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ばれいしょの需要変化と品種の動向

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最終更新日:2016年10月11日

ばれいしょの需要変化と品種の動向

2016年10月

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
北海道農業研究センター 畑作物開発利用研究領域
 バレイショ育種グループグループ長 田宮 誠司

【要約】

 ばれいしょの需要は減少傾向で推移しているが、ポテトチップなど加工食品用は、1970年代以降増加している。加工食品用では、それぞれの用途に適した品種が、栽培されている。

1.ばれいしょの生産の推移と需要変化

 ばれいしょは、青果用、加工食品用、でん粉原料用など、さまざまな用途に使われている。近年、作付面積、収穫量が減少傾向にあるものの、野菜の中ではトップクラスの品目である。本稿では、そのばれいしょの最近の需要変化と品種の動向を紹介する。

 ばれいしょの作付面積は、1964年には22万ヘクタールあったが、その後減少を続け、2014年には、7万8千ヘクタールとなっている。収穫量は、 1998年まで300万トンを維持していたが、その後減少し、2014年は245万トンとなっている(図1)。

図1 ばれいしょ生産の推移

 ばれいしょの国民一人当たりの年間消費量(注)は、1960年ごろまでは17キログラムあり、青果用が主であった。その後、消費量は減少し、1974年に最低の12.9キログラムになったが、1975年には増加に転じて1990年以降は17キログラム前後で推移している。この背景には、生いもを購入して家庭で調理する青果用の消費は減少したが、ばれいしょの加工食品の購入が増加したことがある。

 ばれいしょの用途別消費量(図2)でも、1975年は、青果用が120万トン、でん粉原料用が117万トン、加工食品用が22万トンだったが、2014年は、青果用が67万トン、でん粉原料用が85万トン、加工食品用が54万トンとなっており、青果用、でん粉原料用が減少し、加工食品用が2倍以上に増加している。

 その加工食品用として最も多く使われるのは、ポテトチップ用で、1975年の2万トンから1985年には32万トンと15倍になっており、その後も30万トンを超える程度の消費を維持し、2014年は37万トンで加工食品用の7割を占めている。次に多い冷凍加工のフライドポテトは、ハンバーガーショップの増加とともに消費が増加し、1975年の2万トンに対して、2014年は8万トンと4倍に増加している。この増加分は、米国産の冷凍フライドポテトの輸入によって賄われた。輸入ばれいしょは、 1972年には6000トンであったが、増加が続いており近年は90万トン(生いも換算)を超える輸入が行われている。

 また、でん粉原料用のばれいしょの生産は減少傾向で、特に2009年以降は収穫量が100万トンを割り込んでおり、原料確保のためには安定生産が求められている。

図2 ばれいしょの用途別消費量

 なお、家計調査を見ると、1980年代後半からは、ばれいしょが原料となることが多く総菜用に使用されるコロッケ、サラダの購入金額が増加し、サラダについては青果用の購入金額を上回るようになった(図3)。また、近年は、カットされたばれいしょの販売も見られる。

注:青果用と加工食品用と輸入(生いも換算)を足した消費量

図3 ばれいしょの国民一人当たりの購入金額の推移

2.ばれいしょの主要な品種の動向

 ばれいしょの主な産地は、北海道、長崎県、鹿児島県、茨城県、千葉県などだが、このうち、北海道の作付面積は5万1000ヘクタールで66%、収穫量が192万トンで78%を占めている。ばれいしょの生育適温が、15〜21度と比較的冷涼な気温を好むことが、影響しているものと思われる。

 近年のばれいしょの用途別主要品種作付面積の推移を表1に、また、主要品種の特徴、用途などを表2に示した。以下に用途別の動向、各用途に求められる特性とそれに対応する品種について紹介する。

