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震災時、ココロをほっとさせた「甘いもの」

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最終更新日:2013年3月11日

震災時、ココロをほっとさせた「甘いもの」

2013年3月

宮城大学 食産業学部 食品分子栄養学研究室 准教授 石川 伸一
 

【はじめに】

 私は3.11の東日本大震災で被災しました。震災後、「甘いもの」への欲求が高まり、1個のケーキの甘さに助けられたという経験をしました。また、多くの被災者の方々からも、甘いお菓子を食べた時、心がほっとしたという話を耳にしました。

 震災時は、多くのストレスが突然襲いかかってきます。これらのストレスを少しでも緩和できる可能性があるのが、普段から食べているスイーツなどの「甘いもの」でしょう。

 実際、脳の唯一の栄養源であるブドウ糖は、「甘いもの」の代表であるショ糖から簡単に作られます。さらに、このブドウ糖は、おだやかな気持ちをつくる脳の神経伝達物質であるセロトニン分泌に重要な働きをしています。

 現在、今後の震災対策として、行政、企業、各家庭での「備蓄食」の重要性が高まっています。主食や主菜などの備蓄食以外にも、ココロをほっとさせる「甘いもの」を保存することが大切です。

1.薄暗い洋菓子店で買った「ケーキ」

 東日本大震災の発生から2日後、情報を求めて仙台市内を彷徨していると、ある洋菓子店の看板に、手書きで「ケーキあります」と、か細い字で書かれた紙が貼られているのを見つけました。吸い寄せられるように中に入ると、停電した薄暗い店内で、きちんと制服姿の女性がケーキを売っていました。売っているケーキは、火を通さなくても作れるクリームのタイプで、3種類あり、どれも330円で販売していました。

 持ち帰ったケーキは夜中、懐中電灯の薄明かりの下で、妻と食べました。妻のちょっと緩んだ表情に何より安心しました。体の細胞1個1個にエネルギーが染み渡る感じで、これまでの人生で食べたケーキの中で、文句なく一番おいしいケーキでした。
 

2.被災地に送られた「焼き菓子」

 東日本大震災から約半月後、ある新聞のデジタルニュースサイトで「甘いものでほっとして 被災地に焼き菓子177箱送る」というニュースがありました。

 東日本大震災の被災者らに「甘いものでほっとして欲しい」と、神戸や大阪、京都、北海道などの菓子店が、クッキーやマドレーヌなど日持ちする焼き菓子を宮城県石巻市に送った、というものでした。

 呼びかけたのは、関西の菓子店や催しを紹介するホームページ「関西スイーツ」を運営する三坂美代子さんらで、阪神・淡路大震災では、震災後に初めて甘いお菓子を口にした被災者から「ほっとした」という声を聞いたそうです。

 実際に震災をご経験された方々は、さすが被災者の気持ちをよくご存知だと思いました。

3.震災後、街中に漂う「甘いもの」への欲求

 焼き菓子が送られた当時、まだまだ、原発事故が終息していない福島県や物資の届きにくい避難所などでは、食べ物の質、量ともに十分ではないところがたくさんありました。しかし地震から半月経った頃には、地域よってばらつきはありましたが、スーパーマーケットではだいぶ食料品の品揃えが震災前の状態に戻っていたと思います。

 そんな中、私の住んでいる仙台では、ドーナツ屋に長い行列ができる光景が日常となっていました。また、ケーキ屋やたい焼き屋にも長い行列ができているのを見かけました。甘いお菓子でほっとしたいという空気が街にあふれているのを感じ取りました。

4.脳のごはんは「ブドウ糖」のみ

 「甘いものがココロもカラダも安らげる力」について、栄養学的に考えてみます。

 スイーツの甘さの“もと”は、砂糖、化学的には「ショ糖」と呼ばれるものです。ショ糖は、ブドウ糖1分子と果糖1分子が“手をつないだ”状態の二糖類です。ブドウ糖と果糖がつないでいる手は、簡単に切ることができます。

 ショ糖からできるブドウ糖は、タンパク質や脂質と同じように、血液にのって体の至る所に届き、体を維持し動かすエネルギーとなります。しかし、脳には血液脳関門といわれる血液から脳組織への物質の移行を厳しく制限する「検問所」としての仕組みがあり、エネルギー源としてはブドウ糖以外のものを通しません。

 つまり、米やパンのようなデンプン系の食品と比較して、すぐにブドウ糖ができる「甘いもの」は、脳の働きを活性化するのに適しているということが言えます。

5.「甘いもの」がほっとさせる力

 また、脳の神経伝達物質である「セロトニン」には気持ちを落ち着かせ、心をリラックスさせる働きがありますが、このセロトニンは、タンパク質に含まれるトリプトファンというアミノ酸から作られます。

 ブドウ糖は、このトリプトファンを脳に優先的に運ぶのに、重要な働きをしています。

 ちょうど震災発生から半月ほどたった頃、被災者の方々は震災直後の極端な物不足による体のエネルギー欠乏状態を脱し、ずっと緊張状態だった脳に栄養を送ることで、頭も休めたいという時期に入っているように私には思われました。カラダの栄養は足りてきたので、アタマを冷静にさせる栄養が欲しいということだったのでしょう。

 すなわち、仙台市民はそのとき、「カラダのリラックスだけではなく、アタマ(すなわちココロ)をリラックスさせたい」と無意識に思い、それが甘いものへの欲求の高まりにつながっているように私には感じられました。アタマもカラダもだいぶ疲れている方が多かったのです。

6.「甘いもの」も備蓄食に追加を

 首都圏直下型大地震と東海大地震は、30年以内に70%の確率で来るといわれています。震災によりライフラインが遮断され、巨大なストレスにさらされたときに、自分や家族の命を無事につなげるかどうかは「食」の備えの有無にかかっています。

 備蓄食は、一般的にアルファ米や缶詰パンなどの主食、ツナ缶やコーンビーフなどの主菜、切り干し大根や乾燥わかめなどの副菜など、ある程度長い期間保存でき、栄養バランスにも配慮した食料が中心となっていますが、これらの備蓄食以外にも、嗜好品の「甘いもの」も保存しておくことが「ココロの栄養源」としてとても大切です。

 つらい時こそ、甘いお菓子でほっと一息入れたいものです。チョコレートやようかんなど、日持ちのする自分の食べ慣れた「甘いもの」を備えておきましょう。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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