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米国におけるさとうきび生産事情

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最終更新日:2012年11月9日

米国におけるさとうきび生産事情
〜ルイジアナ州におけるメイチュウ類防除への取組み〜

2012年11月

調査情報部 植田 彩
 


【要約】

・米国は世界有数の砂糖生産(世界6位)、消費(世界5位)国である。

・米国の砂糖原料はさとうきび、てん菜であり、甘しゃ糖とてん菜糖は2:3の割合で販売量を割り当てられている。

・さとうきび生産は4州で行われ、ルイジアナとフロリダで全体の90%以上を占める。 ・ルイジアナ州政府、州立研究機関、および生産者団体による生産振興体制は、生産者に対する栽培技術向上のための情報提供の礎となっている。

・近年、深刻な経済的被害を未然に防いでいる同州のメイチュウ類防除方法は、防除効果を安定させ環境への負荷も少ないとされている総合的病害虫防除(Integrated Pest Management 、以下IPM)の考え方に基づいたscouting調査(モニタリング調査)結果を利用した農薬散布である。同州のメイチュウ類防除推進体制は、専門知識を有する農業コンサルタント会社の調査員とさとうきび生産者の連携により構築されている。

はじめに

 今年8月に、米国のさとうきび生産状況などを把握するため、さとうきび主生産地の一つであるルイジアナ州を訪問した。同州におけるさとうきび生産状況を報告するとともに、昨年度の我が国において、歴史的なさとうきび減産を招いた要因の1つとされているメイチュウ類の防除などについて、現地の生産者や関係団体の取組みについて調査した内容を報告する。

1.米国の砂糖生産の概要

 USDAによると、米国の2010/11年砂糖生産は711万トンと世界6位、消費量は世界5位の1004万トンと世界有数の砂糖生産・消費国である。国内生産で賄えない分は、関税割当に基づきブラジル、フィリピンから、北米自由貿易協定(NAFTA)に基づきメキシコから輸入され、同年輸入量は336万トンの世界2位である。
 
 
 米国で生産される砂糖は、さとうきびとてん菜が原料である。さとうきびは本土(ルイジアナ、フロリダ、テキサス)とハワイの4州で、てん菜は11州(カリフォルニア、コロラド、アイダホ、ミシガン、ミネソタ、モンタナ、ネブラスカ、ノースダコタ、オレゴン、ワシントン、ワイオミング)で生産される。さとうきびとてん菜から生産されるそれぞれの割合は、甘しゃ糖が約46%、てん菜糖が約54%と政策的に割当られた販売量により間接的に決められている。近年、砂糖業界関係者で構成される米国砂糖協会(The Sugar Association)による消費拡大キャンペーンの効果や人口増加により、2011/12年度の食品向け国内砂糖消費量は2000/01年度からの11年間で13%増の1030万トンとなった。
 
 

2.米国のさとうきび・甘しゃ糖生産の概況

 米国のさとうきび・甘しゃ糖生産は、ルイジアナとフロリダの2州で約90%を占める。フロリダとハワイでは製糖工場が農地を所有しさとうきび生産することが多いが、ルイジアナとテキサスではさとうきび生産者の経営による協同組合方式で運営される工場がほとんどである。
 
 

3.ルイジアナ州のさとうきび、甘しゃ糖の生産状況

(1)ルイジアナ州の農業概況

 ルイジアナ州は米国南部に位置し、南はメキシコ湾に面している。ミシシッピ川が南北を貫通しており、その河口は広大な湿地と沼地が広がっている。さとうきび生産が行われている南部は、種子島と同緯度の緯度30度である。

 州都であるバトンルージュの気候は、年間降水量が那覇市や種子島より400〜500ミリ少ない1410ミリ、平均気温が種子島とほぼ同じ19.3度で、夏は高温多湿、冬は暖かな温暖湿潤気候である。また、この地域はハリケーン常襲地帯でもあり、2005年夏に襲来したカトリーナとリタがもたらした甚大な被害は記憶に新しいところである。