表1 ばれいしょの用途別主要品種作付面積の推移

表2 ばれいしょの主要品種の特徴、用途など

(1)青果用

 青果用では、「男爵薯」、「メークイン」 (写真1)の栽培が依然として多いが、男爵薯については、作付面積が2005年まで2万ヘクタールを維持してきたが、近年は、1万ヘクタール台で推移し、メークインも近年は1万ヘクタールを割るなど、青果用全体に占める割合は低下している。

 表2の品種の特徴を見ると、男爵薯は、サラダやコロッケ原料用としても使われているが、目が深く皮がむきづらい、皮をむいた後の褐色が多いなどの欠点がある。また、メークインは、目が浅く皮がむきやすく、煮崩れがしにくいことから、煮物用として使われることが多い。一方、2次成長しやすく、いものそろいが良くないなどの欠点がある。

 最近は、粉質で食味の良い「キタアカリ」、いもの肥大が早く早期出荷向けの「とうや」(写真2)の栽培が増加してきている。また、長崎県や鹿児島県を中心に春作栽培で多収の「ニシユタカ」が栽培されている。とうやは、家庭内での調理においても皮がむきやすいことも利点と考えられ、消費が伸びている一因とも考えられる。

 男爵薯やメークインは、全国で栽培されている。キタアカリは、全国で、とうやは北海道、関東中心、ニシユタカは長崎県、鹿児島県を中心に暖地2期作地帯で栽培されている。 

 なお、収量は少ないが、良食味の「インカのめざめ」は200ヘクタール近く作付けされ一定の需要がある。赤皮赤肉の「ノーザンルビー」(写真3)、紫皮紫肉の「シャドークイーン」など特徴のあるカラフルポテトについては契約栽培や小規模な栽培が行われている。今後、カラフルポテトの栽培が増えれば、ばれいしょで食卓を彩り豊かにすることが可能になる。

写真1 メークイン

写真2 とうや

写真3 ノーザンルビー

(2)加工食品用

 加工食品用では、ポテトチップやサラダの原料として使用される。

 ポテトチップについては、当初、「農林1号」などが使用されていたが、1976年に加工適性が優れた「トヨシロ」(写真4)が育成され、現在でもポテトチップ用の主要品種となっている。しかし、低温で貯蔵すると還元糖(ブドウ糖、果糖)が増加し、ポテトチップ加工の際、還元糖とアミノ酸がメイラード反応を起こし、焦げが生じ外観が悪くなる問題点があった。このため、低温で還元糖が増加しにくい「スノーデン」(写真5)(1999年導入)、「きたひめ」(2001年育成)が育成され普及しつつある。 2002年には還元糖とアスパラギンから発がん性のアクリアミドが生成さることが分かり、還元糖の増加しづらい品種の育成がさらに求められている。

写真4 トヨシロ

写真5 スノーデン

 サラダ用やチルド用原料のばれいしょでは、製品の変色が少ないことが求められる。製品の変色の原因は生いもと加熱後で異なるが、原因となる物質はクロロゲン酸などのフェノール類であり、調理加工時の変色程度はフェノール類の含量と相関が高く、選抜により変色の少ない品種の育成が可能である。サラダ用の「さやか」(写真6)、青果・サラダ用に利用可能な「はるか」など近年に育成された品種のほとんどが、男爵薯に比べて変色が少なくなっている。

写真6 さやか

 ばれいしょの加工においては、原料いもの洗浄後に機械を用いて皮をむくが、機械でむくことができなかった目の部分や変色部分を人手で取り除くトリミングの工程が入る。原料重に対して、製造できた製品重量の割合を製品歩留まりというが、いもの目が深い、いもの変形が多い、病気や障害が多いほど製品歩留まりが低下する。また、トリミングにかかる時間が増加して人件費がかかり、除去した部分の処理費用も増加するため、加工用途としては目が浅く、形がそろっている方が望ましい。

 目が浅く大粒のさやかは、目が深い男爵薯に比べて、歩留まりが高く、コスト面からも有利である。青果用で伸びているとうやも皮がむきやすいことが消費が伸びている一因と考えられ、近年の育成品種は目が浅い品種が多く、皮むきが楽で、製品歩留まりも向上している。

