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国際イモ年(International Year of the Potato 2008)について

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最終更新日:2017年3月15日

でん粉情報

[2008年8月]

【話題】

国際連合食糧農業機関(FAO)日本事務所
副代表 国安 法夫


 今年2008年は、国連が決めた「国際イモ年」です。
 3年ほど前になりますが、2005年11月に開催されたFAO総会において、食料の確保や貧困削減に役立つばれいしょの重要性に世界の関心を集めようという「国際イモ年」の企画がペルー政府などによって提案され、その後、同年12月の国連総会での議論を経て正式に決定されると共に、FAOにその実施が委託されました。
 「でん粉情報」の読者の皆様はよくご存じだと思いますが、ばれいしょは南米のアンデスを起源とし、8,000年前には既に食料として消費されていたと言われています。そんな地域の中にあって、世界のばれいしょ研究の中心である国際ポテトセンターの所在地であり、原産国(ペルー・ボリビア国境のチチカカ湖北岸)の一つであるとされているペルーによって「国際イモ年」が発議されたのは、自然の成り行きだったように思えます。
  このような経緯から国際的には「イモ年」の対象は、ばれいしょとされていますが、日本では農林水産省が開催した「『2008年国際イモ年』に係る取組み方針検討会」で議論した結果に基づき、国内での生産や消費の実態に対応して、ばれいしょに加えて、かんしょやその他のいもを含めたいも類全般に関する活動が計画されています。


なぜ今、イモなのか

 今後20年間に、世界の人口は年間平均1億人以上のペースで増加すると予測され、その95%以上は、すでに土地や水の利用が厳しい状況にある開発途上国において進むものと考えられています。いま、国際社会が直面する重要な課題は、我々すべてが依存している自然資源の基盤を守りながら、現在および将来の世代に食料の安定供給を保障することです。いも類は、これらの課題を解決するにあたり重要な一翼を担うと期待されています。
 歴史的に見ても、いも類は、貧困と空腹に悩まされている人々に栄養に富む食料を供給しようとする戦略の主要な構成要素となってきました。いもの栽培は、多くの開発途上国に共通している「耕作に適した土地は限られているものの、労働力は豊富にある」という特徴的な状況に極めて適しています。また、他の主要作物に比べて、少ない土地と厳しい気候条件の下で、栄養に富む食料を短期間で生産することができます。また、穀物は実を中心に全体の50%ほどしか食べられませんが、いもは可食部分が85%以上にもなる事も大きな魅力です。
 ばれいしょは、16世紀にスペイン人によって、アンデスからヨーロッパに持ち込まれて以来、急速に世界中に広まりました。今日では、中国の雲南高原やインドの亜熱帯低地からジャワの赤道高地やウクライナのステップなど幅広い地域で栽培されており、その面積は日本の国土面積の半分以上である約20万ヘクタールにも及びます。収穫量においては、とうもろこし・小麦・コメに次いで食用作物の第4位を占め、2006年には3億1,500万トンが生産されました。
 栄養の面から見ても、炭水化物を豊富に含み、重要なエネルギー源となります。多くのたんぱく質も含み、そのアミノ酸組成は人間の必要とするものに非常に良く適合しています。また、ビタミンCが豊富で、中ぐらいの大きさのもの1個で1日に必要な摂取量のおよそ半分の量が含まれています。カリウムについても、1日当たり必要摂取量の5分の1を含んでいます。


写真1  家の前で竹製のカゴに入れ売られているばれいしょ(ウガンダ)

写真2   甘粛省トンシャン市場でばれいしょの袋詰めをする女性(中国)


「国際イモ年」の目的

 「国際イモ年」の目的は、生物学的および栄養学的な特質を広報することにより、いもという世界的に重要な食用作物・商品に対する一般社会の認識を高め、その生産・加工・流通・消費及び貿易などの経済活動を促進することにあります。また、今世紀における国際社会共通の目標であるミレニアム開発目標に関しても、特に「極度の貧困と飢餓の撲滅」「幼児死亡率の削減」「妊産婦の健康の改善」「環境の持続可能性の確保」などについて貢献することを目的としています。