 2007年のUSDA-NASS農業センサスによると、農畜産物の販売額は全米32位の26億1800万ドル(約2060億円 1米ドル=78.6円注)で、そのうち農産物は16億500万ドル(約1260億円)と60%近くを占めている。USDA-NASSによると、同州の2009年主要農産物収穫面積は130万ヘクタールである。そのうち、さとうきび(主要農産物収穫面積合計の13%)以外の主要農産物は多い順に、大豆(同29%)、飼料用トウモロコシ(同19%)、コメ(14%)となっており、中でもコメの作付面積は全米3位である。

注:9月末日TTS相場

(2)ルイジアナ州のさとうきび生産と製糖業

 米国さとうきび生産者団体(American Sugar Cane League、以下ASCL)によると、2010/11年度のルイジアナ州における農場数は22地域で510、図2のように製糖工場は11、精製糖工場は2である。さとうきびの生産規模をみると、図3のように1農場あたり作付面積が500エーカー(202.4ヘクタール)以上の生産者は同州の60%以上を占める。
 
 
 ASCLによると、2010/11年度のさとうきび生産量は、9月初旬のハリケーンによる倒伏の被害などを受けたことによる単収減少により、960万トンとなった。2012/13年度は収穫面積(前年度比3.6%増)と単収(同8.7%増)の増加により、さとうきび生産量は同12.6%増の1090万トンと予測されている。なお、USDAによると、2010/11年度の同州におけるさとうきび価格は、トン当たり99.6ドル(約8100円:1米ドル=80.84円注)である。一方、同州の2010/11年度の砂糖生産量は、11製糖工場で1190万トンのさとうきびを原料として砂糖130万トン(粗糖ベース)であった。工場の平均稼働日数は82日間で、1日当たりの処理量は1万3000トンであった。

 同じくASCLによると、州内の砂糖産業により2万7千人の雇用と約810百万ドル(約650億円)の経済効果があるとされている。

注:2011年年間平均TTS

(3)ルイジアナ州のさとうきびの栽培管理方法

 同州の基本的なさとうきび栽培は、1年目の8月に植付けを行い(夏植え)、2年目の12月に収穫する。その後、株出しによる栽培を3回行い、5年目の収穫後は新植となる。調査時に訪問した生産者は、図4のとおり6フィート(約1.8m)の植付け苗を温水消毒し使用するとのことであった。

 雑草防除対策としては、春季の中耕とジョソングラス(和名:セイバンモロコシ)に対しての除草剤散布を行っている。最終培土後の夏季は、さとうきび成長に最も重要な時期となり、メイチュウ類の一種であるsugarcane borer(学名:Diatraea saccharalis .(F.))に対する害虫防除を行う。10月初旬から12月まで続く収穫作業は、全てハーベスターを使用する。
 
 
 同州で栽培されている主な品種とその特性は表5のとおりである。2010/11年度に作付されたさとうきび品種の中で、HoCP96-540(2003年登録)の作付割合が43%と最も高く、次いでL99-226が20%近くを占めた。これら2品種は収量性、株出萌芽性が優れていること、また冷害・倒伏にも強いことから人気があり、調査で訪問した生産者においても作付けの90%以上がこれらの品種であった。近年、表5にあるその他の5品種について、毎年開発・供給されているものの、購入苗は新植苗の1.5〜2.0%ほどであるため、新品種の作付割合は数%に留まっている。なお、ルイジアナ州立大学農業研究センター(Louisiana State University Agricultural Center、以下LSU AgCenter)の研究者によると、米国でのさとうきび遺伝子組換え品種の研究は行われていたが、大豆等と比べ市場が小さいこと、EU向け糖みつを生産していることなどの理由から実用化することはなく、現在は研究も行われていないという。
 
 

(4)ルイジアナ州におけるさとうきび生産振興体制

 同州では、州立大学(Louisiana State University、以下LSU)、ASCL、州政府の農林部(Louisiana Department of Agriculture and Forestry、以下LDAF)による生産振興の体制が確立している。まずは、それぞれの機関が担う役割を説明する。

