余っているものと考えられていたが、供給量が回復した後も需要が戻らないことを経験し、現在では『これ以上減らしてはいけない』との意識に変わった」と紹介した。
 

3. ばれいしょの安定供給に向けた取り組み

 前述の通り、北海道のばれいしょ生産は、作付面積の減少やジャガイモシストセンチュウへの対策といった課題を抱えている。こうした中、北海道やJAなどは、ばれいしょの安定供給に向けて、さまざまな取り組みを行っているところである。

 森澤主査は、「北海道馬鈴しょの安定供給に関する検討会」の取り組みについて紹介した。同検討会は平成24年度に行政、研究機関、生産者団体、流通・加工業者などを構成員として、ジャガイモシストセンチュウの抵抗性品種の普及拡大により、ばれいしょの安定供給を図ることを目的に発足し、34年度までに抵抗性品種の普及率を50%に引き上げるために必要な対策を取りまとめた。同検討会では抵抗性品種の普及が進んでいない要因として、生産面では、(1)地域の特性に応じた栽培方法が確立されておらず、十分な収量を確保できないものがあること、(2)貯蔵性や加工適性などが既存の主力品種に比べて低水準であること、(3)品種化されてから一般栽培までに時間を要すること、また、流通・消費面では、(1)生食用については、消費者や流通業者の認知度が低く、ロットもまとまりにくいため引き合いが弱いこと、(2)加工用については、既存の主力品種に比べ加工適性などの情報がユーザーに十分浸透していないこと、が挙げられた。こうした意見を踏まえ、抵抗性品種の普及に向けて、(1)有望品種に関する早期の情報提供・共有、(2)地域に適した抵抗性品種の栽培技術の確立、(3)一般消費者およびユーザーに対する消費拡大活動、などに関係機関が連携して取り組んでいる。消費拡大活動について、森澤主査は、「北海道では、消費者やユーザーに新品種を紹介するためのパンフレットを作成・配布したり、各種イベントなどで新品種やばれいしょでん粉のPRを行うことで、新品種の認知度向上に取り組んでいる」と北海道の取り組みを紹介した。

 遠藤課長は、斜里町における「ポテト・プロジェクト・チーム」の取り組みを紹介した。同チームは平成22年に、でん粉原料用ばれいしょの単収向上を図るため、農協、でん粉工場、改良普及センターの現場担当者が若手生産者などに対する営農指導を行うことを目的に結成された。遠藤課長は、「立場の異なる者で協議するため、新たな発見につながったり、足りない部分を補完しあえる。また、関係者間の情報共有が進んだ」と取り組みの効果について紹介した。

 田宮上席研究員は、でん粉原料用ばれいしょの新品種「コナユタカ」「コナヒメ」「パールスターチ」の特長を紹介し、「これらの品種はジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種であるとともにでん粉収量が高く、ばれいしょでん粉の安定供給に寄与すると考える。試験ほ場の土壌調査結果を含めた試験栽培データを提供していきたいと考えているので、施肥量の決定などの参考にしてほしい」と呼び掛けた。
 

4. ばれいしょでん粉の安定供給に向けて

 ばれいしょでん粉の安定供給に向けて、濱本調査役は、ばれいしょでん粉に対する評価が高いことを改めて強調し、「これからもホクレンやJAの協力の下、供給体制を強化していきたい」と話した。田宮上席研究員は、「新品種が定着するまでに時間がかかるが、新品種は既存品種の欠点を改良しており、使いやすくなっている面もある。消費者やユーザーに対しては引き続き新品種の特性を説明していきたいので、生産者の皆さまには新品種の栽培を続けてほしい」と呼び掛け、遠藤課長は「新品種を地域に定着させていきたい」と語った。遠藤課長は、「でん粉原料用ばれいしょは斜里町の基幹作物であり、今後も関係者と協力しながら安定供給を目Z指したい」と意気込みを語った。

 
 また、池田社長は、近年、台湾や中国など海外からタマゴボーロなどの受注量が増えていることを紹介し、「海外では日本産の人気が高く、中でも北海道産の人気が高い」とした。要因について、「北海道の生産者を含めた作り手の誠実な取り組みがさまざまなメディアを通じて海外の人々に伝わったのではないか」と分析し、「これからも関係者が連携して北海道産にこだわった商品作りに取り組んでいきたい」と意気込みを語った。さらに「ばれいしょでん粉の価値を高めるためには、ばれいしょでん粉を北海道内で加工した製品を輸出することが効果的である」と提起し、「グローバル化が進む中で関係者の一層の連携が必要であると考える。熱い思いを持った関係者と協力してばれいしょでん粉を発展させていきたい」と力強く語った。

 

おわりに

 ばれいしょでん粉は品質の高さが評価され、さまざまな製品の副原料として使用されており、安定供給が求められている。しかしながら、北海道のばれいしょ生産は作付面積の減少や重要病害虫であるジャガイモシストセンチュウへの対策などの課題を抱えている。こうした中、ばれいしょの安定供給に向けて行政やJAなどの関係機関はさまざまな対策に取り組んでおり、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種の普及率は上昇しつつある。また、近年、中国などの海外で北海道産の人気が高いことから、池田社長が提起するように、ばれいしょでん粉を使用した食品の輸出を通じて、ばれいしょでん粉の価値を高めることが安定供給につながるのではないだろうか。

 ばれいしょでん粉は北海道の農業を支える重要な産品であるとともに、食品産業などにとって欠かせない原料であることから安定供給が不可欠である。安定供給体制の構築とその実現に向けて関係者が一丸となった取り組みを進めていくことを期待したい。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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