 具体的には、

①  世界の人々が安全で栄養のある食料であるイモを手軽に入手できるようにするための農業生産性の向上や営農の改善などを通じた食料安全保障の実現
農村に暮らす人々を市場に結びつけ、収入を増やすことによる貧困の削減
気候変動などにも対応できるいもの遺伝資源の保護・保存・利用を通じた持続的な生物多様性の実現
人口の増加や耕地面積拡大の鈍化などに対応するためのイモを基盤とした集約的経営の実現などの持続可能な農業システムの確立

−が求められています。
 特に、世界に約8,000あると言われる数多くの品種の特性を活用して、無病で信頼できる種いもや、病害虫・ウイルス・乾燥に抵抗性を持つ品種、改善された施肥、危険な農薬への依存を減らす総合的病虫害管理などを組み合わせた、いも類を基幹とする営農システムへの転換を促進していくこととしています。
 「国際イモ年」への取り組みは、これらの課題に取り組む国際的な姿勢を明確にし、各国の政策立案者や市民、特に青少年・児童の間で、食料不安・栄養不良・貧困への対応や、環境に対する脅威などの地球的課題への対策における、農業やいもの重要性についての認識を高める機会を提供するものとして期待されています。


活動の内容

 世界各国において、それぞれ工夫された取組みが行われることになっており、日本での取り組みとしては、「国際イモ年」に賛同する各種団体、企業などの参加により、いも類に関する情報などの普及・啓発、食生活におけるいも類の位置付けの向上、国際的な協力・連携の強化、いも類関連産業の持続的発展などを目的とし、いも類が持つ重要な役割などについての認識を高めるための様々な活動を行うこととしています。
 具体的には、秋に向けて予定されているシンポジウムの開催や、各種イベントにおけるブース展示、ポスター・パンフレットなどによる広報を通じた普及・啓発、いも類を使用した食品への「国際イモ年」ロゴマークなどの掲載、などが検討され実施されています。これらに加えて、国際的な統一企画や、世界各国での取組への協力なども行われています。

 ローマのFAO本部に置かれた「国際イモ年」事務局では、国際的な連帯の象徴としてロゴマークを作っていますが、日本においても以下の日本語版ホームページで日本語によるロゴマークが公開され、申請いただければ、皆さんにも使用可能となっています(http://www.jaicaf.or.jp/fao/IYP/IYP_9-3.htm)。




 英語のキャッチフレーズは「HIDDEN TREASURE」ですが、日本においては、みんなが子どもの頃経験したいも掘り遠足で、土の中からおいしいいもが飛び出てきたときの新鮮な驚き・喜びを表現しようと言うことで、「畑の中の宝もの」という標語に決定しました。世界で4番目に生産量の多い食用作物でありながら、ふだんは土の中に隠れていることもあり、あまり目立たない作物。だけれど、私たちには大切な食料である宝もの、というコンセプトを前述の『取組み方針検討会』で議論して表現したつもりですが、皆様の感想はいかがでしょうか。

 また、ばれいしょが対象となりますが、グローバルフードという性格に焦点を当て、カメラ企業の協力により全世界で写真コンテストの作品を募集中です。あなたが撮ったばれいしょの種の多様性、栽培、加工、消費や様々な利用方法などに関する写真を今年の9月1日までに応募していただければ、プロ・アマそれぞれの部門の優秀者の皆さんに総額11,000ドルの賞金とカメラが授与されます。