 LSUでは、さとうきびの品種改良、病害虫防除、栽培管理など様々な研究開発を行っており、全米一のさとうきび研究者数を誇っている。LSUは、バトンルージュ郊外に試験圃場を備えたLSU AgCenterを運営している。LSU AgCenterを本部とし、同州南部の主要作物であるさとうきびについては生産地域ごとに24箇所の支部が配置され、生産者との情報交換や技術普及などを行っている。そこでは、LSUの職員が生産者に対し栽培技術などの講習会や実地検討会を年15,6回行っている。また、生産者からの栽培についての疑問などは電話やEメールを利用し支部に伝えられ、 生産地域ごとで異なる課題についての迅速な対応を可能にしている。

 ASCLでは、生産者に対し、栽培技術の指導、経営分析を行っている。1922年発足当時は、同州のさとうきび減産要因となっていた病気に対し調査研究を行うことを目的としていたことを背景に、現在「The Sugar Bulletin」という会員向けの月刊誌を発行し、技術の普及活動を行っている。

 LDAFでは、直接的な生産者との情報交換はないものの、さとうきび分野について、種子証明、新開発された農薬登録の手助け、飛行機やブームスプレイヤなど農薬散布用機械の年1回の登録業務などを行っている。

 LSUが生産者から得られた栽培における課題はASCL職員も出入りするAgCenterに集約され、生産者が知りたい情報としてそれぞれの情報誌やホームページに対応策が掲載される。さらに、これら2機関にLDAFが加わった定期情報交換会では、深刻な課題(新たな外来種の脅威など)への対応について話し合いが行われる。そこで決められた内容や情報発信が不可欠とされた内容については、ガイドブックに取りまとめられ生産者へ提供される。また、緊急性の高い情報はリーフレットなどで提供される。このように同州では、各機関がさとうきびの生産を振興する業務を行うとともに、常に情報を共有できる体制をとっている。

4.ルイジアナ州における害虫防除対策について

 同州のさとうきび生産者の間では、最も深刻な被害を与える害虫としてメイチュウ類のsugarcane borerが確認されており、現在、予防的防除の体制が確立している。この体制の確立以後、同州ではsugarcane borerによる大きな被害はない。

(1)sugarcane borer

 sugarcane borerは、中央アメリカ、南米の温暖地域を原産地とする鱗翅目メイガ科に属する蛾の一種である。日本でいうメイチュウ類のイネヨトウ(鱗翅目ヤガ科)、カンシャシンクイハマキ(同ヒメハマキ科)とは異なるが、イネ科植物の害虫であり、さとうきびに芯枯れを起こし赤腐病を発生させる。米国には1855年にルイジアナ州から侵入し、その後海岸沿いに生息地域を広げている。 一年に4〜5世代の発生があり、夏場は25日間で世代交代を行う。
 
 

(2)sugarcane borer の防除対策

 LSUでは、農産物全般の害虫防除に対するマニュアル本として「Louisiana Insect Pest Management Guide」を作成し、生産者に配布している。その中で、さとうきびの害虫については、sugarcane borerなどの防除方法が示されている。sugarcane borerの防除対策は、1)抵抗性品種の使用、2)scouting調査結果を利用した農薬散布が紹介されている。scoutingとは、調査員がさとうきびの成長に重要な6月から収穫時期の12月までの間、週1回、圃場ごとに決められたポイントでさとうきびに生息するsugarcane borerの数を調査する手法である。


 1)抵抗性品種の使用

 LSUによると、さとうきび害虫に対する抵抗性品種の開発は50年前から継続されている。現在、LSUは、表6のとおりL01-283およびHoCP85-845をsugarcane borerの抵抗性品種として奨励しているものの、2010/11年に作付けされた品種はL99-226およびHoCP96-540が多かった。近年、生産者は後述のscouting調査結果を利用した農薬散布をsugarcane borerの対策として選択し、多収量・高糖性の特性をもつ品種を害虫抵抗性より優先して選択する傾向にある。
 
 
2)scouting調査結果を利用した農薬散布

 さとうきび生産者は、施肥のための土壌分析、使用する品種の選定、病害虫防除の方法における専門的なアドバイスを受けるため、農業コンサルタント会社と契約する。そのコンサルタント会社から派遣される調査員は、LDAFが認定したscouting調査資格とさとうきび栽培についての専門的な知識を持つ。