 いもの収穫や輸送の際、落下による衝撃や押された場合の圧力によりキズや内部損傷ができる。打撲を受けた細胞は、酵素反応によりフェノール類が酸化・重合して黒色のメラニン色素を生成して黒変する。打撲黒変はいもの外観からは判別できず、剥皮後に認められるため、加工処理前の除去が難しく、トリミングが必要となり、歩留まりへの影響が大きい。打撲黒変の発生は、打撲時のいもの温度が低いほど、いもの乾物含量が高いほど多くなる。

 また、細胞間の結合力や細胞の大きさに影響される。細胞が小さい「ホッカイコガネ」(写真7)や黒変の基質となるフェノール類の含量が少ないさやかは、打撲黒変の発生が細胞が大きく、乾物含量の高い男爵薯より少なくなっている。

写真7 ホッカイコガネ

 生のいもが光にさらされると緑化するが、同時にえぐ味の原因となるポテトグリコアルカロイド(PGA)も生成される。PGA含量が多くなると、調理・加工品にえぐ味が生じ、食味を落とすだけではなく、腹痛、胃腸障害、めまいなどを引き起こす恐れがあり、収穫時、貯蔵前の一時保管、貯蔵中は光にさらされないように注意して取り扱いが行われている。サラダ原料用のさやかやフライドポテト用の「こがね丸」は、光にさらされても男爵薯に比べてPGA含量の増加が少なく、雑味の少ない製品が製造でき、原料いもの取り扱いも容易である。

 トヨシロは北海道を中心に関東、九州で栽培されている。スノーデン、きたひめなどが北海道で栽培され、ホッカイコガネが北海道などはフライドポテト用として、鹿児島などは青果用として栽培されている。さやかは、北海道で栽培されているものが多い。

(3)でん粉原料用

 でん粉原料用に関しては、「紅丸」が長年栽培されていたが、1996年にでん粉収量が多収の「コナフブキ」(写真8)の栽培面積が多くなり、現在はコナフブキが主力品種となっている。しかし、コナフブキはジャガイモシストセンチュウ抵抗性がなく、近年、収量が不安定になってきていた。また、コナフブキのでん粉はリン含量、離水率が高く、食品加工用には適さないため、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性があり、でん粉収量が多収で、食品加工に適したでん粉を製造できる品種が求められていた。近年、「コナヒメ」(2014育成、ホクレン)、「コナユタカ」(2014育成、北見農試)、「パールスターチ」(写真9)(2015育成、北農研)の3品種が育成され、普及が進められる予定である。
 現在、コナフブキなど、でん粉原料用は、北海道で栽培されている。

写真8 コナフブキ

写真9 パールスターチ

3.今後の品種育成の方向

 需要の変化に伴い、加工食品用に適した特性をもつ品種育成を行っていくのはもちろんであるが、近年、年ごとの気象の変動が大きくなっており、今後もこの傾向が続くと予想されている。このため、気象変動があっても安定生産が可能な品種開発を行っていくことが求められる。

 また、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性について、新たに育成する品種は抵抗性を持たせることができるようになった。しかしながら、2015年に新たに発生が確認されたジャガイモシロシストセンチュウに対しては、抵抗性を示さず、現状では完全に抑制することが困難である。今後は、ジャガイモシロシストセンチュウに抵抗性を持つ品種育成を進めていくことが求められている。

 当農研機構北海道農業研究センターでは、農林水産省の『「革新的技術開発・緊急展開事業」のうち先導プロジェクト「北海道畑作で新たに発生が認められた難防除病害虫ジャガイモシロシストセンチュウおよびテンサイ西部萎黄ウイルスに対する抵抗性品種育成のための先導的技術開発」』で、2016年からジャガイモシロシストセンチュウ抵抗性を持つ品種の育成を開始したところである。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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