生産・消費の動向

 世界のばれいしょの生産量は、過去10年の間、年率4.5%の割合で増加しており、特に開発途上国における増加割合は、アジアを筆頭に他の主要食料作物生産量の増加を上回っています(図1)。世界のばれいしょ生産における開発途上国のシェアは、2005年までに47%になりました。アジア諸国、特に中国・インドはこの増加を加速しています(図2)。今後数年以内に、開発途上国の総生産量は先進国を超えるものと見られています。これは、今から20年前には世界のばれいしょ生産における開発途上国のシェアが20%程度に過ぎなかったことを考えると顕著な成果です。開発途上国における消費量はいまだヨーロッパ(93kg/人/年)よりもはるかに少ないですが、今後大きく伸びる見込みを示しています。ヨーロッパにおける消費量は減少していますが、開発途上国では増加しており、1961〜63年には1人当たり10kg/年未満であったものが、2003年には21.5kg/年となっています。


図1  開発途上国では、ばれいしょ生産が増加

図2  変化するばれいしょの生産地図
〜中国とインドは、今や世界のばれいしょ生産量の30%を占める〜


 なお、かつては主体であった生鮮物の消費が、多くの国、特に先進国において減少し、様々な加工食品として消費されています。このような展開をもたらしている背景には、増加を続ける都市人口、所得の向上、食生活の多様化、そして食事のために生鮮食材を調理するに要する時間の変化などがあります。
 ばれいしょは一般に、かさばって、腐りやすく、輸送コストが高いために国際貿易が少ない商品とされ、国境を越える程度の扱いに限られると考えられています。しかし、実際にはこれらの制約要因は決定的な妨げにはなっておらず、1980年代以降、量的には倍増し、価格ではほぼ4倍となっています。この進展は、加工製品、とりわけ冷凍製品に対するかつてない需要によるものです。ただし、冷凍コストを含む高い輸送コストが障害となって国際貿易は今なお生産に対して相対的に少量に止まっており、生産量の約6%となっています。

 日本におけるいも類の生産ですが、日本のかんしょの自給率は2005年時点で93%であるのに対し、ばれいしょは77%となっており、農林水産省は2015年までに84%に上げることを目標としています。
 2005年度の用途別消費割合をみると、ばれいしょではでん粉用が39%と最も高くなっています。かんしょにおいてもでん粉用の割合(約18%)は、生食用(約49%)、アルコール用(約20%)に次いで高く、でん粉用途は日本のいも消費の大きな部分を占めています。


最後に

 FAOと各国政府は協働して「国際イモ年」への関心が高まる活動を展開しています。前述の「国際イモ年」事務局が管理しているホームページ(http://www.potato2008.org/en/index.html)を見ていただくと、「国際イモ年」の紹介、料理のあれこれ、作物としての姿などが特集されているほか、各種統計データ、子どものページ、イベントカレンダーなどの情報が盛りだくさんです。
 日本では、国内での生産や消費、皆さんの関心を踏まえて、ばれいしょだけではなく、かんしょや開発途上国で主に食べられているタロイモやキャッサバなどを含めたいも類全般に関する活動が行われています。「国際イモ年」に当たり、より国民の皆様に関心を持っていただくため、食料不足解消の手段と言うだけでなく、食生活の中でいも類がいかに大切な食べ物なのかを中心にアピールすることとしています。FAO日本事務所としても、消費者・生産者・関連産業従事者・研究者・行政担当者など関係するすべての分野の皆様と共に、多様な活動を進めていきたいと考えております。
 食料価格高騰が世界的な課題となっている今日、最低限の食料は自国で確保するという地産地消に似た考え方が、世界の色々な場所で提唱されています。
  「でん粉情報」の読者の皆様におかれましては、世界における主要食料供給の多様化・安定化の一翼を担い、国際的に期待されているいも類の価値、重要性に誇りを持ち、消費者への安全・安心な食料供給のために頑張っていただきたいと思います。


写真3   ばれいしょの発芽状況を確認する研究所(USA)

写真4  改良種子によって増産に成功した農家(ニジェール)

写真5  適正な施肥により生産向上を目指す農家(ボリビア)


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