 農業コンサルタントとの契約で行われるsugarcane borerの害虫防除方法は、scoutingというモニタリング調査結果を基づく農薬散布である。調査員は圃場ごとに決められたポイントでさとうきびに生息するsugarcane borerの数を調査する。そして、調査員は調査ポイント箇所に5%以上のsugarcane borer の生息が認められた圃場に対し農薬散布を行うよう図8のような計画書で生産者へ助言する。 この5%という数値は、sugarcane borerによるさとうきびへの被害が甚大なものにならない限界値として、LSUが長い時間をかけ試験を繰り返した結果、算出したものである。

 調査員からの計画書を受け、農薬散布を決めた生産者は、飛行機、ヘリコプターによる空中散布もしくは、市街地近くの圃場などではブームスプレイヤで農薬を散布する。空中散布は専門業者に委託する一方、地上散布は生産者本人が行うことが多い。調査先の生産者によると、Karate(ピレスロイド系殺虫剤)、Confirm 2F(ベンゾイルヒドラジン系殺虫剤)の2つが使用を奨励されている農薬の中で主流であるという。そして、これらの薬剤がアリ、クモなどのsugarcane borerの天敵を殺さない薬剤であることを生産者は認識しており、天敵も利用した害虫防除を行っている。

 生産者からの聞き取りによると、1回のscouting調査費用はヘクタール当たり14.9ドル(約1,170円 1米ドル=78.6円注)、空中散布費用は機材使用費の22.2ドル(約1,740円)に農薬費の34.6ドル(約2,720円)を加えたヘクタール当たり56.8ドル(約4,460円)である。6〜9月の4カ月間(16回)のscouting調査と1回の空中散布による農薬散布を行った場合、ヘクタール当たり295.2ドル(約2万3200円)の費用がかかることとなる。同州のさとうきび平均単収をヘクタール当たり8.3トン、農家販売価格ポンド当たり25セント(2010年同州におけるさとうきび販売平均価格)で計算した場合、ヘクタール当たりの売り上げは4600ドル(約36万2000円)となる。したがって、その売り上げ分の6.4%がsugarcane borer防除対策の年間費用を占めることとなる。 注:9月末日TTS相場
 
 

(3)sugarcane borer の防除推進体制

 今回紹介したルイジアナ州のsugarcane borer防除対策は、scouting調査結果を利用した農薬散布で行われており、この方法は予防的措置(scouting調査)、判断、防除のIPM3原則に基づいていた。経済的被害が生じるレベル以下に害虫個体群を減少させ、その低いレベルを持続させるための害虫個体群管理をscouting調査が実現させており、その根幹には害虫生息数をモニタリングする農業コンサルタント会社の役割があった。そして、そのIPMを確立するために、LSU AgCenterとASCLは長年、試験研究を積み上げてきた。

 このような害虫防除は1950年代から行われはじめ、その当時の農薬散布回数は年5〜6回であったが、現在の農薬散布回数は年1回程度まで減少し、全く散布を行わない年もある。IPMに基づく今回紹介した防除推進体制は、生産コストの削減や省力というメリットに止まらず、農業環境の保全という観点から見ても大きな意味があるといえよう。

まとめ

 米国の砂糖業界は順調な成長を続けているものの、現在では、販売割当により間接的に割り当てられている生産量を満たせない状況が続いている。近年、さとうきび収穫面積は横ばいで推移しており、生産量の増加のためには、単収増を目指す品種改良を栽培技術の向上が求められる。

 さとうきび生産について、今回、主生産地であるルイジアナ州を調査したことで、興味深い事項があった。それは、1)研究や指導を行う機関が情報を共有し、生産者に指導する体制を整えていること、2)メイチュウ類被害の克服は、農業コンサルタント会社を活用したIPMに基づく害虫大発生前の予防的防除によるり確立したことである。  諸外国におけるさとうきび生産の取組みの中には、さとうきび生産規模や気象条件などが異なるものの、我が国の生産技術向上の参考となりうることも多く、今後もこのような事例を紹介していきたい。
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